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13章 魔法少女と異世界紛争

422話 魔法少女と喪失

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 ガバッと立ち上がる。足を地につけると、突然むせ返って血を吐いた。これが代償なのかな?と、思った。

「主!起きたのかっ。」
「…………………」
ルーアを見て、視線を戻した。やはり血はべっとり地面に付着し、体の節々の毛穴からは限界を超えて切れた血管から流れた血液が溢れる。

 魔法少女ヘモグロビン添え、いっちょ上がり。

 そんなことを、淡々と心に響かせる。

 何も感じない。両足をつこうとした時、足が思うように動かずにすっ転ぶ。地面が近い。

 まるで、テンションが低くなるタイプの酔っ払いではないか。いや、私の場合は多分筋肉が千切れてるのだと、思う。

 這いつくばり、何をすればいいか分からずとりあえず顔を上げる。

「どうしたのじゃ?喋る気力がないというわけではなかろう?なぜ喋らないのかの?」
声も意味も分かる、ルーアだ。でもそれだけで終わる。

 感じるのは…………虚しさだけ?

 私は、胸の内に巣食う、覆い被さるようにして感情を啄むその感情の名を心で反芻させる。
 私達はどうしてるのだろうという、思いを馳せる行為も今は憚られた。

 なんで?とも思えない。疑問というものを忘れてしまったように、全てがただある、存在するだけのものになる。
 こんな感覚は初めてだと、そうは分かっていても何か違和感がない。

 胸にぽっかりと穴が空いたように、思考回路が絶たれたように、理解が追いつかない。通信速度の遅い昔のパソコンのようだ。

 無気力虚無虚空。口で表すのは不可能だ。感情が欠落した、そう思ってもその感情とやらも分からなくなってくる。

 喜怒哀楽。意味は分かる。でも、分からない。

「恵理も私も、感情も、何もかもあっけなく消え失せる。さっきまで昂ってた感情も見ての通り。会話程度ができる、取り繕うことはできる、けれど何ひとつピンとこない。」
雪崩れ込んだように喋り出す。何が解決につながるか、感情のなくなった私に分かるはずもない。ただただ吐き出すしかできない。

「主……弊害かの。」
目を閉じ、何かを考え込む様子のルーア。何を思っているかなど、分からない。

「言っておくが、主はとんでもないことをした。神に届きうる力を行使して生きている。その精神力を褒めたいのぅ。」
「よく分からないけど、賞賛?」
「さぁの。でも、虚しいだけの感情が渦巻いているだけ、マシじゃ。まだ、これからがある。チャンスがある。」
「……元の私には、戻らないんじゃない?」
抑揚なく言う。これから帰らなければならないのに、これは何の時間なのだと思った。もしや、自分の怪我を心配してるのではと、意味も分からず予測する。

 喪失感に、悲しくはならない。これは悲しいことなのかな?私には分からない。
 あの時の激怒、激情、放流は、なんだったのかと。

「湯姫との会話も、なんだったのか。」
小さく呟く。今の私には予想することしかできない。動けるわけでもなく、助けてくれた家族も義務教育も捨ててこちらに来た私の、意味の分からない感情を読めと、難題を押し付けられる。

 そもそもなんで私はここを選んだの?命の危機はあるわ、訳の分からない、常識が通用しない世界だ。日本に残った方が良かったんじゃ?

 と言っても私自身が決めたことだ。この件を解決するには、それなりに自分と向き合う必要がありそうだ。

「とりあえず、帰らんかの?…………もうここには、何も、残ってはおらぬ……」
歯をギッと噛み締め、これが悔しいか悲しいの感情なのかなと、分析する。

「……乗る、かの?」
「いいの?」
「今の主は、見ていて居た堪れない。目も当ててられない。」
ルーアは、背を向けて言った。

 目のクマがすごくて光が薄い?それは月光の問題だと思う。

 でも、貰える好意は貰っておこう。私は出されたその小さな背に乗り、目を閉じた。

—————————

『本体と面と向かって話し合うのって、初めてだよね?そろそろ体、欲しいと思ってたんだよ』
真っ暗闇の世界で、円卓と5つの椅子。そこには私が5人、座っていた。

『わざわざこんな深層意識まで連れてくるの普通に面倒なんだよ?』
『そうだよ、どれだけ疲れたことか……』
『Bは休んでたぞ』
『そうだそうだー』
私達が議論を交わす。初めて顔を見た。自分の顔が4つもあって奇妙な心地だ。

 あれ?奇妙?

『思い出した?あそこだと、さっきの日本の記憶も薄くなってるからねぇ。私の変なところだけ残した感じ?』
『変人の塊があの本体かな。つまり、今の私は本体から追い出された残り物の私。私Eだ』
ということで、私はEの称号が与えられた。なんか弱そう。

『おーい本体(笑)~出てこ~い』
『…………なに?』
『ぷっは!私っ、私も一緒に思考の一部になっちゃってるね』
『うっさい』
席に縮こまって座り、机に視線を落とす。

 そもそもここどこなの?何故に机?え?

『前から思ってたんだよ』
『ん?』
『私達は私の裏の部分にいるからよく見えるけど、表面にいる私はしっかり私を見て、向き合うべきだね』
『向き合う?』
隣にいた私Aが、ピシッと指を差しているのを見て、首を傾げる。

『私はあの日本での生活で心は決めた。精神は揺るがないものになった。じゃあ次はそれと向き合うべきだと思うね』
『…………私達が達観してる理由が分かった気がする』

 そもそも立場的に達観させられてるって感じかな?なんか私がめっちゃ子供っぽいんだけど。何これ悲しい。

『私が私を理解しないと本体みたいになるよー』
『私が本体なんだけど?』
『今はただのEだぞ』
『だまらっしゃい』
遠く離れた席にいるCを睨みつけ、私は何をすれば?と問う。

『んじゃ、記憶でも俯瞰してくるんだね』
『ばいばーい』

『どんな対処法!?』
『深層の意識を引き摺り出すってだけだから』
『引き摺り出すって表現怖いからやめて?』
『こう、腑を……』
『もっと酷くなってる!?』
そんなツッコミをもろともしない私達は、全員席を立ち上がり胸ぐらを掴んでくる。切れ目な私と眼鏡な私と眼帯の私と背の低いアホ毛。迫ってくる。

『かっ、カツアゲですかネ』
『冗談きついっすよ、私』
『早く観念~!』
抵抗虚しく、私達4人の傍若無人さを感じながら、いやそれって私のことかと諦念を浮かべる。つまり、4人に背負われ記憶の旅へご案内された。

 感想を言おう。

—————————

「クソッそ恥ずい!」
「なんじゃいきなり!」
「ぃたっ!」
ビターンと地面に叩きつけられた私は、腰を強打しぐはっと血を吐く。なんかだんだん痛みが増していってる気がして、狂いそう。

 痛い痛い痛いって!

『記憶の旅はどうだったかね?』
脳内で、うざい顔して語りかけるA。

 恥ずかしかった。予想以上に恥ずかしかった。痛いセリフやらなんやら、逃げることすらできずに聞かされて……あと魔法少女服って側から見たら相当恥ずい。コスプレ会場でも恥ずいかも。

 痛みと羞恥で死にそうになっているところ、吊り目になったルーアが何かお怒りでらっしゃる。

「…………さっきまで、主はこの世の全ての感情を失ったような顔をしておったのぅ。」
「じ、じっさいそうでしたし……」
痛みが堪えて発音が微妙にズレる。

「せっかく心配してやったのに……このザマは一体なんじゃァァァァァァァァッッ!」
「それ私に言わないでぇぇぇぇ!」
訳もわからずキレられて、私はルーアに思いっきり、蹴られた。

「ぐっふぁぅ!」

 こんなに綺麗な吐血は、初めて、だ……

———————————————————————

 この感情についての話は憤怒の杖を使う直前から繋がっておりますので、立ち直るの早っ!という感想は受け付けておりません。
 ……ただの想像力不足ですね。
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