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12章 魔法少女と学園生活

367話 魔法少女は跡を汚さず

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 百合乃が地面を跳んで木々を飛び移り始めた。スキルも充実してて、汎用性の高いものが多いのが百合乃なので、私は結構ずるいと思ってる。

 私のスキル、圧倒的に使いにくいんだよね。運命とか叛逆境とか、やばいのもあるけど使用法がむずい。
 百合乃みたいなのを本当のチート主人公って言うんだろうね。捻くれてもなくて、コミュ力もある。

 そんなことを考えているうちに、百合乃は空中に躍り出ていた。
 衝波をうまく使いこなしていて、空中移動も楽々できている。

 百合乃のスキルの難点は、ものによってはクールタイムがあるのが多いってことかな。まぁそれでもチートには変わりないけど。

 なんて傍観者気取ってる私でも、しっかり自分の仕事はする。

 重力軽減からの跳躍。空中歩行で空に足をつき、移動中に逃げ出したらしいバーディアに小銃を向ける。

「そっちは馬車路だから、通さないよ。」
片目を閉じ、照準を合わせる。この距離になると空間伸縮はおまけレベルだ。息を細く吐くと、銃を握る力が強くなる。魔力が流れ、銃口が輝き、トリガーが引かれる。

 これは兵器としてじゃなくて武器として使おう。こういうのはいくつあってもいいからね。

 シュッ。空気を切る音以外鳴らないその弾丸は、狙い通りの軌道に沿って飛んでいく。

「距離約500、斜め方向右に約10°横。上昇中。気配察知って色々分かるんだね。」
結果は見る必要もない。遠くから聞こえてくる木々を折り葉が擦れ合う音を聞いて、小声でミッションコンプリート、とキメ顔で言ってみる。

『厨二病だ』
『なかなか良い腕をしているっ!私にも貸してくれ!』
聞こえないふりをするのが得策だと思い、ゆっくり宙で踵を返して小銃の具合を確かめる。

「おらおらおらぁ!空には一歩も近づかせたりさせないです!」
「ギュグァァァァァアアッ!」
1匹、肩を抉られた。踏み台にされ、地に落とされると血を振り撒き生き絶えていく。次はサーベルにて頭蓋を割られ、怯えたバーディアは遠距離跳ね攻撃と出た。

 おぉ。鳥といえばの定番攻撃。羽飛ばし。
 ウィングカッターとでも名付けよう。

 ウィングカッターは、サーベルを突き刺し実質的に身動きを封じられた百合乃に迷いなく飛んでいく。刺されという願望が伝わってくる。

 でも……相手がねぇ。

「木葉舞。」
サーベルを、頭蓋を突き刺したまま振り無理矢理斬り裂いて羽を弾いた。秋も中盤、突風が吹き荒れ紅葉の雨を全て斬り裂くかのような綺麗なフォームで、ワルツでも踊るかのような鮮やかな舞をみせた。

「感覚……後少し。もう少し、もう少しあれば分かる……」
百合乃は次の目標に目を向けた。サーベルに籠る力が増し、もはや衝波でも使ってる!?ってレベルの域に達してる。

 これはもう……なんというか討伐じゃない。蹂躙だこれ。これは倒すとかいうワードが可愛らしく見えてくる殲滅だ。

 本能からその真っ直ぐなまでの殺意に戦々恐々とするバーディア達に容赦なく遅いくる剣戟。縦に裂かれれば当然横にも。

 とうとう数は半分にも満たなくなってきた。5匹いるかいないか。
 隠れてるのは私が銃で倒しておく。少しぐらいは出番が欲しいしね。

 舌を出してテヘッと。最近、少し涼しくなってきた風が吹いた。

「まだまだ、やられないでください。わたしは醒華閃っていうのを習得するまで、あなたたちを斬り刻むんです!」
「「「ギュワッ!?」」」
意味は理解せずとも、やばいということを察した様子の鳥達。一気に広がり百合乃の周りを一定の距離を保ち旋回し始める。時々羽を放ってくる。

 地味に頭いいね。
 それが圧倒的なまでのチートに勝てるかは置いといて。

 確かにこれが群れでいたら厄介かも。
 これが物盗みに来るんだから、一般人は怖いよね。今は百合乃の方が悪夢だけど。

「わたしだって、やればできるんです!———穿殺し!」
サーベルは光らない。それでも1歩手前まできてるように、素人目でも感じられた。その剣先にあったのは、風穴を腹に開けたバーディア。統率が乱れ始めた。

「ほんとに1人で終わらせちゃいそう……ちょっと前が懐かしいよ。なんで、こんな化け物に育っちゃったかな。」
育て方を間違えたと思った。

「空~、見てます?」
「見てる見てる。この調子でいけば倒せるよ。」
「やる気出ましたっ!」
これ以上出されても困る、とは言えなかった。なんか怖かった。帰ってきた時みたいにいきなり斬りかかられたらと思うと、少しゾッとする。

 前みたいにスキル使われたらわたしの防御とかすぐに突破されそう。
 地位を奪われないためにも……レベリングしますか。

 自分の創造力にも期待して、消化試合と変わらない百合乃の狩りを眺めておく。
 ここ最近疲れたから、あんまり動かなくていいのは楽だ。

 そもそも、本来百合乃の成長は喜ばしいことなんだよ。私の手から巣立つ時がきたんだよ、そうだよ。だから独り立ちしてもらおう。

『嫌です無理です遠慮します』
『わたし、サーベルこれを首に突き立てる覚悟くらいありますよ?』
『似てる似てる~!』

 なんか絶妙に言いそうなセリフ言うのやめてもらえない?

 私の脳内思考は止まるところを知らない。毎回こうなので、無視する以外の対処法がない。

「空、どうしたんです?」
「っ!?」
ビクッと肩が跳ねた。さっき跳んでいったはずなのにと思い、バーディアは?と問う。解はもちろん「倒しました」

 …………いつの間に?

『ほら、思い出せ。代わりに私が見ておいてやっていた。喋らないからと言って何もしていないと思うなよ?』
こんなにも眼帯が頼もしく見えたのは初めてだったりする。

 記憶によると、瞬刃で瞬時に瞬死させていた。サーベルの刃が煌めいたのが見えたキリで、これが剣技チート……と、もはや感嘆めいたため息も漏れる。

「素材、一緒に回収しに行きません?確か討伐の依頼なので核石の回収はsafe!」
「う、うん。じゃあ……まぁ森は綺麗にして返そう。馬車路の確認してくるからそっちはよろしく。」
百合乃は元気よく手を振り、回収に向かった。私は相対的にテンションが下がり、一刻も早く眠りにつきたい衝動を堪えて私の撃ち落としたバーディアを見にいった。

 おーまいがー。

 私は素直にそう思った。
 そして、何か反応をと思い3秒悩み口にした。

「キャー。」
棒読みすぎて誰も来ないんじゃないかとも思う。それでもキャーだ。

 馬車路に、ドロっと血と臓物が溢れていた。
 撃った場所は確かに馬車路を外れていたはず。

『小銃の威力が高すぎて吹っ飛んだんじゃない?』

「これ私直せないんじゃない?馬車路の整備法も、血肉の掃除法もしらないんだけど。」
落下した衝撃に散らばりまくった血と凹みをどうしようかと頭をかき、とりあえず屍を排除する方面へ移った。

「重力操作で上げられないかな?」
あ、いけた。そう呟き、空中に舞った肉塊を森の方へ肥料として献上した。どうぞ安らかに。

「あとこの凹みは……再生創々でいっか。」
超単純な帰結。それでもなんとかなるのが魔法のすごいところだ。みるみるうちに、道が再生されていく。

 思うんだけど、再生ってどちらかというと過去に戻す……ドラ○もんのタイムふ○しき的な効果だよね。

「空~!こっち終わりましたから、この辺の死体収納お願いします!」
「オッケー、今から行くからそこで待機しといて。」
空中歩行を使用し時短をする。百合乃が振る手が見え、その横に積み上げられたバーディアの山を見て頬を引き攣らせる。返り血がないのは神の力か。

 それにしても……結構な量だね。核石補充もまぁまぁできそう。
 でもハリボテの可能性あるんだよね……
 でかいけど核石は小さいとか。

 そんなことは置いておいて、私は早く寝たいと軽く欠伸をして下降していった。

———————————————————————

 百合乃のチートは止まることを知りません。ザ・チートを行くのが百合乃。なんかチートが空、ということです。

 スキルが見てからにチートなのが百合乃。スキルが名前だけ強そうなのが空。
 スキルだけで戦えと言われても運命とかで勝ちは揺るがないでしょうけど、押されるのは確実です。
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