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14章 魔法少女と農業の街

433話 魔法少女はお金持ち

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「行ってきまーす…………」
「「いってらっしゃい!」」
百合乃とツララに手を振られ、私はテクテク家を出る。パズールに戻ってきて数日、フィリオからとうとう手紙が来てしまった。

 まとめると、『大金送られてきた。また空のせいだって?怖いから早く回収しにきてくれ』とのことだ。
 私も恵理が死んだことを伝えなきゃだし……話に聞いたイレイアって子も葬式(とはお世辞にも言えない粗末なものだけど)に出席してもらいたい。

 そういえば帰ってきてからロアと会ってないなぁ。帰りに店寄ってみよ。

 いつもの如く、ぴょんぴょんうさぎのように……嘘。ジョギング程度の速さで道を駆け抜ける。馬車なんてそうそう通らないから楽でいい。

 言っちゃ悪いけど、王都と比べて何倍以上も小さいパズール。だいぶ速くフィリオの屋敷に着き、いつもの警備兵みたいな人達を顔パスで突破し、お手伝いさんに促されるままに上階へ上がる。ネルがいないからか、なんか寂しい雰囲気だ。

「失礼致します。では、ごゆっくり。」
どっかのドMさんのように滞在せず、すぐに退出する。普通こういうもんだよね。

 あのドMさん、忠誠心がカンストしてるのかな?仕えたい欲が爆発してる?いや、そこまでくると単なる変態か。

「仮にも領主の前だ。邪なことを考えるな。」
いつ見ても余裕がなさそうに書類にペンを走らせているフィリオ。前のコーヒー忠告のおかげで、顔色は良くなってる。多分。

「寂しいね、ネルがいなくなって。」
「傷口を抉り返すような鬼畜発言はやめてくれ。胃に穴が空いたら、領主の仕事はどうしろというんだ。」
こめかみを人差し指の第二関節でぐりぐり押した。

「でも、向こうでしっかりやってるよ。王女様とも上手くやってるみたいだし。前はお転婆だったネルが……今はあんなに……」
「俺の娘だからな?」
「分かってる分かってる。」
ここに兵がいたら眉を顰めそうなほどラフな会話。でも私なら許される。やったね。

「で、またまた報告。恵理……《黒蜂》の《女王》が、王都での魔力活性化を引き起こした犯人との一戦で命を賭して戦い、殉職……いや、1人の女の子として死亡しました。」
「……やけに重いな。さっきのは、これの緩衝材か何かか?」
人の娘を~、とか言いそうな雰囲気だから、適当にぶっちっとく。面倒いし。

「魔力活性化の犯人は《黒蜂》の幹部の1人、逃げた黒服の男が犯人。名前は仮名かもしれないけど……」
「いい、言え。」
「ナギア。幹部らしき、ソロからセプテットまでは殺し、残りは不明。死体は損壊が酷くて回収はできなかった。」
「……そうか。本題を超える情報量の多さだな。」
「何かまとめようか?」
「いや、もうここに入った。」
ペンの頭を自身の頭をにトントンと当てる。クマが日に日に濃くなってきているので、ちょっと休んでもらいたい。

 フィリオってそんな有能だったんだ。
 国外がフェロールさんで、国内がフィリオ。多分国外での話もフィリオに回ってくるだろうから、だいぶ仕事量多そうだよね。
 フィリオって案外有能?

「詳しい話はおいおい国王陛下と相談するとしてだ。ソラ。お前には大金が振り込まれている。」
「ほうほう。」
「どのくらいだと思うか?」
「さあ。」
「大金貨10枚だ。」
「へ」と素っ頓狂な声が漏れた。数字だけ見ると少なく見えるけど、これを銀貨とかで換算してみよう。

 銀貨1枚で諭吉さん1人。銀貨5000枚。つまりは5000万円だ。わー、大金だ。は?

