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12章 魔法少女と学園生活

393話 魔法少女は憤怒する

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 学園襲撃の翌日の朝。丸丸1日経った計算になる。
 あの後、寮には恵理がいた。炎に囲まれても特に気にする様子もなく、呑気な事に水を片手に炎の海を眺めていた。

 今、半壊半焼した部屋で恵理と2人。次の一手の話し合いもとい、現状の把握を始めた。あれから私は、丸1日寝ていたから。

「あの日現場にいなくて、力もあって、そして最後の怪しげな去り方と。もっとどうにかならなかったわけ?」
恵理のジト目が突き刺さるも、気には止めない。今の私は少し尖っていた。つまりイラついている。

「まぁそれはしかたないよ。ってことは、犯人は私って思われてるわけね。これは無用に外出は避けた方がいい。」
「でも、あんまり広がってはないみたいね。どうやら王女とパズールの令嬢、公爵令嬢、それに話を聞いた国王すら味方する始末。空って意外に人望あるのね。」
「関わりってのは多少面倒でもあった方がいいね。」
内心安堵と共に、それでも外には出ない方がいい事実に変わりはないことを身に染みて感じる。

 だってさ、外。

 顔を向ける。半焼した学園には無関係者が群がり、帰ってくれという警備隊の静止を振り切り寮の下に。

「放火魔!反逆者!自首して罪を償え!」
「悪魔!この学園にいるべきではない!」
「許さないっ、許さない!お前のせいで、お前のせいで私の娘は……」
「息子を返せ!俺の宝を、殺人鬼め!」

「ふふ、随分と人気者ね。」
「こんな人気は一生いらなかったよ。」
寮のベットに腰掛ける私の服は、制服ではない。いつものローブに、下は魔法少女服。

 学園のみんなには悪いと思ってる。一応、こうなることは確定なんだろうけど、学園を狙ったのは私の存在だと思うし。
 班のみんなとか、ネルにも、リーディにも……

「カラ……」
「またその子ね。その子は行方不明だって言ってるでしょう。」
「連れ去られた可能性は?」
「メリットがないと思うけど。」
「カラは、自然の声を聞けた。特殊体質を持ってる。可能性は十分あるでしょ。」
そう信じたいがための理論。けど、そうでもしないと罪悪感が途轍もない。

「あなたの言った3人は、リーディとやらを除いて行方不明と負傷。何回も言ったけど。」
「負傷……負傷?」
「そうだけど。問題?」
「ネルが……ってこと?どのくらい!?」
「死ぬほどじゃないと思うけれど。足を少し瓦礫に挟んだ程度と聞いた。」
その言葉を噛み締める。これは忘れちゃいけない感情だ。学がないから、名前が分からないからで捨てていい感情じゃない。

 マジで、なんだろう。逆に冷静って感じ?怒り心頭って感じなのに、この内から沸々と湧き出る怒りの名前って何?
 まぁいいや。そんなのグー○ル先生にでも聞いてみれば一発だよ。

「空、本気で怒る時は静かに怒るタイプなのね。もっと顔に出るものだと。」
「どんな思い込みよそれ。」
とツッコむけど、恵理曰く1ミリも顔が笑ってないらしい。

 本当にあいつら、絶対に殺してやる。
 昨日のアレで、幸いなのか知らないけど人殺しには慣れた。臓物の臭いくらいもうどうってことない。

 元から、魔物の血くらい浴びることあったし。

 だから、私はあいつらを絶対仕留める。揃って息の根を止めてやる。

「覚悟はとっくに決まった。恵理は?」
「目的は同じよ。死ぬ覚悟くらいはできてる、この職についてからずっと。」
それから目を合わせ、息を合わせるようにして口を開く。

「「ぶっ殺す。」」
重なった声は、小さくも力がこもっていた。そんな決意とは裏腹に可愛らしいピコン♪という音が部屋内に響いた。

「……空、マナーモードにしときなさいよ。」
「スマホじゃないんだから……」
視界の端に光るものを開くと、いつも通りステータスが現れる。

「ステータスの値がバグってるのは気のせい?」
「これが普通だよ、私にとって。あと、人の個人情報盗み見るとか趣味悪いと思う。」
と言いながら警戒しない私。別に、今更感ある。

 憤怒の杖?

