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13章 魔法少女と異世界紛争

411話 魔法少女は殲滅する

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 戦鎚を担ぐは巨漢の男。あそこにいた知らない男といえばクインテットしかいないし、何より名乗っていた。つまり男はクインテットで間違いないだろう。

「まさか、この量の魔物をたった2人で。許せん、許せん。ボスの手を煩わせるわけにはいかない。」
【ルーア!こっちは私がやるから、恵理の方をお願い!】
「……っ、頼んだぞ!」
ルーアは私を見向きもせずに背を向け、いやせめてもう少し躊躇ってくれても、とも思ったが、そんな暇はないので仕方ないと諦める。

 それより、今はこれをどう止めるか。いや、これは倒してしまっても構わないのだろう?案件じゃない。そんなの強者の戯れだ。私にとっちゃ負けフラグ。そんなのはいらない。倒さないといけないんだ。
 こいつらがそのまま2人の元に行ったら?
 今の私は広範囲の一撃火力に富んだ職、適材適所ってやつだ。

【ならやってやるよ!女を見せてやる!】
スーツの中から息巻き、ステッキの左腕と右腕を構えて地を滑るようにして移動する。

【混合弾!】
あたりを埋め尽くすような数の魔法の弾。弾かれるようにして飛んでいき、魔物の盾を消し飛ばしながらクインテットに近づく。

「このような玩具。」
戦鎚を掲げると、それを振り下ろそうとして……

【遅いよ。どれだけあなた達と戦ってきたと思ってるの?】
重力で魔物の動きを静止させると共に、戦鎚の手元を私も握る。

 ソロやらトリオやら、格上と戦ってきてクインテット?いきなり雑魚が来られても、私としては今更どうしたの?って感じなんだよね。

【重力世界。】
薄く広く。私の世界が展開された。前回よりかはまだ楽だけど、疲労から膝を折る。

【一瞬の隙が命取りだよ?】
苦々しい顔で嗤うと、セプテット相手のような加減は無しに、思い切り叩き潰した。多量の血液が地面のシミとなった。

【あ、や、ば……い。これは、ダメ……】
スーツがガタガタと音を鳴らして消滅し、いつも通りの魔法少女服に戻る。

「ぁ゛……」
頭から地面に落下し、その衝撃でシミと一緒に気絶する。自然と重力世界も解除され、私1人でよくやったと、そう思う。

『結局火力関係ないじゃん』

 うる、さい……

 そのツッコミを最後に、私は意識を手放した。

—————————

「トリオ、お前はここに来るであろう女を始末しろ。ボスに代わり、今は俺が全てを守る。」
「……了解した。あまり、肩肘張りすぎるな。お前は働きすぎる。」
「口でなく手を動かせ。位置につけ。いいな?」
ソロは指揮をとっていた。カルテットやクインテットの配置も彼が決めたことだ。

 カルテットの持つ固有スキル、『止めどない百鬼夜行』のお陰で、正体がバレることがなければ手品のように魔物を増やすことができる。今までの魔物収集はこのためだった。

 彼女のスキルの欠点と言えば、分裂する度弱くなると言う点だ。壁にするには丁度いいが、戦略として数えるためにも憑依という形の強化は必須だった。

 その結果、あの地獄絵図。外から増えた?そんなわけはない。用意されていたものが予定通りに現れただけだ。
 クインテットは仕方のない犠牲だと割り切った。今までの積み重ね、疲労の限界を狙ったつもりだが、そのためにはまだ一押し足りない。だから、仕方なく現最弱のクインテットに、許可を得た上での犠牲になってもらった。

 仲間を、自身のボス、ナギアの配下を殺してしまった罪悪感はもちろんある。自分がナギアに次いで最強という自覚もあるため、自身が行けば解決できると、そう分かっているが。

「俺はいけない。ここに、いなければいけない。」
ギリっと歯を噛み締める。

 ボスのためにと身を粉にして働くソロは、名の通りナギアの始めの配下。

「たとえ俺だけになったとしても、ボスにだけは、報いなくては。」
自身の体に隠されたいくつもの武器の存在を確認しながら、呟く。

—————————

 ナギアは言わずもがな転生者だ。
 その際の能力に恵まれた、ただの異世界人だった。

 日を追うごとに変わりゆく能力、身に付けられていくステータス、付いていく異世界の知恵。

 彼は齢12歳にして、異世界にきてしまった。良いも悪いも、客観的な判断が出来始めてきた頃。丁度、子供が全能感を持つ頃だったのが災いした。

 この世界を異世界だとは思わなかった。創滅神の手紙すらも、彼の思考を助長させた。

 端的に説明しよう。
『覇者凪よ!あなたはこの世界を統べる王となる!』

 などというお遊びのような内容。

 この世界はゲームであり、王になるまでの物語だと錯覚した。


 16歳になる頃。力をある程度まで身につけ、いざ世界を征服しようと組織を立ち上げるため思案した。

 まず、先立ちとなる1人目が欲しかった。誰でもいいといえば嘘になるが、とりあえずは都合の良い相手が良かった。ボスのように見せるよう、キャラ作りも徹底して行なった。

 そうしたうち完成した『ナギア』。虚構に塗れた偽物の存在。しかし、もう凪の人格はナギアに染まっていた。


「どうした?その程度か。」
嘲笑するように、闇の中から声を出す。

「面白いことを言うのね。」
光が少し薄くなった輪を浮かべて言う女性。

 両者平和な世界からきた同じ人間のはずだが、生死を決する戦闘は、激しく進んでいく。

—————————

 どこの世界にも異端児はいる。
 カラが異質な力で追いやられたように、ある少年もまた。

 無法地帯の育ちだった。育ちというのは、捨てられたためだ。

 彼には才能があった。類い稀なる殺しの才能が。

 殺しも盗みも当たり前の世界でその才能は本領を発揮する。
 絶対に殺されない危機感知能力、判断能力、反射神経。絶対に相手を殺す観察力、正確性。全てを持って生まれた。

 しかし、ルール無用のこの世界で彼の存在は大いに邪魔な存在だった。1人でこの世界のルール変えてしまいかねない力を持っていたからだ。
 無法地帯の有名な盗み屋や殺し屋が数えるのも馬鹿らしいほど派遣され、多勢に無勢。囲まれて瀕死の怪我を負ってしまう。

 命からがら逃げ出したが、生きていられるのはあとどれだけか。幾許もない余命を気にする体力すら失われ、体から抜け出る血液をただ眺めるしかできなかった。

「どうして、俺がこんな目に……憎い……」
フラッシュバックする。気味悪そう自分を見下す両親も、化け物を見るような目で襲ってきたあいつらも。

 そこで、足音が聞こえた。あぁ、幾許の時すらも許されないんだと理解した。

「生きたいか?」
聞こえてきたのは、予想に反した質問だった。

「生き、たい……生きて、あいつらを、殺し、……………た、い……」
残る全ての気力をこの言葉にかけた。

「いいだろう。我と共に、この世界を滅ぼし創り直して見せよう。我にはその力が、ある。」
男は触れることなく、顔をこちらに向けた。

「能力保管。神格よ、今ここに。パナケイア。」
いくつかの詠唱を済ませると、彼の体はみるみるうちに再生され、失われた血液すらも蘇りたちまち元気になる。

「そうだな。お前の名前は今日からソロだ。孤独を超えて弾き奏でろ。」
「…………俺は、地獄から解放されるのか?」
「あぁ、したいようにすればいい。それが世界を変えることになる。己の音色を奏でていいのだ。」
「憎しみを、この殺意を、向けてもいいのか?」
「もちろんだ。」
ソロは膝を折り、頭を下げる。

「俺は、貴方に忠誠を誓う。俺を助けてくれたことを、後悔させないよう働く。」
「良い心意気だ。」
こうして、ナギアには初めての仲間が、ソロには目標が生まれた。

———————————————————————

 今回視点移動多いですね。そこまで話がまとまってなく、次の話への準備段階とでも思っていてください。
 とりあえずコーヒーでも飲んできますから、今日はこの辺りで。ではまた。
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