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13章 魔法少女と異世界紛争

427話 魔法少女はボランティア

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「こんな忙しい中、ほんとにごめんなさい!」
サファイア色の髪の女性、べアサルト学園長に頭を下げる。こう、90度に。

「いやいや、結構。ソラにも、すべきことがあったのでしょう。できることは、できるうちにやっておくことが1番ですから。」
椅子に座る学園長は、はっきりとした物言いで告げた。

「しかし、この状況ではいただけない。国王陛下から、罪は無いと告げられてはいますが力を持つ貴方が何故…………いいえ、これはこちらの責任ですね。貴方に押し付けるなど、我が学園の名誉に傷がついてしまう。」
目を伏せ、淡々と語り始めた。私は直立し、ただ話を聞く。聞き手に徹する。

「それでも講師の1人である限り、無断欠勤は許されません。今すぐにでも働いてもらいたいくらいですが……」
私の体を見た。顔は蒼白く、不健康そうな顔だ。血があれだけ抜けて、ここまで立っていられる方がおかしいくらいだ。制服にちゃんと着替えたのを褒めて欲しい。

「はぁ……本日は、寮で休んで……」
「いえ、ボランティア……と言ったら悪いですが、講師として学園復興に尽力させてください。私のせいで校舎がこんなになって、気持ちよく勉学に励めるはずもないです。」
もう1度頭を下げた。学園長は、驚き目を張る。と、「こっちへ」と私を呼ぶ。

「ソラ、貴方は最高の講師です。その心行きを、どうかお忘れないよう。」
「はい。」
肩をポンと叩かれ、最後にわしゃわしゃ頭を撫でられた。しっかり制服は着てるから、変人が童顔美人に頭なでなでされてる構図は浮かび上がらない。

「現場にはアーネールさんがいるでしょうから、仕事を手伝いたければ彼女に伺いなさい。しっかり、働いてくださいね。」
「任せてください。」
最後のひと押しと頭を深く下げると、部屋を退室する。燃えてなくなった校舎ではなく、簡易的に組み立てられた小部屋のような場所だ。

「う~~~~ん!やるかぁ!」
本当は寝たいやめたい帰りたいの三連符だけど、理性で無理矢理押し込めた、体をグッと伸ばした。


 校舎の方に向かうと、相変わらずの惨事だ。授業でも使う芝生のところとか完全に燃え尽きている。
 校舎に至っては半壊。あの時は私は有る事無い事言われて罵られてたから外に出れずに見れなかったけど、ここまでだとは。

 完全休校中らしく、数人のボランティアや先生達しかいない。

「アーネールさんは……いた。」
瓦礫の入った手押し車を押していた。こりゃ大変そうだ、と回復薬を栄養ドリンクがわりに飲み干す。レッ○ブルみたいに翼を授けてくれたらどんなに楽か。

「ソラ、か……?」
「あぁ…………まぁはい。いやっ、私犯人とかじゃないですからね!?というか逆ですよ。犯人を殺……とっちめに行っただけですから。こう、バンバンっと。」
「ふふっ、知っている。いやなに。学園長から皆に知らせは入っているからな。」
快活に笑ってみせるアーネールさん。今日ばかりは、剣は腰に挿さっていない。

 多分、疲れてるよね。顔色が私とは違う意味で悪い。なんか、ちょっと汗ばんでて赤くて呼吸が乱れてて……

「アーネールさん?今寒かったりクラクラしたりしてません?」
「そう、だな……少し感じるな。秋が近づいているんだろう。運動すれば、暖かく……」
「ダメだこれ!熱中症じゃん!」
体調悪い私が体調悪いアーネールさんに、休んだほうがいいですって!と声をかけるも、まだまだ瓦礫は運び出せてない、と手押し車を押す。

 いやこれ死んじゃいますって。どれだけ頑張ってるのこの先生!
 これ熱中症の症状?だよね。

「アイスシールド。あとこれ、飲んで、水分補給!ほんとに死にますよ!」
「あぁ、すまんな……」
アーネールさんの肩を持って、テキパキ動いて寮内に運ぶ。直射日光は避けたほうがいい。

 あとは水飲んで回復を待つしかないよね。回復薬でも飲まそうものなら、すぐに復帰しそうだし……

「あの、体調悪い中申し訳ないんですけど、私は何をしたら?」
「復興作業か……?舎内の瓦礫を運び出して学園の外の魔法陣に載せればいい……」
「ありがとうございます。アーネールさんはしっかり休んでくださいよ?」
「分かっている……」
間もなくしてついた寮。フラフラとさた危なげなく足取りで、寮の部屋まで送り届けてまた戻ってくる。結構手間だった。(ついでにあの手押し車も運んでおいた)