 鑑定眼で読む。が、ところどころ「⬛︎⬛︎⬛︎※⬛︎※※」などと文字化けしていてよく読めない。
 読めるところを抜粋するとこうだ。

 憤怒の杖
魔法少女ステッキから変更可能。変更すると全ステータスが5倍になるが、理性のたがが外れる。全スキル、魔法に属性が付与され、その全てに憤怒の状態異常を与える。
怒りの限りに殺し尽くせ。


 最後のはなんか語りかけてるようなものだった。文字化けしたスキルといえば龍神のアレだけど、それとは違う感じがする。
 なんというか、勘で。

 でも、いいと思えないんだよね。
 5倍って、しかも後のデメリットとか書かれてないし。覚醒でさえ4倍だよ?

「スキル名の通りってわけね。空、相当お怒りのようね。」
「……そりゃもちろん。ネルを傷つけた恨みは大きいよ?」
「空の味方なら絶対死なない気がしてきたわね。」
軽口を叩き合う。休憩はこのくらいにして、そろそろ本題だ。

「一旦、学園からは出た方がよさそうだね。顔は割れてない。身分と制服くらいかな。」
「余計暴動を助長する羽目になると思うけれど。」
「別に、その辺は国王に丸投げするよ。こういう時のために信頼を高めてるんじゃないの?」
荷物をまとめる。といっても、まとめるのは持っていくものではなく置いていくものだ。

 ブローチも名札も、ケープも、そこそこ気に入ってたんだけどね。
 また着れる機会があったら……って、ないか。

「行くよ。」
「もし顔がバレてたらどうするの?」
「そもそもローブに魔力通せば誰にも見えないから。それっぽく出てくればいいの、恵理は。」
「はいはい……」
雑な返事に返答はせず、ただ寮を出た。デモ活動でも行ってるのかってぐらいの熱狂だ。それだけ学園とは象徴なのかと内心驚いている。

 私はこれから、何も知らずに騒ぐこの人達を助けるのか……まぁ、この人達はついでに過ぎない。私は、私の守りたい人を守れればそれでいい。

 それすらできなかった私は、自分自身に呆れる。甘えた魔法少女面をぶん殴ってやりたい。

 この騒ぎの波に飲まれた異国の観光客として振る舞う恵理。人の波で着物が脱げそうになっている風を装い、色仕掛けをしている間に私は外に逃げる。

 着物は後ろで結ばれてるだけで簡単に取れるイメージがある。まぁ、実際そうかは知らないけど。

「恵理って、そんなことできるんだ。」
「暗殺者だもの。」
「えぇ……暗殺者にそんなスキル求められるの?」
解けた帯を締め直す恵理は、着物は目を引きやすいからやりやすいといったことを漏らす。

 何そのいらない情報。

「ってか、着物って体のラインが出ない服だったよね。…………そのはっきりと出た胸部と臀部はなんだろう。」
「神の趣味じゃない?空もそうでしょう。」
別種の怒りが湧いてきそうなのを抑え、とりあえずは神のせいと結論づけた。

「まずは拠点探しね。拠点がなければ方針なんて決まらないし。いっそ、魔王のように君臨してみればどう?」
「何?人を社会的に抹殺する趣味でもあるの?」
戯言はいいからさっさと着いてこいと首根っこを引っ掴む。側から見れば、恵理はさぞかし奇怪な動きをしているように見えてるのだろう。

 私達、拠点の場所に着くまで今回の反省でもする?

『いいんじゃない?さすがに、今回はミスが目立った。万能感抱いちゃったらおしまいよ』
ね?と見えない目が私を睨んだ。

『そうだ。今回は外でなく内で持つことが正しかったと私は思う。どうせ抱くなら、近づかれても打倒できるという万能感の方がよかった』
『外で全部決着つけるなんて、律儀に敵がそこから来るわけないのに』

 ぐっ……その言葉は私に刺さる。

『でも、やっちゃったんなら仕方ない。お片付けといこうじゃない』
私Aがかっこいいセリフを吐く。その時、なんとなく主従関係が逆転した気がするのは気のせいか。

———————————————————————

 次回は閑話。次章で恵理には活躍してもらおうと思っているので、とりあえず恵理のお話を置いておきます。
 恵理は本当に日本に戻りたいだけの一般人だったはずなのに……エンヴェルで転生したのが間違いだったんです。
 まぁエンヴェルだからこそってこともあったんですが。
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