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16章 魔法少女と四神集結

522話 動き始めた歯車

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 アーレは宿にて、戦争開始の一報を知った。

「宣戦もなしに……これでは、国民の反感を買うだけじゃないんですか?」
ベットから足をフラフラさせて、天井を仰ぐ。

 アーレはアーレを取り戻し、この国のほとんどは空を認識できない。これで、いるのにいないというパニック状態を作り出せる。
 もちろん、現在遠征に出ている軍人含め。

「ソラさんはどうしてるのかな……いや、わたしはわたしのやるべきことを。正式な進軍を止めなきゃならない。」
がんばるぞいと鼻を鳴らす。

「帝国はわたしが壊滅させます。ソラさんのお膳立てはわたしがやります。わたしのために戦ってくれるソラさんのために。」


 まず、宿を出た。

 面倒なのは『六将桜』だ。情報改竄も、転生者には聞きにくい傾向がある。
 何故なら、この世界の理に囚われないから。この世界そのものの情報に結びつけられないため、存在を葬るのは不可能に近い。

 でも、討ち滅ぼすくらいはできるはず。

 魔法少女がなんの気兼ねもなく皇帝を滅ぼせるよう、まずは『六将桜』の1人と成り代わる。

「第三将ホリーは同じく五将ブルーライトともに帝国の警備。ホリーのみ隔離し討伐できる可能性、六割。上々。能力情報…………見えない。ブルーライトは?見える。これは非転生者?能力は、結界。特殊……」
ぶつぶつと情報を集めていく。

 情報を篩にかけてゆき、精査する。

「さすが、『六将桜』。わたし1人の情報操作で勝てる相手ではなさそうですか。となれば、本気でやるだけです。」
情報のマントを被り、気配ごと遮断する。そこにはなんの情報もないのだから、どうしようが見つけられない。

 ブルーライトでも問題はないが、動かせる手駒が多いことに越したことはない。少し苦労が増えるが、直接戦闘といこう。
 魔法少女もそうするだろう。

 帝国神国合わせて約5万という大群の配置がどうなるか。その情報は知っている。
 ブルーライトとホリーで別れ、それぞれ軍を持って警備しているという。それを気づかれずに行うのだからイカれている。

 ホリーの制圧。これが今回の目標。

 魔法少女の背中を押すのだ。助けられるばかりじゃ、押そうと思っても背中が遠すぎる。

「帝国を出たところで特にできることもないし、わたしはわたしのできることを。」
配置された軍人を一瞥する。すべて、特殊な訓練を施された一級品の軍人たち。

 それでも、負ける気などしなかった。こちらには魔法少女がいるのだ。負けるはずがないと思えた。

 向かうのは第三司令塔。帝国の周囲6ヶ所には司令塔が存在し、それぞれ『六将桜』の立場によって位置が異なる。第三将のホリーは第三司令塔。

 そこからはすべての帝国の景色を一望できる。そういう魔法がかけられている。

 今、侵入を開始する。

—————————

 第三司令塔で周囲の動きを監視するのは、櫻川柊。『六将桜』第三将ホリーその人である。

「暇だな。」
顔は中の上。悪くはないが、個性もない顔立ち。

 空気は読めるが読まないタイプの人間だ。

「まだ向こうは開戦してること知らないんだ。何かある方がおかしい。あったらあったで危険はこっちにある。」
魔法で全範囲を確認できる魔導具の前で椅子に座る。

「魔法が最弱ねぇ。世界レベルで最低な嘘を吐くなよ、まったくめんどくさい。」
せっかくの異世界なのに、と悪態を漏らす。勤務中であることはもちろん忘れている。

 この世界の魔法が最弱と呼ばれるには知っての通り理由がある。
 しかし、それは単なる理由。理由付だ。

 過去の不安定な情勢の中、魔法というものが生まれた。それが強力であると知られてしまえば、反逆や反乱が起きてしまうだろう。
 統制されてない世界に武力を与えてしまえば、そうなるのは起こらずとも容易に想像できる。

 だから、魔法は弱いということを知らしめた。
 元から人間は魔力が少ない。集まればとてつもない力を発揮するが、多少便利というほどで戦闘に使えるものではない。火を放ったところで、自分が倒れたら意味がない。
 そうして魔法は、事実と嘘により隠蔽され、最弱と相成った。

