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11章 魔法少女と精霊の森

351話 魔法少女と無理ゲー

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「ぶち抜くわよ!」
突然叫んだのはベール。精霊術の準備が終わったのか、額に弾のような汗を流しながらこっちに視線を送る。

「なるべく早く!もう持たない!」
それに応えるように、私も全力で叫ぶ。意味はないけど手を伸ばしているのは、重力操作の気分が乗るから。

『5人がかりでもきつい、か。あの精霊マジでやばいかも』

 えっ、いつの間に全員集合!?

『銃弾が切れたあたり。回避も攻撃も必要ないからね』
『私は最初からだ』
『私も~!』

 奥歯を噛み締めて唸る。こんな露骨に発動させるスキルなんて存在するんだなと思った。自分のスキルだけど。

「渦巻け、轟け、放浪の焔!」
花火が光ったような巨大な光が正面から見え、一瞬気が緩みそうになる。その隙を突いてか、精霊さんの腕が空中でぴくりと動いた気がする。

 やばっ!私っ、なんとかして!

『無茶言うのは私もじゃん!』
さっきベールに言った言葉を自分に返された。でもやるしかない。

 根性じゃ根性!根性論はそこまで好きじゃないけど根性で乗り切るっ!

 すると、向こう側から大量に分散した炎の塊みたいなのが精霊さんに向かって直行していた。
 そして、着弾。

 爆炎を吹き上げ、煙が満たされる。酸素が減ってきてる。流石に集中も持たないので、重力操作を切って扉を開け、装填を行なった。

「ちょっと、厳しいかも……補助に徹させてもらうわよ……」
「オッケー!でも炎系はやりすぎないでね!私人間だから死んじゃうよ!」
「よく分からないけど分かったわ……」
ベールは部屋の端に移動する。私は返事を聞き、戦闘に戻る。煙が邪魔だから4度弾丸を放った。何故か、一瞬で煙が晴れた。

 これ、確実に来るよね。
 全力回避!

 私に命令する。無理矢理跳ね、空を蹴ってその場を移動し、ラノスと刀を入れ替える。そして神経を研ぎ澄ませ……

「危なっ!突然、出てこないでよっ!」
真横に大剣を振るう精霊さん。空中で、大剣と刀が火花を散らす。

 向こう空飛んでるのずるい!私、羽なんて使えないのに。不公平だー!チートだー!

「えぇ……さっき爆発、1ゲージも削れてない?」
私が見たのか、情報が頭に入る。HPゲージの赤色が、残り3分の1になってる。

 でも、着実に削れてはいる……けど、けど。このままじゃジリ貧。削り切れるビジョンが浮かばない。

 蛍光色がキラキラと輝き、着地し見上げる形になると少し眩しく感じる。

 硬くて再生もあって強い。
 これって無理ゲーって言うんじゃないの?

 ほぼ100%負け確の状態に、少し悲しくなってくる。

 と、そんなことを思ってる暇はないと察する。

 精霊さんの口が、パクパクと動き始めた。声は聞こえないけど、確実に詠唱をしてる。呼応するように光を放つ羽。魔法陣のようなものがあちこちに浮き、全てが私に狙いを定めた。

「っ、やばいってそれは!」
小型の槍のようなものが雨のように降ってくる。地面を一瞬にして抉り、その威力にビビる。そして当然のように床は再生する。

 ほんとどうなってんのここ!どういう原理でこんな機能が生まれてるの?
 というかこんなの人が勝てる相手じゃないよ!最初に力を確認した意味は?

 魔法が使えないから、とかそういう次元じゃない精霊さんに相手に、いや神試戦そのものに文句を吐き連ねる。

『そんなのいいから、早く重力!』
私もご乱心だ。立ち絵があれば汗を振り撒いてる構図が生まれそう。

 私は駆けた。それはもう全力で。
 精霊さんの方は自分の攻撃は当たっても通り抜けるだけなので、堂々と攻撃を仕掛けてくる。しかも、それが死角になって攻撃が読みづらい。

「っ……痛みはないんじゃなかったの?」
脇腹を掠り、抑えてる余裕もないから血はそのまま
振り撒く。

 体……鈍くなってきてる。薄寒い。
 それにしたって痛い。痛すぎる。あれを声出さずにやりきったの素直に褒めてほしいんだけど。

『そんなこと言ってないで、早く動けっ!』

「っぶない……当たったらめちゃくちゃ痛くて避けに専念すれば精霊さんの的になる……勝ち筋が1本たりとも見当たらない!」
踏み込んだ。連続して刀を振るう。一見したら刀を出鱈目振り回してるように見えるけど、実際には進行方向の槍を防いでいる。

『数が多いっ!目の前の弾いたら、避けに集中!ラノスに切り替えて弾きながら行って!』
『了解!』
『精霊、左斜め前から突進。回し蹴りだー!』
ノリノリで合図を出すアホ毛の私。しかし私はそれにしっかり反応していて、邪魔な槍を残り4発で跳弾アンド直撃を繰り返して排除。そのまま大剣を躱すように跳んで重力たっぷりの蹴りを喰らわせた。

 装填完了。

『重力は私に任せて。止めれて5秒。すぐ決めて』
『重力弾にしといたよ~!それと、よく分かんないけど、原素で魔法が少し撃てそう!』
『よくやった!』
私がガッツポーズしてる姿が浮かんでくる。段々と私たちに体が追加されてる気がする。

「なら……バースト、バレットぉ!」
吹き飛ばした先。宙に浮いて、大剣を盾のようにして固まる精霊さん。変なところで止めてくれちゃってまぁ。

 でも、やるしかないんだよね。
 せめて、傷くらいつけさせれないと泣くよ?

 重い引き金を引いた。
 距離は目測2、3m。さすがの私もこの距離で外したりはしない。

 パァァンッ!パァァンッ!パァァンッ!

 空気が振動し、熱を持つ。ベールも驚いていた。

 スキルのおかげかな?
 この精霊の森に、

 銃弾は無事大剣に着弾し、同位置に3発。剣が、中程から折れた。

「よしっ!」
そのまま緊急着地をし、思いっきり飛び込むように精霊さんの元へ。

 こんにちはー!今から死をお届けに参ります配達員の魔法少女でございます!

『調子乗んな、私』
ボロボロのワンピース、乱れた髪、血の滲む体。そんな私に更なる追い打ちをかけようとする私がいた。

 あれ、これだけ見たら強姦にあった幼気な少女じゃん。

 ツッコミは来ない。それだけ集中してるんだろう。そう思うと、何考えてるんだろうって恥ずかしくなってくる。

『なら最初からやんな』
というツッコミはなかったということで。

「……ちょっと試しで、雷刃!」
そんな技名はないけど勝手に付けた。魔法としての形は保てないけど、何かに纏わせるくらいなら簡単にできる。

『……………避けろ、私っ!』
私の声が脳に響く。さっきもこんなことがあった気がする。けど、今回は動いてくれない。大剣が下げられ、その奥には魔法陣。何かがバチバチと弾けており、そのHPゲージはみるみる減って1ゲージ目の赤色を突破し、2ゲージ目にまでいっていた。

 え、あの精霊さんのHPが?
 あ……これ死んだ。これ、完全死んだやつだ。私分かる。

 私のHPはおよそ8割。痛みの割にまだ残ってる。でも、こんなの直撃以外の結果は見当たらないしその場合確実に当たる。

 嫌だ!こんなところで死にたくない!死にはしないんだろうけど蒸発するとか嫌だよ?そんな死に方は認めない!

『なら死ぬ気で避けるんだよ!私!さっさとその刀を真下に向けろ!死ぬ気で射出するんだよ、その雷を!』
『重力操作、ギリギリ間に合うかもしれないよ~!』
『こちらはもう取り掛かっている。私よ、深淵に潜るならば、共に逝こう』
私がここまでイケメンに見えたのは初めてだ。厨二感は……この際仕方ない。なるがままに、私に身を任せる。

 体に浮遊感を覚える。下から衝撃も感じる。

 そして正面から精霊さんが消えた。1番離れた角に張り付くように跳んでいた。羽が盾の役目を果たしている。
 一方でベールは開け放たれた扉に背を当てていた。

 ……扉?そうだ、これが逃げ口。
 逃げ口、そうか、逃げ口がある。ベールを一旦あそこに避難させて……

 こんな時に頭は謎に冷静に働いた。声はギリギリまで出なかった。

「ベール!逃げて!」
最低限を伝える。なんとか伝わったようで、扉の中に入ってそれを閉めた。いい判断だと思う。

「あっ……これ、やばい……」
制御だけであの精霊さんのHPをゴリゴリに削った魔法陣。膨張する錯覚をし、ヒビが入るのが最後に見えた。あとは、全てが白い光に染まった。

 …………………………………………………痛い。

———————————————————————

 沈みかけた思考の中で最後に出てきた言葉。まぁそれがどうしたって話ですね。
 とりあえず折り返し?ですかね。ラスボス戦は折り返しに入ってると思います。多分。
 作者しっかりしろって?私もそう思います。
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