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12章 魔法少女と学園生活

365話 魔法少女はデートする

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「はぁ……」
宿に戻ってきた私は、深いため息を吐いて自室のベットに腰掛けた。金はフィリオが解決するので問題はない。

「調査するから魔導具作れって、次の呼び出しまでに作れって……さすがに厳しすぎない?」
構想も何も思い浮かばない中、悩みに悩む。うがー!と叫びたいけど、近所迷惑になるので控える。

 私はできるだけ常識人でいたいんだよ。

 息抜きに早めの夕食でもいただこうとか思った私は、緊張が解けたからか疲労と頭痛を抱えて立ち上がった。

 その時。

「空っ!わたしが歓天喜地間違いなしの超絶プランをお届けに来ましたっ!」
「部屋間違えてるよ。」
ご飯を諦め、私は開け放たれたドアを閉めに行った。

「聞いてくださいよっ!?」
「迷惑だから声量下げて。」
こんなところでうるさくされてもアレなので、私は仕方なく、不満ながら部屋に招いた。嬉しそうに入ってくる百合乃に私の気持ちを理解して欲しい。


 翌日の事。
 いつも通り廊下から聞こえてくる忙しない足音で起床し、重い目を擦る。なぜが隣に寝ていた百合乃に半無意識でヘッドロックをキメる。「ぎぶぅ、ぎぶですぅ……」と呻き声が聞こえたのは私の幻聴だ。

 撃沈した百合乃はベットに放置し、朝ごはんをために広間に向かう。そこには軽い食事が並べられ、昨日の百合乃の提案を思い出しながら美味しくいただいた。

『わたしとデートしましょうっ!』
『え、嫌だから帰って』

『どうしてです?!最近ずっと構ってくれなかったんだからいいじゃないです?!』
『と言ってもどこによ』
『さぁ?』
『無計画すぎる!?歓天喜地間違いないんじゃなかったの?』
『それを探すのもデートのうちですー』

「いや、無責任すぎでしょ。」
そう言うと、慌てて口を閉じる。周りから少し視線を感じたのでさっさと食べて外に出た。

「王都でデートねぇ……そもそも女子同士ってデートじゃないよね。」

「空っ、なんで先に行くんです?」
「うわっ!?……さっき意識飛ばしたはずなのに、起きてくるの早すぎない?ご飯は?」
「胃に放り込んでおきました。じゃあlet's go!」
地味にいい発音で、空に拳を突き上げた。その顔は満面の笑みで、幸せそうな顔だった。

 仕方ない、面倒見るのも保護者の勤めかな。

 私の手を握り、引っ張っていく百合乃を微笑ましく見つめ、好きなようにさせようかなとされるがままに走っていった。

「で、どうしてこうなったの?」
「なにがです?」
心底不思議そうな瞳を向けてくる。そんな目をされると私がおかしいことを言ってるように聞こえる。やめて欲しい。ここは、郊外の平地だ。

 なんでこうなったんだろうね。最初は、もっと普通のデートだった気がするのに。

 もう自分でデートと言ってしまうくらいの動揺はしている。

 初めは大通りの商店街を回っていた。歩行者天国というのか、人々は馬車路にまで繰り出し軽食を口にしたり雑貨を漁ったりしていた。
 そこで私達も、串焼屋やベビーカステラのようなものを売っている屋台を冷やかし、小物を見て買うか買わぬか一喜一憂していた。

 はずだった。はずだったのに……
 一体何が百合乃をそうさせたのか。

「郊外に出るもんだから、てっきりあの祠群を見にきたのかと思ったのに。ここで訓練してくれって……デートはどこへ?」
「わたし、一応強くなったんですよ。それを見てもらいたいんです。その気持ち、分かってくださいよ。鈍感です。」
「そんな感覚分かるくらいなら鈍感のままで結構。」
刀の調子を確かめながら、間合いを開ける。じゃなければ、もう別ゲーになっちゃう。

 近距離から斬り合いなんてできないからね。そもそも、百合乃のサーベルを受けることが訓練の目的なんだから。

「空~、こっち準備OKです。」
「ん、こっちも。」
サーベルと刀を頭上で振り合い、合図を出す。百合乃を構えるのを見届け、百合乃が望むならそうしてあげようと小石拾い投げた。地面に落ちると同時に、訓練が開始された。

