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13章 魔法少女と異世界紛争
421話 魔法少女と美水空
しおりを挟むその日は遅刻することになった。通りがかり、足を止めてくれた大人の人が、制服を見て先に連絡を入れてくれたそうだ。
御校の生徒さんがトラックに轢かれかけて腰を強く強打したと。
そんな大事ではないけど、大事をとって近所の病院へ運ばれた。
家にも連絡が行き、もしやあのクズ共に、と思ったけどそれも杞憂だったみたいだ。お義母さんが電話に出たそうだ。
レントゲンを何枚か撮り、少し待った後に名前を呼ばれる。「美水さん、美水空さん」と。どこか、違和感というかむず痒さを感じる。
医者の話によると、特に骨が折れてるわけではないけど、強く腰を打ってるから激しい運動は控えるようにとのことだった。
学校には行って良いとのことで、そのまま登校することにした。途中電話で、お義母さんから心配そうな声が聞こえてきたこともなんとなく嬉しかった。
私はいつもより遅い、昼の時間の電車に乗る。人が少ない電車に揺られ、いつも聴く音楽も聴かずに揺れを一身に感じる。誰も私を知らない遠くの高校へ、何駅か乗り換えながら揺られていく。
そんなこんなで、学校に着く。ほんの数枚、まだ生き残っている桜がいた。しがみついている桜に、絨毯を作る地面の桜がこっちへ来いと悪魔の勧誘をしているように見えた。
百合乃が手招きしているように、って言い換えてもいいかもしれないね。
見慣れない靴箱の様子や、静寂に新鮮さを覚える。3階の教室に遅ればせながら入る。
さすがの私も配慮して後ろから入ったよ?
「おー美水、大丈夫だったか?」
「まぁはい。」
「んじゃ、早く席着けー。あぁ、休み時間になったら遅刻届出せよー。一応遅刻ってことになるからな。」
「あ、はい。」
英語の先生の顔を見るのも久しぶりで、緊張で返しが淡白になる。しかし、それは事故のショックとでも感じたのか授業が再開された。
授業を受けるの……半年ぶり?やばい、何にも覚えてない……えっと、今なんの範囲やってるんだっけ……
っと、少しボーッとしながら用意を済ませて教科書とノートを出す。無心でペンを走らせ、しかしいくら経っても集中できず、先生の言葉が異国の言葉のように右耳から左耳へ。そもそも、日本語を聞くのが久しぶりすぎてなんか微妙な感じ。
いや、英語は異国語だけどね?
セルフツッコミをし、やっぱり物足りなさがある。分離思考、やっぱり便利だ。
「んじゃ……順番的に美水、これは?」
「えっ、あっはい!」
バッと席を立ち、反射で出た声は裏返った。恥ずかしい。めっちゃ。
「えっ、と……えーっと……」
「これだぞ。ちゃんと聞いとけー。」
「あーっと、③です。」
「はい、正解だ。」
ここで間違えるなんてド級のヘマをやらかすことなく、平和に授業は去った。先生の言うとおり、ささっと遅刻届を提出すると、私は即刻女子トイレにゴー。
ちなみにだけど、トイレでぼっち飯してる人はいないよ。というか、トイレ飯って実際にやるの鬼畜。まず、臭い。膝を机にしないといけないから、ちょっと上げて食べなきゃだし、つる。あと、トイレって人が結構来る。
昼休みだからご飯食べてトイレしに来る人は多いし、髪直したり雑談したり。女子トイレはトイレという名の女子の巣窟なのだ!
いやまぁ、ただ気づかれやすいってだけだけど。
ここは、『その口ぶりだとしたことあるみたいじゃん』「いや、実際にしたことあるし」っていう流れだけど、脳内には1人しかいない。悲しいね。
とりあえず現実を見るため、鏡に映る自分をじっと見つめる。別に、女子は鏡を占領しがちだから珍しくもなんともない。人が珍しいだけで。
うーん、変わった様子なし。
なんでこんなことになってるんだろう。心の世界?だったら早く抜けないと。
案外、これが憤怒の杖の代償なのかも。
なんて思いながら、視線を右上にしてみる。十字マークはない。あれは意識しないと見れないけど、今は意識しても見えない。
「夢オチってことは100パーないだろうけど…………いやだって、経験したことのないこととか、あの痛みとか……暖かさも。」
ぶつぶつと漏らし、周りから奇妙な目で見られている。慌ててトイレから駆け出す。屋上にでも逃げ込もうかと、階段を駆け上り扉を開こうとする。
開か、ない?
