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11章 魔法少女と精霊の森

350話 魔法少女とラスボス

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「……はぁ。もう行くから。」
立ち話に疲れてきた私は、ずっとウザい顔で佇むクソロボに声をかけた。

「ベールももう行くよ。」
「分かってるわよ。あんた、壊されなかっただけよかったじゃない。神試戦に感謝することよ!」
少し苛立った様子で捨て台詞を吐き、クソロボはクソロボで「死なないように頑張れぇ~!ファイトっ、ファイト」とウザいポージングを取り出した。私は、八つ当たりをするように扉を思いっきり開いた。

 あー、2度と顔見たくない。
 あのミニキャラ感満載のウザ顔を次に見た時にはマジックで塗り潰したいと思う。もちろん油性だ。

『私、気配が違う。気をつけて』

 うん。それは扉開けた瞬間から分かった。ものすごいプレッシャーあるよこれ。ポ○モンの特製並の威力だよこれ。

 ベールも心なしがソワソワしていた。緊張が一気に走った。

「また同じような石部屋……少し広い?」
そのままゆっくり歩いていく。ラスボスという言葉を信頼したわけじゃないけど、別に嘘は1回も言ってなかった。ウザいだけだった。

 そのウザいのが問題であるのはまぁ無視するとして。寛大な心で無視するとして、だ。

「罠とか大丈夫?」
「流石にボス部屋にまで仕掛けられてはないと思うよ。仕掛けられてたらそれは神試戦の性格が本格的に悪いと周知される瞬間になるね。」
「足場が急に移動して落下死した挑戦者、忘れてないのよね?」

 あ、もうみんな知ってるのか。性格悪いこと。そもそもあんなクソロボ見たら誰でもイラつくと思う。画面の皆さんもイラついてることだろう。

「あ、なんか出てきてる。」
「なんかって何!?ラスボス、そんな簡単にポップするもんなの?」
部屋の中央、その空中に光の粒子がキラキラと舞っていた。それが段々と人の形を作り出した。

 人の形好きだね。え、私が躊躇うのを狙ってる?狙ってやってるよね。これは確信犯。

 ここで登場シーンを待ってやるほど私は大人じゃない。いや、子供じゃないなのかな?そこはどうでもいいや。
 まぁつまり先手必勝、死ね!

『これが主人公……』

 うるさい。

「ベール、撃つよ。」
「え、切り札の話は?」
「そんなの1回目の試練で置いてきたよ!バーストバレット!」
ラノスを引き抜き、ベールの力も借りながら引き金を引いた。燃える弾が一直線に光の粒子にぶち当たる。特に変わらなかった。

 えぇ……せめて分散くらいしてほしい。

 そんな風に思っていたら、光は固まって凹凸が出てきた。綺麗な精霊さんが現れた。なんか左右に3枚ずつ合計6枚羽がついてる。しかも美人だ。

「なんでこういうのまで美人にしなきゃいけないの?異世界にはそんなルールがあるの?え?」
「あんた、落ち着きなさいよ。」
真顔で肩に座るベールが言った。

「すごい迫力よ。絶対強いから、気を引き締めて。」
「ベールも、精霊術の準備してね。」
顔を強張らせ、ラノスを構えた。美人精霊さんは色素の薄い金髪を揺らし、ゆっくりと目を開くと碧眼を覗かせた。無言だ。

 喋れない……のかな?でも感情はありそう。なんかキョロキョロしてるし。

 精霊さんが首を動かすと、ちょうど私達の方向に視線がやってくる。
 目が合った。

 その次の瞬間。姿が消えた。

『右だっ!』

「ゔっ……!」
なんとか簡易シールドを張った。このくらいなら私もできる。顔を苦痛に歪めるも、その場に押さえ込むことはできた。

 あれ……なんか、痛い……?

「っ、離れなさいよ!炎よ燃えよ、より大きく、より強く。爆ぜて消えろ!」
「それ、私も巻き込む……っ。」
巨大な炎弾が私の真横を通り過ぎた。熱風が顔を撫でる。

「大丈夫よ。天才の研究者は手先が器用だもの!」
「それを毎回、発揮してほしいね。」
ちょっと重くなった右腕を揉みほぐしてどうにかし、爆発音がした頃には再びラノスを構える。

 これ、やっぱラスボスだ。見た瞬間に襲いかかってくるとか完全なるラスボスだよ。
 私はどう見る?

『神レベル、かな。人神が遊んでる時ぐらいの強さは最大であると思っていい』
『多分さっきの、本気だったよ~!』
『力試し、ということか。私よ、少し、時間を稼ごう。ふっ、大船に乗った気持ちでいるがいい』
私の突然の密な連携。手際がめっちゃいい。

 あの途中の試練は、思考を停止させるための不可避の罠……だと思う。ここまできた時には色々考える気力も動く気力もないだろうから。

 力試しは最初ので済んでて、残りは疲弊させるためのお遊び。なんて趣味の悪い。

「あんた……あいつのゲージ、見て…………」
「ん?一体何が……あぁ、あれは、やばいな。」
私が代行して喋っていた。眼帯が見えたのは気のせいだろうか。

『私、さすがに見えてるよね』

 私のこと舐めすぎじゃない?私の能力は私が1番知ってるでしょ。

『だからじゃな~い?』

 私。言葉っていうのは、不可避の弾丸なんだよ。

 そう脳内で軽く血を吐き軽口を叩いて見るのは、精霊さんのHPゲージ。私のはもちろん1本。しかも緑ゲージ。でもあれは違った。赤ゲージ、それが4本。チラッと緑ゲージが見えてるのは、さっきの爆発のダメージ。

