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14章 魔法少女と農業の街
447話 魔法少女は備える
しおりを挟む「応援は呼ばない!?」
机をドンと叩き、声を張り上げた。目の前にいるのは30代くらいの引き締まったおじさん。猛獣のような鋭い目つきの領主。瞑目し、短い息を吐いて再度言う。
「お前たちもさっさと逃げればいい。わたしはこの土地を守らなければならない。蹂躙されたとしても、それが神の導きということだ。」
「そんなわけないでしょ!守れるものを守らないのは領主のすること?魔物討伐は私達がやる。できる。だからその後の処理のために呼ばせてって言ってるの。」
ちょっと声を荒げてしまう。でも急いでるんだから多めに見てほしい。
神の導き?国王の話的に、この世界は神の信仰じゃなくて王政と民政の合わさったような政治のはず……
「今この街を失うのは我が国にとって大変な損失かと。今からでも、再建のために尽力するのが最善と愚考いたします。」
「……君は、没落したバーストンの娘ではないか?街を犯した愚族が、何をほざく。」
「クルミルさんはそんな……!」
「いいんです。」
クルミルさんの手が私の前に現れ、静止される。行き場を失った怒りはそのまま拳にいき、グッと握られる。手袋にしわができる。
「あの~そもそもなんでダメなんです?具体的に説明願えます?」
ちょっと気まずそうに手を挙げ、小首を傾げながら問うた。ナイスな質問だ。
「何故?この街のプライドにかけてだ。今の時点でも見下され気味なんだ。頼りきりでいられるか?」
「そんな個人的な……」
「下に見られればその分搾取され、交易品は安く見られる。」
「交易すらできなくなったら意味ないです!」
「その時は存分に困ればいい。」
不遜に鼻を鳴らす。話が通じる相手じゃない。
「頭硬い。パズールの領主、もっといい。」
「なに?」
「そうですそうです。フィリオさんはなんだかんだ言って領民のためを思ってますし、いちいち何か言い訳じみたセリフは吐きません!」
断言した。青筋が浮かび上がり、何やら怒り心頭といった様子だ。
やっぱり百合乃は一家に1台必要かもしれないね。コミュ力のお化けはこう言う時に役に立つ。
バレないように小さく笑う。
「勝手にやらせてもらいますよ。」
「もしそうすると言うなら、わたしは訴えよう。」
「やれるものな」
近づいて言おうとした。その先を言う前に、轟音レベルの声が響いた。
「触れるな!」
ビクッと、この場にいる全員が震えた。
「……話は以上だ。」
そうして、残された使用人に見送られ領主邸を後にした。
「マっジで何あの態度!むっかつくぅ……!」
地団駄でも踏むように何度も足で蹴りつけ、砂の跡を作る。
「あいつ、嫌い。」
「性格悪そうな顔してますしねぇ。」
そんな悪評をつらつらと並べる中、クルミルさんの表情が陰った。
「どうしたのですか、クルミル様?」
いち早く気づくトートルーナが顔色を窺い、「いえ、なんでもないですよ」と宥めた。
「ただ、領主様の様子が少しおかしく見えまして。」
「確かに、言われてみればおかしい気もします……前に御前に立った際は、もっと柔らかな印象でしたのに…….」
「クルミルさんを犯人と思ってるからじゃない?」
「それにしても、です。」
考え込むように俯き、暫くすると、準備を始めようと提案される。
「そうだね。あんな領主置いとこう。私達3人じゃ逃がしちゃう可能性も考慮して……」
「防壁の用意ですね。」
「ダンジョンから街の地図とかない?」
「ここで話すのもなんですし、戻りません?」
この日は、夜遅くまで作戦立てや地図の確認を徹底した。
「ほとんど寝れなかった……」
「遠足前日の夜じゃないんですから。」
「いやさ、こんな状況で寝られるほどの強心臓は持ってないよ。心臓に毛が生えてる百合乃は違うんだろうけどさ。」
「これから壁建てて殲滅するんですよ?どうするんです?」
寝癖のついた頭をガシガシしながら「うるさいなぁ」と呟く。
別に1日くらい寝なくたってね。それに、横にはなってたんだから休憩はできてたわけだし。
『何もせず横になるのは引きこもりの本懐』
「そんなんだからプニプニは治らないんですよ!」
「私は筋肉の代わりに脂肪があるだけ!」
「それをプニプニって言うんです!」
「朝からうるさい。」
「御客人にこう言うのは失礼ですが、喧しいですね。」
トートルーナからの辛辣な一言により、ピタッと声が止んだ。忙しないですね、と追加のボディーブローをもらったところで、2人同時に頭を下げる。
「「申し訳ありませんでした。」」
「分かればいいんですよ。」
るんるんと朝食に向かっていったトートルーナさん。歯向かわないでおこう。
普段は普通なのに怒るの怖い人っているよね。そう言う人は1番怒らせちゃダメなんだよ。
というか、静かに怒るタイプが1番怖い。
腹が減ってはなんとやら。それに倣って、いっぱい朝ごはんを胃に詰めてから外へ出た。昨日と同じがらんどうな街中を見下ろし、クルミルさんの持った地図を確認する。
「どの辺が危ない?」
「まず門ですね。領主のことは放っておいて、勝手に塞いでしまいましょう。」
「あと空も危ないんじゃないです?上から魔物がきたらおしまいです。」
「氷を撃ち込む。いける。」
「撃ち漏れはありますよ。」
指鉄砲で空中にバンバンとするツララにツッコむと、百合乃はそれも追加で、とクルミルさんへ申告する。
「全体、というのは時間的にも厳しいでしょうから、正面だけの対策にしましょう。森の構造的に横からは侵入しづらくなっていますし、馬車路が主になるでしょう。」
「配置は昨日言ったとおりに、私は遊撃。百合乃はクルミルさんとトートルーナさんを守りながら防衛、ツララは馬車路の方で。別方向に行った敵を始末するには私の神速が鍵だから、惹きつけるのは任せたよ。」
「任された。」
こくこくと頷く。赤べこみたいでかわいい。
「さっさとしないと魔物来ちゃうよ。超特急で済ませるから、ついていてよ。」
「「おー!」」
「お、おー?」「おーっ!」
誰もいない街中で、空に向かって拳を突き上げた。
いや、ほんとに時間ないんだけど。
猛ダッシュで街の門まで出る私達は、地龍魔法で外壁より少し長い壁を生み出した。強度はラノスでも傷しかつかない優れものだよ!魔法少女印の魔法壁。
ついでに軒も作って正面あたり全部囲う。更に更に、脈を繋いで膜を作る。全部で約2時間半。疲れた。
「ふぅ……こんなもんかな。」
「そんなにして、魔力は持つんですか?」
「言ったでしょ、私の魔力はとんでもないって。」
「そういうものなんですか……」
トートルーナさんの質問に答えながら魔力を通す。
「よーし、あとはそれぞれ配置につくだけ。」
「それじゃあ配置につけー!」
「私は一旦偵察してみてから決めるから。はーい、2人は百合乃と。ツララも、1人だとキツイだろうけど頑張って。」
「余裕。」
「んー、死神さん貸そうか。一応ね。」
ステッキから物々しい人形を取り出してポイっとする。ぷかぷか浮き上がり、魔力を通してやると関節ごとに埋め込まれた核石が薄く光って全身をめぐる。
「改良版死神さん。ちなみに鎌は重力操作と暗黒成分を含んでおります。」
商品紹介みたいな感じで笑って鎌を指差した。
「百人力。頑張る!」
「いってらっしゃーい。」
手を振っておく。ツララも笑って返してくれる。
いや、私も行くんだけどね?
「百合乃も頑張ってね。まぁそっちに魔物行くかは知らないけど。」
「ちゃんと仕事残しておいてくださいよ!」
言っている途中にジャンプで木に飛び移り、逃げるように森の中に紛れていく。百合乃の喚きが聞こえた気がする。
———————————————————————
えー、時間がないです。1日32時間くらい欲しいです。1年はめちゃくちゃ短いくせに1週間はめちゃくちゃ長い。この現象なんでしょう。
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