500 / 681
15章 魔法少女と帝国活動記
474話 視察と弱点
しおりを挟む「人の街……何百年ぶりだぁ……?」
もうすぐ冬らしいが未だに空気を蝕む太陽を睨み、体を伸ばす。
彼の名はエディレン・メヴィス。四神が1柱、人神である。その実は様々な種族の力を持つ代表を神と形容しているだけだが。
四神が有名であるが(それでもごく一部に)、他にも神はいる。理に触れられるのなら神に片足を踏み込み、異世界に干渉できるのなら神と言える。
「何百年か前はこんな街もなかったはずなんだけなぁ……いやもう寝たい。帰りたい。」
眉を顰めてぐだぐだ歩く。
四神の中では割とまともなほうの神なのだが、ツッコミがいらなくなればただの怠惰な少年に早変わりだ。
「戦争とか気にせずに帰ろうか……好きにやらせておけば……いやいや、これは多分、創滅神の手が入っている。」
止まりかけた足を再度動かす。もうずっと昔、四神なんてものが生まれてしまった過去を思い出す。
あの頃は地獄であった。
ああはさせまいと、回想しながら彼は歩いていく。
—————————
それは西暦など数えられる前の話。国などなく、村とも言えぬ集団が固まって生きているような時代。
普通の人間に魔力などなく、特殊な技能により生き抜いてきた時代。
この世界は創滅神が生み出した。神は誕生と共に世界を創造するのだ。
創滅神アヌズレリアル。それが名である。
創滅神は生み出された世界に雫を落としていく。神の力を、一滴一滴丁寧に落としていき世界を広げて行く。
適当に配置し、欲しかったら追加する。性格は雑、飽き性、そして他人の不幸や痛みが甘い神だ。
だからか、度々戦争を起こさせた。そうさせたのだ。
わざわざ異世界から人間を呼び寄せ、争いをさせたことも数えきれない。
そしてある時、創滅神はこう思う。
「そうだ、世界を作り直してやろう。」
世界は破滅に向かっていった。
そこで、4種の強者が集まった。
人間の中でも最強の、異世界人レン。
蔓延る魔物の中で知性を持ち、魔法を自由に操るヴァル。
姿なき現象であるはずの霊の長、ミュール。
空を支配する大物、ルー。
人神の元の名がレンなのは、偶然か。はたまた……
この4人が集まり、世界の崩壊を食い止め維持するという一種のチームが出来上がる。
当時の名称は「世界反乱隊」
ちなみにこれはレンが決めた。他の奴らは「お前らそれでいいん会(ヴァル)」「殺神(ルー)」「みんなでがんば郎(ミュール)」etc……のようなバカみたいな案しか出さないためにこれに決定したのである。
そこで行われたのが創滅神に対抗するための異世界人の呼び込み。戦力の増強を図った。
その戦いは現在も続き、近年は緩やかに見えるが……そろそろ怪しい頃合いだ。
人間同士の巨大な争いの後に、手のつけられないほど大量の争い事が待っている。
せっかくここまで収めた苦労が水の泡だ。そんなことをさせないためにも、四神が必要ないくらいの平和な世界を築こうと神々は歩き出すのだ。
きっといつか、あの暴君を破る人物がいることを信じて。
—————————
「明らかに異世界人の数が合わない……存在する数と認識できる数の齟齬がある。」
帝国の中心、噴水の広場に腰を落ち着かせて考え耽る。
異世界の人間の数が異様に少ない。異世界の人間くらい神にかかれば見分けることなどお茶の子さいさいだが、明らかに異常である。
「帝国近辺にも数が……異世界のスキルか何かでシャットアウトしている?」
どっかの創滅神が転生させた異世界人が与してそうだと考えふけった。すると、風に乗っていい匂いが。
お腹も減ったし、覗いてみるか。そう思って立ち上がる。と、ふと嫌な予感を感じ取った。
自身の加護を与えたものは少ない。そのうちのひとつに、何かがあったように思えた。とてつもない大きさの力を感知した時のみ、感覚が共有される。
しかしこれは、単純な物理的な力ではない気がしてならない。
しかし腹は減る。脳に栄養が必要だ。神は神でも、全知全能の万能神ではない。人なのだ。
匂いのする方へと足を運ぶ。が、何故か足が前に動かない。物理的にだ。
「余の動きを止めるなんて、なかなかやるな。」
エディレンは怠惰な気持ちから一転、やる気に満ちた素敵な笑みを貼り付ける。
しかし破れないわけではない。神を超える存在など、そうそういやしないのだ。というか、いてしまったら世界が崩壊するのも時間の問題となる。
エディレンは結界のようなそれを無理矢理ねじ切り、中へ侵入する。一体どんなやつが、と思った瞬間に自身を阻む壁が消えた感覚があった。
「逃げられた?いや……余が簡単に気づかれるわけもない。たまたまか……」
人払いもされなくなったようで、人通りも増えてきた。しかし忽然と現れた魔力の気配と、漠然とした不気味な感覚がある。
観測する前にことを終わらされてしまえば、いかに神であっても特定は難しい。一瞬だけでも目眩しがができれば、それは可能だ。
「余の弱点を確実に突いている……神の介入も意識しているのか?」
うぅむ、と考え込む。道のど真ん中のため、通りすがりの歩行者とぶつかる。
「長年人間間のいざこざから目を背けていたツケがまわったか。全てがきな臭く見てしかたない。」
もう少し世間に目を向けていればと後悔するが、これも創滅神の策略だと責任転嫁。
視察のつもりだったが、本拠地に乗り込んでみようかと考える。少しくらい内情を知っておかねば、ここ数百年で消えた国の名前も知らないのでは政治に手を出そうなんて夢のまた夢だ。
彼は久しぶりに神としての役目を果たすことにした。ひと段落ついたら、新入りのルーアや魔神、霊神も含めて下剋上でもしてやろうかとも過ぎったが、流石にそこまでは不可能だ。
この世界の枠にいる限り、不可能なのだ。
下手に行動するのは、世界をいたずらに破滅へ導く愚行と捉えて相違ない。
それはかつて、身をもって体感した。してしまった。
「だから余たちは、布石を打つ……」
魔法陣が描かれる。瞑目し一段としかつめらしく呟きを落とした。
魔法は魔神の領域だが、使えないわけではない。
攻撃よりも、特殊な魔法が得意であるだけで。
空間と空間を繋げる魔法。帝国府に一直線である。
万が一にも人間如きに遅れをとることはないだろうと思うが、念の為だ。
魔力を通すと、薄く魔法陣が発光する。魔神なら光も出さず、これの数秒早く展開可能だろう。一瞬だけ視界が塞がれると、次には帝国府中枢の壁……
「へ?」
「え?」
「———さん、可愛い。」
景色は壁ではなく、うっとりと満足そうな顔の少女とメイド服姿の瑠璃色の少女だった。
———————————————————————
再開初の執筆でございます。
久しぶりの執筆のため、短めなのは申し訳ないです。おまけでもぶっ込みましょうか?
目と風邪のダブルパンチは流石にキツいですね……風邪ってこんなにキツいものでしたっけ。
おまけの話が思いつかない件について話しましょうか。ちなみに今話、咳を数秒に一回しながら執筆しておりました。喉が死にます。
やっぱり今回はこれで許してもらえませんか?本当に死にそうです。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる