上 下
451 / 681
13章 魔法少女と異世界紛争

425話 魔法少女は意を決する

しおりを挟む

「うわぁぁぁああっ!」
そんな情けない声を出したのは、もちろん私ではなくカラだ。木々を見下ろしながら、重力を感じる。私くらいになると、こんなもの小指を角をぶつけた程度にしか思えない。私はいつも、もっと明確な死の予感を感じてるし。

『小指を角って……地味に痛いじゃんそれ』
『痛い~』
『地味に効く痛さだな』
なんて頷く私達。

 いつも通りで安心したよ!

 私は痛む体に本日何回目かの鞭を打ち、唇を噛みながら堪えた。すぐ近くにいるカラを右腕で抱え、身を捻りながら減速アンド着地を試みる。

「先生っ!助けてぇ!私こんなの知らないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「耳元で叫ばないで!耳キンキンする!」
私に抱かれるカラは、金切り声をあげて喚き出す。キャンキャン犬みたいに吠える。

 ってかその表現まるで同人漫画じゃん。私竿役じゃん。アイアムベリー健全魔法少女。
 魔法少女ってマジックガール?直訳すぎるかなこれ。

『不健全だから低評価押しとく』
とのこと。訂正したいものだ。

 あぁぁぁぁもう!私!私が死なないように重力操作!っていうか恵理の体まで転移されてる!?助けて!

『はいはい』
やる気なさげな返事に、普段周りの人はこんな気持ちなのかなと、少し反省する。この状況でよくこんなことを思えたなと、同時に思う。

「なんとかしてくださいよぉっ!」
「暴れないで?暴れないで!?」
間もなく地面が目の前に。目をぐるぐると回すカラ。現実でこんなこと起こるんだ。その寸前、突然下方向から上方向への重力がかかる。ふわりと浮く感覚が身にまとわりつき、そのまま着地する。

 ふぅ……危ない。

『そんな安堵の息みたいなの吐いてるけど、もし今重力世界使ったらほんとに死ぬからね?』

 は?

『脳の神経、焼き切れるかもしれないの』
『もう脳の許容量と処理量が足りていない。ふっ、私もこれはお手上げだ』

 …………っすか。

 ちょっと肝が冷えた。
 でも、考えればそうだ。あれは擬似的に世界そのものを編み出してるみたいなもの。あそこだけは、創滅神すら関与できない、私だけの私の理屈の世界。組み替え1つで、あのセプテットように床のシミになる。凶悪すぎる。

 とはいったものの、着地はしっかりできた。命に別状はない。

「怪我ない?ないね。オッケー。」
「はっ、は、はは…………怖く、ないん、です、か?っ、せん、せいは……」
息絶え絶えでどさりと倒れこむ。両手を地面につけ、ぜぇぜぇ言ってる。重力操作でゆっくり落ちてくる恵理を抱え、収納する。死体を入れるとか憚られるけど、私の腕は1本だ。仕方ない。

「殺し合いを経験してる身から言えば、向かってこないだけマシ。」
「そんなこと、言うと犯罪者、みたいですよ?」
少し持ち直してきたようだ。でも、区切り方おかしくなってる。そんなカラを待っていると、ぐぅ~と音が鳴る。

「………………………………」
「………………………………」
沈黙が流れた。私じゃない。こんなボロボロのボロ雑巾の状態で、そんな無駄なエネルギー消費しない。つまりは。

「…………ご飯、食べる?」
「…………はい。」
顔を真っ赤にしたカラが、蹲った。この子めっちゃ蹲るじゃん。

「言っておくけど、今私キツイから。思ってる以上に。だから適当だけどいい?」
「大丈夫です…………捕まってから、食べてなくて。恐怖とか色々で忘れてたけど、緊張が解けて……」
苦笑した。でも、それだけ食べないと活力も湧かないだろうと、やっぱりちょっと張り切ることにした。

『私は休んでて。あとは私達でやっとくから』
『さすがに、働かせすぎたと思ってるよ?』
『私の絶賛料理を食うががいい!』
『食うがい~!』
後半のうざさが滲み出てた気もするけど、AとBはやってくれるみたいだ。