「俊撃!」
「先制攻撃?また変なスキル増やして……」
と言いつつ、しっかり受け止めていく。それは向こうも予想済みなのか、天震で私の腕を痺れさせて衝波で後退、私が右後ろに足を運ぶのに目を光らせた。それと並行して百合乃がサーベルを動かす。

 多分、仮定未来眼かな。めっちゃ厄介な反面、少し難点というかマイナスポイントがあるんだよね。

「……灯柳。」
私を一刀両断すべくサーベルが振り下ろされる、その直前に動きを変え、後ろではなく前に進む。

「っ……さすが空ですっ!それでこそわたしが惚れた女の子っ!」
「嬉しくない称賛をありがと。でも気を抜かないほうがいいよ。」
まるで未来を読んでいたかのような迷いのない一撃。

 一旦何か牽制したほうがいいかな。

 雷を、地面に手をつけ放った。少量しか流れないけど、フェイクだ。ちょっと惑わせればそれでいい。地面に雷なんて通るわけないから、本命はこっち。

 私、羽出して。飛べなくても効率上がるでしょ?

『はいよ、言われなくても』
その言葉通り、私の背中には人間にあるはずのない蛍光色の2枚の羽が。下に引っかかった百合乃に、跳躍して上から暗黒弓の雨を降らせる。

「わたしが魔法効かないの、忘れてません?」
サーベルを地面に突き刺し、叫んだ。

「絶禍!」
何かオーラのようなものが一体を埋め尽くし、暗黒弓に亀裂を入れ破壊していった。

 範囲攻撃まで!?ますますチートに箔がついていく……

『ステータスはさほど上昇してない。やっぱり、意識を失うのと関係あるかも』

 その冷静な判断今はいい。

 腰についているパクトを握りたいけど、絶賛刀を使用中。片腕がないのはきつい。

「まだまだこれからですっ!」
地面から縦に1mくらい伸びた波動が迫ってくる。それを躱すも、動きを完全に読んでいたような動きだ。

「山紫水明!」
「綺麗だからといいってわけじゃないよ!」
土壁で防ぎ、斬られる。私は土壁の上から降り、重力操作を百合乃の1歩後ろにかける。

「空の攻撃って真っ直ぐです。」
「それって褒め言葉?貶されてるようにしか聞こえない。」
百合乃が見上げ、サーベルを振り上げようとすると……百合乃の真正面の壁から土槍が生える。

「……っ!」
それを無理矢理体を捻り避ける。私は斬りかからず、槍の上に着地しトールを放った。

「追い打ちかけないでくださいよ~!」
「いや無理言わないで?」
百合乃はそれを回避するため仕方なく地面に背面から落下する。

「はい、私の勝ちね。」
「まっ、まだで……?体が動かないんですけど、空何か知りません?」
「無防備な状態で、さらに全身くまなく重力をかけられれば動けないのも当然だよ。だから私の勝ち。」
百合乃が「空はチートです!ずるいっ!」と喚いていた。「そっちの方がチートの自覚ある?」と返すのを無視して、動けない中でもジタバタと抵抗する。

「まだ昼前だけど、どうする?」
重力を消し、百合乃を立たせるとふとそう尋ねた。

「デートはまだまだ続行しますよ!」
「切り替え早っ。その前にご飯食べに行こうよ。」
「またご飯です?」
「またって何またって。」
「さっき、露店を冷やかしたばっかじゃないです?もういいじゃないです?」
「食べてはないから。早めの昼ごはんってことで。」
百合乃は私の腕を掴み、「なら行きましょう」と言って笑ってくる。私はこう思った。

 百合乃の世話って大変だなぁ。

「むっ、今変なこと考えませんでした?」
「え、心読むのやめて?」

———————————————————————

 365話、これだけで見ると丸々一年経ってますね。なんでこんなに続いてるんでしょう。
 まぁ、私の都合で途中で終わる可能性もあれば、続く可能性もあります。
 あとどれだけ続くか、見ものですね。
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