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13章 魔法少女と異世界紛争

402話 暗殺少女は護り切る 1

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「結構苦戦してたみたいだけど、放っておいて良かったのかしら?」
「この少女にあの醜さを見せたくなかったんじゃろう。任せておけば良い。」
「そうは言っても……」
着物を着た少女、恵理はそう言いながら廊下を進む。

 この場には1ミリも似合わない可憐な少女たちがいた。震えた様子の少女、怖いものなどないというような目をした少女、そして恵理だ。
 順にカラ、ルーアのことだが、カラは口を半開き目をガン開き、「目、乾いてない?」とツッコみたくなるくらい目を開いている。

「主、そろそろ落ち着いてはくれぬかの?」
「せ、ん、せい、は……?」
「主の先生は主のためにあやつを殴り飛ばしている頃ではないかの?」
「せん、せい……」
「だめじゃの、これ。」
ルーアが首を振る。目が明後日の方向に逝ってる。

「主、この娘を守ってやってはくれぬかの?我は親玉でも見つけて潰そうかと思う。」
「……ほどほどにするのよ。」
「人間に言われたくないの。我は神だ、何をしても良かろう。」
「その横暴さは見上げたものね。」
遠回りに神を馬鹿にしているが、ルーアに気付いた様子はないので特に会話は発展しなかった。

 気配はいくらでもある。外に出れば魔物の群れも発見できる。全員意思を持ち、ランク分けをされているほどの数がいる。

「その前に、意思持ちの魔物を先に倒した方がいいんじゃない?雑魚だと思って後回しにして、策を弄されても困るわ。一瞬で片付けられるのなら、そっちを先にするべきよ。」
「頭を叩けばあとは勝手に死ぬ。蜂のように、女王蜂が死ねばそれで終わりじゃろ。」
皮肉られた。先程のお返しだろうか。

 確かに、自身が死ねば《黒蜂》は機能も統率もしないだろう。すぐに朽ちていく。

「……今回の場合は、暴力によって支配されてる。上を叩いたところで、下は動くに決まってる。貴方は龍を守りたいのではなかったの?あの数の魔物なら、操られた龍なんて囲まれて終わりよ。人質ならぬ龍質ね。」
「もっと簡潔にまとめる力を伸ばして欲しいのじゃが……まぁ、一理あるの。親玉は後回しにしておくかの。」
「……そう、ね。」
「何故お主が不思議そうにしておる。」
ルーアが目を細めて言ってくる。

 何しろ、恵理も案が通るなんて思っていなかった。神相手に、引かせることができるなんて傲慢さはかけらもなかった。

「主も、それをいつまでも放置しておくわけにもいくまい。ついでに、安全なところまで送ってやればよい。」
そう言うと、出口を探そうと張り切り出す。本当掴めない神だ、と感じた。

「さぁ、貴方もついてきて。空と一緒に帰るのでしょう?」
「…………はい。」
消え入りそうな声だった。聴覚を限界まで働かせてようやくと言ったような声で、死の間際でももっと出るだろうと思われた。

 先頭にルーア、後方に恵理。カラを挟み込むような位置どりで、歩いていく。

 歩いていると、魔力眼に何か映る。人のようだが、隠れる場所も何もない。

「侵入者ー!侵入者だ!」
案の定、見つかった。魔力量的に、空の言っていたような受肉した魔物かもしれないと、一瞬のうちに思考する。

「見つかってなんぼじゃの。でなければ、敵の場所も分からん。」
「堂々と行って向こうから来させる感じね。了解したわ。」
「主は下がっておれ。我が片付ける。」
ニヤリと微笑むと、尖った犬歯……龍歯をのぞかせる。余裕を示すように片手の平を上に向けると、獣のように瞳孔が細められる。そして、何もない空間に魔法陣が。

「こんな狭所で戦うつもりかの?」
手を握った。

「ぁ……」
即死だった。脳を一撃で貫かれ、抵抗ひとつなく沈んでいった。

「これで駆けつけてくるはずじゃの。スプラッターの始まりかのぅ。」
「貴方、ちょっと目を瞑っていてちょうだい。教育に悪いわ。」
恵理は鉄扇を握ったままカラの両目を塞ぎ、ルーアに恨みがましい視線を向ける。

