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13章 魔法少女と異世界紛争

417話 精一杯の、感謝と共に

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 私は、微睡みの中にいた。
 よく分からない、そんな感想が初めに浮かぶ。そもそも、ここはどこなのかも分からない。微睡みと表現したのは、夢のような白いだけの世界だったから。

 よく耳をすませてみれば、音が聞こえる。微かに、荒い息遣いとステップを踏む音、激しいぶつかり合い……

 何を聞いているんだろうと、脱力する。

 何故だか怠い。頭が回らない。

 私は、さっきまで何をしていたのだろう。

 考えても考えても、沈んでいくばかり。

 声を出そうにも出ず、歩こうと思っても平衡感覚が掴めず、よろめきそうになる。杖ひとつないこの空間で、無闇に動くのは無謀だ。でも、何かしなきゃと動きたい衝動が抑えられない。

 何もない世界にただ徘徊していると、うっすらと何かが見えてくる。これは、記憶?

 まるでプロジェクターで映しているかのような、第三者目線の光景。1人の少女が扇を持って、果敢に敵に立ち向かう姿があった。

 これは、私の記憶?でもこんなの……こんな光景知らない。走馬灯にしてはタチが悪い。まるで、私はまだ生きていて叩き起こそうとでもしてる様に見えた。

 死に急ぐなと言われているようで、少し集中して聴こえてくる音を拾おうと決意した。

 バキバキ、と何かが折れゆく音が聞こえた。何をしている?今はどうなってる?

 耳で聞く音と、目の前の光景がリンクして見えた。これは目で見ている景色なのかと感じ、注視する。

 男が、血を吐いていた。その瞬間に何かに掴まれたようで、体がふわっと浮く。感覚はないが、理解はできた。

 空…………?空?

 暗闇から差す月光に照らされた、美しい少女の顔が見えた。凛々しい表情で、手を握られる。想いが届く。

 思い出した。全てを思い出した。
 ほとんど停止した脳を、思い出したすべてで埋める。何を忘れようと、これだけは忘れちゃいけない気がした。

 私、は、もう、ダメ。光が、消える時、私の命の、終わり……だから、最期に……

 言葉すらまともに発信できなくなっている自分が不甲斐ない。だから、最後はまとめてから、咀嚼するようにゆっくりと言う。

『ごめんなさい、それと。ありがとう』

 私はどんな顔をしていただろうか。もはや涙すら出ない体を、一目見ることすら叶わない。
 ギュッと握られる手と、ペンダント。閉じられた目。

 何も見えなくなり、真っ白な世界は、また広がる。直感的に悟る。

 私は、死んだ。

 そしてひとつ、またひとつと、記憶を消去されていくように感じた。
 何故かって、私がなんであそこにいたかも、もう分からないから。

 でも、それでも、私には残ったものがある。

 空の握っていたペンダントの中身を、頭に広げた。世界地図を広げるように、皺ひとつなく伸ばして。

 お父さん、お母さん、妹も。友達だっていた。
 あの子、イレイアはどうしているか。
 空も、最期に迷惑をかけた。

 もう時期忘れる皆に、私は何を贈れるだろう。死んでしまった私に、できることとはなんだろう。

 ありがとう、と念じながら目を閉じた。実際に、この世界に私の体はないんだろうけど、それでも目を閉じる。

 そうして、私は消え失せる。

 ———一粒のを残して———


 世界は残酷だ。
 一筋の希望を垂らし、掴む寸前で絶望の切符とすり替える。

 世界は残酷だ。
 しかし、それでも気まぐれを起こすことはある。


 祈りはどの世界でも力に変える。この世界ならば尚更。祈りは世界を渡り、一滴の雫を、垂らした。

—————————

「……………………………………?」
頬を弾いた感覚に違和を覚え、目を覚ます。鳥がちゅんちゅん鳴くような平和など一切なく、そこはバスであり、倒れ伏した人間。総勢38名がいた。

 何か重みを感じ、首を回すと人が足に絡まり引っかかっていた。窓ガラスが割れ、自身の足に刺さっていたりもした。

「ねぇ、ゆっきー?さっち?ゆず?」
近くにいた学友数名に声をかけ、揺する。反応はない。首に手を当てると、脈は動いており生きてはいる。

 仕方なく、着ていた制服を裂いて包帯替わりに巻く。軽い怪我でも、幾つもあれば相応の出血量だ。20%も失われれば、まともに動けなくなる。

 お金がなく、これくらいならと放置し危険な場面に陥ったこともあり、簡単な治療を……

「なんで、そんなこと知ってるの?」
ふと、そんな疑問が口から漏れた。

 制服を裂いて、なんて普通思いつかない。止血しようだなんて思えないし、そもそも普通制服なんて裂けない。
 咄嗟に視線を斜め上にあげた。何もない。当然のはずが、何か違和感がある。

 状況を整理しよう。顔にかかった液体は、見るに燃料だ。ここがバスで、窓が割れていることから推察するに事故が起きたのだろう。向き的にも、横転したのか。どこかから転げ落ちたか。
 学友がいる、制服を着ていると言うことは課外活動か。

 いや、修学旅行だ。

 自分も倒れていた、そして経緯を覚えていないと言うことは頭でも強打して記憶でも飛ばしたんだろう。

 私以外は、全員気を失っている。まずは目の前にいる学友、由希と幸と柚月を助けようと手を伸ばす。
 そこに映るのは、ぷにぷにとした二の腕。柔らかな手の平。

「あれ、私ってこんな細かった……?」
まぁいいや、と。まずは1番近くにいる由希を引っ張った。違和感が拭いきれない。

 割れた窓から脱出すると、ガス臭さが鼻腔を刺激した。中より外の方が漏れが大きいようだ。
 由希を押し出すようにして外に出し、背負って遠くに運ぶ。他2人も、同じように。

 無心で運ぶ。
 担任や運転手など、大人はさすがに背負えない。少しかわいそうだが、引き摺って運んでいった。
 燃料漏れは要らない衣類を当て、発火するのを防いだ。火花が散るところは、水筒の水をぶっかけてやり難を凌ぐ。

 全員を運んだ場所、ある程度離れたそこに体を投げ出し、空を見た。眩しいくらいの快晴で、もう動かない手を太陽にかざす。

「これで、よかったのかな。」
頭に、薄く靄がかかった顔が浮かんだ。あの、月光に照らされた顔が。

「誰、だっけ?」
そのまま、微睡んで行き眠りに落ちた。


 後日、このことは大きな話題を生んだ。ニュースにも取り上げられ、そしてなぜか警察からの感謝状すら貰ってしまった。
 あの誰も意識がなかった状況で、何故分かったのか。

 理由は単純。制服にほぼ全員の血がつき、全員に指紋も付いていたという。
 今回の事故、いや、事件はこうだ。

 詳しくは語らないが、私情で恨みのある人間が、運転手に一服盛り、事故を引き起こさせたという。
 そちらも、指紋によって簡単に見つかり、殺人未遂として処理された。
 この『事件』を解決させられたのも、あの行動があってこそだという。あのままでは確実に、爆発していた。

 幸い、重傷を負った人間はいない。

 この事件の最大の功労者は、病院の屋上で空を眺めていた。

 検査入院として、負傷者は病院へ送られたのだ。特段、何かあるわけでもないが従う他ない。

「私、何か忘れてるような……」
手を見る。やはり何か違和が残る。

 では、何が原因だ。こんなことは初めてであり、確実に今回のことが原因だ。しかし分からない。

 あの女の人の顔はなんだったのか。
 そう言うとホラーに聞こえるが、可愛らしい少女だ。

 そして、決めた。

 まだ謎ばかりだけれど、何をすればいいか見当もつかないけれど、始めてみよう。
 この違和感の正体探しを。

「行こう、絶対に。」
思い出せるといいなと思いながら、病室へ戻っていった。

———————————————————————

 恵理さん、死んじゃいましたね。
 え、死んでないじゃないかって?後半パートで生還してるじゃんって?
 いや、本文中に「恵理」なんて一言も書いてませんが?だからまだ決まったわけじゃないんです!

 彼女が恵理である確率は5割です、2分の1です!シュレディンガーの猫です。箱を開けるまで分かりません。
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