上 下
489 / 681
14章 魔法少女と農業の街

463話 魔法少女は話し合う

しおりを挟む

「クルミル様は絶対に渡しません!わたしのクルミル様なんだから!」
「ええ!?何、なんの話ぃ!?」
「そもそもソラさんってそっちの属性だったんですか……?」
「私に百合乃属性はない!間違えた。百合属性はない!私にアブノーマルな趣味も性癖もないわ!」
何やら勘違いを起こしたらしいトートルーナさんが謎の発言をしつつ、アニメで言うと目を不等号のようにしてむーむー必死に訴える。

 百合乃じゃないんだよ。私は女の子を愛でる趣味はあっても女の子とお付き合いしたい趣味はない!断じて、ない!
 私の性別は無だ。というか、この世界に来てからというもの、あれが来たことがない。つまりはそういうことだ。

「じゃあどういうことなんですか!?」
「雇いたいってだけだよ!私1人じゃ知識も技量もない!あの綺麗な花畑を整理できる存在が必要なんだって。」
「ならわたしが!」
「メイドでしょ!?」
唐突に始まるメイドプライドの突貫。なんとしてでもクルミルさんを守護する腹づもりらしい。

「それを決めるのはトートルーナさんじゃなくてクルミルさん!だから今から話し合いに行くでしょ!」
「分かってますよ……」
急におとなしくなる。感情の緩急が物凄い。ジェットコースターだ。

「なら行こう。私も、クルミルさんの思いを優先したいし。」
この場は一旦フィリオに任せることにして、私は勝手に退散する。元はここにいるつもりもなかったんだから、文句は言われまい。

『それじゃあクルミルさん宅まで』
『れっつご~』


 時は流れて30分。そこそこな長い道のりを歩いて見えてくるはバーストン家のお屋敷。農地は以前とは違い綺麗に整えられており(まぁ私のおかげだけど)、そこへ私はずかずかと侵入する。

「ここからは私の仕事です。少し待っていただけますか?」
突然人が切り替わったようにしゃんとしたトートルーナさん。オンオフの切り分け、これぞプロやと採点を開始した。88点だ。

 ちなみに100点は国王の側にいたあのドMさん。あれに勝てるドMを私はこれ以降見ることはないだろう……

『いっちょんわからん』
『博多弁に染まるんじゃない』
『せやでせやで!』
『私も私でエセ関西弁やめろ!』
『楽しそーだね?』
心で騒ぎすぎだと注意しようかとも思ったけど、もうしゃべるのも面倒だ。無視しよう。

「お待たせいたしました。」
「お話ってなんでしょう……?」
クルミルさんが顔を出した。帰ってきてすぐだけど、しっかり対応してくれる。

「クルミルさんのご両親も集めてもらえる?」
「はい、分かりました。」
「クルミル様!わたしが行って参ります!」
嬉しそうな笑みで労働に勤しむ。彼女は正真正銘の、M。どう捉えるかはあなた次第。

「騒がしくてすみませんね。うちのトートルーナはよく働いてくれる子なんですけど、少しから回ることも多くて。」
「知ってますよ。見てましたから。」
療養中を思い出す。実を言うと、自分のせいでと落ち込んで仕事をして、何枚か皿を割ったり壁の角に小指をぶつけて「———ッ!」と声にならない声を響かせたりしていた。

 それはそれで面白いから良かったけど。

 だいぶ失礼で無神経な言葉とは知ってる。でも、思うくらいセーフと言い訳を1つ。

「冬も近づいてきたね。」
「?そうですね。」
「いや特に深い意味はないよ?……長いようで短い生活、冒険者になって魔物を狩って、変な事件に巻き込まれて、時には自分で突っ込んで。」
「面倒ごとがお嫌いでしたよね?」
「好きなら面倒でもやるでしょ。農業だって、街のみんなは面倒くさいけど好きだからやってる。」
知らんけど、と心の中で付け加えた。綺麗事じゃあ飯は食えんのだ。

 私の真面目の時は大抵、6割くらい本音はつまらないこと考えてる時だから。そのあたりはよーく覚えておくように!

