上 下
461 / 681
14章 魔法少女と農業の街

435話 魔法少女は引き留める

しおりを挟む

「こんなことで良かったのか?」
お付きの人と一緒に刑務所の前まで来て、私にそう言った。

「まぁ……よかったんじゃない?」
「なぜそこで疑問形なんだ。」
「さぁね。何がしたかったか私自身もよく分からないし、よかったって思うしかないかなーって。」
「よく分からないな。」
フィリオの横を通り抜け、空にグッと腕を伸ばして肩をほぐす。なんか疲れた。

 そもそも私はまだ17歳。働きすぎてる。未成年は法律で何時以降働いちゃダメとかあった気がするんだけど、法律どこ行ったの?

『ここは日本じゃないよ?』
『現実を、見よう』
静かに頷く私。事実は小説よりも奇なりとはまさにこのこと。

 子供でも働かないといけないなんて……なんて世知辛い世の中なんだ!

 そもそも普通の街人ってどういう風に就活してるんだろう。なんか気になる。

 どんどん話題が逸れていってる気がするけど、問題ない。フィリオと分かれて、軽く散歩をしながら街へ向かう。家には直行せず、まずはカフェに行こう。

『魔法少女移動中』

 変なナレーションつけんでいい。

 程なくして、バカみたいな色彩のカフェに着き、ジト目で見つめる。何この陽キャ感。この世界スマホも写真(は知らないけど)も映えもないよ。そもそも映えない。

 ピンクやら水色やら悪目立ちしたその色は、全くもってこの街にあっていない。ちょっとテレスさんの感覚を疑う。酒飲んでやったんじゃなかろうか。
 さすがにそれは失礼か。

「いらっしゃいま……オーナー?」
「ん?」
「……ソラさん。お久しぶりですね。確か王都に行ってらっしゃったと聞いたんですけど、帰ったんですか?」
「まーね。」
手頃な席に座る。何にするかを聞かれたので、とりあえずクリームソーダとアイスにした。疲れた時は甘いものに限る。

 ちなみに珍しいだけでアイスもあるらしい。ほんと、この世界の人達は食に強いんだと確認させられる。

 某Web小説サイトとかで、よく日本の知識を使って料理革命起こしたりしてるけどさ……現実を見てみ?
 確かに、日本の食文化の知識はこの世界とは違うものもあって独創的だ。でも、私達はその道のプロでもなく一般高校生。
 (この世界の人類史がどのくらいかは知らないけど)今まで積み上げてきた先人の知恵と工夫が容易く覆されるなんてあり得ない。

 ぶっちゃけ料理とか経験じゃん?どれだけ知識があっても、宮廷料理人と勝負したらボロ負けだね。テレスさんがいい例だ。齧っただけの私とは格が違う。ネットもないこの世界は練習あるのみ。

『これなんの話?』
『さー?』
『とりあえず話を戻して。謎の批判やめて?怒られる。各方面から』
私からのお怒りを受け、仕方なくまとめることにした。

 つまり、地球でできるんだからこっちでできないわけないよね。ってことだ。

「はーいお待たせしました。」
「ありがと。」
テーブルにコトコトコップと皿が置かれる。手際がずいぶん良くなってる。

「あぁ、そういえばテレスさんとネトラーさんどうなった?」
「それが……」
一瞬目を窄めて、厨房の方を見た。私もそっちに目を向けると、テレスさんの指に光るものがついている。結婚指輪、ちゃんとついている。その隣には……

「リア充……」
「私たち従業員が見えてないんですかねぇ……」
2人とも、眩しい物を見るように目を細めた。

 これはあれだ。結婚式開くパターンだ。

『誰が?』

 私が。

『『『『やめた方がいい』』』』

 知ってるよ!どうせ魔法少女カラーになるとか言うんでしょ!

『いやまず……経験が何ひとつない私がやったところで……ね?』
『ふっ、私の封印されし魔眼クソザコセンスが解放されるのだ』
変なルビ変換された気がする。私のくせに私を罵るとかいい度胸だ。今更だけど。

「結婚式とか、もうやってるの?」
「いや……話は聞いてませんね。あのイチャラブぶりはレイン君もちょっとやりづらそうにしてますし……店長と応相談ですね。」
「頑張って。」
ストローを咥え、ズズズと口に流し込む。アイスにアイスとかいうバカな組み合わせだけど、久しぶりの甘味は身に沁みる。

 あ~……炭酸は生き返る。

 HPを回復させた私は、しっかり会計をして店を出る。ロアはいなかった。また今度でいいかなーと帰路を辿ることにした。わざわざ家に行くのも突然で申し訳ないし、別の機会にすることにした。

 せっかくなんだしと歩いて帰ることにし、1ヶ月以上ぶりの街並みを眺める。帰ってきたって感じだ。第二の故郷とはこのことかと、17歳ながらにして思う。
 日本より居心地がいいとさえも思った。

 お義母さんにもお義父さんにも、感謝はしてる。でも所詮は他人。少しは遠慮する。
 先は長くないと金銭的援助もなかなかにされてきたけど、それは家族とかではないように見えた。だから二次元に逃避したんだけど。

 私は今幸せだ。ここは家族のように暖かい人も多くて、飽きない生活が送れる。命の危険があることを除けば楽しい限り。知らないこともいっぱいあるしね。

 知らぬ間に家の前まで着いていたらしい。昼ごはんはまだだから、何か百合乃に作ってもらおうかと扉を開ける……

「……クミルさん?」
「ソラさん。少し、お話があります。」
三つ指をついた畏まった挨拶が、目の前にあった。

 私の幸せは……?

