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14章 魔法少女と農業の街
462話 魔法少女は支援する
しおりを挟む今1度、問いかける。
いつもふとそう思う。私がなんであるか、私はどうしたいか、私はなんでこの世界を好きなのか、守りたいのか。
そんなものは決まっている。過去のこの世界で見せられたまやかしを振り払って、怒りの中で自分の父親に中指を立てて、湯姫にも、夢の中だけどさよならを言った。
だからもう私を縛る枷なんてものは無い。この世界に確実に楔を打ったわけでもないし、今すぐふわふわとどこかへ飛んでいってしまいそうな私だけど、今だけはしがみついてやると思う。神にだって逆らうつもりだ。
確実にそうではあるけど、全ては親のせいにした。育ちのせいにした。言い訳を続けて、決められた手持ちのレールを放り投げていただけの人生。そんな自分と決別できたこの世界で、守りたいものを守るのは悪いことなのだろうか。
否だ。
湯姫も言うだろう。
「自分のしたいことをしてなにが悪い?自分の人生は自分だけのためにあるのさ」
Vサインが光っていそうだ。
葛藤ももちろんないわけはない。死にたくないし痛いのも嫌だ。
でも、どうしても動いてしまうのだから仕方ない。
咄嗟に出たのがそのセリフだった。
「全部、私が解決するよ。」
—————————
「なぁソラ。」
「なに?告白なら受け付けないけど。」
「妻子持ちの領主にほざく言葉じゃないな。」
真面目な話だ、とフィリオの背を見て聞く。拝聴してやろうと心の中で笑う。
「何故ソラはそうまでして協力するんだ?面倒ごとは避けるタイプだろ。」
「愚問だね。」
「妙なキャラ付けはやめろ。」
「はいはい。」
前から投げかけられた言葉を素直に受け取りつつ、考えることなく即答する。
「面倒でもやらなきゃいけないこととやりたいことはあるでしょ。私のは運がいいことにその両方。しなきゃいけないし、したいし。私は守りたいものを守る。そのために首を突っ込む。多少面倒でも、もうここまで来たら槍の雨が降ろうがやり通す。」
「大層な覚悟だな。」
「故郷を出てそう決めた。私、故郷では典型的な不幸者。物語に出てきそうなザいじめられっ子だったんだよね。」
「まるで想像がつかない。」
声だけで分かる。絶対嘘だと言うオーラも感じる。人の話を信じない領主とか最低だ。
というか、なんで今更そんなことをフィリオが聞くの?いやまぁいいけどさ。
「詳しい話は後でいいか?」
「うん、案内もあるしね。」
後ろで頷くと、フィリオは声を張り上げる。
「パズールから支援に来た!俺はフィリオ・ブリスレイ、領主だ。まだ乗車できていない者はこちらに続いてくれ!」
すると、人々が歓喜の視線を向けてくる。領主、と聞けば誰でも安心はするものだろう。
にしてもさ……
「オレたちは救われるんだ!」「あの地獄は去ったのか」「あの子、うちの農地を元に戻してくれた……」「うおおおおおおお!」「祭りだああああああ!」「パズール万歳!ドリス万歳!」
KOEEEEEEEEEEEEEE!!!
いや、なんかTUEEEみたいになっちゃったけど、怖い、この人達何?怖いんだけど!宗教でもやってるわけ?え?怖いんですけどぉ!?
頭の中が恐怖に染まる。
「この勢いどう止めるの。馬車ぶっ壊しかねない勢いなんだけど。」
「どうにかなるさ。」
はっ、と一息吐き、フィリオは彼らを馬車へと案内した。
ちなみに馬車はパッツパツだった。クルミルさんの顔色が少し変わるくらいには。
「う、~~~ん!」
肩身の狭い思いをした馬車内から解き放たれ、大きくストレッチをした。なんか目がチカチカする。およそ2時間弱の旅路。歩きで行く商人もいるそうだけど、高い金払っても馬車の方が幾分マシに思える。
魔力の車とか作ってくれる人いないかなぁ。いたらモーター付き義腕でも依頼しよう。戦闘用に。
「ソラさんって不便そうですよね。」
不意に聞こえたトートルーナさんの声に反応し、振り返る。彼女もグッと腕を前に突き出した。
「なんのこと?」
「あ、気を悪くしたならすみません……」
「いやだからなんのこと?」
首を傾げると、ほんとに分かってなかったのかと笑い出した。
「皆様気にしていませんでしたから、腕のこと。」
「あーね。これは割り切ってるから。男の勲章的な。」
「ソラさん女ですよね。」
「性差別は良くないよ。」
涙を指先で拭き取りながら指摘され、ノリ発言をぶちかます。
「それはごめんなさい。」
「本気にしないでいいよ?」
素直な子だ。クルミルさんが気に入るわけだ。
「ソラさんはどうしてそんなに強いんですか?私も、クルミル様を守れるような……」
「借り物の力を自分のしたいように使ってるだけ。強くはないかな。」
「心の問題もあります!」
「そこまで強くないって。」
いやいやと手を振った。私の心は強いんじゃなくて、複雑に絡まっているだけだ。
だから強いと言うより硬い?多方向に柔軟だけど一方向にはめっちゃ硬い。
『とんちみたいなこと言うね』
うるさいやい。
「まぁ強さなんて人それぞれだし?暴力権力精神力、何を強さと捉えるかは自分次第ってね。」
どことなく湯姫を彷彿とさせて、そのままドリスへも歩いて行った。トートルーナさんの行き先も同じだから数歩後ろを歩いていた。クルミルさんは実家へ急いだそうだ。
ってかこれ、なんの話だろう。
ドリスの門を潜った頃、そう思った。
少しだけ活気の戻ったのを確認すると、とりあえずフィリオを探す。話によると、演説的なのをするらしい。そこで、バーストン家の無実と脚色まみれの領主の死を話すという。
「トートルーナさんトートルーナさん、ほらあそこフィリオ、ぷっ……」
「なにを笑っているんですか?」
「いつものフィリオを見てると領主モードフィリオが面白くてね。」
「それってソラさんに合わせていただけでは……」
「…………」
「やっぱなんでもないです。」
そっぽを向いて含みのある笑みで空を見やる。トートルーナさんは、自分の指を絡ませて呟いた。その時、声が響いた。なにやら前座を話しているようだった。
「最後に2つ、言っておくことがある!バーストン家はかの魯鈍のケイスに貶められ、罪をなすりつけられた被害者だ!虚構を見て叩くのはやめろ、現実を直視しろ、目を覚ませ!」
街頭演説でもそんな動かんぞってくらいの手振り身振り付きの演説。集まる聴衆は困惑と事実の再確認を行なっていた。そして終着点は……
「「「魯鈍を許すな!」」」
「「「帝国侵略を許すな!」」」
「「「我々は抵抗する!」」」
魯鈍アンチが増えた。味方が増えたって言った方がいいか。
「そして魯鈍の策略により生まれた魔物の大群に最後まで果敢に戦った領主は、そのまま……犠牲となった。」
「「「魯鈍は地獄へ落ちろ!」」」
「「「帝国に中指を!」」」
「戦争前にこんなことを……帝国は許せんな。」
「わたしたちの街をこんなにして!」
もう大バッシング。魯鈍が帝国の冒険者とみんな知っているようで、もうやいのやいのと文句が多いこと多いこと。
「すごいですね……実害のない人達が1番やる気だなんて…………」
「これがネット社会の可視化ね。」
「ねっと?」
「いやなんでも。」
これが領主の言葉かと思いながら壇上を見た。これでもう不安要素は無くなったように思われる。
「さて、クルミルさんのところに戻ろうか。話したいこともあるし。」
「話したいこととは……?」
「クルミルさんをもらいに行くんだよ。」
「………………………………?」
きょとんとして足を止めた。その数瞬後に、
「えええええええええええええええ!?」
と叫んだ。
近所迷惑だ。
———————————————————————
もうそろそろ辞めたいと言っておきながら全然終わりの見えない遅筆野郎です。どうぞ、罵りたいなら罵ってください。しっかり傷つくタイプなので、そこはあしからず。
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