「美味しいところは神である我がいただくとしよう。」
ニヤリと笑う。道の先からは複数の足音、声もちらほらと。

「侵入者だ!殺さず捕えろ!母体とするため上質な者は逃すな!」
「「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」
我先にと、競い合うようにして突っ込んでくる敵達犠牲者

 彼らは、偉大なかませモブとして散っていく運命にあるのだろう。
 そう、永遠に。

「龍の息吹!」
神のドラゴンブレスになす術もなく、壁を削ぎ落としながら消し飛ばした。


「派手とか言うレベルじゃないわ!」
頭に手を置き、なんでこうも脳筋ばかりなのかと苦悶する。馬鹿ばかりで、困ってしまってわんわんわわん。

「今、ふざけたナレーションをつけたのは誰かしら?」
「なれーしょん?何を言うておるのじゃ?」
話の腰を折るなとルーアが叱る。

 敵配下こと犠牲者を量産した後、空き部屋を見つけ、こうして休んでいる。
 あれからもなかなかの量の犠牲を生みつつ(敵の)、なんとか安らいでいると言うわけだ。

「現状、何者かの邪魔によってここらの座標の特定もなにもできん。広さも、出口も等しくの。そこで、我は外に出ようと思う。」
「何を言ってるか分からない。外には出れないのに外に出るとは……?」
「それは、天井をぶち抜いていくに決まっておろう。残された娘の命は主にかかっておるのだから、重大任務じゃぞ?」
さも当然のように話を続けようとするルーアに盛大なツッコミをすると、「脳筋すぎるわ!」と再び頭を抱える。

 恵理は付き添いや保護者などではない。自身もあの黒服にキツくお灸を据えてやりたいと思っている。

「私だって戦いたい。」
「その娘を殺されてもよいことなどなかろう。相手が喜ぶようなことをして何になると言うのかの。だから、護り通せ。全てを護り切って終わりを迎えよう。それが主の戦いじゃ。」
「……了解。」
小さく返事をした恵理は、そばにいるカラの肩をそっと抱き寄せた。暖かいのに、死体のように動かない。

 確かに、殺すだけだ戦いではない。《黒蜂》時代でもそうだった。殺しは当然であるが、チームの生還も十分に優先するよう指示していた。守り切ること、逃げ切ることも戦いの一部だ。

「私は、ここで守ってればいいの?」
「動きたければ動けばいいのではないかの?別段、行動を止められているわけでもないしのぅ。護り切れる自信があると言うなら、じゃがの。」
言うが早いか、腕を天井に伸ばしていた。

「崩れぬ程度に綺麗に穴を開けるとするかの。」
指先を空になぞると、光の粒子が円状に出来る。溢れた粒子はハラハラと落ちていき、残った天使の輪のようなとのは天井へ伸び、囁きが聞こえる。

「パラライズ。」
輪に沿って天井に穴が開く。ちょうど人1人分の穴があった。着物で体の大きさが傘増しされた恵理では色々とつっかえて出ることはできないだろう。

「我は少し、暴れてくるとするかの。龍の救出は最優先じゃがの。」
フッと笑うと、軽快なジャンプで隙間から出ていく。翼は邪魔なのか収納していた。

「護り切る、ね。貴方、体調は大丈夫かしら?あの変態趣味の男に、何かされなかったかしら。」
頭を撫でながら聞く。精神を病んでいたり、我を喪失している状態の人間には言葉より態度のほうがよく効く。

 何度か、敵に捕まり拷問の末に仲間に救出された者達を慰めたこともあったものだ。

 今回の場合、服の状況や犯人から見て性的屈辱を受けたわけではなさそうだ。
 どちらかと言うとあの男は、人の恐怖や苦しみに興奮するようだった。本体には興味は示さないであろう。

「空の代わりに、少しだけ私が護るわ。人を見殺しにできるほど、私も落ちた覚えはないもの。」
片手でロケットペンダントを握り締め、今の自分なら見せられるかもと思いながらも、カラの頭を撫で続けた。

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 ここから少しの間視点が変わります。空さんはお疲れの様子なので休養期間というわけです。
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