 立派なフラグだった。


「単刀直入に申します。」
テーブルに腰を落とし、4人は話し合いの体制になる。隣にツララ、左前に百合乃、正面がクミルさん。

「本日をもって、辞職させていただきたいのですが……よろしい、でしょうか?」
机にコインを置いた。鍵的なあれだ。私の場合は魔力の反応で勝手に開くようになってるため使う機会がないし、ツララは飛び越えてくる。百合乃はダイナミックに帰ることが多い。

 あれ?うち誰も鍵使わない?

 でも空き巣はゼロという。一体どこの誰のせいなんだろう。というか冒険者ギルドの真裏の丘とかいう見晴らしもよくて行きにくいところ、犯罪者は近寄らない。

「クミル、何かあった?」
「そうですよ。楽しそうにしてたのに……いきなりなんて何があったんです?」
百合乃も心配そうに眉をハの字に曲げる。ツララもだ。

「知っての通り、私達は普通じゃない冒険者。だから、何かあるなら依頼して?別にお金は取らないし。」
「…………お責めにはならないのですか?」
クミルさんは不安そうな顔で小さく手を挙げる。

「責める?なんでです?」
百合乃が代表して首を傾げる。

「別に、辞めたってこっちは責められないけど……ただ、個人的に辞めてほしくないってだけ。」
「クミルいい人。何かある。助ける。」
ツララが二の腕に手を置き、頑張るぞいと一言。どこで覚えてきたんだか。

 百合乃?百合乃じゃないよね……?確かにあれは百合要素あることにはあるけど……

 でも今はそんな雰囲気じゃない。思考を一旦保留する。

 ツララがこっちに目をやり、私はそれに頷いた。

「ねぇ、何があったかよければ話してほしい。」
「いいんでしょうか……そこまで甘えてしまって。今までもよくしていただいたのに。」
「いいんですよ!クミルさんがいなくなったら寂しくなりますし……甘い野菜が食べれないのは嫌です。」
「本音紛れてるー。」
「てへっ。」
百合乃が舌を出す。ツララの氷アタックが炸裂。

「この頭百合畑の変態は置いといて、理由を話してほしいって思う。そのくらいの親密度はあるつもりだし。でも、もしこっちに不備があったら引き留めたりしない。こっちが悪いんだしね。」
「主、優しい。だから大丈夫。」
「…………………分かり、ました……」
小さく頷いて、息を吐いた。

「話しましょう。少し長くなるかもしれませんから、まずは紅茶でも淹れて参ります。」
作り笑いで席を立ち、私達は席に取り残される。

———————————————————————

 ゴールを定めずに走り出した結果引くに引けなくなって無理矢理走り続けているこの作品、どこまで続くか本当に予想がつきません。
 もうそろそろ終わらせてもいい気もしてきました。

 それはそれで寂しいですけど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。 ネット小説や歴史の英雄話好きの高校生の洲河 慱(すが だん) いつものように幼馴染達と学校帰りに公園で雑談していると突然魔法陣が現れて光に包まれて… 幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は素晴らしいジョブとスキルを手に入れたのに僕のは何だこれ? 王宮からはハズレと言われて追い出されそうになるが、幼馴染達は庇ってくれた。 だけど、夢にみた迄の異世界… 慱は幼馴染達とは別に行動する事にした。 自分のスキルを駆使して冒険する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。 現在書籍化されている… 「魔境育ちの全能冒険者は好き勝手に生きる!〜追い出した癖クセに戻って来いだと?そんなの知るか‼︎〜」 の100年前の物語です。 リュカが憧れる英雄ダン・スーガーの物語。 そして、コミカライズ内で登場する「僕スキなのか…」がこの作品です。 その作品の【改訂版】です。 全く同じな部分もあれば、新たなストーリーも追加されています。 今回のHOTランキングでは最高5位かな? 応援有り難う御座います。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

いるだけ迷惑な最強勇者 〜ハズレスキル『味方弱化』が邪魔だと追い出されたので、この異世界で好き勝手させてもらいます!〜

束音ツムギ
ファンタジー
【完結保証!】  ——気づけば、クラスごと異世界に召喚されていた。  そんなクラスの中でも目立たない、ごく普通の男子『梅屋正紀』も勇者として召喚されたのだが、《味方弱化》という、周囲の味方の能力値を下げてしまうデメリットしかないハズレスキルを引いてしまう。  いるだけで迷惑になってしまう正真正銘のハズレスキルを手にした俺は——その場で捨てられてしまう。 「そんなに邪魔なら俺から出ていってやる」と、一人で異世界を旅する事になった俺は、旅の途中で《味方弱化》スキルに隠された効果が、Sランクスキルをも凌駕できるほどの最強の効果であった事を知る。  いるだけで迷惑な最強の勇者『梅屋正紀』が、異世界で無双するッ! 【小説家になろう】【カクヨム】でも連載中です!

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです

こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。 異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。

処理中です...