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14章 魔法少女と農業の街

457話 魔法少女は虚を突かれる

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「なるほどなるほど……なかなか有益な情報くれるじゃん?」
ラノスを下げて、笑った。魯鈍がついに白状したのだ、自分がやったと。これと私の証拠を合わせて、フィリオを連れてドリスの復興支援でもすれば信じざる得なくなる。

「あと、他にも聞きたいんだけど……魯鈍、ほんとに前にあった魯鈍?」
「それ………は……」
「は?まだ意地が残ってんの?」
ノリノリに言う私達。私は外側から何言ってんだかと溜息を吐いた。

 私の体で好き放題言っちゃって。
 情報聞き出せたからいいけど、何も得られなかったら個人の体制作やめるよ?

『それはやめて』
『私も自分の体は欲しいよ!』
『私の深淵に耐えうる器が存在するとも思えんがな』
『ぶー!』
私からの一斉ブーイング。なら真面目にやってほしい。働け働け。

 働かざる者食うべからず。いつも働いてるか働いてないか微妙な私達はここで活躍してもらわないと。

『ぶっ飛ばすぞ』
『誰が働いてないってぇ?』
『心外だな』
『ぶーっ』

 嘘ですすみませんどうぞお好きなようにどうぞ。

 4人の圧に敵うわけもなく、逃げ場もない私はおずおずと引き下がる他ない。

「早く、答えて。」
ラノスを再び眉間に向けると、怯え切った様子でこちらを見る。震えて、自殺でも命じられているかのような顔だ。

「答える必要はない。」
一瞬の出来事だった。闖入者が真上から現れ、影が落ちてくる。そうとしか思えなかった。

「瓦解。崩壊。……ふむ、裂壊狂花。」
3数えるうちに、土の檻は細かな花びらのようになって土に還った。

「誰っ!魯鈍は今から尋問して刑務所にぶち込まないと……」
「元々、我らの所有物だ。そして今は、同僚でもある。」
風のように消えていった。目の前にいたはずの魯鈍は消え、なんとか視認できたのは玉座に十字架と冠が設られたエンブレムのようなものだけだった。

 何かの団体?だとしても万能感知に気づかれずにやって来て、観測もされずに消えるなんて……気配察知も発動させるべきだった……

 悔やんでる暇はない。主従がどうの主導権がどうのはもう関係ない。私が無理矢理本体を奪い返し、感覚を尖らせる。

「いない……いない……!クルミルさんはっ!」
神速を大慌てで発動した。

「はぁ、はぁ……さすがに、いるか……」
地面に横たわっていた。魔物もいるんだし、生きていてくれてることに感謝する。

 早く介抱しないと。
 どんな扱いをされてきたかも分からないし、こんな外で、しかも固い地面に寝かされてるんだから何かしてあげたい。

「とりあえず…………帰る?ツララを迎えに行く?不安だし……クルミルさんは再生創々、はどこまで巻き戻せばいいか分からないし……万復のほう使うかぁ……」
もう頭がパチパチパニック。弾けて飛んで大混乱。しなきゃいけないことが増えて、更には謎の介入者。

 この世界、一体どうなってくの?

 色々やば体験してきた私からしても、予想のつかない大暗黒が眼前に迫ってきている恐怖をひしひしと感じる。
 過去に戻って戦争したり、変な団体潰したりとかとは、また違ったナニカがありそうだ。

「深く考えるのはまた後にしよう。完璧な治療は施せてないし、ツララもこの選択には賛同してくれるでしょ。」
右腕でクルミルさんを抱え、重力操作で支えながらなんとか転移石の発動を完了させた。私は、即刻余っているベッドに彼女を寝かせた。

—————————

「これ、どうしよう。」
勝利の余韻が冷めてから5分ほど。急に冷静になる瞬間がやってきた。

 この巨大なワイバーンの死体、どうやって持って帰ろう。そんな難問がツララの双肩にずしりと乗っかる。

 血抜きをしなければ素材としては腐って安くなる。が、血抜きの技術は教わってないためできない。下手にやって素材が傷つきでもしたらと思うと手が出しづらい。
 核石だけでも取り出そうかと手を伸ばすも、「核石、どこ……?」と疑問符が打たれるばかりである。

