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14章 魔法少女と農業の街

455話 魔法少女は鬼となる

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 世の中、なんの意味もないと思っていた経験が役に立つことがある。
 禍も3年経てば用に立つ、とはちょっと違うけど、似たようなことだ。

 なにが言いたいかというとつまり。
 神試戦で弾幕ゲームしててよかったってことだ。

 今、私の状況を説明するとこうだ。

 下にレリアとイズナがいるのは語るまでもないこと。そのレリアが、呪毒付き刃物を大量射出する魔導具を向けてくる。イズナは、魔法を定期的に撃ってくる。

「当たったら死、当たったら死!」
空中歩行を展開した私は、ガンギマった目でステップを踏む。

 死にゃあしないとは分かってるけど、痛いのは嫌だし毒とか不明なものを体に入れたくない。しかも呪いだよ?

「はははっ、皆殺しにしてやるよ!」
「レリア、口調悪い。」
「これが悪くせずいられる?いられるわけないっ!」
恍惚とした笑みを湛えて言い放つ。こいつ、Sだ。

 最近Mの人間ばっかと会って来てたけど、ここまでSに振り切った人間もいたなんて……

「っと、あっぶなぁ。……そろそろ、ほんと決めさせてもらうよ。」
接近しないと防戦一方になるのは目に見えている。プローターと、転移石。それぞれを投げて爆破の拍子に転移。また投げて、近距離に転移した。

 まるで私が縮地でも使ってるみたいに見えるはずだよ。百合乃の場合事実になるけど。

 百合乃のチートスキルぶりに嫉妬の念を抱きつつ、懐から刀を取り出して刃を振るった。
 鞘を弾き飛ばし、光の速さで首に肉薄する。

「これ、もう少し動いたら死んじゃうかもね。」
「……あふぇ?」
ちっとも予想していなかった事態が起こったように、素っ頓狂な惚け顔で目を丸くした。

「あら。厄介な方から片付けようと思ったら案外簡単。」
「こっ、殺すよ!」
「ぷーくすくす。」
「笑ってないで助けてぇ!」
「未練がましい女は嫌われる。」
「ぶち殺すわよ!」
この子、感情昂ったら口悪くなるタイプだ。高圧お嬢様タイプだ。などと感想を述べ、そのまま腕を固めて地面に押さえつけた。

 オタクの心得。なんとなくの想像で拘束術を扱える。(ちなみにこの技は湯姫に教えてもらった)

『今思うと湯姫って、超ハイスペックじゃない?仕事も早いし、覚えもいいし、可愛いし胸がある』
『私の成分を吸って育ったとか?』
勝手に友達に栄養を取られていた事実に気がつき、あの子そんなことを……と失望の念を……

 いや嘘嘘、さすがにそれは嘘だから。

 脳内の湯姫が暴れかけたため、宥めておいた。

「仲間、助けなくていいの?」
「理由がない。」
「あるでしょ、なにか。」
「それはこれからの人生の混沌とした中で見つけ出していく。」
「お、おう。」
とりあえずオッケーということでトールを流しておいた。電撃で気絶するのは結構痛いらしい。全身の力が抜けて崩れ落ちるくらい?って見たことある。

「あとはイズナだけだけど、どうする?逃げる?」
「逃げない。ケイスのため。」
「ならさっきは助けるべきだったんじゃないの?1対1より2対1。数的有利は持っておいて損はないよ。」
「勝てる気がしなかった。」
「正直なこって。」
やれやれと手の平を上に向けた。もう少しガードが硬くても文句言われないと思う。

 ……この子たちは、どうなんだろう。催眠をかけられてるのかな。自発的にやってるのかな。

「正直、今の魯鈍はどう?」
「…………何が言いたいの?」
「昔と、変わってるんじゃないの?」
一か八か、話をしてみることにした。この子相手なら私1人でどうにかなるし、足止めは私達に頼むことにする。

 頑張って、私のために!

『気に食わない……』
代表してそんな声が聞こえる。でも、これは勝利に必要な手掛かりになる。言質をとることは、私にとっては確実な証拠を得ることと変わりない。

「確かに、少し変わった。大人になったと思った。それはそれだ素敵。」
「ダメだ、恋は盲目の具体例だ……」
なんかの宗教ですか?ってくらいに魯鈍への信仰心の高さに驚く。

 目がハートマークにでもなってるとか、体に模様ができるみたいな分かりやすいのだったらいいのに……外見に変わりがないから操られてるかどうかも分からないし……

 ああああああああああああああああ!もう!なんでこんなに頭悩まさなきゃいけないの?あの魯鈍は私を忙殺する気?ロンドンの時計塔に沈めるぞこら!