「いくらソラに過失が少ないとはいえ、国民はそうは捉えない。そのためにいくらか復興資金として抜いたが、お前の働きが十分すぎて大金が残った。」
フィリオがトントンとペンを机に当てると、扉が開く。イッツマジック。

「そもそも金貨は使い勝手が悪い。銀貨で用意させてもらったが、いいか?」
「いや、まぁ願ってもないことだけど……」
「銀貨5000枚。そして、ソラにはまだ支払われていない報酬がいくつかある。合わせて、5500枚程度だ。」
「銀貨が1枚銀貨が2枚。ワー、スゴイ。」
脳が思考停止した。私が脳内で昔のテレビを直すようにチョップしてる。

『そんなお金もらうようなことしてたっけ?』
『思い返して。…………めっちゃしてる』
『確かにな。なんなら、1度私達は世界救っている』
『何その経歴』

 つまり、5500万円私の手に渡ると?渡るの?え?ほんと?
 やばい……大金を前に思考が。

「国家資産と比べれば虫けらのようなものだが、一塊の冒険者が手に入れることができる金額はゆうに越している。俺はソラが怖いぞ。」
再びペンが動く。ハンコが押され、書類が束を成していく。メイドさんは、銀貨を運んできたらしきカートの上段に置かれたティーポットを取り出し、作業をする。

「わざわざ来てもらって悪かったな。」
「いや、私のお金なんだから当然でしょ。こっちこそわざわざ受け取ってもらってありがとう。」
「……少し丸くなったか?」
「ちょっと現実見てきただけ。」
「《女王》の死か?……いや、メグリだったな。」
失礼、と訂正を入れるあたりやっぱり好感の持てる領主だ。

「恵理は私の故郷の生まれ。私や百合乃と一緒の国から生まれてる。」
「名前で察するさ。」
「境遇も似たようなもの……なのかな?まぁ家族の諸々は私の方がドス黒いけど。」
「それはなんとなく分かる。」
そのあたりでペンを動かす指を止めた。紅茶が出来上がった。

「ソラも座れ。美味い紅茶でも飲んで話そう。少しは気分転換になる。」
「仕事の邪魔だった?」
「いや、ちょうどいい気晴らしだ。娘が遠くに行った父親の娘がわりにでもなってくれ。」
今の時代なら何かアウトな気もするけど、本当に辛そうではある。私も話を聞いてもらってる身だから、受け入れることにする。

「やっぱり、悲しいよ…………人の……友達の、死なんて……経験したことっ、ない…………!」
甘い紅茶の匂いにが鼻腔を刺激し、涙が出る。その涙の理由は詮索禁止だ。

 私にも、人らしい感情がまだ残ってたのか……そう思うと、なんか安心する。

「…………親しい者の死は、悲しいな。」
「…………………………っ、……っ!」
咽び泣く。目元が熱を帯び、雪崩のようにこぼれ落ちていく。嗚咽する声が、時々もれる。ローブに包まれた右腕を強く目元に押しつけ、私は息を殺した。

 なんでだろう。こんなみっともないのに、止めたいのに……激情が止まらない……

『私達は今まで頑張った』
『だから今だけは』
『そのままでいい』
『気が済むまで泣こ?』
こんな時だけ優しいのはずるい。そう思いながら、この世界で初めてレベルの号泣をしばしした。

「気は済んだか?」
「……うん。」
泣き腫らした赤い目元を擦る。

「1つだけ、頼みいい?」
「俺のできる範囲でならな。」
優しい顔で頷いて、私の言葉を待った。

———————————————————————

 そろそろ本格的に賞用の執筆進めなきゃですね……それ用の作品3作くらいあるんですがどれも四万字くらいで止まってて書けてないんですよね。

 この飽き性をどうにかしないと……
 ちなみにラインナップは殴殺少女、スパイ(暗殺者)、召喚術師の3品でございます。
 第一選考抜けることすら夢のまた夢。頑張るしかないですね。

 そろそろ本編に触れましょうか。
 終盤の空の泣くシーン。というか、人の泣くシーン全般は言葉を書かないようにしています。「…」と「っ」と「!」この3つで頑張ってます。これで、個性が出るようにしてます。
 セリフで表せば一気に薄っぺらくなる気がするんですよね~。
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