448 / 681
13章 魔法少女と異世界紛争
422話 魔法少女と喪失
しおりを挟むガバッと立ち上がる。足を地につけると、突然むせ返って血を吐いた。これが代償なのかな?と、思った。
「主!起きたのかっ。」
「…………………」
ルーアを見て、視線を戻した。やはり血はべっとり地面に付着し、体の節々の毛穴からは限界を超えて切れた血管から流れた血液が溢れる。
魔法少女ヘモグロビン添え、いっちょ上がり。
そんなことを、淡々と心に響かせる。
何も感じない。両足をつこうとした時、足が思うように動かずにすっ転ぶ。地面が近い。
まるで、テンションが低くなるタイプの酔っ払いではないか。いや、私の場合は多分筋肉が千切れてるのだと、思う。
這いつくばり、何をすればいいか分からずとりあえず顔を上げる。
「どうしたのじゃ?喋る気力がないというわけではなかろう?なぜ喋らないのかの?」
声も意味も分かる、ルーアだ。でもそれだけで終わる。
感じるのは…………虚しさだけ?
私は、胸の内に巣食う、覆い被さるようにして感情を啄むその感情の名を心で反芻させる。
私達はどうしてるのだろうという、思いを馳せる行為も今は憚られた。
なんで?とも思えない。疑問というものを忘れてしまったように、全てがただある、存在するだけのものになる。
こんな感覚は初めてだと、そうは分かっていても何か違和感がない。
胸にぽっかりと穴が空いたように、思考回路が絶たれたように、理解が追いつかない。通信速度の遅い昔のパソコンのようだ。
無気力虚無虚空。口で表すのは不可能だ。感情が欠落した、そう思ってもその感情とやらも分からなくなってくる。
喜怒哀楽。意味は分かる。でも、分からない。
「恵理も私も、感情も、何もかもあっけなく消え失せる。さっきまで昂ってた感情も見ての通り。会話程度ができる、取り繕うことはできる、けれど何ひとつピンとこない。」
雪崩れ込んだように喋り出す。何が解決につながるか、感情のなくなった私に分かるはずもない。ただただ吐き出すしかできない。
「主……弊害かの。」
目を閉じ、何かを考え込む様子のルーア。何を思っているかなど、分からない。
「言っておくが、主はとんでもないことをした。神に届きうる力を行使して生きている。その精神力を褒めたいのぅ。」
「よく分からないけど、賞賛?」
「さぁの。でも、虚しいだけの感情が渦巻いているだけ、マシじゃ。まだ、これからがある。チャンスがある。」
「……元の私には、戻らないんじゃない?」
抑揚なく言う。これから帰らなければならないのに、これは何の時間なのだと思った。もしや、自分の怪我を心配してるのではと、意味も分からず予測する。
喪失感に、悲しくはならない。これは悲しいことなのかな?私には分からない。
あの時の激怒、激情、放流は、なんだったのかと。
「湯姫との会話も、なんだったのか。」
小さく呟く。今の私には予想することしかできない。動けるわけでもなく、助けてくれた家族も義務教育も捨ててこちらに来た私の、意味の分からない感情を読めと、難題を押し付けられる。
そもそもなんで私はここを選んだの?命の危機はあるわ、訳の分からない、常識が通用しない世界だ。日本に残った方が良かったんじゃ?
と言っても私自身が決めたことだ。この件を解決するには、それなりに自分と向き合う必要がありそうだ。
「とりあえず、帰らんかの?…………もうここには、何も、残ってはおらぬ……」
歯をギッと噛み締め、これが悔しいか悲しいの感情なのかなと、分析する。
「……乗る、かの?」
「いいの?」
「今の主は、見ていて居た堪れない。目も当ててられない。」
ルーアは、背を向けて言った。
目のクマがすごくて光が薄い?それは月光の問題だと思う。
でも、貰える好意は貰っておこう。私は出されたその小さな背に乗り、目を閉じた。
—————————
『本体と面と向かって話し合うのって、初めてだよね?そろそろ体、欲しいと思ってたんだよ』
真っ暗闇の世界で、円卓と5つの椅子。そこには私が5人、座っていた。
『わざわざこんな深層意識まで連れてくるの普通に面倒なんだよ?』
『そうだよ、どれだけ疲れたことか……』
『Bは休んでたぞ』
『そうだそうだー』
私達が議論を交わす。初めて顔を見た。自分の顔が4つもあって奇妙な心地だ。
あれ?奇妙?
