上 下
516 / 681
15章 魔法少女と帝国活動記

490話 魔法少女は完全メイド

しおりを挟む

 初日のメイド業を終了させ、月日が経つ。アーレも人神もなにやら忙しそうにしている。多忙極まりないと言った様子だ。

 私も私で、先輩に扱かれている。

 これは、あれから1ヶ月後のこと。
 訓練場にて。週一の模擬戦の時間だ。

「先輩(笑)なんですから手加減くらいしてくれますよね?いや、煽ってるわけじゃないですけど。」
「そんな露骨に煽んなくてもわたしゃあんたに勝てねえよ。」
細目で睨んでくる。それでも練習に付き合うぜ程度に駆け抜けてくる。

 私はこの1ヶ月、みっちり先輩から教わった。アーレ効果で私と先輩の自由時間が増え、それを不思議に思わない同僚。怖い。
 まぁそれは置いといて。私が教わったのは今のところ3段階。

 まず、1段階目。

「……相変わらず当たんねえな。」
「喋らずに攻撃してくださいよ。」
鉤爪が容赦なく迫ってくる。が、どれも少し首を傾げたり腕を傾ける程度で避けれてしまう。

 これが『縮光』。基本の基本らしい。毒を以て毒を制す、陰を扱うなら光からということらしい。
 均等に広がる光は認識点としての役目がどうたらこうたら。その光を収縮させて強く印象付けさせ、攻撃を集中させる。意識的に攻撃させるという技。

 そして2段階目。

「……ぁっ……っ!痛みにゃ慣れてんだよ!」
相手からは私の足が唐突に目の前に現れて殴られたように感じるだろう。それでもふらつきながら、鉤爪を振るって……そこには誰もいない。

 『陰縮地』。光を完全に消して陰を際立たせる。そこにいないように思わせ、視覚外からの唐突な攻撃が可能。脳がそこにいると処理しない。
 でも、これは完全に陰を消すだけだからまだ簡単。
 気配が分かれば目を瞑ってでも対処できる。身を持って体験してる。

 最後に、3段階目。

「少しは長く試合を持たせたいんだよ、こっちは。」
さっきの鉤爪は距離を取るための行動だったらしい。荒い息を整えるように体を上下させる。

「来いよ、全力で!」
ちなみに言うとこれは第一試合で特に盛り上がりどころもない試合だ。熱入ってるのは当人だけ。

 言われなくてもそうするって。もともと完成度を確かめるための模擬戦だし。

 視界を外に向ける。先輩が腕を組んで笑ってる。

 私はとうとう木刀を取り出し、歩いた。

 これは、本当に至難の業だった。やることが多すぎてもう死ぬかと思った。

 相手は歩いてくる私ではなく、さっきまで私のいた虚空を睨んでいる。睨ませているんだ。

 これは光と陰と相手の盲点、感覚全てを騙す荒唐無稽な荒技。

「ゲームセット。グッドゲーム。」
「な、……ぁ…………」
目の前に来てようやく気付いたようだった。木刀を首に突きつけ、試合を完璧に終わらせた。

 残留魔力に光を集め、私を陰で覆う。私自身が盲点になることで動いたところでバレやしない。どっちみち気配は2つあるから混乱させられるし、しかもいつでも出現できるから視覚的にも意外性のある技。『陰像』とかなんとか。虚像の亜種?

「さすがは後輩、やると思っていました。」
「先輩のおかげですけどね。」
相変わらず敬語の先輩に、舞台から降りて話しかける。相変わらずのふわふわっぷりだ。

 あと何戦もしなきゃなんないの面倒い。普通に先輩と戦って潔く負けて終わりたい。

 グッタリしながら迎えた2階戦目。もちろん勝利を収めた。その次も、危なげなく。

「4戦目が先輩とか、運ないですね。」
「決勝で相対したかったんですけどねぇ。とことん、陰というものは光から見放されてますね。」
「潔く負けを認めたいところですけど、まぁやれるだけやりますよ。」
体をほぐして舞台に上がる。そういえば、私模擬戦で先輩以外負けことない気がする。向こう側の決勝者ってどんくらい強いんだろう。

 さてさて……今日はどのくらい粘れるかな。
 そろそろ魔法合戦もしたくなってきた頃だけど……もうちょいメイドでいておこう。

 メイドさんの合図で構える。両者最初から武器持ち。何故かもう愛用になってる木刀と、アサシンナイフ。

 次のシーンには互いの武器が交差して、拮抗していた。互いに陰縮地を発動し、陰を踏破した。

「師弟対決ってなんかいいですよね。」
「弟子の後輩には負けられませんね。」
そう言って、同時に跳躍して後退した。


「結局負けちゃったか。」
あーあ、と落胆気味な声を出す。

 でも1ヶ月前よりは確実に強くなってる。魔法戦闘の面は逆に弱くなってそうだけど。

「たった1ヶ月でそれなら十二分の評価ですよ。同じ土俵ならあと1ヶ月もあればほぼ互角でしょう。」
「同じ土俵……ってことは、まだ先があるのか……道のりって長いなぁ。」
「そう簡単にマスターできていたら世の中全員陰だらけですよ。」
ケラケラ笑い出した。なにが面白いのかさっぱりだ。

 というかこの人、なんでそうもあっさり優勝してくるのかわけわかんない。

「その一挙手一投足がこの技では大切にされます。後輩も、常に光と陰を意識した行動をとってみては?」
「先輩みたいにホワホワしろってことですか?」
「そうとは言ってません。ワタシのは、光と陰の合間にいるだけですから。染まりやすい、という面で優秀ですよ?」
「そんな風に性格とか決めませんから普通。」
これからのメイド業に向けての準備をしながらツッコミを担当する。私にボケる隙を与えてくれない。

 素でボケてるしね先輩は。

「先輩ってなんでそんな強くなろうと思ったんですか。」
「唐突になんですか?」
「いやちょっと、気になって。」
訝しげに眉を顰めた先輩は、すぐにふわっとした姿に戻って思案する素振りを見せる。

「別に、強くなろうと思って強くなったわけじゃない。強くならなきゃいけないから勝手に強くなった感じなんですよ、ほんとーは。」
両腕を背中に回して間延びしたように言う。

「元軍人、って言ったら驚きます?」
「驚きませんよそんなアホみたいに強くて。今どき魔物でも握力もっと低いですって。」
「そんなワタシを人外みたいに……」
「先輩って、もはやこの世界外の生命体とかじゃないんですか?」
「人外より酷い扱いをされる先輩ってどう思います?」
アニメみたいなハの字の眉にし、しょんぼり効果音がつきそうな顔で聞かれる。質問に答えると、先輩だし仕方ない。

「ならなんでまだ帝国に執着してるんですか。」
「別に執着はしてないんですよ?陰が生きるには、光が必要なだけです。」
「もし私の仲間になってくださいって言ったらどうしますか?」
「後輩からの嬉しい誘いの言葉ですけど、遠慮させてもらいますね。」
「なんでですか」と聞こうとして、やめた。先輩の心のうちは、あまり深掘りしないほうがいい気がした。

 『六将桜』の元第六将、ね……
 確かにそんな機関に入れたくなるほど強いけど、先輩にはあんま似合ってない気がする。

 先輩はもっとこう、田舎の若村長の嫁やってそうなおおらかさというか包容力がある。

「先輩も、いっそ陰も光考えずに生きてみたらどうですか?」
「無理ですよ。運命というか宿命というか、ワタシはどうやっても陰ですから。」
「そう、ですか。じゃあそろそろ仕事の時間なんで、またいつか。」
「ええ。」
いつもなら最後まで手を振る先輩を、今日はなんだか怖くて振り向けずに廊下を進んだ。本来ならこのまま仕事に向かわなきゃいけないけど、私は帝国府の専用寮に向かった。

 とうとう最終仕上げらしい。少し名残惜しさはあるけど、まだメイドを辞める段階ではない。悲しむのは時期尚早だ。

 アーレの部屋のドアノブに手をかけ、ぐっと力を込めた。

———————————————————————

 最近、遅筆が良くなったり悪くなったりの繰り返しで疲れましたね。
 こんなど素人の作品でも作者も素人だから時間もそれなりにかかるんですよ!寝たい!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...