502 / 681
15章 魔法少女と帝国活動記
476話 魔法少女は帝国へ
しおりを挟む何もない、いやもう何回目かのこの日を5日間とか地獄だ。そう思いながら、ベッドに大の字になる5日目。
目を擦りながら、ようやく最終日だと体をガバッと押し上げる。生きているのにそうでないような、時間が繰り返される気持ち悪さを存分に堪能できた。
間違い探しのような探し当て感覚だった当初から一転、全てを知っていざ5日と言われると、暇としか思えない。
今の私は記憶が全部消されている設定という。だから、変な真似はできないとなると家の中ではため息の連続だ。
「わ」
「もういいって。」
「何も言ってないんですけどぉ……」
聞き飽きたどころか鬱陶しさを99パー含み始めたそのセリフ押しのけながら、これまたトースト。私は1人で外に出た。
出てしまった。
未来の私が大いに頭を抱えることになるこの状況を、今は何も疑問を持たないことに恐怖を覚えるほどだ。
多分、最終日ということで気が完全に抜けていた。
玄関を出ると、強烈な殺気を感じて身を横に投げ出した。
「神なる裁きを躱すとは、神創教徒の風上にもおけませんね!姿を現した狐には地獄の断罪を与えましょう!」
キャスケット帽を目深に被る少女?が、家の玄関の前に仁王立ちしていた。扉に傷はついていない。不可視系の能力か。
特定人物にだけ攻撃するとかの可能性も……?
ともあれ、私は攻撃されているようだ。
「ツッコミどころ満載だけど私は神なんか信仰してないよ!」
続け様の殺気を地面を転がって回避する。惨めでもなんでも、生きたいもんは生きたい。
「ループといえど小さな歪みを伴うのが世の常。不変は存在しない。しかし、あなたは違うようですね?」
「……百合乃と出てなかった。」
今になって失態に気づく。となれば、アーレのことも……
「さすがは《特異者》……いえ、これは間違いなんでしたね。神の領域には人の智では踏み荒らせないというわけですかあ。」
「何言ってるか分からないけど、私は逃げさせてもらうよ。」
逃げるが勝ち。柵を飛び越え、転移石を投げようとしたその瞬間。
「ここがどこであるかお忘れのようですが。」
何か重苦しい雰囲気、いや。自分が重くなるのを感じる。
「王国はもう、我々のテリトリーなのです。」
振り返れば、キャスケット帽を外した水色の髪の少女が。
「羨ましいですね、その髪。しかし、使い方を知らぬようでは山中の馬や鹿と相違ない。」
少女がフッと笑うと、悪寒が襲う。生物としての格を見せつけられてるような。
「かげよ、もどれ。」
無尽蔵の影の塊が全天を覆い尽くすように現れた。私を飲み込むように、太陽の光を消し去ろうとして……
「死んでたまるかよおぉぉぉぉぉ!」
私は叫びながら全力のトールをぶちまけた。閃光が四方八方に飛散し、照らす。
「いやいや、厄介ですね。」
光が唸り、影を塗りつぶすように輝いた。消滅する形で影は収束し、視界が晴れる。
これ一体なんなの?ってかあの子誰?……アーレの方は大丈夫かな。
僅かな隙間に思考を回転させ、重い体に鞭を連打する。
「あなたを収容できれば戦力の増強に貢献できるというのに、つまらない抵抗はするものじゃないですよ。」
「捕まったら終わりって分かるからだよ!無抵抗の奴こそ山中の馬か鹿なんじゃないの?」
この世に存在しない慣用句を叫び返しながら真逆の本面へ走る。
ステータス減少でもしてるの?明らかに色々弱体化してる……
『頑張れ~』
『ファイトー』
応援はいいから手伝いしてよ!私の危機!生存の危機だよ!
『アーレが助けてくれるでしょ』
どうやら私は他力本願のクソ野郎だったようだ。
キャスケットの少女から全力で逃げていると、ふと頭に何か……
『アーレから交信が来たみたい』
なんでそんな都合よく!?
『脳に直接情報を添付したみたい』
『情報映すよ~』
脳内にいつのまにかでかいプロジェクターみたいなのが現れ、情報をまとめたものが映し出される。
脳内って、すごいなぁ。
気持ちを入れ替え、私はとりあえずそれを確認することにする。
えーっと、神国軍副機卿兼指揮官……漢字ばっかで分からない。
神国ってことは、帝国も関係してるかも……副機卿ってなに?枢機卿とかそんな感じ?軍隊と宗教交わっちゃった感じ?
ツッコミが追いつかない。現実が目の前に迫ってるからそんなことする余裕もない。
「ねっ、ネイファ・リンカ!目的はなんなの?」
とりあえず時間稼ぎのために名前を叫んでおく。私が知るはずのない情報だし、何か反応が……
「どこから漏れたんでしょうか……うちの部隊は機密漏洩に厳しいはずですが。まぁいいでしょう。」
真顔で私を視線で射抜く。
無意味ぃ!
『いや、無意味ではないよ』
どういうこと?
答えが返ってくる前に、ネイファは動き出す。
「情報が知られ、捕えるのも難しい状況ですかぁ。なら、ころしてしまおう。」
「極端!極端すぎるっ!もっと他に候補を!」
死にたくない一心で叫ぶ。
いくら私でもこの相手は無理。否応なく殺される。
ラノスを手に握り、少し気持ちを落ち着かせながら後ずさる。ジリジリ距離を離していく。
「かげのぐんたい。」
指にかけたキャスケット帽の合間から除く目が怪しく光る。
「は……これなに、えっちょ!?」
私の家の周りに存在する全ての影から、蟻の行列のようにワラワラと人影が生まれていく。
影の能力者?そもそもこの世界の人なの?髪色的に異世界人ではないけど、あぁもう!分からない!私の生死も分からない!
これに銃は100%意味がないだろうなと思いながらも1発、ラノスの弾を撃ち込む。影に穴が空き、戻った。
「だよね知ってた!」
「ぱたーんわん。」
声に呼応するように円陣が組まれる。私を中心として。
「のみこめ。」
そのまま縮小して私を押しつぶそうとする。こんなの触れるのすら怖い。
精霊!精霊展開して!
「ウィンド!」
精霊術が作動した。羽が生え、地面に遮二無二風圧を与え私は押し返されて宙に舞う。しかし、直ぐに反発されるように羽は戻される。
一応このくらいは、使える、から……
『もう満身創痍』
『キボウノハナー』
『ツナイダキズナヲー』
死亡フラグを奏でてくる私に苦言の一つも言うことのできない現状。しかしサポートはしてくれるので文句も言いづらい。
倒すかじゃない。逃げるかを考えないと……
独自の魔法により万属剣を50本ふわふわ浮かせ、私達の情報処理技術で自由自在に動かす。影の対処を行なっていく。
よし、この調子で減らしていけば。
影どもと切った張ったする場所には影の残骸が散らばり、シミを作る。このままいけばどうにかなる、どこと思っていたけど、そこまで甘くないみたいだ。
「はぜろ。」
影に覆い尽くされた。シミになった影すらも爆散し、私は飲み込まれる。
「なに、こ、れ……理不尽、すぎる……」
私は意識を閉ざした。
—————————
「神創教徒の大義を果たしましたぞ!」
キャスケットを被り直した少女、ネイファは声高に叫ぶ。
「これでよろしいのですか?我が神。」
胸ポケットにしまわれた小さな石ころを見て、ぽつりつぶやいた。
ネイファ・リンカは、影に雫を与える異能を持つ。
—————————
ガヤガヤとした街中の喧騒に目覚めると、ボケた頭をふるふる回す。隙間から見える国旗のような旗を見つめながら、目覚める意識に疑問を持つ。
いや、目覚める?
先ほどまで行われた死闘、それも一方的な力量差による蹂躙から目を覚ますことはないと確信したはず、なのに。
生きてる。
嬉しさや不安やなにやら全部、詰まった感情をぐるぐる心でかき混ぜて、唸り声を発する。
すぐに街中だからと冷静になると、ふと疑問が声を漏れた。
「ここ、どこ?」
異世界生活3度目の、そんな言葉が。
———————————————————————
なんかどこかで見たようなキャスケット帽の女の子がいましたね。誰でしたっけ。(すっとぼけ)
多分ですけどこの物語の後半戦に突入した今章、うまく終わらせられる自信はありませんが、とりあえず投稿はします。
頑張ってはみますので、暖かく見守ってやってください。
0
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)
こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位!
死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。
閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話
2作目になります。
まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。
ネット小説や歴史の英雄話好きの高校生の洲河 慱(すが だん)
いつものように幼馴染達と学校帰りに公園で雑談していると突然魔法陣が現れて光に包まれて…
幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は素晴らしいジョブとスキルを手に入れたのに僕のは何だこれ?
王宮からはハズレと言われて追い出されそうになるが、幼馴染達は庇ってくれた。
だけど、夢にみた迄の異世界…
慱は幼馴染達とは別に行動する事にした。
自分のスキルを駆使して冒険する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。
現在書籍化されている…
「魔境育ちの全能冒険者は好き勝手に生きる!〜追い出した癖クセに戻って来いだと?そんなの知るか‼︎〜」
の100年前の物語です。
リュカが憧れる英雄ダン・スーガーの物語。
そして、コミカライズ内で登場する「僕スキなのか…」がこの作品です。
その作品の【改訂版】です。
全く同じな部分もあれば、新たなストーリーも追加されています。
今回のHOTランキングでは最高5位かな?
応援有り難う御座います。
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
いるだけ迷惑な最強勇者 〜ハズレスキル『味方弱化』が邪魔だと追い出されたので、この異世界で好き勝手させてもらいます!〜
束音ツムギ
ファンタジー
【完結保証!】
——気づけば、クラスごと異世界に召喚されていた。
そんなクラスの中でも目立たない、ごく普通の男子『梅屋正紀』も勇者として召喚されたのだが、《味方弱化》という、周囲の味方の能力値を下げてしまうデメリットしかないハズレスキルを引いてしまう。
いるだけで迷惑になってしまう正真正銘のハズレスキルを手にした俺は——その場で捨てられてしまう。
「そんなに邪魔なら俺から出ていってやる」と、一人で異世界を旅する事になった俺は、旅の途中で《味方弱化》スキルに隠された効果が、Sランクスキルをも凌駕できるほどの最強の効果であった事を知る。
いるだけで迷惑な最強の勇者『梅屋正紀』が、異世界で無双するッ!
【小説家になろう】【カクヨム】でも連載中です!
『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。
晴行
ファンタジー
ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです
こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。
異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる