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11章 魔法少女と精霊の森
348話 魔法少女はバルス
しおりを挟む全力で走った。途中からベールの羽も回復して、終わったんだと理解したけどまだ走った。
もっと安全地帯を探したかった。
走り始めて少し体が温まってきた頃。出口が見えてきた。
……ここら辺で休憩にしよう。
出口の壁の角に手を付き、私は息を吐いた。
「大丈夫?体、血出てるよ。」
天才と大見栄切っていた頃が懐かしく見えるほど疲弊した様子のベールが、私の腕を触った。
「あー、うん……実際のダメージではないっぽいし、精神に異常をきたさない限りは死にはしないよ。」
ケロッと笑ってみせる。幻肢痛的な痛みが傷口からするけど、もう慣れた。
『こんな女子高生この世にいないでしょ。ギネス取れるって』
『なんのギネスなのそれ』
『ふっ、この暗き深淵に誘われし唯一の……』
『世界一我慢強い17歳の魔法少女ギネス~!』
『なんとも限定的なギネスだこと』
いつもと同じだ。無視でいい。
というかもうちょっと方向性変えてもいいと思う。ずっと同じじゃ飽きるよ、読者は!
『脳内に読者なんていると思ってんの?』
画面の前の皆さんに謝れ!
『病院行こ?』
アホ毛が飛んできた。アホ毛の先端がうまい具合に返しになっていて取りずらい。
そういえば次の試練なんだろう。あと半分ちょいしかHPないけど、派手なの来ないでね?
若干怯えつつ、目を凝らして中を見る。
「階段?」
「螺旋階段?ここって休憩地点なの?」
気疲れがようやく取れると思ったのか、ベールの顔が少し晴れた。
と思わせて、踏み込んだ瞬間穴が開くとかやめてよ?
ちょっと大股で中に入った。気を遣った。
「ふぅ……一安心、でいいのかな。」
何も起きなかった。私は軽く体を伸ばし、リラックスする。
「早く先に行くのよ。時間制限があるかもしれないんだから……」
「待ってよ、さっきの私の働きぶり見たでしょ?体中怠いんだけど。少しは休もう……って聞いてない。」
先にどんどん飛んでいく。少し不満そうにしてヤケを起こしてる感じだ。
先に行ったって何があるか分からないんだから……ラノスだって、バーストバレットとかはベールがいないと撃てないし。
もっと慎重になってほしい。
心の中で文句を呟きつつ、小走りで追いつく……と、ベールが階段の目の前で立ち止まっていた。
「……ベール?どうしたの?」
「これ。」
「ん?」
ベールの先にあるそれに目を向けた。何か、空中に文字が書いてあった。
〈これを見ているってことは、ここまで辿り着けたんだね。凄い!偉い!ひゅ~ひゅ~、くぁっこうぃ~!〉
「は?」
〈でもでも、傷だらけでもう満身創痍だね!〉
ウザったらしい文が流れてくる。誰のせいだと思ってると叫びたい。
〈ここで大チャ~ンス!階段に向かって、『助けてくださいお願いします』って土下座すれば回復させてあげないこともないよ~?〉
「誰がそんなことするのよ!」
「いやベール、ちょっと待って。それだけでHP全回っていうのは破格……?」
「あんた、しっかりしてよ!あんたが狂っちゃったらわたしここから先どうすればいいのよ!」
「だから回復するんでしょ!」
とても他人に見せられないお見苦しい言い合いになってきた。しかもこの煽り様。
まさか、ここに来て煽りステージが来るとは……急に意地が悪くなってきた。
霊神って趣味悪い?
〈あぁ~、で、も~。くぁっこうぃ~い君たちは馬鹿みたいなプライドがあってできないよね?しかも皆んな観てる中で!〉
「な、何よ……この天才にできないことが、あっ、あると、でも?」
「ベール、嫌なら嫌と言おう?そもそもベールのHPは減ってないし。」
拳をりんごでも潰すのかと思うくらいの勢いで握り、顔を顰めている中諭すように言った。
私がずっと守ってたからね。最初ので少し不安はあったけど、今見た限り1ダメージもまだ入ってない。ちゃんと緑ゲージ満タンだ。
〈恥ずかしいの?恥ずかしいのぉ?ざぁこざぁこ、ほらほら、怒った?怒っちゃった?文字相手に本気になっちゃった?〉
「轟け雷鳴、撃ち爆ぜよ!」
「何してんの!?」
雷弾を文字に向けて発射した。ラノス用に作った精霊術の応用だ。本気度具合が察せられる。
「チッ。やっぱり効かないの……」
「舌打ちやめよ?ね?」
目がキマってる。これは野放しにしたら殺る目だ。神試戦が壊れちゃう。
ちょっと私!助けてー!ヘルプ、ペルプミー!ミーペルプ!
『ここは傍観しておこう』
『みんな~、今が休むタイミングだよ!』
『つまらん劇だ』
『そんなこと言わず、ほらコーラ。』
黒い炭酸飲料。脳内だから作り放題飲み放題だ。
太らないし記憶にある限りなんでもできるからって……私だってそろそろクリームソーダでも飲みたいよ!
やっぱり炭酸飲料も不人気ではあれどあり、食で革命は一生起こせそうもないなと、深く感じた。
炭酸は冷えてないとまずいから、氷属性の核石が少ないこの世界じゃあんまり飲む機会がなくても不思議じゃない。
いやそうじゃない!そうじゃない!
『なにあの一人芝居』
『それを言ったら私達もそうなるんじゃない?』
これ以上何か言っても余計盛り上がるだけだから、もう私は何も思わないことにした。
〈攻撃しちゃった?怒っちゃったのかな?文字相手に?ぷぷっ〉
「ねぇ、これ書いてるの誰か分からない?わたし、今からそいつをぶっ飛ばしてくるの。」
「うん、頑張ってー。」
〈早くしてねー。土下座するなら早くしないと、もう消えちゃうよ~?さーん、にー、い~……〉
もうそろそろめんどくさくなってきた。HPは重要だ。私の防御力を突破する攻撃を易々撃ってくる神試戦において、不安要素は排除したい。
「はい、これでいい?」
頭を地面に付け、右手を前に。そして『タスケテクダサイオネガイシマス』と呪文を唱えた。緑のゲージが、みるみるうちに、増えていったよ!
「何してんのっ!こんな奴の言うこと聞かなくたって……」
「はいはい、神試戦を突破するんでしょ。ならなりふり構ってられないんじゃない?あそこまでしちゃった手前、ここで引くのはなんか違う。」
HPは元通りになり、ぐちゃぐちゃになったワンピースを整えて立ち上がる。
〈ぷぷっ、いいもの見れた~!じゃ、また会おうね~?〉
「2度と現れんじゃないのよ!このあんぽんたん!今度現れたらその頭刈り取ってやるんだからね!」
「うん、あんぽんたんとは絶妙に合わない組み合わせ!なんてデンジャラス!」
こうして煽り試練は無事(?)突破し、私達は螺旋階段を上るのだった。
でも、いい人?だったのかな。文面はウザかったけど。HP回復させてくれるとか、結構緩いね。ウザかったけど。
拍子抜けで疲れも抜け、ゆっくりと上る。上り切った先、そこには1個の机が。その上に視線をやれば……
「ハイポーション……回復薬じゃん!」
2本の回復薬。机には、〈ハイポーション。これを飲めばスッキリ全快!美味しく飲んでね♡〉こう書かれていた。思いっきり殴り飛ばしたくなった。
でも、でも勿体無い!殴れない!
支給アイテムをわざわざ壊す様な真似を、私はできなかった。
「……落ち込んでないで、行こうよ。」
細められた目が突き刺さる。
くっ、一矢報いたい……
その結果、手には小粒の球体が。それを握り締める。
「何やってんの?」
「………………………魔法の呪文、知ってる?」
ベールがため息を吐き、踵を返した。そして私は一言。
———バルス
階段の一部が爆発し、通気性が良くなった。
私は気分良く次の部屋に進んだ。
———————————————————————
ちょっと無理そう。これを執筆している時、そう思いました。この文を読んでいるということはもう事が起こった後でしょう。
私、凡ミスを犯し投稿時期ミスりました。普段ストックは2つ用意しているんですが、1つです。1つの状態で投稿を再開してしまったせいで、足りません。ストックが、足りませんっ!
気分的にはストックがありました、しかし、しかしながら足りなかったのが事実……事後で申し訳ありませんが、私の力不足でこの様な事態になってしまい、申し訳ありませんでした……!
よし、誠心誠意謝ったので優しい読者様は許してくださることでしょう。
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