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12章 魔法少女と学園生活
375話 魔法少女は見直す
しおりを挟むバレないようにそっと校舎に戻った私は、2限目に間に合うようにと足早に教室に向かった。
私は何故か教師の仕事の諸々はやらなくていい代わりに、全授業に出席しろとのお達しだ。急がないといけない。
「あれ……人、いない?」
「あら、ソラ先生。いらしていたのですか?」
「……っ、リーディかぁ。」
教室を見回していると、横から声がしてつい過剰反応してしまった。万能感知、仕事して。
とりあえずこの状況はなんだろう。
リーディだけいるこの状況は一体なんだろうか。
「……その様子ですと、次の授業を知らないということですわね?」
「そうそう、いい観察眼だよ。」
「えぇ、まぁ。2限目はアーネール先生とイース先生の剣術の指導ですの。わたくしは室長ですので、教室の鍵締めを。」
そう言い、私を外に出して戸に手を当てた。すると、魔力光が少し瞬き施錠されたか確かめ、「こっちですわ」と場所を案内された。
こんな朝からとはハードだね。
私だったら文句言ってるよ。特に、冬の1時間目の体育はハズレもハズレだ。
「ソラ先生は剣術の授業は見たことないのでしたね?」
「今日が初出勤だし。」
「学園の剣術は凄いのですよ?元王都騎士団の総騎士長でして、直々に剣を振ってくださるのですわ。」
楽しそうに語るリーディ、剣への愛がすごい。
こういう風に一心になれるのすごいよね。ゲームで剣使うのは好きだけど、現実でとなるとね。
私の武器と魔法もほとんどが遠距離戦向け。
刀は護身用だしね。
もしVRMMOでも発売されるとしたら、やっても魔法剣。セオリーなら魔術師とかでパーティーは組むつもりないから速度と攻撃上げて基本回避と魔法を軸に……まぁいいや。
なんて無駄な考えをしていると、修練場についた。
「ここですわ。」
2枚の扉がついており、同時に両方を開くリーディの先には、木剣を持ち談笑する生徒達がいた。
「まだ休み時間ですので、各々の時間を過ごしていますわ。わたくしは少々体操をしますわ。それではごきげんよう。」
木剣の保管所に優雅に立ち寄り、シュッと抜き去る。めちゃくちゃ様になっていて、思わず感嘆の息を吐く。さすがお嬢様だ。
で、私はどうすればいいんだろう。
とりあえず監視でもしておこうかと壁に背をつけた。
その時、横から声が聞こえてきた。声質的に、女の子か。
「あっ、あの……ソラ先生……」
「ん?どうかした?」
なんでみんな横から話しかけてくるのか聞きたかったけど、それをこの子にするのはお門違いかとやめておいた。
「ずっと気になってました。その腕……」
「あー、ずっと流してたもんね。みんなは逆になんでだと思ってるの?」
「その……魔物に食べられただとか盗賊に斬られたとか、色々言われてます…………でもボクっ、ソラ先生が戦っているところを見てかっこいいって思ったんです!じゃなくてえっと……なので、本当は何かな……って。」
一瞬、顔全体が見えた。最後は恥ずかしそうに下を向き、男殺しの上目遣い。胸がないのが逆にいい。
青みがかった銀髪、それを短く切り揃え少し短め?な感じに仕上がってる。ボーイッシュだ。
更にボクっ子。これは完璧。
「もうすぐ授業始まっちゃうよ?」
「ならそれまでに……!……ふぇっ。」
私はこの女の子の頭を軽く撫で、「秘密」と耳元で囁く。「そっ、ソラ先生!?」と顔を赤らめるこの子相手に、ちょっと面白くなってきた私がいた。
「ごめんごめん、からかいすぎた。……でも、世の中には踏み込んじゃいけない世界があることを忘れちゃいけないよ。」
「……はい。」
魔力を覇気のように見立て言うと、その丁度に鐘が鳴る。と同時に戸は開き2人の教師が入ってくる。片方はアーネールさん、もう片方はさっきリーディの言っていたイースさんか。
イースさん、まだ引退するような年じゃないよね?50くらい?まぁその年になれば鈍るのかな……
「……ほぅ、君が例の………」
「あ、え、はい。空と申します。」
「私はイースだ。もう高い身分などない故、畏まらなくて結構だ。」
威厳たっぷり言うと、整列する生徒達の前に向かって歩き始めた。到着すると、リーディが「礼ッ」と一言、全員の頭が下がる。
うおっ、これが異世界式起立礼着席か……さっきの授業は特殊すぎて聞けなかったけど、普段はこんな感じなのか。
「本日はいつも通り基礎訓練……といきたいが、まだこの学園の実力を知らぬ者がおる。だから、今から行うのは実力トーナメントだ。勝ち抜き戦をやってもらう。」
所々から「よっしゃ!」と歓喜の声が上がる。確かに、基礎訓練とか怠そう。
「ルールは簡単だ。まず4グループに分け、くじ引きで組を分ける。今は何名いる?」
「48名です。」
「ならば12名ずつトーナメントを行い、残った4組で準決勝・決勝だ。くじを引け!」
言われると、いつの間にか床に置かれた紙を引きはじめた。アーネールさんの手には箱。そういうことか。
これで学園の人達の強さを見ろってことね。
まぁ、リーディは強かったけど他はそこまででしょ。リーディはあの歳で醒華閃使ってきたし、化け物だよ化け物。
ちなみに1から4に分けたうちボーイッシュな子は2、リーディは4。決勝は1、2の勝ち残りと3、4の勝ち残りだから可能性はある。
「結構やるね。みくびってたかも。」
「だろう?わたしやイース元総騎士長に手解きされた者達だ。弱いわけがなかろう。」
アーネールさんが我が子のことのように、ドヤって話す。ぶっちゃけ子供のお遊戯……剣道の授業くはいのを想像してた。4つのフィールドのうちひとつ、ちょうど準決勝に向かうための試合をしていた。そこにはリーディの姿も。
「最後のは3人でやるんですね。」
「協力して1人をマークするもよし、全員バラバラに動いてもよし。判断を委ねている。」
「この場合、図らずともリーデリアが狙われるってことですね。」
見ていると、実際にそうだ。男子1人と女子1人、互いに背後を取られないように、接近しつつリーディに視線を向けている。
「卑怯ですわね。でも、それも正規の方法でしたわね。なら、正面から砕くのみですわっ!」
巨大な理不尽に叩きのめされたリーディは、朝よりも洗礼された綺麗と思える剣振るった。決して型は変えない、けど戦い方は状況によって変える。
歪とも言えるけど、いい成長だと思うよ。私は。
『公爵令嬢が一体どこに向かっているのやら』
『私に触発されたんじゃな~い?』
脳内で何か言っているも、特筆すべきな点はないと切り捨てた。
相手の2人は弾かれたように左右にカーブしリーディに向かう。剣を別方向から叩きつけた。
でもリーディは冷静だ。左右から迫る剣のうち、左手で左側の剣、その手元弾き、半回転し右の剣を回避しつつ右手の木剣を振り抜き左右同時に討ち取る。
「「ぐっ……」」
歯を食いしばり、なんとか立ったまま距離を取る。
「2人同時に戦えば、勝てるとお思いでしたの?」
煽るように笑い、向こうを動かす。完全にリーディに戦況を支配されている。
「昔は少々粗さが目立ったが、育ったものだ。」
アーネールさんは腕を組み、戦闘を感心するように見ていた。その間私は百合乃とどっちが強いか考えていた。
まぁ百合乃は化け物じみた暴力で切り刻む感じだから、技術とかはスキルカバーないとね。
結果、もちろん勝者はリーディ。
そして準決勝、決勝と続き結局リーディ。
結局、リーディゲーということがよく分かった。高慢な人も多いけど、その分の実力は備わってるってことかな。
あー、異世界でも学校行かなきゃいけないのかぁ……
アーネールさんの隣、小さくため息を吐いた。国王を呪ってやりたい。過労死寸前まで忙しくしてやりたい。
何か、危ないものが芽生えた。
———————————————————————
せっかく死んで異世界に来て夢の好きな時に好きな仕事をする自堕落生活を送れると思った空。しかしその先に待つのは安寧とは言い難い日々。
カフェ作りに始まり、竹林を探索し、竜と出会い、神と会って、魔物を退け、かと思えば犯人探し、終わると何故か過去にいて、戦争に送られ、そして神を殺し、旅行に来たと思ったら、精霊の森に迷い込んで、果てには教師生活。
これが半年行くか行かないかの間に行われたイベントの数々。
改めて見るとヤッベェですね。
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