上 下
413 / 681
12章 魔法少女と学園生活

388話 魔法少女と九十九

しおりを挟む

「ここが王都。話には聞いたこと合ったのだけど、実際に見るのは初めてね。」
注目を引きながら校舎まで歩くのは恵理。久しぶりのシャバの空気はうめぇと空を仰ぐ強盗犯のようにガッと息を吸い、お天道様に片手を伸ばした。

「そういえば、その腕。どうしたの?この間の面会時にそんな損傷なかったけど。空より強い生物がこの世に存在したのね。」
「先生が傷をつけられる姿が想像できませんね。」
「同じく。僕も、先生の実力を見た時にはゾッとしました。」
2人も重ねて同意してくる。私のことを一体なんだと思ってるんだとツッコみたいのは山々だけど、説明くらいはしてあげようかと思う。

 ちなみに2人が私の力を知ってるのは、1回暇な時に集めて私の力を見せてみたから。
 何をしたかって?
 秘密だよ、秘密。世の中には知らないほうがいいこともたくさんあるんだから。

「というかここ学園だから。王都は王都でも。」
「そ。」
「で、腕?龍に吹き飛ばされた。」
「随分とデンジャラスな魔法使いがいたものね。龍なんて、魔法が効かないで有名じゃない。」
「まぁ倒したもんは倒したんだから。」
恵理が頭大丈夫かと言わんばかりの目をしていた。そんな目をしなさんな。

「恵理の役目は黒服を殺すこと及び魔結晶の回収。後者がまず優先ね。魔力活性化しきったら大変だし。」
「分かってる。見えない首輪で繋がれてるんだから、無謀なことはしないわ。」
首に触れる。何もないけど、心持ち的な意味だろう。

 恵理って遠回りすぎて分かりにくいんだよね。意味を汲み取るのがむずい。
 まぁ、《女王》モードよりかはマシだけど。

 あれはマジでやりにくい。

 なんて思っていると、遠目に縦ロールが見えた。剣を片手に、型をなぞっていた。

「あの娘がどうかした?」
「私のクラスの子でね。勤勉でいい子だよ。プライドは高いけど。」
「ああいう人は好きじゃないの。」
そんなことを言う恵理の奇妙な服に釣られてリーディがこちらをみた。

「ソラ先生、それと先輩方。ごきげんよう。このような時間にどのようなご用向きですの?確か、論文の手伝いをと申していらしていましたが。」
それと……と、やはり恵理に視線が向く。

「詳しい説明はやめとくよ。」
「分かりましたわ。強引に聞き出すなど不可能と、存じておりますので。」
「リーディも、剣術頑張って。」
「もちろん、そのつもりでいますわ。」
もう1度、制服の端を掴んで頭を下げた。さすが公爵令嬢。格が違うことをよく感じさせる。

「じゃ、みんなに話してから始めようか。」

「私たちっているのかな?」
「さぁ?僕的には、必要性を感じないけど。」


「で、やっぱり私たちなの。」
「リーダーになったんだから、仕方ない。僕もやることがないのにいるのは心苦しいんだ。」
14人全員に説明をした結果、結論はこうだった。

「「「「それ、全員足手纏いじゃない?」」」」

 という思いの下、リーダー2人組がお供(制御係)として派遣される運びとなった。

 絶対止められるわけない……という思いは、2人の理不尽により無に帰すのだった。

「あの学生たち、やる気が感じられなかったのだけど。本当に王都の学園生なの?」
「逆に、脈に埋まった魔結晶を直接触れた上で持ち帰るなんて芸当、私達2人以外できると思ってる?」
「それはそれで気になる。」
「それは分かる。」
ジャパニーズな思考はいつでも強者をウェルカム状態だ。何言ってるか分からないって?私も分からない。

『なら誰も分からないでしょ』

「私には魔力眼っていうスキルがこの眼にある。常に、魔力はこの目に映っている。集中すれば、なおさら。」
「それで見えるってこと?周囲の魔力が濃すぎて私は上手くできなかったんだけど。」
「私は全でなく個を見るの。」
森の中、ゆっくりと目を開いた恵理の瞳は手の甲と同じ紋様が刻まれていた。

「へぇ……なかなかに計算された位置にあるのね。さすがというべきかしら。」
「ちょっと、女王節出てるよ。」
あら?と少し女王が滲み出ている恵理を肘でつき、正させる。

「総量で言うとこれを含めて99。九十九神とかけたのね。模擬的に神を生み出す……」
「模擬的に?」
「あー、《黒蜂》時代に魔力覚醒を起こさせて無理矢理神格化させるという実験を行なっていたの。あなたが滅ぼしてくれた地龍がその1匹というわけ。」
何やら恨みがましい視線を送ってくる。ワタシハナニモヤッテナイ。

 あれ、そんなやばい代物だったの?確かにフォルムチェンジまでしてきた龍だから何かあるとは思ったたけど、神格化?

「魔結晶の結界を張る。九十九の結晶で神を呼ぶ。呼ぶと言っても、創り出す。顕現させると言う意味になるけど。」
「早くしないと前の地龍レベルのやつが現れるって?それは尚更……」

「先生?私たちって何すれば……?」

「あなたはそこで空気にでもなっていたら?どちらにせよやることはないのだし。」
辛辣な一言におずおずと引き下がったカラ。流石の私も可哀想だなと感じた。特に何かするわけでもないけど。

「99個ねぇ。1つ1つ取ってたんじゃ日が暮れても回収しきれないんじゃない?」
「言っておくけど、別に除去する必要なんてないから。内包された魔力さえ取り出せればそれで。」
そう言って両腕を伸ばした。その手には鉄扇が握られていた。そして小さく息を吐き、その手の紋章が光る。

 あー、なんとなく分かったかも。
 なんだっけ?神楽……

 思い出そうとすると、やはり聞き覚えのある詩が詠まれた。

「奪い奪われ、絶ち絶たれ。闇夜の淵に触れるなら、地獄の園へ誘わん。神楽歌6節『渦月』」
途端、何かが渦巻いた。魔力だ。鉄扇が開かれ、吸収されるように。

「鉄扇よ、喰らい尽くせ。」
魔力は染み込むように鉄扇に吸われ、独特の光の模様を描いていく。次第にそれは薄くなり、最後に鉄扇を振るうことで終わりを示した。

「わざわざ力を振り絞って取り出すより、ここで破壊して吸収するほうが早い。」
「そんな方法あるなら早く言って欲しかったんだけど。精神的に疲労が抑えられたと思うんだけど。」
「これは魔力を吸い、貯蓄できる代わりに鉄扇が持たない。」
鉄扇を手で回して遊びながらそう言う。が、私にはそれを解決できる兵器が存在する。

 こんな時のための魔力たま~!

 テテテテッテテー、と昔のドラ○もん感のある効果音と共にステッキから出す。
 そもそもステッキが四次元ポケットの役目を果たしてるため、ド○えもんとほとんど変わらない。

「なにそれ。」
「魔力吸収球。本来は一定以上吸うと爆発する仕組みだけど、改良して保管できるようにしたんだよ。これを持ち歩けばいつでも魔力は心配なし。」
「便利品ね。セールはやってないの?」
「これは私専用だからね。」
そう言いつつちゃっかり球を3個渡した。合計で50個はあるため痛くも痒くもない。

 なんでこんなにって?授業やったじゃん、授業。それで作ったやつが使えるかなって。

「で、互いに欠点を補えることは分かったけど、位置は私分からないんだけど。その辺は?」
「囚人に助けを求める魔法使いってどうなの。」
「それを言ったら魔法少女に滅ぼされる最強暗殺チームってなんなの?」
互いにジャブを掛け合う感じの会話でお茶を濁し、「待っていて」と小さく言う恵理。着物の袖を捲ると、右手で私の前頭部に触れた。

「対象、右眼。リンクスタート。」
と、瞬間に熱いものが目に流れ込んできたような気がした。その瞬間右目をバッと抑える。

「……っ!」

「「先生っ!」」
焼き切れる、と思う寸前に私達が負担を肩代わりしてくれたお陰で、なんとか制御ができた。

「……制御できたの?」
「……なんとか、ね。人を殺す気?」
「そう見えなかった?」
「性格悪いよ、ほんと。」
右目に滲んだ涙を拭き取り、瞬きをしてみる。魔力の濃淡がはっきり読み取れた。

「これって、いつまで?」
「私がリンクを切るまで。所詮私の見ている視覚情報を共有しているだけだから。」
これは確かにヤバい情報量だと思いながら、魔力を流してみる。共有と言っていた通り、何も変化はない。

 確かに、99個。残り97個。遠い、遠すぎる。

『ふぁいとー、おー!』
『負荷軽減してんだから、頑張れ』
私からの激励(笑)を受け、眉を顰める。なんて自分勝手な。本体のことを考えて欲しい。

「さっさと取り掛かろうか……」

「飲み物、用意してきます……」
カラ達は1歩下がり、どこかへ行ってしまった。オスターも一礼し、学園に戻って行った。

「手早くやってよ。」
「足引っ張るなって言えばいいんじゃないの?あの時はもっと仲良かったよね?」
「あの時ってどの時?私を強制婚約させた人と仲良くなった覚えは……」
「自業自得でしょうが!」
ステッキの持ち手でツッコみ、もういいやと諦める。

『もう何を言っても無駄だ。そう思わせることが絡まれない方法って聞いたことあるよ』

———————————————————————

 さぁさぁ、今章もラストスパート。え、全くそんな感じがしない?
 それは知りません。私は何も関係ないのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

処理中です...