 魯鈍の対応に忙しい私達からツッコミが訪れることもなく、何か一抹の寂しさを持って再び口を開いた。

「気づこうよそこは!問題を直視しようよ!別人になってるかもしれないのにそれでもついていく理由は?」
「恩がある。返したい恩。」
「その恩を丸ごとみじん切りにしてハンバーグにでもしてあげるよ!」
ダンと飛び出した。どっちみち、倒さなきゃ魯鈍はどうしようもできない。この2人の催眠疑惑を晴らすためにも、軽くね。

「———エーテル!」
光の粒子のようなものがいくつも浮遊し、私に向かって来た。

 ……よく分からない魔法ばっか撃ってくるなぁ。よし、ハンバーグにしよう!

 食材生成で胡椒一袋をぶちまけた。もちろん粉の胡椒だ。

「へくちっ!へくちぃっ!高級食材の、無駄遣い……私を野菜いためにする気か。」
「じゃあお望み通りいためる?」
ファイボルトどーん、とは流石に行かないので操作し回避させる。

「時間使いすぎたかな……じゃ、そろそろチェックメイト。」
「乖離の、とき……」
最後の最後まで意味不明なことを吐き捨てたイズナ。トールが体をめぐって、そのまま地面に倒れ伏した。

「早く行かないと……私、大丈夫そう?」

 『大丈夫なわけあるかクソが!さっさと来いや!』
『私ー!私ぃ!口調がヤクザ、ヤクザみたいになってるよぉ』
『ふははははっ、たまには縛りプレイをいいものだ』
『弾数足りな~い』
『遠距離だからなんとかなってるけど、1台ぶっ壊れたし』
さっきまで静かだった私達が、決壊したダムのように雪崩れ込んできて各々の言葉を吐き散らしていく。

 あーうるっさいなもう!人の脳のこと考えて発言してよ。そんなわーわー叫ばれたって脳は1つしかないんだから処理できない。

 いつも通りに文句をぶつけ、位置を確認してから走り出した。イズナとレリアはそのままなのかと言われても、木の家は壊れてる。
 結局は野外と変わらないし、いいかなと。

 少し遠くから銃声が。接近していることを確認すると、速度を上げる。いくら普通の敵用の魔法製だからといって、魔力は無尽蔵なわけじゃない。
 暇な時に貯めてる魔力球を搭載してるだけ。

「ん、あれ…………?」
遠くに影が見えた。声も聞こえる。耳を澄ませて聞いてみよう。

「遠距離からちまちまと……姿を現せ!」
小さいタイプのガトリングが小さく回転し、魯鈍を襲う。それに苦しんでいるようだ。

 相性が悪い?分からない……強いか弱いか分からない!なんなの?ほんとにこの3人はなんなの!?

 まぁ、とりあえず捕まえよう。

「地龍まほー。」
えいっと魔力を送る。魯鈍の周りの土が盛り上がり、壁を作って蓋をした。はい捕まえたー。

『私達の労力返せ』
『そうだそうだー!最初っからこうすればよかったんだよ!』
『まぁよいではないか。面白い経験だ』
『納得いかない……』

 はいはい分かったよ。聞き出すのは私達に任せるから機嫌直して。

『よしそれならいい』
『ちゃんと分担だからね!』
やる気に満ちた私達。これから拷問するっていうのにすごい楽しそう。

「魯鈍の能力についても聞き出さないとねぇ。」
一体どんな闇が出てくるのやらと、捕獲された魯鈍に歩み寄る。

 あ、何が起こるか分からないから龍の威やら神の力系は発動しといて。ものによってはきついかもだから。

『『『『了解』』』』
こうして、捕獲作戦1段階目を終えた。

———————————————————————

 本当なら、次章はテレスさんの新婚旅行にロアとサキとツララと百合乃と空(大所帯すぎて速攻バレる)でついていこうというお話のはずですが、話が飛躍しまくった結果、他国の思惑やらまだ詳しくは話せませんが魯鈍について、この国やドリスの今後というとてつもない重荷がやって来ました。

 本来魯鈍はただのうざい冒険者のはずなのに、いつの間にか腹に一物かかえた他国お抱えの冒険者になるなんて。
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