 あれでこれだけ、かぁ……先が思いやられる。

「やばい量のHP。勝てる気がしないね。」
「勝つのよ。じゃないくて、あれ。ちょっとずつだけど回復してるの、見える?」
「……確かに。赤の割合が心なしか増えてるような?」
これは早期決戦じゃないとやばそうだ。

「あんた、その羽使いこなして見せないよ!飛ぶのよ、空を!」
「無理無理無理無理!魔法があれば別だけど、原素は濃すぎて魔法が形にならないんだって!そもそも、魔力と原素ってほとんど別の物質だから!」
「もう!頼りない契約者!」
そう言いながら雷を連射する。私も、ラノスを一旦しまってプローターを指弾で放つ。ベール様々だ。

 着実に削っていかないと。
 削れる時に削らないと、回復される一方だから。

 こんな風に一方的な遠距離攻撃は、長くは続かなかった。

 途中、煙が晴れた。手に大剣を握った精霊さんが、羽の蛍光色を強く光らせて一直線に飛んでくる。ギリギリ捉えられるスピードだ。

 これは一旦避けて……

『そんな暇ない!絶対アレは仕掛けてくる!』
そんな声が脳内で反芻し、体が勝手に動いた。無理矢理流した原素が、簡易的な身体激化を引き起こして横に飛ぶことができた。少し以外そうな目を向けてきていたのが見えた。

『まったく、私は世話が焼けるな』

 私のことなんだから、しっかりその世話焼いてね。

 再びラノスを構え、回避は私に一任する。精霊術もだ。

 私は撃つことにだけ集中、集中だ!

 後ろから炎が飛んでくるのが見える。ベールだ。援護射撃に感謝しながら、身を屈めて走る。7色の弾が光を飛ばしながら乱射されていたのを避けるためだ。

 時折ジャンプで避け、足場を作って急接近。大剣が迷わず振り下ろされるのでラノスの銃身で逸らし、回転蹴りを後頭部に入れる。

「っし!」
確実にクリーンヒットの感触があった。HPは、1ゲージ目の6分の1くらい緑が見える。ほとんど変わらない。

 まともに受ければラノスは壊れるだけじゃ済まない。まともに当てても向こうは擦り傷レベル。

 やばい、勝ち筋が見えない。

 後ろに回ったついでにラノスを撃つも、羽が邪魔して当たらない。しかも、羽1枚1枚自我があるように思える。精霊術も撃ってくる。今みたいに。

 赤色のホーミングレーザーだ。

「こんなん避けれないってぇ!」
そう喚きながら3人がかりでどうにかする。重力操作で受け流し、相殺しつつよけつつで。

 重力操作ありがたすぎる。これからはありがたみを噛み締めて使おう。
 これなければここに立ちすらできなさそう。

 なにせ、あの高速移動の瞬間から精霊さんには重力操作で重くなってもらってる。それがなければ、今頃頭と体は寂しいお別れをしなければいけなくなってることだろう。

『私達がいなければ回避に一杯一杯で使えなかったでしょ。感謝して』

 私の体なんだから守って当然じゃない?

 不遜な態度をどうにかしてほしい。それでも私だからどうしようもないけど。
 私の一部分を切り分けて固めたみたいな性格してるよ、この4人。

「とりあえず、1ゲージくらい削ってから考えよう。」
重力操作にガン頼りした本気の戦闘。神クラスとなれば仕方ない。まぁ厳密には四神も神じゃないけど。

 任せたからね。こういう時くらい、しっかり働いてもらわないと。

『タダ働きでこの扱い。私でも私が怖いよ』
『でも、同じ体と思考のよしみだよ。手伝ってあげるよ』
私は残っている弾を全て撃ち放った。銃声がうねりを上げ、精霊さんが大剣を持ち上げたところで静止した。重力操作だ。

『あと持って3秒!今のうちにやれ!』
『再装填にも重力操作が必要だよ!?』
『私の出番だな』
『できるだけ支援するよ~!』

「あんた!どデカいの1発いくから、もう少し耐えてちょうだい!」
「……無茶言うなぁ……」
5つの声が頭をかき乱す。でも、ちょうど私は手ぶらだ。片腕だから弾の装填もできない。攻撃手段もない。

 なら、重力操作に力を入れるだけ!

 この瞬間、ラスボスとの死闘が始まった。

———————————————————————

 結構3話くらい使いそうな気がしますね、このラスボス回。もっとストーリーあるといいんですけど、私にそんなことを求められても、って感じです。

 無職が剣と魔法の世界に転生しそうな、皆様ご存知であろう超有名ななろう系のラノベ、これ私大好きなんですよね。
 ストーリー性からキャラクターの心情を描く上手さがとんでもねぇんすよ。すごいっす。パナイっす。

 無詠唱の魔術チート、でもただTUEEEするだけではない。その辺の魔法少女とは大違いの神作品ですね。

 こんな文才や発想力があるといいんですけど、あいにく私はそんな大層なもの持ち合わせてないんです。
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