「皇帝はそれを克服した、ね。特別な存在っていうのは空気を読めないやつとして世界から消される。僕がそうだったように。」
早々に反逆者が誕生しようとしていた。というのは冗談だ。

 この世界の転生者の割合は6:3:1で召喚、転生、事故だ。
 神が故意に生者を招き、世界に革命を起こさせようとして召喚される召喚者。
 故意である場合とそうでない場合があり、死んだ後に転生する転生者。
 どういうわけか世界同士が繋がり、巻き込まれて生者が異世界に行き着く漂流者。

 軍服少女は召喚者、魔法少女は転生者。
 ホリーもまた、転生者であった。

「空気っていうのは、二重の意味で生命線なんだよ。理解してんのかな、皇帝は。」
意味もないことを知りながら、ホリーは口にする。

 そこで、ツーツーツーという機械音が耳に響く。皇帝は、人類の文明をどれだけ進めれば気が済むのだろうか。
 魔導学といったか。数十年後には学園の教科書にも取り入れると言っていた。数十年後の理由は、言わずもがな世界を征服する時間を考えてのこと。

「どうした、僕に会いたくなったか?」
『誰があなたに会いたいって言った?』
「別に、僕は聞いただけなんだけど。」
『そういうのは後にしなさい。私だって暇じゃないの。』
そう言う彼女は、ブルーライト。ブルーライト・リスタ。第五将である。

「第五司令塔に何かあった?」
『いえ。ただ報告よ。』
「そうか。」
『何も言ってないわ。』
「はいはい。要件はなんでしょうか?」
『はいは1回。…………はぁ。第二将バイオレットが国境を越えたと定期連絡を入れたわ。それだけよ。』
疲れたような、面倒なような声で報告を伝える。ツンデレは大歓迎だ。

 ブルーライトは、別にスマホから出る光ではない。髪も青色をしていない。

「菫さん、やるなぁ。」
『スミレさん?誰よ。』
「いや、こっちの話。」
『話の流れ的に、バイオレットのことなのは分かったわ。第一将から三将は、本当意味が分からないわ。』
「皇帝陛下に聞けばいいよ、そんなもの。」
『そう。あなたも、頑張りなさい。』
「素直じゃないのは可愛くないと、僕は思う。」
『……っ!そんなの関係ないでしょ、馬鹿!』
ブツっと音が切れる。

 なんだろうこれ、ラブコメ空気を感じる。そうホリーは栄養を補給する。ラブでコメな栄養を。

 自分の容姿を過小評価している彼女には、可愛いは有効だ。

 うーん、と体を伸ばし、一言。

「荊棘の嵐。」
指を鳴らし、後ろに飛ばした。

「…………情報は消しているはずですが。」
ネインアーレが、そこにはいた。

「ネインアーレ、どうして君がここに?ここ、僕しか入れないと思うんだけど。」
「…………わたしは、わたしのやりたいことをやる。」
ネインアーレは、淡々とした口調で言う。

「れっきとした叛逆罪だけど、今直ぐ通報したほうがいいかな。」
「大丈夫。」
「オッケー、連絡しておくよ。」
後ろの機械のボタンを押した。

「ん?」
後ろを振り向くと、ボタンそのものがなかった。

「…………ここはわたしが情報統制をした。」
情報で生み出した帝剣を振るう。

「何故それをっ!」
「……自分で考えて。」
皇帝と戦った理由はここにあった。ホリーは全力で避ける。が、切先の情報は別にある。

「くはっ……ッ!」
咄嗟に自分の腹に茨を押し込み、逃げ出す。

「異世界ってやつは、ほんとに狂ってる……!」

———————————————————————

 それぞれが動き出し、それぞれが思惑に向かって進んでいく。
 帝国と魔法少女の未来はどうなるか。それは私の頑張り次第で変わります。

 え、そこはソラさんにかかってるとか言うんじゃないの?という方、そんなわけないじゃないですか。
 ソラさん動かすの私ですよ?私がやらなかったら、帝国が滅ぼす云々の前に、何も起こりません。

空「メタ発言やめなさい」
c 「私何もしてないのになんで!?」
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