「そんなアニメみたいにいくわけないでしょ。」
「…………えっ、と………湯姫?」
「何忘れかけてんのさ。酷っ。」
私の口調をどんどん犯していく同級生のオタ友だった。名前の通り、温泉旅館の女将の孫らしい。いつもの微笑み、いつものスキンシップにいつもの暖かさ。
「ねぇ、突然だけどさ。」
「突然だねぇ。」
「なんも言ってないんだけど。」
「突然っていうこと自体突然じゃないかなって、私は思うんだよね。」
「謎理論が展開された……!」
いつもの調子で遊んでいると、調子をやはり狂わされる。さすが、「女子の浴衣もぼっきゅんぼんも見放題なんじゃろ?ん?」という理由で高卒で祖母を継ぐ女(予定)。やることが違う。
「自分って、なんだと思う?ほら、感情とかさ思いとか。」
「うわお、哲学?」
「……湯姫に話したのが間違いだった。」
「いやいやごめんって!……で、自分?」
湯姫は考えるそぶりをして、天井を見つめ、ぐるっと頭を回した後、溜めに溜めてこう言った。
「わかんね。」
「わかんないんかーい。」
適当なツッコミで流し、階段に座る。湯姫も隣に。
「それって、個人個人で答え変わるし。というかさー。空にも、もう答えはあると思うよ?」
覗き込むように首を傾けた。恥ずかしげもなくこんなことができるのは素直にすごい。
こりゃ将来お婆様の旅館も安泰ですわ。
「答えがある、ねぇ……」
俯いてみる。1回、向き合おうと思う。本当に私と。
ここには私達はいない。私が私を引き出さないといけない。
まず、私は何?魔法少女だ。今は制服だけど、この体は魔法少女だ。私の体は本当なら、あのトラックに撥ねられてぐっちゃぐちゃの死体なはず。
でも私は美水空で、本質がどこにあるかとか……
「参考までに聞かせてもらいたいんだけど、湯姫は自分ってなんだと思う?」
「え、オタク。…………分かった、ごめん謝るから。その冷たい目をやめてネ?」
戯けた様子で宥めてくる。こういうところも似てきそうで怖い。
「私は私だよー。何者でもない。説明もできない。頓珍漢でオタク脳な旅館のマゴ娘。」
モー娘みたいに言うな、とは口に出しては言わない。
「でもだからこそ自分って感じがする。たった17年さー、生きてるだけで自分なんて作られないわけさ。そういうのは死ぬ直前にね。」
「それはちょっと冗談にならないからやめて。」
「え?何?空死ぬ予定でもあるの!?」
目を見開く湯姫に先を促し、気を取り直すように咳払いをひとつ。
「まーだから、訳わからないのも含めて自分だと思う。それを制御していくのが人生的な?どう?いいこと言ってる?」
「それさえなければ。」
やっぱりガヤガヤうるさくなる。百合乃みたいだ。
さて、これを鑑みて自分……ね。
思い返してみる。私の戒めは負け犬にだけはないたくない。じゃあもしこのままウジウジこの世界に留まっていたら?向こうで迷惑かけたままに。
そりゃ負け犬だ。今世最大の恥だね。
じゃあどうしたい?もちろん、戻りたい。
考えてみれば超簡単。この前、私はみんなの元に戻ると決意して龍神の元まで辿り着いた。なら結果はひとつに限られるわけだ。
私にはやるべきことも、待ってる人も、何もかもが向こうにある。なくなってしまったものを、惨めにもかき集めようとするなんて間違ってる。
終わったものは終わった。
選ぶんだ、今度こそここで。またこんなことがあっても、即答できるように。惑わされないように。
魔法少女か、美水空か。
2つに1つ、決める。
「ありがとう。私、湯姫とちゃんと話しててよかった。湯姫の声で言われると、ちょっと響くかも。」
返事は期待しない。私の知らぬ場で勝手に作り出された幻想なんだから。
何もかもが変わらない。そんなのはおかしい。そんな世界で居残るなんて馬鹿な答え、誰も出しはしない。
「行くんだ。何もできなくても、現実に向き合う。逃げて吠える犬にはならない。それが私。私が生きる意味。」
私は和やかな笑みを湛えると、中指を添える。湯姫もその様子を見て、ニヒッと中指を立てた。
幻想から、さよならだ。
———————————————————————
なんかものすごい展開っすね。っすっす。まぁ次回は精神バグった状態からのスタートなので、せめてここくらいではと。
たまに出てくるオタ友は湯姫でした。歩く攻略本の命名者であり、下心しかない女将志望者です。
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