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14章 魔法少女と農業の街

442話 魔法少女は見届ける

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 あの襲撃以来何もなく、安心安全な移動となった。夕暮れまでには街に着くことができそうで、一安心だ。

 あー、アスラデウス?まぁ、核石はあるし?その報告すればね。なんとか?うん。なんとか。

「結構並んでますね、検問でもやってるんです?」
「いえ、この街は交易が盛んなので。ほとんど商人ですね。冒険者はほとんど立ち寄りません。商人からは生活必需品、こちらからは野菜を売買しております。」
「へぇ。」
「淡白な反応ですね~。」
後ろの方で呻いている3人の存在は完全に記憶から抹消し、談笑に興じた。

「いい加減解いてくれてもいいだろ。抵抗はしない。」
「体痛い~!」
「虐待嫌い。」
口を窄めて訴えてくるイズナ。やっぱりこの子ネタ担当だ。うちのツララと百合乃を合わせた感じのやつだ。

「もうすぐで街なんだから我慢しなよ。」
「むーりー!」
「それでもSランク冒険者?忍耐力つけようよ。」
「空って何気に煽り性能高いです?」
「さぁ、知らない。」
手の平を空の方に向けて知らないふりをする。

『ちなみに私の体の71%は煽りと水分でできてるよ』

 そりゃそうでしょ。人体の6、7割は水分なんだから。逆に煽りは何%?

『5%』
『ふっ、反応しずらい数字だな』

 そこ、厨二にならなくてよろしい。

「皆さん次ですよ。用意しておいてください。」
「「「は~い。」」」
各々変な方向を向いている私達は一斉に正面を向き、後ろの3人はやっとかみたいや顔でこっちを見てきた。

「次の方。」
「はいは~い!」
百合乃が元気よくギルドカードを取り出し、私も合わせて出す。ちなみに、ギルカには奴隷の有無も記述可能らしい。まぁ私はしてないからツララ分の通行量を払う。クミルさんはクルミルさんとしてカードを出した。

 あ、魯鈍3人のギルドカードは勝手に拝借して提出したよ。泥棒とか言わないでね。
 ツララの言う通り龍の威で脅しといたよ☆

『笑って言うな~、犯罪1歩手前だよ』

 うるさいなぁ、仕方ないじゃん。この世界は窃盗殺人その他諸々の目に見えて犯罪なやつくらいしかいちいち止められないし、このくらいグレーゾーンだよ。

「………………と、通っていいぞ。……報告しておけ。こいつら絶対やばい。」
カードを返され門を通った。後ろで何やらコソコソと話されてるけど……まぁ概ね想定通り。

「主、うまくいった。」
「いった……のかな?」
後ろを振り返り、元の作業に戻っている門番を見て思わず苦笑いが出る。

「通れたんだからいいってことですよ。早くいきましょう早く。」
「クミルさんの家に泊まらせてもらうんだっけ?止まれなかったら宿でも探すけど。」
「私からも頼んでみます。もしダメでしたら……申し訳ないですが、そのように。」
人の目を惹きながら歩いていく。なんでだろうね。

『魯鈍のせい~』

「貴族の家は大抵、広大な土地を保有しているので街の外側にあることが多いです。そのためそこそこの領土ですから、迷わないよう。」
「迷ったら死にそうだよね。農地なんて目印もないわけだし。」
「慣れればどこが誰の農地なのかは分かります。」
「それはプロの領域です……」
ツララは物珍しそうに首を傾げながら、キョロキョロとする。確かに、パーズルにはない珍しいものは多い。

 あ、竹ある。
 まぁ竹林の村からそこそこ近いからね。その次にパズールって感じ。
 竹って見た目の割に美味しいんだよね。あ、あそこの竹に限ってね?普通の竹食べちゃダメだよ。

『言われなくても分かるよ』

「ツララー、見るのはいいけど離れないでよ。」
「分かってる。」
「空もすっかり保護者が板についてきましたね。」
「うるさい。そもそも百合乃もまだ保護される側なんだけど。もっというと私も保護される側なんだけど。私だけ何故に保護なし?」
「されてるじゃないですか。神に。」
「私は無神論者なんだ。」
神を中にも外にもベッタベタに貼り付けたような私がそうほざく。

 でも神を信仰するかしないかで言ったら後者だから。

 だからと言って感謝してないというわけじゃないのはなんか解せない。
 両脇にいる百合乃も、ツララも、この世界にいなければ友達にも家族にもなれなかった。

「どうしました?」
「ソラさん、何かあったのですか?」
「いや、何にも。」
ツララは変わらず可愛い顔で目を忙しなく動かす。

「もう直ぐ着きます。そこの魯鈍さん方は、お父様とお母様に先に話を聞いてもらい、ダメージを軽減させようと考えております。」
「だから口を閉じさせろってことね。オッケー。」
「いえ、そこまでは……あっ……」
何か憐れむような視線で魯鈍を見た。

『手で塞がれるのなら可愛いのにね』
遠い目をして言う。何おかしなことを言ってんだろうと思う。

 そんなの汚いじゃん。こいつには使わなくなった布切れを丸めて突っ込むくらいがちょうどいい。

 猿轡をかまされるが如く、刀で鬼を滅するアレのようにムームーとしか言えなくなる。どうでもいいけどあかりんって可愛いよね。

『そんなこと言ってると大きな存在に消されるよ』
『強大な闇……深き深淵に眠りし漆黒の王の傀儡による殺戮劇と言ったところかっ』
『Dー、翻訳』
『えーっと……分かんない』
『私は誰にも理解されぬ孤高な1匹狼なのだ』
とうとう厨二ワード翻訳家であるDですら何言ってるか分からないほどの文章。同じ脳のはずの私でも、1ミリたりとも理解に及ばない。

「見えました。この辺りから、バーストン家の敷地です。」
空に数滴紺を混ぜたような色になった頃、そう言って指差した。そこには、到底農業なんてできなさそうな穴や枯れた土地があり、広がっているようにも見える。

「できないことはないけど……でかく1カ所他の方がマシだねこれ。中規模たくさんとか鬼畜がすぎる。」
「この魯鈍、1発くらい殴ってもいいんじゃないです?いや、殴らせてください。」
「うん。ユリノの言う通り。凍らせたい。そして割る。」
とんでもない殺人鬼がうちの家族に紛れていた。ツララのほっぺをむにゅむにゅしてやった。

「あうじぃ~……」
「今のうちに行ってきたら?私はゆっくり追いかけるから。久しぶりの再会なんて、他人がいたら邪魔でしかないでしょ?」
「いえ、決してそんなことは……」
「いいから行った行った。」
クミルさん、今からはクルミルさんと呼ぼう。私が事件を解決させるんだから、仮名なんて必要ない。

「空がこう言ったら聞きませんよ?とことん甘えましょう!」
「……感謝します。」
クルミルさんは少しだけ辺りを見回すと、一気に駆け出していった。特に後ろの3人と鉢合わせるわけにはいかないので、歩調を緩めることにした。

「そこの。人の心が残ってたら無闇に動かないで。そもそも、魯鈍達のせいでこうなってるんだからね?反省してる?」
「……んんむむん、むむんむんむむむっんんん。」
「何言ってるか分かんない。」
「んむむんんんむむむん!」
モゴモゴと布に阻まれて、まともに聞き取れない。

 こんなやつのことはどうでもいいや。クルミルさんを最後まで見届けよう。

 クルミルさんは必死になって走る。一心不乱に駆け抜けていく。長い道を駆け抜けて、そこそこの屋敷にだどりついて、突進するようにどんどんと扉を叩く。片膝に手をやりながら。

 間も無くして、扉がゆっくり開くのが見えた。

———————————————————————

 えー、先日は本当に申し訳ありませんでした。その気持ちを込め、私coverさんはおまけを書くことにいたしました。

 近況ノートには書きましたが、アルファポリスのほうでは5月の25、26日、カクヨムのほうでは24、25、26日の投稿を休ませていただきます。東京の方に用事がありまして、帰り次第執筆を再開しようと考えておりますので、その時にはどうぞよろしくお願いいたします。

 ふぅ、真面目なこと言うと肌が痒くなりますね。では、おまけへどうぞ。
 ちなみに本編中の「両脇にいる~なれなかった」あたりの空の心情です。


 おまけ
「魔法少女の胸の内」


 この時間は本当に奇跡だ。
 百合乃やツララのことを考えてるとそう思うことが多い。
 なんたって、神の気まぐれだ。

 でも、それで色々な経験が詰めている。
 そう考えれば、この世界に転生したのは良かったのかもしれない。なあなあで就いた冒険者の職も、別に気に食わないわけではない。

 成功もあれば失敗もあった。

 初めて作ったカフェは、実際には失敗も多かった。

 金額調整の話で私の提案に「安すぎる」と何度も叱られたり、「新人教育が……」と苦悩するテレスさんの助けをしたり、食材は私しか出せないから練習の機会も少ないしetc……私自身、悶々とした日の連続だった。でも、それは日本じゃ100%起きるはずのなかった出来事。起こせなかったこと。
 日本にいればいじめとか家庭環境を引きずって、適当な仕事を適当にこなして適当な毎日を過ごしてたこと請け合いだ。

 私が保証する。なんならハンコでも押そうか?

 そう思ってみれば私にとって日本はハードな世界線なのかもしれない。まだ、魔物を狩る方が身にあってる。

 この世界で私は確実に成長してる。
 守りたいものができると人は強くなれる。そうどこかで聞いた。私のは確実にそれだ。
 ロアと会って守りたくなって、冒険者になってお金を稼いで、カフェだって作った。その中でたくさんのいい人の出会って、その人達がいなければ今の私達の生活はない。
 カフェも、私1人じゃ不可能だった。テレスさんというレストラン経験者がいたからこそ成し遂げられた。

 この世界に来て1番変えられたのは、私なのかもしれない。

 私の影響で人生が変わったであろう人達を回し見て、そう思った。
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