459 / 681
14章 魔法少女と農業の街
433話 魔法少女はお金持ち
しおりを挟む「行ってきまーす…………」
「「いってらっしゃい!」」
百合乃とツララに手を振られ、私はテクテク家を出る。パズールに戻ってきて数日、フィリオからとうとう手紙が来てしまった。
まとめると、『大金送られてきた。また空のせいだって?怖いから早く回収しにきてくれ』とのことだ。
私も恵理が死んだことを伝えなきゃだし……話に聞いたイレイアって子も葬式(とはお世辞にも言えない粗末なものだけど)に出席してもらいたい。
そういえば帰ってきてからロアと会ってないなぁ。帰りに店寄ってみよ。
いつもの如く、ぴょんぴょんうさぎのように……嘘。ジョギング程度の速さで道を駆け抜ける。馬車なんてそうそう通らないから楽でいい。
言っちゃ悪いけど、王都と比べて何倍以上も小さいパズール。だいぶ速くフィリオの屋敷に着き、いつもの警備兵みたいな人達を顔パスで突破し、お手伝いさんに促されるままに上階へ上がる。ネルがいないからか、なんか寂しい雰囲気だ。
「失礼致します。では、ごゆっくり。」
どっかのドMさんのように滞在せず、すぐに退出する。普通こういうもんだよね。
あのドMさん、忠誠心がカンストしてるのかな?仕えたい欲が爆発してる?いや、そこまでくると単なる変態か。
「仮にも領主の前だ。邪なことを考えるな。」
いつ見ても余裕がなさそうに書類にペンを走らせているフィリオ。前のコーヒー忠告のおかげで、顔色は良くなってる。多分。
「寂しいね、ネルがいなくなって。」
「傷口を抉り返すような鬼畜発言はやめてくれ。胃に穴が空いたら、領主の仕事はどうしろというんだ。」
こめかみを人差し指の第二関節でぐりぐり押した。
「でも、向こうでしっかりやってるよ。王女様とも上手くやってるみたいだし。前はお転婆だったネルが……今はあんなに……」
「俺の娘だからな?」
「分かってる分かってる。」
ここに兵がいたら眉を顰めそうなほどラフな会話。でも私なら許される。やったね。
「で、またまた報告。恵理……《黒蜂》の《女王》が、王都での魔力活性化を引き起こした犯人との一戦で命を賭して戦い、殉職……いや、1人の女の子として死亡しました。」
「……やけに重いな。さっきのは、これの緩衝材か何かか?」
人の娘を~、とか言いそうな雰囲気だから、適当にぶっちっとく。面倒いし。
「魔力活性化の犯人は《黒蜂》の幹部の1人、逃げた黒服の男が犯人。名前は仮名かもしれないけど……」
「いい、言え。」
「ナギア。幹部らしき、ソロからセプテットまでは殺し、残りは不明。死体は損壊が酷くて回収はできなかった。」
「……そうか。本題を超える情報量の多さだな。」
「何かまとめようか?」
「いや、もうここに入った。」
ペンの頭を自身の頭をにトントンと当てる。クマが日に日に濃くなってきているので、ちょっと休んでもらいたい。
フィリオってそんな有能だったんだ。
国外がフェロールさんで、国内がフィリオ。多分国外での話もフィリオに回ってくるだろうから、だいぶ仕事量多そうだよね。
フィリオって案外有能?
「詳しい話はおいおい国王陛下と相談するとしてだ。ソラ。お前には大金が振り込まれている。」
「ほうほう。」
「どのくらいだと思うか?」
「さあ。」
「大金貨10枚だ。」
「へ」と素っ頓狂な声が漏れた。数字だけ見ると少なく見えるけど、これを銀貨とかで換算してみよう。
銀貨1枚で諭吉さん1人。銀貨5000枚。つまりは5000万円だ。わー、大金だ。は?
「いくらソラに過失が少ないとはいえ、国民はそうは捉えない。そのためにいくらか復興資金として抜いたが、お前の働きが十分すぎて大金が残った。」
フィリオがトントンとペンを机に当てると、扉が開く。イッツマジック。
「そもそも金貨は使い勝手が悪い。銀貨で用意させてもらったが、いいか?」
「いや、まぁ願ってもないことだけど……」
「銀貨5000枚。そして、ソラにはまだ支払われていない報酬がいくつかある。合わせて、5500枚程度だ。」
「銀貨が1枚銀貨が2枚。ワー、スゴイ。」
脳が思考停止した。私が脳内で昔のテレビを直すようにチョップしてる。
『そんなお金もらうようなことしてたっけ?』
『思い返して。…………めっちゃしてる』
『確かにな。なんなら、1度私達は世界救っている』
『何その経歴』
つまり、5500万円私の手に渡ると?渡るの?え?ほんと?
やばい……大金を前に思考が。
「国家資産と比べれば虫けらのようなものだが、一塊の冒険者が手に入れることができる金額はゆうに越している。俺はソラが怖いぞ。」
再びペンが動く。ハンコが押され、書類が束を成していく。メイドさんは、銀貨を運んできたらしきカートの上段に置かれたティーポットを取り出し、作業をする。
「わざわざ来てもらって悪かったな。」
「いや、私のお金なんだから当然でしょ。こっちこそわざわざ受け取ってもらってありがとう。」
「……少し丸くなったか?」
「ちょっと現実見てきただけ。」
「《女王》の死か?……いや、メグリだったな。」
失礼、と訂正を入れるあたりやっぱり好感の持てる領主だ。
「恵理は私の故郷の生まれ。私や百合乃と一緒の国から生まれてる。」
「名前で察するさ。」
「境遇も似たようなもの……なのかな?まぁ家族の諸々は私の方がドス黒いけど。」
「それはなんとなく分かる。」
そのあたりでペンを動かす指を止めた。紅茶が出来上がった。
「ソラも座れ。美味い紅茶でも飲んで話そう。少しは気分転換になる。」
「仕事の邪魔だった?」
「いや、ちょうどいい気晴らしだ。娘が遠くに行った父親の娘がわりにでもなってくれ。」
今の時代なら何かアウトな気もするけど、本当に辛そうではある。私も話を聞いてもらってる身だから、受け入れることにする。
「やっぱり、悲しいよ…………人の……友達の、死なんて……経験したことっ、ない…………!」
甘い紅茶の匂いにが鼻腔を刺激し、涙が出る。その涙の理由は詮索禁止だ。
私にも、人らしい感情がまだ残ってたのか……そう思うと、なんか安心する。
「…………親しい者の死は、悲しいな。」
「…………………………っ、……っ!」
咽び泣く。目元が熱を帯び、雪崩のようにこぼれ落ちていく。嗚咽する声が、時々もれる。ローブに包まれた右腕を強く目元に押しつけ、私は息を殺した。
なんでだろう。こんなみっともないのに、止めたいのに……激情が止まらない……
『私達は今まで頑張った』
『だから今だけは』
『そのままでいい』
『気が済むまで泣こ?』
こんな時だけ優しいのはずるい。そう思いながら、この世界で初めてレベルの号泣をしばしした。
「気は済んだか?」
「……うん。」
泣き腫らした赤い目元を擦る。
「1つだけ、頼みいい?」
「俺のできる範囲でならな。」
優しい顔で頷いて、私の言葉を待った。
———————————————————————
そろそろ本格的に賞用の執筆進めなきゃですね……それ用の作品3作くらいあるんですがどれも四万字くらいで止まってて書けてないんですよね。
この飽き性をどうにかしないと……
ちなみにラインナップは殴殺少女、スパイ(暗殺者)、召喚術師の3品でございます。
第一選考抜けることすら夢のまた夢。頑張るしかないですね。
そろそろ本編に触れましょうか。
終盤の空の泣くシーン。というか、人の泣くシーン全般は言葉を書かないようにしています。「…」と「っ」と「!」この3つで頑張ってます。これで、個性が出るようにしてます。
セリフで表せば一気に薄っぺらくなる気がするんですよね~。
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
異世界を服従して征く俺の物語!!
ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。
高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。
様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。
なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー
不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました
今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った
まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います
ーーーー
間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします
アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です
読んでいただけると嬉しいです
23話で一時終了となります
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる