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14章 魔法少女と農業の街

432話 魔法少女は街へ戻る

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「じゃあ私はこのへんで。」
翌朝、3人が起きてきたタイミングでそう言う。道は一緒なわけじゃないので、ここでお別れだ。やっぱりティランに戻ることにしたらしい。

「今回も世話になりましたね。」
「いいって。困った時はお互い様。」
「お互い様、か。私たちも誰かを助けられるようになりたいものだな。」
「ソラが異常なだけよ。」
最後に軽く悪口を言われた気がするけど、そのくらいはスルーの範疇。私の懐は広いのだ。

「また会う時があれば助けられておきますよ。それでプラマイゼロだよね?」
「その言い方だと恩が増えそうだな。まぁ、今度ご飯でも奢らせてくれ。」
クレアスさんが頬をかきながら、苦笑を浮かべた。 

「じゃ、またね。」
「またがあることを願うよ。」
狩りの支度をしている3人に、手を振って私は去る。バイクをここでぶんぶんさせるわけにはいかないので、徒歩で行ってるふりだ。

 冒険者っていう職業柄、今日にでも死んでもおかしくないんだけどね。そんな経験がないと、また今度とか使えちゃうもんだね。
 だからと言ってそんな経験したくないよ?

 でも、知人が死ぬシーンは見ちゃってるんだよね、私。

 少し顔を歪める。

 盗賊とか悪人を仕方なく殺したことはある。恵理はどちらかと言うと悪人だけど……そんな悪いようには見えないし。そんなこと言ったら大犯罪も見逃しかねないからどうとも言えないけど。
 でも、自分が「悪くない人」って思った相手が死ぬっていうのはそこそこくるものがあるね。

 前まではやることやら考えることやら多すぎて考える暇もなかったけど、こういうふとした瞬間悲しくなる。

 そうやって故人へ思いを馳せていると、完全に森を歩いてることを忘れていた。

『私ー。いくらここで声出しても私が認識しなかったら意味ないんだけどー』
ドスン、ドスン、ざわざわざわ。そんな音と一緒に、私が大声で頭に響かせる。

 …………魔物?

『でかいね。適当にぶっ飛ばしたら?』
『私がやってやろうか?ステータスの影響はどこぞの神のおかげでないのだ!今やらず、どこでや……』

 私の脳内で騒がないでよ!頭がガンガンする。

 文句を言ってる暇もなく、振り返らずとも分かる巨大さを感じる。というか、陰が降りてくる。

「っぶな!ほんと、でかいやつは厄介!」
神速で軽く躱しつつ、真後ろの木に飛び乗り姿を確認する。

 頭に羽。その頭は白い殻。真ん中に横へヒビが入って黄色が見える。オレンジの嘴。黒い点。目?首にマフラーみたいな紫のもこもこがあって、全身黒タイツみたいなムキムキ。蛇みたいな尻尾。

「何このネタ魔物!え?神様の失敗作にしてもとんでもないもの作られてるよ?キメラ!?」
「キヤュュュュュュュ!!!!!」
「鳴き声キショい!」
謎魔物に絶叫していると、どすっどすっと走ってくる。3m50cmはある。化け物だ。

 ラノスラノスラノス!いや、これはトロイ!トロイでやろう!

 こいつには普通に魔法が効きそうなので、魔力の弾を作る。でも念のため、核石を元にする。理由はキモいからだ。
 黒塗り長身のボディをもつスリムなその銃身を、大きく持って構える。

「ふぅ……発射!」
魔力が弾け飛んだ。

「え?……………今の、なんだったんだ……?」
完全に困惑する。周りには皮や骨どころか、肉片ひとつ落ちてない。卵を落とした音がしたくらいだ。

「あぁぁぁぁぁぁ!わたしの…………トロイメライアフター2フィフが…………」
どこか、効き馴染みのある声を耳に残しながら、できるだけ姿を隠してその場を過ぎ去った。絶対フから始まってルで終わる変人……変妖だ。

 夢というか悪夢だよ。
 こういう変な奴とは関わらない方がいい。え?自分の召喚妖精だって?なんのことか分からないなー。
 別にプライベートで会わなきゃいけない決まりなんかないし?挨拶する必要とかないし。

 つまり、厄介ごとは後回し。

『『『『言っちゃったよ……』』』』
私は内から呆れのジト目を向けられていながら、知らんぷりを決行してバイクを走らせるのだった。


「すぅー…………………………着いたあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
両腕を万歳し、大声……ではないけど軽く叫ぶ。途中ゴホッゴホッとむせ返りながら、まだ安静が必要そうな体で跳ね回る。

 久しぶりのパズールッ!帰ってきた!
 王都での日常は濃すぎて醤油直飲みレベルだった。王都を見た後だと、こっちがすごい田舎に見えてくれけど……

「スローライフを異世界人が求める理由を理解した気がする……」
心で二次元と繋がりながら自然と一体化する。いい気分だ。

 この空気知っちゃうと、日本の空気がいかに澱んでるか分かるね。排気ガスはんたーい。

 懐かしいパズールへの馬車路に侵入し(バイクは収納した)、商人らしき人の馬車を見送りながらパズールへ戻っていく。

「おーう!嬢ちゃんじゃねぇか!久しぶりだなあ!」
「門番のおじさーん。久しぶりですね。」
「ディモンだ。名前教えてなかったか?」
ギルドカードを確認してもらいつつ、そんな軽い会話を交わす。

「また何かあったって顔だな。」
「なんのことですか?」
ここで何もありませんとか言ったら思う壺だ。惚けるのが1番。

 あれ、家の方向ってどっちだっけ。あ、あっちか。

 門を通り、なんか久々なせいで自宅の位置を忘れかけた。いやそれは普通にどうなんだ。

「……何故私はギルドの真裏に建造したんだろう。そこにしか土地がないからだよちくしょう。」
真顔で呟きつつ、丘を上る。脚力マックスの魔法少女だからこそできる芸当。

「こうしてみると、私の家も十分大きいね。ちょっと張り切りすぎたかな……?」
庭に咲く花を眺めて通り、クミルさんの働きぶりにうんうんと頷く。

「ただいま~……」
玄関の扉を、ガチャッと開けた。その瞬間。

「空あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「百合、乃ッ………ちょあや、あああぁぁぁ!」
両者別の意味で絶叫をあげる。私はとんでもない衝撃を胸に感じながら、庭のど真ん中に寝転ぶ。(ぶっ飛ばされた)

 このまま永眠するのもやぶさかではない。

『私が生きることを諦めてる』
『私達はまだ生きたいぞー』

「誰が、誰が空をこんなふうに……犯人はどこです?!」
「百合乃だよ!」
私のお腹の上に女の子座りする百合乃の推定Dのそれをぺしんと叩きつけ、劣等感と共に叫び声を出す。

「わっ、わたしですぅ?!」
「いや百合乃以外誰がいるの。」
「ほら、幽霊や妖の類いかと。」
マジで惚けようとしてる百合乃を手で払いのけ、「ジャンピング出迎えは永遠にやめて」と冷めた目で見る。百合乃は嫌んと体をくねらせた。

 …………そうだったよ。百合乃は純粋なドMだ。いやドM自体純粋ではないけど、メイドの方じゃないマから始まる5文字のカタカナのほうのドMだ。百合乃は完全にそのドMだ。

 身近に変態がいることを思い出すと、疲れがドッと深まる。嫌な現実が肩によじ登ってきている。

「人の性癖をどうこう言いたいわけじゃないけど……もっと節度を持ってほしいよ。まったく。これだから永遠発情期の百合乃は……」
「ひゃんっ!」
「ごめん、これ私のせいかもしれない。」
百合乃のことは無視し、「このまま野外d」のあたりで拳を添えといた。自宅なのに全然気が休まらない。

「主っ!帰った?」
「ツララはやっぱり癒しだ……」
てけてけとやってくるケモ耳少女をモフって、精神回復を図る。効果覿面だ。嬉しそうに尻尾をぴょこぴょこさせるのもまた可愛い。

「百合乃は変なことしなかった?」
「大丈夫。主の布団、吸ったくらい。特になかった。」
「それは大丈夫とは言わないんだよ?」
「覚えとく。」
ツララは大きく頷く。いい子だと頭を撫でてやり、私はもう1度百合乃とお話に行くことにした。

 ちょ~っと、百合乃にはお仕置きが必要みたいだ。百合乃はMだけど、命の危機まで興奮するわけじゃない。
 たっぷり純粋な死の恐怖に怯えさせてやればいい。

 龍の威を発動させ、私は玄関に向かうのだった。

———————————————————————

 この世にはいろんなドMがいるんです。受け入れてあげましょう。
 もし近所にドMがいましたら、長めの赤い紐を購入し亀甲縛りでもしてあげてください。

 どうでもいい話ですが亀甲って吉祥文様という縁起のいい模様です。つまり亀甲縛りとはとてつもない縁起物というわけです。
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