『思い出した?あそこだと、さっきの日本の記憶も薄くなってるからねぇ。私の変なところだけ残した感じ?』
『変人の塊があの本体かな。つまり、今の私は本体から追い出された残り物の私。私Eだ』
ということで、私はEの称号が与えられた。なんか弱そう。
『おーい本体(笑)~出てこ~い』
『…………なに?』
『ぷっは!私っ、私も一緒に思考の一部になっちゃってるね』
『うっさい』
席に縮こまって座り、机に視線を落とす。
そもそもここどこなの?何故に机?え?
『前から思ってたんだよ』
『ん?』
『私達は私の裏の部分にいるからよく見えるけど、表面にいる私はしっかり私を見て、向き合うべきだね』
『向き合う?』
隣にいた私Aが、ピシッと指を差しているのを見て、首を傾げる。
『私はあの日本での生活で心は決めた。精神は揺るがないものになった。じゃあ次はそれと向き合うべきだと思うね』
『…………私達が達観してる理由が分かった気がする』
そもそも立場的に達観させられてるって感じかな?なんか私がめっちゃ子供っぽいんだけど。何これ悲しい。
『私が私を理解しないと本体みたいになるよー』
『私が本体なんだけど?』
『今はただのEだぞ』
『だまらっしゃい』
遠く離れた席にいるCを睨みつけ、私は何をすれば?と問う。
『んじゃ、記憶でも俯瞰してくるんだね』
『ばいばーい』
『どんな対処法!?』
『深層の意識を引き摺り出すってだけだから』
『引き摺り出すって表現怖いからやめて?』
『こう、腑を……』
『もっと酷くなってる!?』
そんなツッコミをもろともしない私達は、全員席を立ち上がり胸ぐらを掴んでくる。切れ目な私と眼鏡な私と眼帯の私と背の低いアホ毛。迫ってくる。
『かっ、カツアゲですかネ』
『冗談きついっすよ、私』
『早く観念~!』
抵抗虚しく、私達4人の傍若無人さを感じながら、いやそれって私のことかと諦念を浮かべる。つまり、4人に背負われ記憶の旅へご案内された。
感想を言おう。
—————————
「クソッそ恥ずい!」
「なんじゃいきなり!」
「ぃたっ!」
ビターンと地面に叩きつけられた私は、腰を強打しぐはっと血を吐く。なんかだんだん痛みが増していってる気がして、狂いそう。
痛い痛い痛いって!
『記憶の旅はどうだったかね?』
脳内で、うざい顔して語りかけるA。
恥ずかしかった。予想以上に恥ずかしかった。痛いセリフやらなんやら、逃げることすらできずに聞かされて……あと魔法少女服って側から見たら相当恥ずい。コスプレ会場でも恥ずいかも。
痛みと羞恥で死にそうになっているところ、吊り目になったルーアが何かお怒りでらっしゃる。
「…………さっきまで、主はこの世の全ての感情を失ったような顔をしておったのぅ。」
「じ、じっさいそうでしたし……」
痛みが堪えて発音が微妙にズレる。
「せっかく心配してやったのに……このザマは一体なんじゃァァァァァァァァッッ!」
「それ私に言わないでぇぇぇぇ!」
訳もわからずキレられて、私はルーアに思いっきり、蹴られた。
「ぐっふぁぅ!」
こんなに綺麗な吐血は、初めて、だ……
———————————————————————
この感情についての話は憤怒の杖を使う直前から繋がっておりますので、立ち直るの早っ!という感想は受け付けておりません。
……ただの想像力不足ですね。
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
異世界を服従して征く俺の物語!!
ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。
高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。
様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。
なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー
不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました
今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った
まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います
ーーーー
間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします
アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です
読んでいただけると嬉しいです
23話で一時終了となります
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる