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12章 魔法少女と学園生活

372話 魔法少女は我慢する

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「進級者諸君、おはよう。今日もいい朝だ。さて、今の学長挨拶の通りだが、今年の特別講師は冒険者だ。」
ほんの少し時を遡り、B室の室内。

「なんだよあの女……オレらとそう歳は変わらなさそうだぞ?」
「金で仲間を買ってランクを上げている道楽令嬢でしょうか?見たところ、所作も何もあったものではありませんが……この学園はいつから託児所になったのでしょうか。」
と、ほとんどがこのような反発的な意見であった。

 残りの意見というと、「可愛かったな……お父様に頼んでうちの妾に……」「少々ここでのルールを手取り足取り、ふっふふふっ……」と凡そ変態意見だった。
 誰もが耳に留めていない。

「君たち、少し黙れ。君の言うようにここは託児所じゃない。つまりは、実力が伴っているためだ。学園に訪れた理由は国王陛下は黙っておられるが、お墨付きであると言うことはくれぐれも承知してくれ。」
覇気と共にそう放つ。そうは言われても、と言う反応だが、渋々納得の表情を浮かべた。

「……お、噂をすれば、だ。入ってこい。」

「……あっ、失礼しまーす。」

—————————

「……あっ、失礼しまーす。」
ドアを引くと、一気に注目を受けた。態度に出ないよう、慎重に閉め、教卓の前に上がる。

「姿勢を正せ。紹介しよう。これから約3ヶ月間、我が学園で君たちを指導する者だ。」
セリフをほとんど取られた。アーネールさんに視線を向け、「どうすりゃいいの」と言うのを頑張って気配で伝えようとし、断念した。

「まぁ、紹介に預かった通り。どうせランクは金で買ったんだろ~って、思ってるところ悪いけど、私のは単独でここまできてるから。……まぁ1回ギルカが壊れてランク下げられたけど。」
ボソッと呟いた、が学生たちの耳は案外良かったらしい。しかも、都合がいい。

「下げられていると言うことは、その分失敗していると言うことでは?」
「ギルドカードが壊れたって……はぁ…………うん、いいよ。もうそれでいい。疑いたいならどうぞご勝手に。」
仕切り直すように咳払いをし、自己紹介をやり直す。黒板のような、魔導具で文字が書ける(というかなぞった部分が魔力で光る)ものに名前を書く。

「空。国王様の命令でこれから教師をさせられる冒険者なわけだけど……質問とかいい感じですか?アーネールさん。」
「……親睦会を兼ね、これから少し質問時間を取る。何かソラに聞きたいことがあれば挙手を。」
と、鋭い声で言い放つ。それを聞いた男子生徒が、ゆっくりと手を挙げた。

 あれ、名前って……ああ、これか。

 教卓に席と名前の一致した紙が一枚あった。それを手に取り、少年の名を確認する。

「じゃあそこの……シーベルクさん。」
「はい。」
呼ばれると、席を立つ。背筋が伸びていて、向こうが教師と言われた方が納得できる。

 はは、笑っちゃうね。
 この空気も地獄みたいだ!

「冒険者というのは普段何を?」
「何を、っていうのは依頼以外はって認識でいい?」
「はい。」
真っ直ぐな視線。そういう素直な質問は私も好印象だ。

 そういう男子は嫌いじゃないよ。好きでもないけど。

『知らぬ間に私にフラれるとかあの人も災難だね』
という戯言を吐かれた気がするけど、多分耳が詰まってるせい。

「休息かな。低ランクの場合危険な依頼なんてないけど、降格防止、あと昇進のために必然的に高ランクの依頼を受けなきゃいけないから。ほとんどの人の場合、依頼は1つでも命懸け。その分報酬はいいけど、休みがないと体がもたないと思うよ。」

「その言い方では、先生は違うとも受け取れます。」
「あー、バレちゃった?」
ここまで話したなら、もういいやと全部語る。

「私の場合、依頼で特に危険と思ったことはないかな。依頼外の面倒事に首を突っ込んでばっかだから、そっちで命の危機を感じてる。でも、休息なことに変わりないよ?というか、私自身旅行中だったわけだし。」
心の中で、この国のマナーはどうなってるんだと毒付く。

