上 下
356 / 681
11章 魔法少女と精霊の森

332話 魔法少女は契約する

しおりを挟む

「はぁ?救世主?」
「そう、救世主よ。」
ものすごい真顔で首を縦に振った。

「え、順序は?説明は?」
「仕方ないわね。今から教えてあげるわよ。」
「どこから出てくるの、その上から目線。」
呆れ目をしつつ、一応聞いてみることに。救世主というからには、ある程度は困ってるんだろう。

 精霊の森の救世主といえばなんだろう。
 あ、結界って言ってたし、それがなくなって、それで原獣が~とかかな?それとも、何か事件が起きたとか?特殊な原獣が現れたとか、空気が毒されてるとか、自然が枯れ始めたとか、他にも~……

 ありがちな展開がバンバンと出てくるあたり、オタクさ加減が滲み出てる。

「あんたには、わたしの救世主になってもらうわ!わたしと一緒に、神試戦に出てもらうわ!」
「なんて私的なお願いっ!」
清々しいまでに利己的な願いに、ベシッ!と勢いのいいツッコミが炸裂した。ベールは、「ぐべらぁっ」と呻き声を発して体をくの字に曲げた。

 その神試戦ってのはよく分からないけど、前半の文的にほぼ確定で自分のためのやつ!なんかとっても図々しい!精霊だよね、ほんとにあの精霊だよね?

『どの精霊だよ』
っていうツッコミは、一旦床に置いておこう。いつか議論を交わそうじゃないか。

「今!ミュール様がこの精霊の森の地に帰ってきてるのよ!だからわたしは、こうして神試戦のために外で訓練をしていたのよ。」
「それは分かったけど、そのミュール様?と神試戦にはどんな関係があるの。」
遠巻きから、「あいつ、次から次へとなんか起こるよな」と声が聞こえてきたけど、覚えたての指弾、煉獄指弾突クリムゾンバレッツで脳天を撃ち抜いた。

『ふっ、この程度造作もない』
『いい加減ふっふっやめろよ。うるさい』

 勝手にこの厨二私がやっていた。

「神の試練よ。大抵の場合は1人で挑んで、クリアすればミュール様のご加護を賜われるのよ。でも、信頼できる人間の契約精霊になって、あなたに精霊術を使ってもらえば……」
「ストップ、ストっっプ!分からない、何を言っているのか分からないよ私には。試練なのは分かったけど、ご加護?契約精霊?ってかそれいいの?」

「うるさいわね。いいんだからいいのよ。よくなかったらこんな話してないわ。続けるわね。」
「分かるようにね。」
やれやれ、みたいな感じに困った風を出して言う。クソガキ感が否めないけど、話を止めた私も悪いので行き先を失った拳を胸の辺りで止めて、聞くことにした。

 決して、殴ろうとしたわけじゃないよ?

「つーまーりー、わたしと試練を一緒にしない?ってことよ。どうしても、ミュール様のご加護が欲しいのよ……………今じゃまだ、足りないのよ。」
ベールの言葉は、竜頭蛇尾に終わった。最後は、蛇どころかミミズが這うより細い声だった。

 ……並々ならぬ想いがある、のかな?何言ってるかは分からなかったけど、強い芯みたいなのがあった。

 龍神と戦った時、最初はただただ強大としか思えなかったけど、急に授業が始まったあたりからは強い意志があった。
ベールも、一瞬、そんな感じの声だった。

「というわけで、わたしと契約して、精霊術師にならない?」
「どういうわけよ。」
なぜか自信満々に、断られるなんて思ってませんみたいな感じに私の眉間に人差し指を突きつけた。さっきの張り詰めた雰囲気は気のせいだったみたいだ。

 どこの珍獣よ。まど○ギみたいになりたくないよ、私。魔法少女ではあるけど、さすがに魔女にはなりたくない。

「私にメリットは?」
「ミュール様のご加護がもらえるわ!」
「だから誰なの、ミュール様。」
「霊神様よ。」
「乗った。よしきた、今から私を精霊術師にして。」

「情緒どうなってんだ、お前。」
頭を抑えたギリシスが、反撃と言わんばかりに口撃する。ダメージはゼロだった。

 龍神に言われたことを実践するつもりはないけど、どうせ創滅神に会うためには多分必要だ。
 こんなところで、そんなチャンスをぶら下げられて、捕まらない私ではないっ!