 新手のツンデレだ。
 ツン、ツンツンツンツンツンツン。のはずの私が?いや私はそんなんじゃない、はず。さすがに、こんな新種の虫の鳴き声みたいなツンツン加減は持ってない。

『デレ要素どこ~?』
ただの反抗期のそれに、Dがツッコミを1つ。

 まぁ、ありがとう。私はここで見とくとするよ。

 カラにも、「そこで座ってて」と声をかけた。百合乃なら確実に「空の手料理!」とか言ってる飛び込んでくるだろう。

『じゃ、面倒いし鍋でも作るか』
『元気が出るのがいいよね?血も抜けてるから、鉄分豊富なやつとか』
『そんなの知らない。まぁ、適当に肉ぶっ込めば多くなるんじゃない?』
『血が抜けると言えば、体が冷えるから辛いやつとか?』
『キムチ鍋を所望する』
『作る気ゼロだね』
なんか心配になってくる。会話が不穏だ。めっちゃ怖い。

 準備が始められ、でかい鉄の鍋が現れる。適当な枝木を炎で燃やし、適当に台を作って乗っけた。水をざばーん。魔力球で補給しながら、この世界で言う昆布だし鰹出汁的なものを出すものをぶち込みつつ、濃い出汁をとる。キムチ鍋らしいので、そのくらいはやらないと。

 とりあえず、何かの時のために取っといたティランの魚を取り出す。今使わないでいつ使うんだ!
 水気を拭き取りそして、竹林の村の消臭効果のある竹の粉末を振り撒き、揉み込む。魔物肉を同じように。そして食べやすいサイズに切る。その他野菜もぶった斬り。

 早く食べたいから軽く肉や魚を炒め、そこにキムチ(もどき)も混ぜる。
 そして調味料を色々ぶっ込んだ煮汁に軽く火の通った奴らを投入。そして火の通りやすい奴は、今ここで。

 食材の諸々は、料理大好き百合乃さんが「空の料理のためなら、空の作れないものも探してきますよっ!」と意気揚々で拾ってくる。そのおかげで、食材生成はどんどん成長していく。

「うん、なんか知らないけど上手くいった。」

『任せて損はないって、分かったよでしょ?』

 ……美味しそうだよ!

 スープを一口飲んでみる。美味しい。

 そしてカラを呼ぶ。適当な器とお玉を用意し……米が欲しいけど締めはパンでどうにかすることにした。

「美味しい……!先生、お店やったらどう?」
「やってるんたよねー、それが。」
口の中に肉を詰め込みながら、汁で流す。久々の辛味に、軽く汗がにじむ。

「辛いものって……あんまり食べないから新鮮です。」
「スパイスってあんまり売ってないしね。まぁ売ってるんだけど。」
はふはふしながら栄養補給。朝っぱらからなんてもん食べてるんだって自覚はあるけど、空腹には敵わない。

 私の消費カロリーとんでもないと思うし、このくらいはね。

 最後にチーズとパンをぶち込んで再度煮込む。ちゃんと美味しかったのは言うまでもない。


 朝日がちょっとだけ顔を見せた頃、私達は移動を開始した。結構距離をとって飛ばされたため、多分歩きで昼頃か。殺す気かと突っ込みたくなる。

「処刑は嫌だなぁ……殺されたくないなぁ……でも、あんなことが起きて私に罪がなすりつけられてたら普段の生活も……」
「そっ、その時は私も反対します!」
「ありがと。あと、私達年齢変わらない……と言うか年上なんだから、敬語やめて?なんかむず痒い。」
「なんか癖で……気をつけます。」
「ます?」
「……気をつける。」
「そうそう。それでいい。」
そんな感じで、ゆっくりと歩いていく。話すこともないので、少し気まずい。

「…………王都に帰るの、やっぱやめようかな。」
「処刑されるのが嫌だから?」
「まぁそれもあるけど……いや、されそうになったら全力で抵抗するからどうでもいいとして、普通に気まずいよ。」
寮に引き篭もった1日の間(罵詈雑言の嵐)を思い出し、ゾッとする。

 あんな人達の前にまた行くの?手の平くるっくる返してくる野郎どものところに?蛮人の巣窟に?

『罵詈雑言の嵐』
『人のこと言えないね』

 やられたらやり返すって言うでしょ。あと、口に出さなきゃセーフ!

 謎理論を展開する。

「でも、行ったほうがいいんじゃない?先生の名誉回復のためにも!」
「確かにね……ネルと爆弾抱えながら言うのも嫌だし。」
「ネル?」
「あー、フェルネール・ブリスレイだよ。パズールの領主の娘。色々あって知り合い。」
「遠い世界ですね……」
視線を遠くに飛ばしたカラは、立場の違いにため息を吐く。

「しかたない。王都くらい何度だって言ってやる!」
拳を握り、歩く足にさらに力が入る私だった。

———————————————————————

 恵理……可哀想ですね。今度お葬式というか、軽く弔ってあげようかと思います。勿論、イレイアちゃんも呼んでです。フィリオに頼んで1日だけ貸してもらいます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こんなとき何て言う?

遠野エン
エッセイ・ノンフィクション
ユーモアは人間関係の潤滑油。会話を盛り上げるための「面白い答え方」を紹介。友人との会話や職場でのやり取りを一層楽しくするヒントをお届けします。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

異世界でイケメンを引き上げた!〜突然現れた扉の先には異世界(船)が! 船には私一人だけ、そして海のど真ん中! 果たして生き延びられるのか!

楠ノ木雫
恋愛
 突然異世界の船を手に入れてしまった平凡な会社員奈央。私に残されているのは自分の家とこの規格外な船のみ。  ガス水道電気完備、大きな大浴場に色々と便利な魔道具、甲板にあったよく分からない畑、そして何より優秀過ぎる船のスキル!  これなら何とかなるんじゃないか、と思っていた矢先に吊り上げてしまった……私の好みドンピシャなイケメン!!  何とも恐ろしい異世界ライフ(船)が今始まる!

【猫画像あり】島猫たちのエピソード

BIRD
エッセイ・ノンフィクション
【保護猫リンネの物語】連載中! 2024.4.15~ シャーパン猫の子育てと御世話の日々を、画像を添えて綴っています。 2024年4月15日午前4時。 1匹の老猫が、その命を終えました。 5匹の仔猫が、新たに生を受けました。 同じ時刻に死を迎えた老猫と、生を受けた仔猫。 島猫たちのエピソード、保護猫リンネと子供たちのお話をどうぞ。 石垣島は野良猫がとても多い島。 2021年2月22日に設立した保護団体【Cat nursery Larimar(通称ラリマー)】は、自宅では出来ない保護活動を、施設にスペースを借りて頑張るボランティアの集まりです。 「保護して下さい」と言うだけなら、誰にでも出来ます。 でもそれは丸投げで、猫のために何かした内には入りません。 もっと踏み込んで、その猫の医療費やゴハン代などを負担出来る人、譲渡会を手伝える人からの依頼のみ受け付けています。 本作は、ラリマーの保護活動や、石垣島の猫ボランティアについて書いた作品です。 スコア収益は、保護猫たちのゴハンやオヤツの購入に使っています。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

泥酔魔王の過失転生~酔った勢いで転生魔法を使ったなんて絶対にバレたくない!~

近度 有無
ファンタジー
魔界を統べる魔王とその配下たちは新たな幹部の誕生に宴を開いていた。 それはただの祝いの場で、よくあるような光景。 しかし誰も知らない──魔王にとって唯一の弱点が酒であるということを。 酔いつぶれた魔王は柱を敵と見間違え、攻撃。効くはずもなく、嘔吐を敵の精神攻撃と勘違い。 そのまま逃げるように転生魔法を行使してしまう。 そして、次に目覚めた時には、 「あれ? なんか幼児の身体になってない?」 あの最強と謳われた魔王が酔って間違って転生? それも人間に? そんなことがバレたら恥ずかしくて死ぬどころじゃない……! 魔王は身元がバレないようにごく普通の人間として生きていくことを誓う。 しかし、勇者ですら敵わない魔王が普通の、それも人間の生活を真似できるわけもなく…… これは自分が元魔王だと、誰にもバレずに生きていきたい魔王が無自覚に無双してしまうような物語。

処理中です...