 旅行中の少女を学園の教師にするとか、正気の沙汰とは思えない。正気じゃなかったらしないんだろうけども。

「じゃあ次の質問。」
恙無く進行させようと思った私は、特に微妙な視線に反抗せず大人な対応で無視をする。

 我慢と無視は大人の甲斐性。
 反発だけが対処法じゃないんだよ。処世術を習いたまえ、学生諸君。

 一部の低レベルな学園生VS低レベルな私

 悲しいことにどっちもどっち。どんぐりの背比べ的な状態だった。身長で言ったら私の方が低い。

「お1つよろしくて?」
「はい、どうぞ?」
先を促す。立ち上がったのは、金髪ツインドリル吊り目と明らかなお嬢様だった。警戒心はいきなりMAX。なぜならこういう奴は、大抵何かを引き起こさないと済まないからだ。

「わたくしの名はリーデリア・グリフィン。公爵家次女、堅実のリーディと言えばお分かりでしょう?」
「……………」
ツインドリルの片方を掻き上げ、見下すように見つめる。私も同じくして、見上げた。

 うん分からん。あと、後から堅実の意味を辞書で引いてみよう。堅実というのはツインドリルの金髪には毛ほども似合わない言葉だよ。

『偏見すごいな』

 ただ事実を述べたまでだよ。

「わたくしは貴方のことが気に食いませんわ。その腕は、依頼中にでも失ったのでしょう。ですが、その貧弱な体……その貧弱さで、どのように冒険者を務めるというのですか!わたくしは、認めませんわよ!」
睨みつけるように私の貧弱な筋肉を視線で突き刺す。

 まったくその通りでぐぅの音も出ない!
 よく見てらっしゃるよ堅実は似合わないとか言ってごめんね!

 こんなペラペラが、森を歩けるなんて思えない。私でもそう思う。

「わたくしは、努力もしないで力を飾るのは気に食いませんわ。そんな虚飾、わたくしは認めませんわ。権力も力でしょう。よく知っていますわ。しかし、それとこれとは別物。貴方は、存在自体がわたくしの努力を否定するのですわ!」
「リーデリア!いくら公爵令嬢と言えど口は慎め!」
「アーネールさん、ちょっと口出ししないでもらえませんか?私がなんとかします。」
一瞥し、そう言う。と、大きくため息をつくアーネールさん。「好きにすればいい」と、最終的に折れてくれた。

「それで、結論は?」
「わたくしと模擬戦をしましょう?」
教室内はざわめき出した。

—————————

 リーデリア・グリフィン。16歳。
 グリフィン公爵のご令嬢として、それはもう可愛がられて育てられた幼少期。

 長女であるアイシール・グリフィンは学問にも剣術にも秀でた才能を持ち、独自の創造性も持ち合わせていた。
 王子の婚約者候補としても選ばれるほどの優秀さと美を誇る姉。
 そんな姉に近づきたくて、リーデリアは甘えを捨てた。理想に向けて振り返ることなく走り続けていた。

 そうしているうちに、堅実のリーディと言われた。対して姉は、才能の天才と呼ばれた。

 死ぬほどの努力をしてようやく背中が見えてきた。その事実が悔しくて仕方がない。

 だから一層努力した。それでも才能を伸ばす姉は、どんどん離れていく。尊敬する姉ではあるが、心のうちで黒い感情が渦巻き始めた。

 努力を重ねる人間は好きだ。努力は嘘をつかない。人間を形作っている。それを見れば、大抵のことは分かる。

 筋肉の張り、剣ダコ、足使い、言葉遣い。様々な要素からその人間の努力が分かる。

 しかし目の前に現れたソラという女はどうだろう。筋肉は薄く、体に怪我もない。ある怪我といえば左腕の損傷。傷口から察するに高度な魔法的治療を受けたか。金の力だろう。

 総じて道楽。
 目の前の女は努力をせず金で欲を満たしてきた、己の最も忌避する存在。

「じゃあ次の質問。」
「お1つよろしくて?」
挙手をし、立ち上がる。

 認めてはならないと、彼女の心が訴えていた。

———————————————————————

 いや……いつ先生するんですか?
 空はまだまだ御戯をいたします。もう少々お待ちを。
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