上 下
464 / 681
14章 魔法少女と農業の街

438話 魔法少女と魯鈍のケイス

しおりを挟む

「解体は任せて。」
女性のうち1人がナイフを持って、解体を始めた。綺麗に皮が剥がれていくけど……

 気持ち悪い、うん気持ち悪い、気持ち悪い。
 いや、血単品ならなんとかなる。どっかのセプテットの時は気にしてる暇もなかったし。
 しかし、しかしねぇ……

 内臓引き摺り出されるのは気持ち悪いんだよ!

「主?大丈夫?」
「うん……やっぱりまだこの世界には染まれてないのか……」
目を逸らしながら、でも逸らせないという事実に愕然とする。

「空、代わりに見ておきますよ?」
「ありが、とう。」
ザザッと音を立てながら後ろを向いた。

『音を立てながら?』

「ケーくん、向こうから音しなかったぁ?」
「そうだな……魔物では無いようだが、俺のファンか?今なら怒らないから出てきておいで。」

「なんか爽やかそーな笑顔を振り撒くいてますねー。ぶっちゃけキモいです。クラスに1人はいそうなイケメン気取ってる変人です。厨二病患者乙ってやつです?」
「凄い喋るね百合乃。」
「どうも、実況の青柳さんです。」
こっちもこっちで漫才が始まった。もうええわ。

『開始数秒で終わる漫才がどこにあるの』
『ここー』
『これじゃお金は取れなさそうだね』

 おーい、何呑気に思案してるの。結構大事局面だよ?あいつ捕まえないと、潔白を証明できないんだから。

「でも、あの雰囲気で押し付けるなんて不思議ですねー。押し付けられそうな顔してるのに。」
「百合乃サン?それは普通に酷いと思うヨ?」
急に毒舌キャラになり始めた百合乃。顔は怖くて見えない。

「4人かな?どうしたんだい、そんなところで。」

「気持ち悪いので吐いていいです?わたしを口説いてきた臭い口が何か喚いてます。」
「いつもの百合乃を返して!何?あの魯鈍野郎は人の性格を捻じ曲げる能力でも持ってるの?」
もう隠す気すらない会話に、ツララとクルミルさんのため息のようなものが聞こえてくる。

 これ、どう出たものか。あのご都合解釈アンド変態趣味(想像)の野郎に何言っても無駄だろうし……

「レリア、ケイス、何かあったの?」
「ケーくんのファンだって。アタシ達からケーくんを奪おうって言うなら、受けてた」
たつよ、そう言おうとした瞬間、茂みがザワザワっと揺れる。誰かが立ち上がった音だ。

「ぶっ殺しますよ?誰がそこの魯鈍のファンだって言ったんです?訂正しないとそのおしゃべりな口を永久封印しますよ?」
「えあやっ、わっ、そっその……」
思わず振り返ると、目が完全に死んでる百合乃がサーベルを突きつけて恐喝していた。

「ちょっ!もっとこう、刃傷沙汰にならない方法で!」
「わたしは空のファンです!今すぐ訂正してください!」
「そこはどうでもいい!」
ベシィンッと小気味の良い音を響かせ、「ひゃん」とドMを発揮する。レリアと呼ばれた女の子に、「ごめん、うちのバカ百合乃が」と頭を小さく下げる。

 謝る時は謝る、魔法少女の基本だ。
 今の見た感じ、戦闘スタイル的には魯鈍に罪はあっても2人にはなさそうだ。
 うざいことには変わりないけど。

「……お前、前のギルドの……!」
目を見開いて、私と百合乃を見る。

「仲間に入れてやらないぞ。俺に恥をかかせた罪を後悔するといい。」
「いやだから、別にそういうのいいから。トッテモツヨイ(笑)魯鈍さんにはそこのお2人がいるじゃないっすか。」
嘲笑をつけてそう言ってやった。皮肉が通じない相手は手強い。これで反応はお察しだろう。

「主、なんかキモい。」
私に言われたかと思いとてつもない勢いで首を振ると、魯鈍を指すツララがいた。

 ああ、なんだいつも通りか。

「ツララ~、この人がキモいのはいつものことだから金輪際関わらないようにしようね~。」
「分かった。主の言う通りする。」
ふんすっ、とやる気を表明し、ついでに尻尾フリフリ。何この子かわいい。買ってよかった。

 不人気商品とか嘘みたい。いや、商品とか言っちゃ悪いね。
 大金貨を何枚積まれてもうちのツララはあげないよ。元値1万円とか、見る目なさすぎる。奴隷用品一緒に買ったからってあまりにも安い。

 おっと、ツララ愛がカンストしてたみたいだ。

 一通りツララを撫で終わると、トロンとした目をする。そこもまたかわいいポイントだ。
 そして仕方なく、天国から地獄に目を向ける。と。

「…………おい、そこの獣人の女の子。俺と一緒に行かないか?絶対、こんな傍若無人な女と一緒より……」
「「あ゛?」」
一瞬にして、かわいいかわいい顔が瞳孔ガン開きのヤンキーのような風貌へ。なんか百合乃も混じってる。