 戻ってきた時には私もそこそこ疲れていた。でも、だからって休んでられない。ボランティアはいるし、誰か知り合いでもいないか探してみようと、歩き回る。

 瓦礫に関しちゃ、私がこう……ステッキでちゃんとすれば解決だからね、粉々にするもよし、ステッキに収納して運ぶもよし。
 ……後者にしよう。校舎がまた酷いことになる。

 人探しついでに瓦礫の位置も確認しようと、ボロボロの校舎にお邪魔する。カラカラと車輪を引く音や、辛そうな声もそこそこ。男女関係なく、皆が学園復興のため尽力する姿を見て、少し悲しくなってきた。

 悪いことしたなって気持ちはゼロじゃない。私は関係ないと今でも言いたいけど、怒りの矛先がないと人は壊れちゃうから。
 私自身が、それをよく知ってる。

 だから、私が当て馬になってやればいい。名誉回復はいくらでもできる。幸い、仲間には権力者が多いからね。

「だからって犯人扱いは嫌だけどね!」
けっ!と唾を吐く(ふり)。

「何をしてらっしゃるんですの?」
ふと、振り返るとそこには一面の金。モフッという感触と共にいい匂いが。

 スー、ハー…………う~ん、薔薇の香り。知らないけど。

「……わたくしの髪を嗅がないでいただけませんか?先生でなければ、権力で潰している頃でしょうね。」
「怖っ!怖っ!!」
3歩くらいだだっと後退し、目の前の相手……リーディだった。

「先生でなければ、です。そもそも、わたくしの間合いに邪な考えを持つ人間を立たせることはありませんもの。」
ファサッとツインドリルを舞わせると、後ろから2名やってくる。名も知らぬ取り巻き達だ。

「学園の講師ともあろうこ方が、今までどちらにいらしたんでしょう?」
「もしや、お逃げになられていたわけではございませんわよね?」
腕を組む、2人の少女。明らかにこっちの方が高圧的だ。

「い、いやさ?私もやることがあったんだよ……根本解決というかなんというか……」
「お2人とも。詳しい話も知らないで他者を罵るなど、愚行ですわ。」
「「っ……!申し訳ございません!」」
2人のコンビネーションはいつ見ても凄い。金取れるんじゃない?そう思う。

 そっか。リーディもボランティアしてたんだ。休校中なのに、偉いなぁ。私だったら休みにかこつけて引きこもるだろうね。逆に引きこもらない自信がない。

「先生も手伝いにいらしたのですか?」
「うん。ちょうど今さっき、帰ってきたところだから。」
「顔色、少々優れないようですが。」
「大丈夫大丈夫。サボった分は働かないと。」
ステッキを取り出し、リーディに向ける。バッチリ決めたつもりだ。

「……気になっていたのですけど、それってなんなのでしょうか。魔導具?のようですけれど。」
「まぁ、そんなもんかな。死ぬくらいしないと手に入らない代物だよ。」
比喩表現のようでそうでない言葉を吐きつつ、濁す。そして、今の状況について尋ねる。

 アーネールさんには詳しく聞けなかったけど、リーディならちゃんと教えてくれそうだしね。

「現状、進展があまりないですわ。悲しいことにですね。細かく砕いて細々と運ぶのみ。進みませんの。それに加え、人員が少ないこと少ないこと。学園生は、学園がどうなってもよろしいのでしょうか……」
困ったように息を吐く。学園再建の目処はあまり立ってなさそうだ。

「なら、尚更頑張んないとね。一応建築関係できるし、瓦礫の運搬もできると思うし。」
(スキル)とつく言葉を並べ、リーディは素直に感謝する。なんか後ろめたい。

「では、参りましょうか。」
「「喜んで。」」
2人の取り巻きと私は、リーディの後ろについてゆっくり歩き出した。このままいつか、大名行列とかにならないか心配だ。

———————————————————————

 お久しぶりのリーディさんです。
 彼女の姉はアイシール、愛称はアーシャ。ならリーデリアはリーリャのほうがいいのではと思い始めました。めんどくさゲフンゲフン。皆様が混乱するでしょうから、変えませんが。
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