「今回のこともそうだと勝手に思っておきますね。ソラさんや他の皆さんのおかげで、バーストン家は持ち直せそうです。」
「そ。なら良かった。」
その頃、ちょうどキリよく準備ができたと言ってきたトートルーナさん。バッチリ万能感知に気配を感じていたから、空気を読んでくれたことは知っている。

 ドM力、90点に格上げしてあげようかな。

 通り際に感謝を伝え、クルミルさんの後に続いて話し合いの席に加わる。

「我々に話したいことがあるそうだけれど、何かな?娘がらみで、何かあったのか?できることならなんでもしよう。」
開口一番、自分たちの心配ではなく娘の心配をする。いい人に育てられている。

「クルミルさんがらみと言えばそうですね。1つ、許可を貰えればと思い話し合いの場を用意させていただいたんですけど。」
敬語をしっかりと。恥ずかしくないよう大人の嗜みだ。

『と、国王にタメ口な私が申しておりますと』

「私は家で小さな畑や花畑を作ってるんです。」
「そうなの?どんな花か教えてもらっても構わないかい?」
「なんなら実物見ます?」
記憶念写で花畑を写す。何故かツララがピースしてる写真が出来上がった、が可愛いから許す。

「これは……綺麗だ。季節関係なくバラバラに育てられているね。魔法かい?」
「まあ、そんなところです。」
こほんと咳払い。そろそろ本題に行っても良さそうだ。

「こんな種類の花、私には到底手入れは難しい。それでもこの花達が綺麗に花を保てているのは、クルミルさんのおかげなんです。」
「そんなことは……元の状態が良かったこともありますし。」
「こんな素晴らしい娘さんを育てて下さったお2人にも感謝しています。」
恥ずかしそうに微笑むクルミルさん一家。さすが家族と言ったように、反応が似ている。

「そこでです。クルミルさんにもう少し続けて欲しいと思っているんです。この花は、クルミルさんの手腕なしでは育つことはできないでしょう。」
相手を褒めて気を良くさせ、ゆっくり本題に近づけて気を引かせる。

 だけどまだこれは前段階。湯姫直伝の交渉術はまだまだこれから。(うろおぼえ)

「少しの間でいいので、手入れをまだお願いできませんか?」
「そんなことなら……」
「私もそれくらいなら。やらせてください。」
ニコッと微笑んだ。助けた甲斐のある笑顔を見せてもらった。

「もし……………いや、なんでもない。」
それを見てると心理的な技で頼むのは気が引けた。小さいお願いから成り行きの大きな願いへ。それはやめておく。

「ならもう少しだけ、クルミルさんのいたいだけパズールにいてほしいな。」
そうやって感動的なストーリーで終わりを迎えようとした。

「意義ありッ!」
「なんですと!?」
その結末を拒否したのはトートルーナさん。濃い表情で指を差した。

「今まではクルミル様のために我慢してきましたが、今回は違います!わたしも同行します!」
「何言ってるの!?ねぇ何言ってるの!?この家のことを母親1人に任せる気?」
「無事疑惑が晴れたんですから、雇えばいいと思います!」
ぶんと首を回し、レイモンドさんを見る。それはもう、目を見開いて許可を心待ちにしたように。

「そ、そうだ、な。娘とは仲がいいトートルーナを同行させれば安心するだろう。こちらも新たに人員を雇うことにするよ。」
「え、いいんですか!?」
「っしゃぁ!」
後ろに振り向くとトートルーナさんが拳を握りしめて腕を振った。

 それ、レイモンドさんの前でやっていいの?雇い主だよ?

『トートルーナさんって私嫌いなのかな。めっちゃ突っかかってくるし』
『クルミルさんが好きなだけじゃない?』

 まあ別にいいよ。悪い人ではないし。

 無事に魯鈍の罪を大っぴらにして、バーストン家は無罪放免。私のドリスでの役目はもうない。
 私がとやかく言うことでもないし、好きにして欲しいって言ったのは私だ。

 ということで、最後はクルミルさんに締めてもらうことにした。

「私達はいいけど、クルミルさんは?」
全員の視線がクルミルさんへ向いた。彼女は少し紅潮させ、はにかんだ。

「もう。そんなに一気に話されても、私は1人しかいませんよ?」
困り笑いに混じる嬉しそうな顔に、やっぱり彼女を助けて良かったと確信を持った。

———————————————————————

 そろそろ辞めたいはずなのに全然終わる気配がありませんね……
 帝国の話をいろいろして、どっか行って、神国の話をして創滅神ばーん、どーん、おしまーい。って感じで終わりましょう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界を服従して征く俺の物語!!

ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。 高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。 様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。 なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...