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15章 魔法少女と帝国活動記
479話 不錠の鉄檻
しおりを挟む硬い感触で目が覚める。
とても気持ち良いと呼べる目覚めではない。もっと、木々のざわめきや川のせせらぎで目を覚したかった。
しかし悲しいことに冷たさと硬さ以外に目を覚まさせるに足るものはここには存在しない。
何故ならここは、帝国府直属の牢獄であるから。
「いってぇ……」
苦い声と共にレンは、腰を摩った。
状況を見るに、確実に捕縛されたことは確認できる。記憶もはっきりしている。手に手錠がかけられてるでもない。
すると、ガシャっと扉が開く音がした。厳重な重さを感じた。
「やあやあ、鉄の家の住み心地はどうだい?」
キャスケットを被った少女だった。錆と黴臭いここには全くもって似合わない。
「逃げようと思っても無駄ですよ。影が四六時中見守っていますから。」
「それはまた。……何が目的だ?」
「お教えするとお思いで?いいご身分ですね。今あなたはゴミ以下なのをお忘れなく~。」
ニヨニヨと口角を上げる彼女に若干青筋が浮き立つのを感じながら、フッと息を吐いた。
頭の中はどう脱出するかを考えていた。彼のスキルはご都合主義も手を挙げて逃げ出すレベルのチーターだ。
「まあ、何も知らずに崩壊してしまうのは可哀想なので、何をするかくらいは教えましょうかぁ。」
「ムカつくな。」
「それは何より。褒め言葉として受け取るよ。」
「腐った感性してんな。」
「まともな人間がココにいると思っていることに驚きを禁じ得ませんねえ。」
くるくると牢獄内を歩き回る。まるで警戒していない。
「貴方は実験動物用のサンプルになります。」
「その言いようだと裏があるな?」
「ええ。人体実験と言い換えできますね。」
「この国の倫理観はどこに置いてきた?」
「赤子の頃に溝川に沈めてきたので、どこかしらに埋まってるんじゃないですかねえ。」
くつくつ笑う。しかしどこか無邪気というより悪意を感じてしまう。
サンプルということはレン自身どうこう、というわけではなさそうだ。
「こちら側に堕ちれば軍隊入り、そうでなければサンプル。どちらを選びますか?」
「はっ。つまらん選択肢だ。」
「どちらも選ばないと。」
「もちろん。」
嘲笑するように吐き捨てた。
「俺は俺のしたいようにする。それがこの世界に来てからのモットーだ。」
「その意見が変わらないといいですねえ。」
煽るように笑うと、踵を返す。どうやら、ここから去るようだ。
「世の中には容量があるんですよ。あなたはそこからあぶれないといいですな。」
ははっとまた笑う。背中を見つめ、取っ手に手を伸ばす瞬間、彼女は小さく首を回した。
「しばらくは、牢獄ライフをエンジョイしておくのがいいかと。」
ガシャン。重く鈍い音を聞き終わり、壁に背をつける。
意味がなさそうで含みのある言い方をする奴だ。
帝国と神国の関係の深いところは未知。両者の目的や腹の中も分からない。
やることもなく、魔力を練ってみる。
「……消される?」
魔力を発した瞬間何かに弾かれるように消え失せてしまう。
ステータスは健在だ。片っ端からスキルを使うも、使えるものと使えないものがある。
例えば、内で発動するようなスキル。思考加速や鑑定等の内部完結型のスキルは使える。が、攻撃や外に影響のあるものは発動した瞬間に存在を否定でもされてるみたいに消えてしまう。
「…………クソ。」
こんなところで終わってたまるか。そう心で決意を固め、あのキャスケットの少女に呪詛を吐く。
帝国をぶっ壊してやる。神の前にまず帝国だ。レンはそう強く思う。
「どいつもこいつも舐め腐ってるな、この世界は。」
こうして、図らずとも世界を揺るがす4者の目的が一致してしまった。
これがどのような方向に向かうのか。まだ誰も知らない。
—————————
ネイファ・リンカは帝国の手助けをする神国軍指導者である。
しかし、帝国にも神国にも忠誠を誓うわけではない。
ただ、自身を救ってくれた創滅神様を信仰している人間だから、手を貸しているのだ。
全ては神の御心のままに。
神がおっしゃることが全て。どんな命令より優先されるべきなのだ。
ネイファ・リンカは今日も忠実に仕事をこなす。しかしそれはガワだけだ。
もし神が滅ぼせと言えば滅ぼす。死ねと言えば死んでやる。
彼女はアーレ……いいや。ネインアーレと似ている。だからこそ彼女に自分のことを時たま教える。
惰性で帝国で働いている。共通点はそれだけでいい。
両者の決定的な違いは縋る先があるかないかだ。ネインアーレはそれを見つけて、救われた。そしてアーレとなった。
ネイファは既に創滅神に救われている。だからこそ厄介なのだ。もう魔法少女の手に負える状態を通り過ぎているのだから。
—————————
捕縛されて体感何日か経つ。最近外が騒がしい気がするが、内側からそれを知る術はない。
それから、ここの名も知った。
不錠の鉄檻というらしい。名の通りここには鍵はかかっていない。しかし、裏の意味では鍵をつける必要もないという傲慢が見てとれる。
「子供騙しか。」
レンは小さな声で呟きを漏らす。
ネイファは、何のつもりかヒントなんて残していった。
『世の中には容量があるんですよ。あなたはそこからあぶれないといいですな。』
この空間は言うなれば小さな世界。その世界に容量いっぱいの力を先に封じているために、自身の能力はこの世界に存在できずに弾かれる。飽和状態だ。
飽和水蒸気量を上回ってあぶれて水になるように、能力はあぶれて別のものに変わってしまう。なら、元々の水蒸気を消してしまえば。
「宵闇。」
仄暗い闇に、引力でも宿っているかのように何かが吸い寄せられる。
その場に存在する力を根こそぎ喰らい尽くし、貯蔵することのできる神定魔法。
「そろそろこの窮屈な檻から出させてもらおう。」
手にしたのは聖剣ファリス。砕けるごとに強度を増すという、謎の性質を持っている。ドMな聖剣だ。
口角を上げた。ファリスを構えると、そこに雷を纏わせる。聖剣には炎というより雷の方がマッチする。(物による)
「ここまですりゃ、ただの箱だな。」
腕を鞭のようにしならせ、剣を叩きつける。普通の剣なら鉄が威力に耐えかねて折れるが、これは聖剣だ。
扉ごと地面が抉られた。
「何が目的か知らないが、やるべきことをやるだけだ。利用させてもらう。」
外が騒がしい。人が駆けつける。その前にさっさと退散するべく、適当に壁を切りつけ穴を開けて、逃走したフリを醸し出す。
ここは帝国府。それはもう調査済みだ。
目の前に本拠地があるというのに、乗り込まないバカがどこにいる。
「指を咥えてみておけ。お前の世界を崩壊する様をな。」
首をもたげて空を見る。その先にいるであろう創滅神に不幸あれ。そう願って牢を出た。
誰にも見られることはない。透過のスキルで誰からも観測されることはない。事実上消滅していると言っても過言ではない。
「脱走したぞ!」「なんてことだ……檻も壁もめちゃくちゃだ」「誰かリンカ副機卿を呼んでくれ!」「お前らは外を探せ!そう遠くには逃げていないはずだ!」「紛れていないかよく探せ!」
ギャーギャーうるさいことだとため息を吐く。こんな猿同然の奴らに捕まるなんて御免だ。
少し歩けば、静寂が待っていた。捜索に出ているのだから、ここに人がいようはずがない。
「さて、と。皇帝とやらは、どこにいるんだ?」
「ここにはいませんよ。」
「っ!」
勢いよく振り返る。そこには、見慣れたキャスケットが。
「こんにちは。わたしは神を愛する軍人ですが、あなたは罪人さんですか?」
「……捕まえにでもきたのか?」
目を細める。すると、ネイファはくつくつ笑い声を漏らしながら、一言。
「お話がありまして。」
———————————————————————
レンって登場すると文面がめっちゃ厨二病になりますね。なんか小っ恥ずかしくなってきます。
まぁレンですし仕方ないです。主人公が魔法少女とかいうネタですから。
死に方も雑ですよね。トラックに轢かれるだけなんて。
今時、トラクターをトラックと間違え轢かれたと勘違いした挙句失禁しながらショック死ぐらいしないと。あれ、これこのすb……ナンデモナイデス。
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