 仕方なく雪原を展開し、雪に埋めた。
 村で生活していた際、少なく痩せた土地での大切な作物を保存するため、雪に埋めたり氷の箱を作って中に入れ鮮度を保ってきた。
 それの見様見真似だ。

「主も、冷蔵庫言ってた。冷たければ、安心。」
ふんすと鼻を鳴らす。しかし、それは問題の先送りになっただけで、根本解決からは程遠い。

 もうここは完全に魔力の含んだ洞窟だ。ダンジョン要素は完全に消え失せた。
 誰がいつ入ってくるかなど分かったものではない。
 誰かに取られるのだけは嫌だ。手柄を横取りされることの悔しさは計り知れないのだ。

「主、呼ぶ?転移石ならある……けど、やっぱり……主、忙しい……」
転移石とワイバーンを交互に見て呟く。

 そもそもが魔法少女の負担軽減のための魯鈍の魔力を回収することだったが、こうなっては逆に負担になりかねない。
 捨てるか頼むか自力で運ぶか。

「ご注文は主。ヘルプ。アタシ困った。」
考えるのに動いたほうがいいと聞いたことがある。ツララはぴょんぴょん雪原を回った。うさぎだ。

 いやそういうことではないだろう。そんなツッコミは野暮というものだ。可愛ければそれでいい。これが世界の真髄である。
 そんなことは置いておくとして、事実、考えがまとまらないときあたりを意味もなく回ることがあるだろう。

「うむ、いい案出ない。」
そう言葉を発した途端、お腹がぐ~となった。鉱石はザクザクでもお腹はペコペコだ。お腹が減っては脳を働かせることはできない。

「食べるもの、ない……?」
もうどうしようもなくなってしまった。心の中で、主主と念じる。ご飯もなければ運搬の手段もない。

 これ以上お腹を空かせないように雪の上にペタリと座り込み、仕方なく帰宅しようかなと転移石を手に持った。

「ツララ……なにしてるの?」
困惑気な魔法少女が、こちらを見下げていた。

—————————

 クルミルさんのため家に直帰した。
 帰宅した途端、百合乃が抱きついてきた件に関しては仕方なく見逃すことにする。

 茫然自失のトートルーナにクルミルさんの介抱を頼み、私はツララが心配なので迎えに行くことにした。

 親バカと言われようとも行く!行くったら行くもんね!

『地団駄を踏む子供か』
『恥ずかしいからやめてね?』

 うっさい。

 そんなこんなでドリスのダンジョンに戻り、何故かダンジョン内にツララの魔力を感じて入ってみたはいいけど……

 なんということでしょう。最奥に進むと一面の銀世界。に、へたり込むツララが。

「ツララ……なにしてるの?」
ツララは、お腹を鳴らせて返事をした。そして雪を掘り、そこに埋まる巨大な魔物を突き出してきた。

「あげる。これも。」
謎の鉱石入りの袋を付け足され、押し付けられた。何が何だか分からないうちに裾を引かれ、小声で助かった、と聞こえた。

「じゃあ、帰ろっか。」
「うん。お腹空いた。」
「というか魔力の話は!?」
「完了してる。暇つぶしに入ったら、素材、どうしよもなくなった。」
要するにこの魔物を倒したはいいけど運べずに困ってたということらしい。なんて可愛いミスだろう。

 今日はひと段落ついたし、私も疲れたからご飯でも食べて眠ろう。

———————————————————————

 突然帝国やらなんやら出てきましたが、理由は単純明快。話が広げやすいからです。他国他国言ってても具体例出せやごらって感じですが、こうやって帝国とか言っておけば「あーはいはい帝国ね」と、帝国をよく知らなくても納得できちゃいます。

 イッツ帝国マジック。
 ちなみに帝国は皇帝が国家を支配する君主制の国のことです。多分。
 いや、帝国知らない人なんてほとんどいませんよねすいません。
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