上 下
365 / 681
11章 魔法少女と精霊の森

341話 魔法少女は慣れさせる

しおりを挟む

 精霊の森はいいところだ。

 空気は美味しいし、何より自然を全身で感じられて気分がいい。

 ま、魔力はないけど。
 魔法少女服じゃないだけマシだけど、フリフリワンピってのも普通に恥ずかしい。
 しかもピンクに青い羽ってのもおまけでついてくる。わーお、可愛い。

 私は求めてない要素だけど。

 合算するとマイナス面のほうが大きいねこれ。うん、精霊の森は、いいところだね。

 なんでこんな話をしてるかって?
 ようやく自分の時間が取れてるから、かな。精霊の森を満喫してる。
 霊結界外の安全目なところで。

「ちょっと、もうそろそろ再開しましょうよ。精霊術をほとんど自分の意思で引き出せるようにならないと、神試戦になんて挑めないわ。」
「…‥なら1人で出れば?」
「……いやよ。」
「なんでよ。合理的に考えてさ、私を仲介に挟むのってだいぶ無駄な気がするけど。」
眉を軽く曲げ、手のひらを上げて疑問を呈した。

 自分で言ってみて思ったけど、なんで私と一緒に出ようとしてるんだろう。
 精霊術の代行はロストがあるから、無駄だよね。伝導率云々言われても、結局100%は無理なんでしょ?

「…………恥ずかしいのよ。」
「はぁ?」
「恥ずかしいのよ!悪い?初めて出る神試戦、あれって完全観戦制なのよ!しかもミュール様も観てる!無理よ嫌よ1人は寂しいわ!」

「……可愛いなぁオイ、萌えんじゃねーか。」
「おーい、口調おかしいわよ。」
ベールのいつものツンツンとは一転、羞恥を滲ませ紅潮している姿は「萌え」を感じる。

 これがツンデレ?いや、これはクーデレ!これがっ、異世界美人・美少女だからこそ許されるクーデレっ!
 竹○彩奈さん、カモン!

 こういう系キャラにイメージが強い、日本の人気声優の名前を心で叫ぶ。

『私もうBANされろ』
確かにそれは思う。頷いてしまった私がいる。

「なによ、口ニマニマさせちゃって。ちょっと……キモいわ。」
「……うん、始めようか。」
今のは地味に効いた。自然の風を感じていたのを切り上げ、腰を伸ばして鈍った体を動かす。

 精霊術に慣れる、ねぇ。たった1日でどうにかできることじゃない気がするけど。
 魔導法も正常に機能してないし。都合よく適合できないかなー。

 ちょうどそのスキル持ってるし。

「惚けてないで、早くしなさいよ。体の奥から感じるわたしの力を救い上げるようにやるの。」
「そんなの言われても分かんないって……」
「できないとミュール様にも会えないわよ。」
「……はぁ、やりますよー。」
言われた通りにやってみる。私とベールの伝導率を考えると、ベールが術を行使するより私が使ったほうがいいらしい。

 どういうことだよって思うかもしれないけど、これが異世界クオリティーって割り切る以外ない。

 なんか私、ベールの契約者ということである程度の支配権があるらしくて、私の原素をベールに通してそこでベールの精霊術を私が操作する。その間に、ベールはベール自身でも精霊術を使える。
 意味は分からないけど伝導率との兼ね合いでできるらしい。

「異世界ってすごいなぁ。すっごい今更感あるけどね。」
目を閉じる。奥深くにある力を感じないでもない……と思う。思うとしか言いようがない。

「頑張りなさいよ。」
「こればっかりは慣れとしか言えないって。慣れよ慣れー。私だって頑張ってるんだから。そういうベールも、ちゃんとやっといてね。いざという時対応できるように、ね。」
片目を開け、薄ら笑う。

 アレを1人で使えるようになれるまで、ベールには頑張ってもらおう。
 ちなみに、それだけは私1人でできる。精霊術は使えないけど、原素を流せればね。簡単よ簡単。

「分かってるわよ。ちゃんと、貸してもらったアレはずっと練習してるの。休んだっていじゃない。」 
「はいはーい、適度に頑張ってくださいねー。」
軽口を言い合いながら、互いに互いの能力を慣れようと必死だった。

 必死には見えないって?仕方ない。

「あ、原獣。」
指鉄砲を作り、よーく狙う。赤と白の2つの閃光が閃き、ドサッと地面に重いものが落ちる音がする。

「今の、私だよね。」
「違うわよ、わたしよ!」
2人してブーブーと言い合う。それも次第に落ち着き、休んでは挑戦、休んでは挑戦を繰り返した。

 大規模のは使えないけど、小さくて簡単のなら軽く撃てるようになったかな。
 ベールの力様々だ。そこにある力を借りて撃つっていう感覚は理解できないけど。

—————————

 魔法少女改め精霊少女の訓練の一方、ギリシスらは霊結界内のベールの家、その庭で武器を腰に下げていた。

「あん時に悟った。オレらは魔力で身体強化できてたんだってな。剣の腕はあって上級。」
「僕も、自分の不甲斐なさを痛感したよ。」

「……何が言いたい?」
ナリアは訝しげに、反省の色を見せる2人に視線を向ける。

 それはそうだ。
 彼らが、反省するなんて日が来るとは誰も思わない。

 明日は天変地異でも起こるのだろうか、そう思ってしまったナリアは正常だ。

「オレらにも、醒華閃を教えてくれねぇか。」
「僕も、頼む。ナイフで使えるかは知らないけどね。」
「……はぁ。まぁ、いいか。戦力増強にはちょうどいい。習得まで、苦労するぞ?」
重くなりかけた雰囲気を茶化して鎮めるアズベルに呆れつつ、意気込みを聞く。どうせ答えは決まっているだろうが。

「「あぁ!」」


 1時間後。

「腕が、腕が……!」
「足が、足が……!」
ほとんど似たセリフを吐いて地に膝をつき、両腕を抱くように抑えるギリシスと蹲るアズベル。

「まったく情けない……さっきの決意表明はなんだったんだ。」
頭を抱え、ため息を吐く。男どものヘタレさ加減に、ここまで来ると初々しさもないなと思う。

「醒華閃は実直に鍛錬するしかないんです。同じ型を何度も繰り返し、それが完璧になり、心が統一され、剣と一体になることで使える技。1時間やそこらで習得できたら、学園で教わる必要なんてないでしょう。」
呆れより先に諦めがナリアに生まれた。

「それぞれ得意な型で挑戦しているというのに。」
ナリアは、手本を見せるようにレイピアを下に構えた。ギリシスの獰猛な戦闘スタイルに合った型だ。

「これは単体技。ギリシスには……多分、合ってると思う。」
見せつけられる才能の差。努力の差。紫に発光するそれを数歩先の空に向けて振り抜き、「絶渦」という呟きと一緒に虚空を裂いた。

「なんでナリアができんだよっ!」
「努力の差。」
「…………」
キッパリ言われた。正論なので言い返せない。

 学園で総騎士長の娘として続けてきた努力、対して1時間の練習。努力とも言えない。

「こればっかりは根気良く続けていくしかない。」
「ちっ……もっと、頑張らねぇとな。」
「……それ、ちゃんと立ってから言って欲しい。」
腕を抱えるギリシスに、じっとりした視線を這わせる。

「……最後まで付き合うから、2人も最後まで剣振って。」

「ナリアが、デレたっ?」
その一言で一気に冷静を叩きつけられた。すんと真顔になり、レイピアを鞘に収めバシンッ!

「いって!」
「僕関係なっ……!」

———————————————————————

 1年ってあっという間……なわけないじゃない!
 もう2年くらい経った気がしますよ。もうすぐで投稿始めて1年程度ですが、絶対1年以上経ってますって!1年前まで街でバカやってた空が、今や過去やら精霊の森ですよ?
 ここまで色々あって1年?そんなわけがないっ!

 あ、取り乱しました。私としたことが。失敬失敬。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こんなとき何て言う?

遠野エン
エッセイ・ノンフィクション
ユーモアは人間関係の潤滑油。会話を盛り上げるための「面白い答え方」を紹介。友人との会話や職場でのやり取りを一層楽しくするヒントをお届けします。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

異世界でイケメンを引き上げた!〜突然現れた扉の先には異世界(船)が! 船には私一人だけ、そして海のど真ん中! 果たして生き延びられるのか!

楠ノ木雫
恋愛
 突然異世界の船を手に入れてしまった平凡な会社員奈央。私に残されているのは自分の家とこの規格外な船のみ。  ガス水道電気完備、大きな大浴場に色々と便利な魔道具、甲板にあったよく分からない畑、そして何より優秀過ぎる船のスキル!  これなら何とかなるんじゃないか、と思っていた矢先に吊り上げてしまった……私の好みドンピシャなイケメン!!  何とも恐ろしい異世界ライフ(船)が今始まる!

【猫画像あり】島猫たちのエピソード

BIRD
エッセイ・ノンフィクション
【保護猫リンネの物語】連載中! 2024.4.15~ シャーパン猫の子育てと御世話の日々を、画像を添えて綴っています。 2024年4月15日午前4時。 1匹の老猫が、その命を終えました。 5匹の仔猫が、新たに生を受けました。 同じ時刻に死を迎えた老猫と、生を受けた仔猫。 島猫たちのエピソード、保護猫リンネと子供たちのお話をどうぞ。 石垣島は野良猫がとても多い島。 2021年2月22日に設立した保護団体【Cat nursery Larimar(通称ラリマー)】は、自宅では出来ない保護活動を、施設にスペースを借りて頑張るボランティアの集まりです。 「保護して下さい」と言うだけなら、誰にでも出来ます。 でもそれは丸投げで、猫のために何かした内には入りません。 もっと踏み込んで、その猫の医療費やゴハン代などを負担出来る人、譲渡会を手伝える人からの依頼のみ受け付けています。 本作は、ラリマーの保護活動や、石垣島の猫ボランティアについて書いた作品です。 スコア収益は、保護猫たちのゴハンやオヤツの購入に使っています。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

泥酔魔王の過失転生~酔った勢いで転生魔法を使ったなんて絶対にバレたくない!~

近度 有無
ファンタジー
魔界を統べる魔王とその配下たちは新たな幹部の誕生に宴を開いていた。 それはただの祝いの場で、よくあるような光景。 しかし誰も知らない──魔王にとって唯一の弱点が酒であるということを。 酔いつぶれた魔王は柱を敵と見間違え、攻撃。効くはずもなく、嘔吐を敵の精神攻撃と勘違い。 そのまま逃げるように転生魔法を行使してしまう。 そして、次に目覚めた時には、 「あれ? なんか幼児の身体になってない?」 あの最強と謳われた魔王が酔って間違って転生? それも人間に? そんなことがバレたら恥ずかしくて死ぬどころじゃない……! 魔王は身元がバレないようにごく普通の人間として生きていくことを誓う。 しかし、勇者ですら敵わない魔王が普通の、それも人間の生活を真似できるわけもなく…… これは自分が元魔王だと、誰にもバレずに生きていきたい魔王が無自覚に無双してしまうような物語。

処理中です...