397 / 681
12章 魔法少女と学園生活
372話 魔法少女は我慢する
しおりを挟む「進級者諸君、おはよう。今日もいい朝だ。さて、今の学長挨拶の通りだが、今年の特別講師は冒険者だ。」
ほんの少し時を遡り、B室の室内。
「なんだよあの女……オレらとそう歳は変わらなさそうだぞ?」
「金で仲間を買ってランクを上げている道楽令嬢でしょうか?見たところ、所作も何もあったものではありませんが……この学園はいつから託児所になったのでしょうか。」
と、ほとんどがこのような反発的な意見であった。
残りの意見というと、「可愛かったな……お父様に頼んでうちの妾に……」「少々ここでのルールを手取り足取り、ふっふふふっ……」と凡そ変態意見だった。
誰もが耳に留めていない。
「君たち、少し黙れ。君の言うようにここは託児所じゃない。つまりは、実力が伴っているためだ。学園に訪れた理由は国王陛下は黙っておられるが、お墨付きであると言うことはくれぐれも承知してくれ。」
覇気と共にそう放つ。そうは言われても、と言う反応だが、渋々納得の表情を浮かべた。
「……お、噂をすれば、だ。入ってこい。」
「……あっ、失礼しまーす。」
—————————
「……あっ、失礼しまーす。」
ドアを引くと、一気に注目を受けた。態度に出ないよう、慎重に閉め、教卓の前に上がる。
「姿勢を正せ。紹介しよう。これから約3ヶ月間、我が学園で君たちを指導する者だ。」
セリフをほとんど取られた。アーネールさんに視線を向け、「どうすりゃいいの」と言うのを頑張って気配で伝えようとし、断念した。
「まぁ、紹介に預かった通り。どうせランクは金で買ったんだろ~って、思ってるところ悪いけど、私のは単独でここまできてるから。……まぁ1回ギルカが壊れてランク下げられたけど。」
ボソッと呟いた、が学生たちの耳は案外良かったらしい。しかも、都合がいい。
「下げられていると言うことは、その分失敗していると言うことでは?」
「ギルドカードが壊れたって……はぁ…………うん、いいよ。もうそれでいい。疑いたいならどうぞご勝手に。」
仕切り直すように咳払いをし、自己紹介をやり直す。黒板のような、魔導具で文字が書ける(というかなぞった部分が魔力で光る)ものに名前を書く。
「空。国王様の命令でこれから教師をさせられる冒険者なわけだけど……質問とかいい感じですか?アーネールさん。」
「……親睦会を兼ね、これから少し質問時間を取る。何かソラに聞きたいことがあれば挙手を。」
と、鋭い声で言い放つ。それを聞いた男子生徒が、ゆっくりと手を挙げた。
あれ、名前って……ああ、これか。
教卓に席と名前の一致した紙が一枚あった。それを手に取り、少年の名を確認する。
「じゃあそこの……シーベルクさん。」
「はい。」
呼ばれると、席を立つ。背筋が伸びていて、向こうが教師と言われた方が納得できる。
はは、笑っちゃうね。
この空気も地獄みたいだ!
「冒険者というのは普段何を?」
「何を、っていうのは依頼以外はって認識でいい?」
「はい。」
真っ直ぐな視線。そういう素直な質問は私も好印象だ。
そういう男子は嫌いじゃないよ。好きでもないけど。
『知らぬ間に私にフラれるとかあの人も災難だね』
という戯言を吐かれた気がするけど、多分耳が詰まってるせい。
「休息かな。低ランクの場合危険な依頼なんてないけど、降格防止、あと昇進のために必然的に高ランクの依頼を受けなきゃいけないから。ほとんどの人の場合、依頼は1つでも命懸け。その分報酬はいいけど、休みがないと体がもたないと思うよ。」
「その言い方では、先生は違うとも受け取れます。」
「あー、バレちゃった?」
ここまで話したなら、もういいやと全部語る。
「私の場合、依頼で特に危険と思ったことはないかな。依頼外の面倒事に首を突っ込んでばっかだから、そっちで命の危機を感じてる。でも、休息なことに変わりないよ?というか、私自身旅行中だったわけだし。」
心の中で、この国のマナーはどうなってるんだと毒付く。
旅行中の少女を学園の教師にするとか、正気の沙汰とは思えない。正気じゃなかったらしないんだろうけども。
「じゃあ次の質問。」
恙無く進行させようと思った私は、特に微妙な視線に反抗せず大人な対応で無視をする。
我慢と無視は大人の甲斐性。
反発だけが対処法じゃないんだよ。処世術を習いたまえ、学生諸君。
一部の低レベルな学園生VS低レベルな私
悲しいことにどっちもどっち。どんぐりの背比べ的な状態だった。身長で言ったら私の方が低い。
「お1つよろしくて?」
「はい、どうぞ?」
先を促す。立ち上がったのは、金髪ツインドリル吊り目と明らかなお嬢様だった。警戒心はいきなりMAX。なぜならこういう奴は、大抵何かを引き起こさないと済まないからだ。
「わたくしの名はリーデリア・グリフィン。公爵家次女、堅実のリーディと言えばお分かりでしょう?」
「……………」
ツインドリルの片方を掻き上げ、見下すように見つめる。私も同じくして、見上げた。
うん分からん。あと、後から堅実の意味を辞書で引いてみよう。堅実というのはツインドリルの金髪には毛ほども似合わない言葉だよ。
『偏見すごいな』
ただ事実を述べたまでだよ。
「わたくしは貴方のことが気に食いませんわ。その腕は、依頼中にでも失ったのでしょう。ですが、その貧弱な体……その貧弱さで、どのように冒険者を務めるというのですか!わたくしは、認めませんわよ!」
睨みつけるように私の貧弱な筋肉を視線で突き刺す。
まったくその通りでぐぅの音も出ない!
よく見てらっしゃるよ堅実は似合わないとか言ってごめんね!
こんなペラペラが、森を歩けるなんて思えない。私でもそう思う。
「わたくしは、努力もしないで力を飾るのは気に食いませんわ。そんな虚飾、わたくしは認めませんわ。権力も力でしょう。よく知っていますわ。しかし、それとこれとは別物。貴方は、存在自体がわたくしの努力を否定するのですわ!」
「リーデリア!いくら公爵令嬢と言えど口は慎め!」
「アーネールさん、ちょっと口出ししないでもらえませんか?私がなんとかします。」
一瞥し、そう言う。と、大きくため息をつくアーネールさん。「好きにすればいい」と、最終的に折れてくれた。
「それで、結論は?」
「わたくしと模擬戦をしましょう?」
教室内はざわめき出した。
—————————
リーデリア・グリフィン。16歳。
グリフィン公爵のご令嬢として、それはもう可愛がられて育てられた幼少期。
長女であるアイシール・グリフィンは学問にも剣術にも秀でた才能を持ち、独自の創造性も持ち合わせていた。
王子の婚約者候補としても選ばれるほどの優秀さと美を誇る姉。
そんな姉に近づきたくて、リーデリアは甘えを捨てた。理想に向けて振り返ることなく走り続けていた。
そうしているうちに、堅実のリーディと言われた。対して姉は、才能の天才と呼ばれた。
死ぬほどの努力をしてようやく背中が見えてきた。その事実が悔しくて仕方がない。
だから一層努力した。それでも才能を伸ばす姉は、どんどん離れていく。尊敬する姉ではあるが、心のうちで黒い感情が渦巻き始めた。
努力を重ねる人間は好きだ。努力は嘘をつかない。人間を形作っている。それを見れば、大抵のことは分かる。
筋肉の張り、剣ダコ、足使い、言葉遣い。様々な要素からその人間の努力が分かる。
しかし目の前に現れたソラという女はどうだろう。筋肉は薄く、体に怪我もない。ある怪我といえば左腕の損傷。傷口から察するに高度な魔法的治療を受けたか。金の力だろう。
総じて道楽。
目の前の女は努力をせず金で欲を満たしてきた、己の最も忌避する存在。
「じゃあ次の質問。」
「お1つよろしくて?」
挙手をし、立ち上がる。
認めてはならないと、彼女の心が訴えていた。
———————————————————————
いや……いつ先生するんですか?
空はまだまだ御戯をいたします。もう少々お待ちを。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる