上 下
450 / 681
13章 魔法少女と異世界紛争

424話 魔法少女は離別する

しおりを挟む

「あれ何か分かるかの?」
「分かるわけないじゃん。」
亀裂の入った空中から脱出した私は、その狂化版マリモみたいな謎生命体(?)を見つめ、そう言った。いい加減ルーアに捕まる腕も限界を迎えてきてるので、なけなしの魔力を絞り切って空中歩行を使用する。

 魔力球なかったら終わったね。補充ありがとう、私達。

 心で感謝を伝えつつ、現在のステータスに若干の恐怖を抱く。半減とかで済んでなさそうで怖い。

 いやいやいやいや!今そんな話はどうでもよくて、あれなんなの?あの蔦の塊みたいなの。
 どこからどう見てもまぁ蔦なわけで。

 ルーアは「降りてみようかの」と提案してきたので、とりあえず飲む。ルーアなら何かあってもきっとなんとかしてくれる。信じてるよ!

「……我の龍眼には何も映っとらんのぅ。魔力反応は微弱にはあるが、本当に純粋な魔力の塊という感じじゃ。」
「ちょっと斬ってみてよ。」
「なんか入っておったらどうするんじゃ。主がやればいいじゃろう?」
「いやいやご冗談を。私見て?トッテモトッテモケガシテル。オーケー?」
「嘘ではないのがムカつくのぅ……」
ルーアは拳を握り、シミュレーションするように虚空に拳をドッカーン。

 いや、中に何かあるかもしれないって言った本人が殺意マックスな攻撃を?

 ちょっとだけルーアに対する信頼度が下がる音がした。

「よ、よし。やるかの。やってやるかのぅ!」
「変な気合い入れないで!?なんか取り返しつかなくなるような気がする!」
「はあッ!」
拳ではなく、手のひらを突き出した。空気がブォンッととんでもない圧を生み出して放たれ、間近で食らったそれは、木っ端微塵に粉微塵。

「「え?」」
2人の声が重なる。いや、私の驚きポイントは破壊された蔦でもあるんだけど。でも、そこにはもっと衝撃的なものがあった。

 なんと、前世で食べ忘れてた高級ケーキが!

『なわけないでしょ』

 まぁそうだね。私ん家基本的和菓子だし。

 そういうことではないだろ、というツッコミを砲丸投げでどこかへ飛ばし、今度こそ現実に目を向ける。

 苦しそうに目を閉じる、カラが、そこにいた。よく見てみると、その蔦中心に大量の根が伸びており……

「エネルギー吸収装置みたい。それは変な言い方か。」
「いや、その逆じゃ。脈が潤っておる。」
「え?」
万能感知をよく見てみる。と、確かにボロボロの森が回復を始めていた。

「我、何かいけないことをしたような気がするのは気のせいかの?」
「さぁ、私は分かんない。」
他人のふりでもしておいて、その隙に倒れ込むカラにしゃがみよる。ちょっとよろめき、地面に手をつく。私も十分な怪我人ではあることは忘れてはいけない。

 よく生きてるって感じだよ。人って血の20~30なくなると危ないって聞くし。私、感覚的に言えば50%くらいのなくなってるような気がするんだけど。

『実際15パーくらいじゃない?』
『貧血症状はあるし、無理矢理抑え込んでる感じかな。こりゃ丸1日睡眠コース?』
何やら不安になることを漏らす。

「ちょっと、傷だらけじゃん!?」
「自分自身の回復ができていなかったのかのぅ……それにしてもこれは。ただの人間ではない。我の周りの人間はどうしてこうも曲者揃いなのじゃ。」
「自分も曲者だからじゃない?」
それよりも今大切なのはカラだ。

 これ以上再生創々しようものなら、疲労でぶっ倒れるから無理として。回復薬残ってる?

『あるよー』

 ならありったけ!

『はいはーい!』
その声を聞き終え、すぐさまステッキから取り出す。まとめてくれてるからやりやすい。

「痛みは治らないけど、傷は治るから。」
そう言ってバシャバシャかけていく。傷はゆっくりだけど、確実に塞がるのが見える。

 このまま順調にいけば……

「いったああああああぁぁぁい!」
「うわあッ!ったぁ!」
突如頭突きを喰らう私は、叫びながら後ろに倒れる。カラが痛みに飛び上がったせいで、私の頭にクリーンヒットした。

「「あぁぁぁぁぁぁぁっ!」」
「主ら、仲良いの。」
そう言ったルーアは、どこか遠いところを見ていたような気がする。


 それから痛みに悶え合うこと数分。私はすぐに持ち直したけど、カラの方がやばかった。なかなかに悲痛なお叫びだった。

「先生に恥ずかしいところを……」
カラは膝を抱えるようにして蹲り、私は苦笑いを浮かべた。

「本当に騒がしいのぅ、主たちは。」
「うぅ……申し訳ないです……」
顔を埋めながら謝罪の言葉を漏らす。ちょっと泣いてる。

「ごめん、もっと早く助けられなくて。トラウマ植え付けちゃったかな。」
さっきの解剖好きの変態野郎を思い出し、涙をこぼすカラの頭に手を置いた。

「先生は生徒の命を預かってる。常に気を張らなきゃいけないっていうのに、気を抜いて。空回って、結局は学園にもカラにも迷惑かけて。」
できるだけ優しく、語りかける。表情で声音が変わることはないけど、微笑むのを意識した。

 実際、私があんな外で張り込んでたからああなったわけで、私のせいでもあるんだよね。多分。

『でも、もしあそこにいなければ他の2人の侵入をみすみす見逃すことになってた』

 結果論だよ。結局は私の影響が大きい。

『はぁ。私って厄介だ』
『ねー』
何やら聞き捨てならないセリフが聞こえたけど、つっ込む気力もない。

「先生は……頑張ってるじゃん。現に、私を助けてくれたもん。」
年齢にしては幼い口調になる。同年代だけど、実力的な意味で甘えが出てるのかな?と思う。

「うん、じゃあ私は頑張ってる。だからカラもそれに報いてほしいな。とりあえず、今はみんなのもとに帰ろう。」
「分かったよ。」
カラはおずおず立ち上がり、私の後ろについた。血が滲む服が視界に入り、守りきれなかったことを痛感した。

「ルーア、悪いけど届けてくれない?」
「言われると思っておった。もう、座標はセットしておる。」
「さすが神。よっ、最強!」
「口尚乳臭がどうたらとか言っておった主には似合わん発言じゃの。」
はぁ、と疲労を外に出し、ルーアは空中に魔法陣を展開した。線が広がり、プラネタリウムの亜種のようになる。

「王都間近には転移させないぞ?誰かに見られでもしたら犠牲者を生まなければならん。」
「……ぜひ離れた場所でお願いします。」
「先生、ずっと思ってたけどこの人って人じゃない?」
「うん。神。」
カラが何を言ってるんだろうという顔をした。うん、カラの立場だったら私もそう思う。

「とにかく、こういう人達とは関わらない方がいい。上の存在に消し飛ばされる気がするから。」
「その上や存在との関わりが大きすぎる主は一体なんじゃというのか。」
「魔法少女であり精霊であり教師。」
「多彩で何よりじゃの。」
諦めた様子で魔力を流す。そんなにあるなら分けてほしい。

 もう私、すっからかんで歩くのが精一杯。なら貸してほしい、魔力くらい。

『地味に韻踏んでる』
『まだラップしたりなかった?なら、もうちょっとやるよ?』

 やらなくていい!たまたま。たまたまだからね!?

 またまたー、そんなツンデレな。と、意味の分からない発言をする私達。自主性がありすぎるのもよくない。

「だから、我とはあまり関わらん方がいい。」
「それってどういう……」
視界が真っ白になり、カラの言葉は無慈悲にも遮られてしまった。

—————————

「これでよかったのか、我もよく分からんのう。」
少しだけ明るんできた空を見て、時間が進む速さに浸る。今までの、人間……世界の生死すらも分ける喧騒の中にいたのがまるで嘘みたいで、幻想なのではと幻視するほどだ。

「奴は別として、人間と関わりを持ちすぎるのは良くない。我たち神は、忘れられても気づかれてもいかぬとはな……」
言いながら、帰路に着くため魔法陣を作る。そして少しはにかむ。

 急だったがゆえ、謝辞にとあるプレゼントを魔法少女にしていた。どのような反応をするか、気になった。

 そのまま龍神は、神殿へ帰っていった。

———————————————————————

 そろそろ今章も終わりが近づいてまいりました。帳尻合わせの目処は全く立っておりませんが、まぁ気長に。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界を服従して征く俺の物語!!

ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。 高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。 様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。 なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...