『よっ』
『すご~い』

『あんたら、働け』
『本体も、怠けてないで頑張って』

 もう2人の私は、冷たかった。

「分かったわ。なら、少し準備が必要だから待ってなさい。本当のジョブチェンジには、少し時間がかかるのよ。」
そう言うと、ゆっくりと瞼を閉じた。蛍光色の黄色が、仄かに光る。そして、手を伸ばす。

「息を吐いて。吸って。もう1度吐く。体の力を抜いて、わたしに預けて。」
預けたら倒れるじゃん、そんな言葉が喉を通りかけ、しかしそんなおふざけが通じる空気ではないと悟り、やめる。1度息を吐き出し、新たな空気で肺を満たす。言う通りにし、脱力した。

 ……暖かい?日差しそのものに包まれてるみたいな、冬の日の朝の布団の中みたいな温もりが……

 そして気配。私より10cmは高いであろう気配だ。それが、目の前のベールから感じる。しかも、脱力しているはずなのに、私の体は抱き止められてるように安定していた。

「今ここに、契りを交わす。わたし、個体名フランベールは、協力者である汝の精霊となる。受諾。ジョブチェンジ、魔法使いから精霊術師へ。強制拒否。仮契約を実行する。わたし、個体名フランベールは、使い精霊として仮契約を結ぶ。受諾。汝、答えよ。」
まるで人が変わったかのように、滔々と言葉を発する。

「受諾。」
頭に浮かんだ2文字。拒否は選択肢になかった気がするけど、元からそのつもりはないので関係ない。

「受諾確認。個体名フランベールとの仮契約が完了しました。」
そう締めくくり、ベールはふっと力を抜いた。腕はだらんと下げられ、少し汗ばんでいるように見えた。

 これ見せられたら正直、天才ってのも頷ける気がする……?

 外野の「なんだこれ」「綺麗……」「凄い技だ……」等々、客観的な声がちらほらと。

『私、ステータス確認してみ』


 職業 魔法少女&精霊術師(仮)

 レベル 235

 攻撃6860+1 防御6650+1 素早さ7420+1

 魔法力8510+2 魔力8810+2(+神影)

 原素 1055(『適応』により上昇中)+α


「ほんとに、職業変えよった……あかんでこれ、ホンマもんやでこいつ。」
「……口調、変わってる、わよ。」
見るからに疲弊したベールが、エセ関西弁の私にツッコミをぺんっ、と小さくした。

「実際には、変えてないわ……途中で無理矢理拒否されたから、仮契約という形に落ち着いたわ。」
「へ、へぇ?」
「別に、挑戦できないっていうことにはならないから、安心していいわ。」

「あれ、なんか知らない間に立場が逆転してる?」
ギリシスに視線を向けた。ギリシスは、ナリアに、ナリアは、アズベルに。

「何がしたいの。」
「お前のせいだろうがよ。」
「それはさすがに酷くない?」
「とりあえず、早くどこかで休みましょう。」
さっきからまともに発言できていなかったナリアが、願うようにこぼした。満場一致で、その案に決定された。

 精霊の森ってすごいね。こんなみんなを惑わせるなんて。状態異常混乱を常時かけてるみたいだ。
 いや、どんな例えやねーん。

 ……ほら、こんな感じで。

「わたしはもう疲れたわ……一旦霊結界の中に行くから、そこまで護衛よろしくね。」
「はいはい、ならベールは道案内よろしくね。」
「むぅ……わたしは、フランベールよ。」
「契約者の言うことはぜったーい。」

「世界で最悪の契約者だな。」

———————————————————————

 僕と契約して、魔法少女になろうよ。は、もう魔法少女だったのでできませんでした。
 ならわたしと契約して、精霊術師になろうよ。に代用しときました。

 次回は精霊の住処に行き……………ます。はい、多分。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界を服従して征く俺の物語!!

ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。 高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。 様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。 なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

神様に愛された少女 ~生贄に捧げられましたが、なぜか溺愛されてます~

朝露ココア
恋愛
村で虐げられていた少女、フレーナ。 両親が疫病を持ち込んだとして、彼女は厳しい差別を受けていた。 村の仕事はすべて押しつけられ、日々の生活はまともに送れず。 友人たちにも裏切られた。 ある日、フレーナに役目が与えられた。 それは神の生贄となること。 神に食われ、苦しい生涯は幕を閉じるかと思われた。 しかし、神は思っていたよりも優しくて。 「いや、だから食わないって」 「今日からこの神殿はお前の家だと思ってくれていい」 「お前が喜んでくれれば十分だ」 なぜか神はフレーナを受け入れ、共に生活することに。 これは一人の少女が神に溺愛されるだけの物語。

処理中です...