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12章 魔法少女と学園生活
389話 魔法少女は遭遇する
しおりを挟む「魔力喰らい。」
脈に隠された魔結晶に向かって紫紺が覆った。魔力が体から抜け、吸収された魔力は何故か消滅する。これで何個目だろうか。
20個?30個?まぁそのくらいやってるでしょ、多分。
『まだ9個だよ、9個』
現実を突きつけてくる私に、涙が出る。
「空、次の球。」
「あー、20個くらい一気に持ってけ持ってけ。」
「手に持てないけど。」
3つの球を交換し、吸収済みの球を私が貰い受けるという形だ。私の魔力も無限じゃないので、これから利用させてもらってる。
魔壊病にならないのかって?それがならないんだよねー。この魔結晶がやばい理由って、多分脈に流れるエネルギーを吸収するからで、それを私が取り込んだところで魔壊病にはならない。
そもそも、急激に、っていう注釈が必要なんだよね。
「2人で合計21個。私、少し遅いか。———流れ流され、吹き吹かれ。満点の月を臨むなら、仄かな光は我が身照らさん。神楽歌7節『瞬月』」
「お、ちょっとこんなとこで神楽ってかないでよ!学園のすぐ側だよー!」
一瞬で消えてしまった恵理。移動系のスキルと予想がつくけど、一体神楽歌の種類はどうなってるのかと聞きたくなる。
というか神楽歌って何節まであるの?
そもそも神楽歌って何?実在する言葉?創作?それともその中間?
頭を回しても何も出てこない。つまりは諦めろと天からお達しが来たと言っても過言ではない。
目の前の魔結晶に向け、魔力喰らいを放出させる。まだまだ数はあるので頑張らないといけない。
「先生ーおつおつ~!」
「あぁ~お疲れー。どう、自然の感じは?」
「なにその聞き方。まーいいです。少し……楽になったかも?って感じです。不純物が流れているような。」
「オッケー。この調子でいけば……っと。」
これで10個目。そう心で数え、次の魔結晶を探しに行く。
にしても、どうやってこんな量の魔結晶設置したのやら。
こんなのできるの、神か過去の人か異世界人くらいな者でしょうよ。
「先生、お水~!」
「あ、投げてーキャッチするから。」
言われた通りに投げ込まれる水筒。それをまるで吸い込まれるかのようにしてキャッチし、飲み口から口へ水を流し込む。パサついていた口内が水分で潤う。
「ありがと、じゃあまた随時。」
水筒を投げ返すと、まるで野球部のマネージャーのようにせっせこ働き始める。
逆なんだけどね、立場。今この状況、野球部で言うところの顧問とマネージャーで試合して部員が雑用してる状況。
異質さが分かるでしょ。
「ま、これ以外にないから仕方ないけど。」
また1つ、確実に数を減らしていく。
あー、めんどい。
それから時は進み、夕暮れ。
私はそれからも、魔力眼を借りつつ魔結晶の採掘という名の魔力回収、作業と化したそれを淡々とやり続けた。
10、20なんて知らぬ間に消えてゆき、私の魔力も同じく消えていく。ペースアップした恵理のおかげで魔力が尽きる事態にはならないけど、それでも果てしない。
九十九の魔結晶。どっちみち除去はしないんだから修復されそうだし、もういっそそのままにしたいと思ったけど、さすがに危険を度外視しすぎているためやめた。
最善の方法は、すべてを取り除き戻ってきた敵を討つ。
「これで46個。空は?」
「これで48個。まだあと3個。」
「だいぶ片付いたのね。スキルを使うのも楽じゃないの、労りなさい。」
「元はと言えばそっちの管理ミスだけど。」
「逃したのは空じゃない?」
口喧嘩は早々にやめる。この程度はじゃれ合いの範疇だ。
「分かってる、《黒蜂》なんで組織を作った私が間違っているってことは。日本に帰るなんて身勝手な理由で、大勢、この世界の人間を殺してきた。《黒蜂》の使命だと言って、裏に根を伸ばし情報を掠め取り続けてきた。」
「別に、悪いこととは思わないよ。私が《黒蜂》を壊滅させた理由は、大切に危害が加えられるかもって言う危惧。身勝手な思いだし。」
「同情は勘弁して。するなら墓でも掘ってから。」
「どういう意味?」
「同情されるくらいなら臨終してやるってことよ。」
そうとだけ言い、鉄扇を握る恵理の背中が離れていった。その方向は、間違いなく魔結晶の方向。
善悪って、本当なんなんだろう。互いにとっての善が悪になる。
私は本当に善なのかな。
『私らしくもない。善と思う道が善、そうでしょ?』
なんか日本でそんなこと言った記憶があるんだけど、私のセリフを私に言ってどうするの?
RPG、迷路系の面で間違った道、ボス部屋じゃないところに進んで行った時。
「そこ、道間違ってると思うよ」
「…………いや、間違ってない。善と思う道が善、そうでしょ?」
この日から、歩く攻略本というあだ名が生まれたとか、気のせいだったろうか。
「ま、そんな記憶は思い出の一部なんだけどね。もう、戻る場所なんてないんだから。」
きっと今頃灰になっているであろう私の本体に、日本での体に、両手を合わせて祈った。その時、万能感知に何か映った気がした。が、消えた。
『消えてない!移動したんだっ!』
私の叫びのより、なんとか行動が開始できた。体を身体激化であらぬ方向に捻じ曲げ、痛みを堪えて再生させる。
「ひぃ~、ほんまなんやあんさん。意味分からへんは。こりゃああいつや勝てないわけや。」
手を頭に持っていき、めんどくさそうに目を細める男がいた。フードを深手に被った。この声、この喋り方、最近聞き覚えがある気がする。
「久しぶりやな。ギルド振りやないか?」
「あの時の……」
依頼を受けるかの有無を訊いてきた男がいた。それかと咄嗟に結論を結びつけた。
「なんで、ここに?」
「そないなこと自分で考えんかい。」
最近の若いもんは、と言いたそうな顔で手を顔の前で振った。そして、一瞬で切り替わったその瞳には、光が宿っていなかった。
「あんた、本当厄介だ。決めた。あんたはここできっちり始末する、ボスの手は汚させない。」
確か、アルファーと名乗っていたような男の顔が見えた。まだ30は行っていないと予測できる、25前後だ。若い。
そもそもアルファーって……アルファ?ギリシャ数字だっけ……α、β、γ、Δ、Υ……あれ、この先なんだっけ。まぁいいや。
鎌をかけられるほどの知能があったらなぁ。
学の低さを悔いながら、もう1度だけ疑問符を叩きつけてみた。
「ボス?誰のこと?」
「答える義務はない。———ソロ、孤高たりて弾き奏でん。」
さっきまでの関西弁もどきはなんだったこというほどのキャラの変わりよう。
「……っ!」
手にはいつのまにか湾曲した鉈のような、殺人鬼よろしくというような武器を振るってきていた。それも、私の認識から完全に外れて。
目の前にいるのに、いるはずなのに……気配がつかめない?空間移動系の能力?いや、それなら万能感知が引っかかるはず。
突然の攻撃に、私は遮二無二ステッキを振り抜いた。
「……無駄に威力が高い。」
途中で後ろに飛び退き、瞬間。また目の前にやってきた。
「っ、どんなトリックよそれ!」
流石に2度同じ手を食うことはなかった。が、それで見切ったと言えば全くの冗談となる。
「アクアソーサー!」
10枚の水の刃が飛翔し、近づけさせないようにする。でもそれは鉈により全て切り裂かれた。その一瞬でラノスを引き抜くと、空間伸縮を使う時間すら惜しいと目を細く引き絞り、照準を合わせた。
「ちっ、今はまだ分が悪いか。」
そう言うとフードを被り直し、鉈をしまった。
「え、ちょっと待て!」
「そんじゃあ、また会おうか。次は抱えきれない地獄と共に、あんさんを殺しに行く。」
言った途端、気配が完全に消えた。どこにもない。瞬間移動でもしたのかと思うくらい。
なんだったの、今の。
いつ警戒を解いていいか分からず、私はただ神経をすり減らしていった。
———————————————————————
そろそろ話が動いてきましたね。今章序盤に出てきた関西弁野郎は、ここに出てきます。
最初はそのままギリシャ数字のアルファからオメガまで、24人の幹部として出そうと思っていたんですけど、最近丁度最終話を迎えた某異世界アニメにもいたんですよね。
それに気づいてしまってはさすがにそのままとはいかず、とりあえず似たようなものを考えた結果「○○重奏」と言う形に変えさせていただきました。
だからソロです。
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