上 下
475 / 681
14章 魔法少女と農業の街

449話 魔法少女は怪しむ

しおりを挟む

「終わった……………………!」
時刻は推定夜7時。完全に暗くなった空から月明かりが覗いて、血飛沫に塗れた木々を照らす。

 魔力はあと2000?結構温存したつもりなんだけど……ツララに補給物資とか渡してたら魔力の補給ができなくなったり、結構想定外が多かったけど……

「なんとか、勝った……!」
よろよろと立ち上がり、門までの道を踏み締めていく。ぐちゃぐちゃの血の池地獄を進み、ぺちゃぺちゃと雨上がりのような音を立てる。

 少し、思考に余裕ができてきたかな。私達、もう出てきていいよ。

『はぁ……魔法もう使いたくない』
『スキル選択面倒~!』
『私も、少し邪神の力を使いすぎた。我が身が汚染されかねん』
『疲れた……』
各々が残業帰りのようなセリフを吐いて頭の中で倒れる。1人厨二病が混じっているが、いつものことだ。

『ってか、何でこんな都合のいいタイミングで?というか、魯鈍のクソ野郎はどうしてダンジョンを壊す必要が?』
Aが、1番の謎に突っ込んだ。それは私達が向き合わなきゃいけない大きな謎だ。

 それ、今じゃなきゃダメ?
 そもそも他国の冒険者でバカなんだから、利用されてこの国を潰そうとでもしてるんじゃない?食料問題は戦争においても大問題だし。

 それっぽい回答を適当に述べ、散った散ったと頭の私は手をかえした。

「しっかしまぁ、虚しいもんだ。」
誰もいない街を報酬なしで守る。さらに領主から文句も言われる。達成感が薄い。

「主っ!」
「ツララ、っぉ……危ないから飛んで来ないで。」
ダイナミックジャンピングで私の首に手を回したツララに注意し、擦り付けてくる頭を撫でかえしてやる。

「ずるいです!わたしも空に撫でられたいですぅ!」
「いや疲れてるからやめて?」
「それはわたしもですー!濃厚なキッスをするまで離しません!」
「ユリノさん、さすがにそれは……」
あのトートルーナすら引くくらいのキモさだった。口尖らせた百合乃の頬を掴み、そのまま吹き飛ばした。

「このまま野外プレイ……?」
「肥料になるか森の栄養分になるか、どっち?」
「それってどっちも肥料な気が……」
「ん?」
「……ゴメンナサイ。」
バッと正座を作る。ここだけ見たら大和撫子なんだけどなぁと思おうとして、やっぱ百合乃だからないわ、と首を振る。

「一旦、明日は領主の家にまた行きなおすから、その時は、留守番、頼むよ。」
「私の家ですけど?」
「細かいことはどうでもいいでしょ。」
ちょっとふらついてきた体を木で支える。緊張が解けた途端、疲れが洪水のように押し寄せてくる。寝てないのも影響してる。

 あっ、これやばいやつだ。やっばいやつだ。

 意識せず解けた緊張の糸は再び結ばれることはなく、安らかとは言い難い眠りを強制的に執行した。最後に胃液が上ってきた気がしたけど、気のせいだと信じよう。


「おはようございます、空。」
「……これは夢か。夢、夢。」
噛み締めるように何度か言い、もう1度布団に潜る。こういう夢はたまにある。多分。

「夢じゃないですー、現実ですー。」
「この世界は嫌なくらい理不尽。」
「どこの世界にいようと空を捕まえてみせます!」
「百合乃が理不尽だった。というか怖いからやめて。絶対人間辞めたりしないでよ?いつかしそうだから。」
百合乃は、茶化すように「そんなことするわけないじゃないですか」と笑った。そうだよね、と安堵の息を吐いて布団を出ると、なぜか私の服は脱がされていた。

「んんんんんんんんんんんんん???」
オイルの足りないロボットのように首を上げると、そこには胸元を布団で隠す百合乃が。

「……………………………………………これは、悪い夢か何かだ。きっとそうに違いない。」
「現実ですよ。」
戻ってこーいと顔の前でひらひら手を振る百合乃を全力でいないものとし、布団で体を埋めた。

 何で何で何で何で何で何で何で!?私の服は神様製。どうやったって人が脱がせるなんて……

「魔断……!」
くっそくっそと柔らかな布団を叩きつける。

「別に何もしてませんって。」
「じゃあ何で百合乃も私も、その、全裸、なの……」
視線を逸らして覇気なく問い詰める。

「看病のためです。」
「なぜに全裸!?」
「最後、空のキラキラの星をお口から放出したじゃないですか。」
「……………」
昨日の胃液の感覚を思い出して、あれかと頭を抱える。

 それが私と百合乃の服について脱がせたと……上下の下着はどこへ……

「干されてるぅ……」
窓際に引っ掛けられていた。私の下着と魔法少女服がゆらゆらと……

「じゃっねぇっ!」
もう1度強く布団を叩くと、布団を掻っ払って体に巻きつけた。干された服を回収するとともに早着替え。布団をぶっ飛ばして百合乃の頭に乗っける。

「あふぇっ。」
「さっさと着て。」
そうとだけ言って部屋を出た。

 一応領主に話つけてやんないと余計文句言われそうだし、もうちょいこの大変さは続くなぁ。

 下に降りるとツララとクルミルさん達がおり、いつもと同じように朝食が用意されている。パンを齧りながら、食器の用意を手伝った。

「じゃ、領主んとこ行ってくる。」
「主、ファイト。」
「ツララもファイトー。」
「ファイッ!」
前のめりにしめ拳を握った。可愛い。

『それ以外の感想ないの?』

 可愛いものは可愛い。しかたない。

 小春日和だ。気分がよくなる天気だけど、これから気分を悪くしにいくと考えると今すぐにでも帰宅して寝たくなる。

 そもそも領主の家は遠いんだよ!もういいや。神速で行こう。

 歩くのも面倒になり、私は今風となる。とか言ってるけど単に加速してるだけ。

 そしてダイナミックお邪魔します!

 扉を蹴飛ばして(1回少し開いてから蹴る)、領主はいないかと騒ぐ。使用人は無視をする。前日領主と話した部屋に強行すると、そこにはドンと構えていた領主がいた。

「街は助けた。別に、冒険者として助けたんじゃないからセーフだよね?」
ズカズカと入りながら喋る。礼儀がどうこうとかは、相手が礼儀を知ってからじゃないと始まらないのでこれでいい。

「来るな。少しでも触れれば、お前を永久追放するぞ。」
「職権濫用だー。それって領主としていいの?」
煽ってやる。それはもう煽ってやる。

「何でそんなに触って欲しくないの?潔癖?潔癖なの?でもそんなのこの世界で気にしてられないよね。」
視線を下げる。ダイ○ンの変わらない吸引力がないこの世界だと、ホコリはどうしても溜まる。

 手袋やら靴下やら、肌を隠す気しかない。この徹底ぶり、怪しくないわけがないよねぇ。

『ねぇ、Dが面白い発見してくれたんだけど、聞きたい?』

 同じ脳なんだから別に教えられなくても……

『万能感知使ってみて』

 無視するんだ。

 都合が悪くなると無視する。何て私らしいんだ。それはそれで人として終わってるけど。

 それはそれとして、万能感知?まぁいいけど。

 自分自身に訝しみ、それでも渋々やってみる。

 反応ないけど、これがどうしたの?

『反応がない。これ十分異様じゃない?目の前に人がいるのに』
私がニヤリとして言った。脳内フェイスがドヤってる。

 確かに……って、それ領主死んでるってこと!?

『確かめてみたらー?』
その言葉通り、強引に腕を掴んで肌を触ってみた。冷たい。物を触ってるようだ。

「死んでる……」
「…………くっ。」
何やら悔しそうに歯噛みした瞬間、ぶっ倒れた。これ、私に罪を着せようとしてるやつだ。

 まぁ私に罪は一切ないから大丈夫。そう信じよう。逆に堂々としてたほうが疑われない。

「……ということは、領主は事前に殺されてて操ってた?相当なことしてるね……領主なら他の街との関わりも深いし…………まさか魯鈍?可能性はあるね。バカだし。」
この状況、バレたら結構やばいので窓から逃げる。空いててよかった。

 次に魯鈍が狙うとしたらクルミルさんあたりかな。あれあれ?これ結構やばい状況?

———————————————————————

 はい、書くことがありません!(反省しろ)
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!

矢立まほろ
ファンタジー
 大学を卒業してサラリーマンとして働いていた田口エイタ。  彼は来る日も来る日も仕事仕事仕事と、社蓄人生真っ只中の自分に辟易していた。  そんな時、不慮の事故に巻き込まれてしまう。  目を覚ますとそこはまったく知らない異世界だった。  転生と同時に手に入れた最強のステータス。雑魚敵を圧倒的力で葬りさるその強力さに感動し、近頃流行の『異世界でスローライフ生活』を送れるものと思っていたエイタ。  しかし、そこには大きな罠が隠されていた。  ステータスは最強だが、HP上限はまさかのたった10。  それなのに、どんな攻撃を受けてもダメージの最低保証は1。  どれだけ最強でも、たった十回殴られただけで死ぬ謎のハードモードな世界であることが発覚する。おまけに、自分の命を狙ってくる少女まで現れて――。  それでも最強ステータスを活かして念願のスローライフ生活を送りたいエイタ。  果たして彼は、右も左もわからない異世界で、夢をかなえることができるのか。  可能な限りシリアスを排除した超コメディ異世界転移生活、はじまります。

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

まじぼらっ! ~魔法奉仕同好会騒動記

ちありや
ファンタジー
芹沢(せりざわ)つばめは恋に恋する普通の女子高生。入学初日に出会った不思議な魔法熟… 少女に脅され… 強く勧誘されて「魔法奉仕(マジックボランティア)同好会」に入る事になる。 これはそんな彼女の恋と青春と冒険とサバイバルのタペストリーである。 1話あたり平均2000〜2500文字なので、サクサク読めますよ! いわゆるラブコメではなく「ラブ&コメディ」です。いえむしろ「ラブギャグ」です! たまにシリアス展開もあります! 【注意】作中、『部』では無く『同好会』が登場しますが、分かりやすさ重視のために敢えて『部員』『部室』等と表記しています。

巡(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
時司巡(ときつかさめぐり)は制服にほれ込んで宮之森高校を受験して合格するが、その年度から制服が改定されてしまう。 すっかり入学する意欲を失った巡は、定年退職後の再任用も終わった元魔法少女の祖母に相談。 「それなら、古い制服だったころの宮の森に通ってみればぁ?」「え、そんなことできるの!?」 お祖母ちゃんは言う「わたしの通っていた学校だし、魔法少女でもあったし、なんとかなるよ」 「だいじょうぶ?」 「任しとき……あ、ちょっと古い時代になってしまった」 「ええ!?」  巡は、なんと50年以上も昔の宮之森高校に通うことになった!

ピンクの髪のオバサン異世界に行く

拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。 このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

外れスキル【観察記録】のせいで幼馴染に婚約破棄されたけど、最強能力と判明したので成りあがる

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 モンスター使役学を100年単位で進めたとされる偉大な怪物学者の孫アルバート・アダンは″天才″と呼ばれていた。将来を有望な魔術師として見込まれ、大貴族で幼馴染の可憐なる令嬢を許嫁としていた。  しかし、おおくの魔術師に期待されていたアルバートは【観察記録】という、「動物の生態を詳しく観察する」だけの極めて用途の少ない″外れスキル″を先代から受け継いでしまう。それにより周囲の評価は一変した。 「もうアダン家から実績は見込めない」 「二代続いて無能が生まれた」 「劣等な血に価値はない」  アルバートは幼馴染との婚約も無かったことにされ、さらに神秘研究における最高権威:魔術協会からも追放されてしまう。こうして魔術家アダンは、力をうしない没落と破滅の運命をたどることになった。  ──だがこの時、誰も気がついていなかった。アルバートの【観察記録】は故人の残した最強スキルだということを。【観察記録】の秘められた可能性に気がついたアルバートは、最強の怪物学者としてすさまじい早さで魔術世界を成り上がっていくことになる。

ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ
ファンタジー
 おっす! 俺エルドフィン!(声は野沢雅子じゃねぇぞ!)  ぼっち現代が虚無虚無ぷりんでサヨナラしたらファンタジーぽい世界の18歳に転生してた!  転生後の世界って飯は不味いわ、すぐ死ぬわ、娯楽も少ないわ、恋愛要素ないわ、風呂は入れないわで、全っ然つまんないし、別にチートキャラでもなく雑魚だし、いっそまた次に逝ってもいいかな、なんて思ってたんだけど、そんなモブ人生がどうも様子がおかしくなってきたゾっ!  プラチナブロンドの睫毛をキラキラさせて、可愛い瞳のワルキューレたんが俺に迫るのだ。 「やらぬのか? 契約は成された。我のすべては汝の思うがままだ」  えぇーっいいの?! やりますっ! やらせてくださいっ! やらいでかっ! 「人間と魔物の戦いが始まったくらいの昔の話、大戦争にうちの祖先が関わってたって言い伝えがある。魔剣も、その時の祖先が持ってたもので、神から貰った神器だって話なんだ」  顔に恐怖を貼り付けたイケメンも俺に迫るのだ。 「助けてくれ…」   おうっ! 任しとけっ相棒!! だがあえて言おうっBLはねぇっっ!  一度死んだくらいで人はそんなに変わりませんっ…デフォは愚痴愚痴、不平不満ディスり節を炸裂し続ける、成長曲線晩成型?のひねくれぼっちが異世界転生したらの物語。  イケメンホイホイ、ヒロイン体質?の主人公がスーパーハニーなワルキューレ達と大活躍?!  北欧神話と古代ノルウェーをモチーフにした、第四の壁ぶっ壊しまくりの壮大な冒険譚! ※ カクヨム、なろうにも掲載しています。カクヨムにはおまけストーリー・作成資料なども紹介してます☺️❤️   「カクヨム」「アオイソラ」でどぞ☆彡

処理中です...