 この人、人の地雷踏み抜くなぁ。

「主、馬鹿にした。お前許さない。」
「空はあなたみたいな馬鹿でも自信過剰でも変人でもないです。優しくて人のために行動できるいい人です。一緒にしないでもらえます?」
「口説くセンスなってない。死んだほうがいい。」
「ですです。はい死~ね、死~ね。」
「死~ね。死~ね。」
「言葉遣い荒いよー。やめてー、そんな品のない子に育っちゃいけませんよ。」
突然の死ね死ねコール。デスコール。しかし魯鈍、やっぱり魯鈍だった。

「なら仕切り直そう。お前は綺麗だ。俺の仲間になれ。」
「ケーくん」「ケイス」「「かっこいい!」」
目をハートにさせた女の子達。何これ、エロ漫画の催眠アプリかなんか?

 念のため龍の威軽く纏わせといて。神の加護受けまくってる私ならなんとかなるだろうけど。

『まぁ慢心は大きなスキだからね。やっとく』
『任せておけ。完璧にしておく』
仕事は任せられる私達。いつもこんなふうに頼もしければいいのに。

「無理。」
プイッと完全にそっぽを向かれた。ちょっと笑いそうになった。そしてやっぱり文句をつける女の子2人。気を遣ったのが馬鹿みたいだ。

「一体いつ本題に……」
クルミルさんも私達のバカさ加減をよく知ったのか、もう遠慮なしにそんなことを呟いた。

「お前もか……」
「黙れ。」
私はアッパーをかます。

「そもそも、あんたら捕まえるために来てんの。その必要があること、分かるよね?」
「俺たちは人助けをしているいわばヒーロー。何か捕縛される理由などないが?」
「へー。そんな高圧的な態度取れる立場にあると思ってるんだー。」
ラノスを見せびらかし、持ちながらゆらゆら揺らす。露骨に引き攣った顔をする。

 お、この反応日本人かな?

「ねぇ。これで撃たれるか連れて行かれるか、どっちがいい?」
「お前……」
「農業の街ドリスだったっけ?」
「はい、そうです。」
「そこで、好き放題して更には罪までなすりつける……流石魯鈍さん、やることが違う。」
皮肉を飛ばしてやる。ここまであからさまなら分からないはずがな……

「何まんざらでもなさそうな顔してるの?え?皮肉っていう日本語ご存知でない?君何年生?小学生でもこれくらいの皮肉わかるよ?」
「空、何言ってるんです?」
魯鈍さんが魯鈍すぎてちょっとやけになっちゃった。でもまぁ、うん。仕方ない。

「あれは完璧な仕事だったと思うんだ。全ての魔物を討伐し、他にも問題があったらしいから解決しやすいようにしておいた。立つ鳥跡を濁さずとはこのことだろう?」
「ケーくんは凄いの!」
「そう。完璧。」

「なんだろう。実力はあるのに盲目すぎるこの2人。可哀想。」
「魯鈍さーん、立つ鳥跡を濁さずっていう言葉ご存知です?今の時代ググれば一瞬ですよ?」
「ツララさん、お2人は何をおっしゃってるのでしょう。」
「気にしない。文字通り、2人の世界。」
2人が何かコソコソ話してる。けれど魯鈍が魯鈍なのだ。

『この人嫌ーい』
『生理的に受け付けんな』
『自分を美化しすぎなんだよ』
『明らかに不利益に目を瞑ってるね』
私も満場一致の罵倒。いっぺん死んでみてもいいかもしれない。

「罪の意識がないって、怖いね。」
真顔でそう言って、ラノスを突きつけた。

「無理矢理にでも連れてくから。私の大事な人の1人の人生を、こんな魯鈍になんて曲げさせない。」
「そっちがその気なら実力行使と行こうか?」
「元からそのつもりっつってんだよ魯鈍。」
いつもより目に力を込めて言い放つ。威圧もマシマシだ。しかしそこは魯鈍。馬鹿だから気づかない。

「主。」
魯鈍と銃の間。ツララがゆっくり歩いてやってくる。

「あたしに、やらせて。」
「ツララ……」
片腕を広げて銃口を隠す。その目は何かしらの覚悟的なものが宿ってるような気もしないでもない。

『そこは言い切ろうよ』

「俺を庇ってくれるのか?やっぱりお前は俺の……」
「……れ。」
「ん?」
「黙れって、言ってる。」
鋭い視線を突き刺して、全身に力を込めた。

———————————————————————

 うーん、魯鈍さんがいると色々狂いますね。全てを都合よく解釈アンドそれを許容する女の子2人。そんな中口説いても怒られず……人生謳歌してそうですね。嫌なことから目を背ける才能が天元突破してますもん。
 でも、キャラがキャラなせいで私の嫌いなキャラのようにはできませんでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

処理中です...