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11章 魔法少女と精霊の森

332話 魔法少女は契約する

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「はぁ?救世主?」
「そう、救世主よ。」
ものすごい真顔で首を縦に振った。

「え、順序は?説明は?」
「仕方ないわね。今から教えてあげるわよ。」
「どこから出てくるの、その上から目線。」
呆れ目をしつつ、一応聞いてみることに。救世主というからには、ある程度は困ってるんだろう。

 精霊の森の救世主といえばなんだろう。
 あ、結界って言ってたし、それがなくなって、それで原獣が~とかかな?それとも、何か事件が起きたとか?特殊な原獣が現れたとか、空気が毒されてるとか、自然が枯れ始めたとか、他にも~……

 ありがちな展開がバンバンと出てくるあたり、オタクさ加減が滲み出てる。

「あんたには、わたしの救世主になってもらうわ!わたしと一緒に、神試戦に出てもらうわ!」
「なんて私的なお願いっ!」
清々しいまでに利己的な願いに、ベシッ!と勢いのいいツッコミが炸裂した。ベールは、「ぐべらぁっ」と呻き声を発して体をくの字に曲げた。

 その神試戦ってのはよく分からないけど、前半の文的にほぼ確定で自分のためのやつ!なんかとっても図々しい!精霊だよね、ほんとにあの精霊だよね?

『どの精霊だよ』
っていうツッコミは、一旦床に置いておこう。いつか議論を交わそうじゃないか。

「今!ミュール様がこの精霊の森の地に帰ってきてるのよ!だからわたしは、こうして神試戦のために外で訓練をしていたのよ。」
「それは分かったけど、そのミュール様?と神試戦にはどんな関係があるの。」
遠巻きから、「あいつ、次から次へとなんか起こるよな」と声が聞こえてきたけど、覚えたての指弾、煉獄指弾突クリムゾンバレッツで脳天を撃ち抜いた。

『ふっ、この程度造作もない』
『いい加減ふっふっやめろよ。うるさい』

 勝手にこの厨二私がやっていた。

「神の試練よ。大抵の場合は1人で挑んで、クリアすればミュール様のご加護を賜われるのよ。でも、信頼できる人間の契約精霊になって、あなたに精霊術を使ってもらえば……」
「ストップ、ストっっプ!分からない、何を言っているのか分からないよ私には。試練なのは分かったけど、ご加護?契約精霊?ってかそれいいの?」

「うるさいわね。いいんだからいいのよ。よくなかったらこんな話してないわ。続けるわね。」
「分かるようにね。」
やれやれ、みたいな感じに困った風を出して言う。クソガキ感が否めないけど、話を止めた私も悪いので行き先を失った拳を胸の辺りで止めて、聞くことにした。

 決して、殴ろうとしたわけじゃないよ?

「つーまーりー、わたしと試練を一緒にしない?ってことよ。どうしても、ミュール様のご加護が欲しいのよ……………今じゃまだ、足りないのよ。」
ベールの言葉は、竜頭蛇尾に終わった。最後は、蛇どころかミミズが這うより細い声だった。

 ……並々ならぬ想いがある、のかな?何言ってるかは分からなかったけど、強い芯みたいなのがあった。

 龍神と戦った時、最初はただただ強大としか思えなかったけど、急に授業が始まったあたりからは強い意志があった。
ベールも、一瞬、そんな感じの声だった。

「というわけで、わたしと契約して、精霊術師にならない?」
「どういうわけよ。」
なぜか自信満々に、断られるなんて思ってませんみたいな感じに私の眉間に人差し指を突きつけた。さっきの張り詰めた雰囲気は気のせいだったみたいだ。

 どこの珍獣よ。まど○ギみたいになりたくないよ、私。魔法少女ではあるけど、さすがに魔女にはなりたくない。

「私にメリットは?」
「ミュール様のご加護がもらえるわ!」
「だから誰なの、ミュール様。」
「霊神様よ。」
「乗った。よしきた、今から私を精霊術師にして。」

「情緒どうなってんだ、お前。」
頭を抑えたギリシスが、反撃と言わんばかりに口撃する。ダメージはゼロだった。

 龍神に言われたことを実践するつもりはないけど、どうせ創滅神に会うためには多分必要だ。
 こんなところで、そんなチャンスをぶら下げられて、捕まらない私ではないっ!

『よっ』
『すご~い』

『あんたら、働け』
『本体も、怠けてないで頑張って』

 もう2人の私は、冷たかった。

「分かったわ。なら、少し準備が必要だから待ってなさい。本当のジョブチェンジには、少し時間がかかるのよ。」
そう言うと、ゆっくりと瞼を閉じた。蛍光色の黄色が、仄かに光る。そして、手を伸ばす。

「息を吐いて。吸って。もう1度吐く。体の力を抜いて、わたしに預けて。」
預けたら倒れるじゃん、そんな言葉が喉を通りかけ、しかしそんなおふざけが通じる空気ではないと悟り、やめる。1度息を吐き出し、新たな空気で肺を満たす。言う通りにし、脱力した。

 ……暖かい?日差しそのものに包まれてるみたいな、冬の日の朝の布団の中みたいな温もりが……

 そして気配。私より10cmは高いであろう気配だ。それが、目の前のベールから感じる。しかも、脱力しているはずなのに、私の体は抱き止められてるように安定していた。

「今ここに、契りを交わす。わたし、個体名フランベールは、協力者である汝の精霊となる。受諾。ジョブチェンジ、魔法使いから精霊術師へ。強制拒否。仮契約を実行する。わたし、個体名フランベールは、使い精霊として仮契約を結ぶ。受諾。汝、答えよ。」
まるで人が変わったかのように、滔々と言葉を発する。

「受諾。」
頭に浮かんだ2文字。拒否は選択肢になかった気がするけど、元からそのつもりはないので関係ない。

「受諾確認。個体名フランベールとの仮契約が完了しました。」
そう締めくくり、ベールはふっと力を抜いた。腕はだらんと下げられ、少し汗ばんでいるように見えた。

 これ見せられたら正直、天才ってのも頷ける気がする……?

 外野の「なんだこれ」「綺麗……」「凄い技だ……」等々、客観的な声がちらほらと。

『私、ステータス確認してみ』


 職業 魔法少女&精霊術師(仮)

 レベル 235

 攻撃6860+1 防御6650+1 素早さ7420+1

 魔法力8510+2 魔力8810+2(+神影)

 原素 1055(『適応』により上昇中)+α


「ほんとに、職業変えよった……あかんでこれ、ホンマもんやでこいつ。」
「……口調、変わってる、わよ。」
見るからに疲弊したベールが、エセ関西弁の私にツッコミをぺんっ、と小さくした。

「実際には、変えてないわ……途中で無理矢理拒否されたから、仮契約という形に落ち着いたわ。」
「へ、へぇ?」
「別に、挑戦できないっていうことにはならないから、安心していいわ。」

「あれ、なんか知らない間に立場が逆転してる?」
ギリシスに視線を向けた。ギリシスは、ナリアに、ナリアは、アズベルに。

「何がしたいの。」
「お前のせいだろうがよ。」
「それはさすがに酷くない?」
「とりあえず、早くどこかで休みましょう。」
さっきからまともに発言できていなかったナリアが、願うようにこぼした。満場一致で、その案に決定された。

 精霊の森ってすごいね。こんなみんなを惑わせるなんて。状態異常混乱を常時かけてるみたいだ。
 いや、どんな例えやねーん。

 ……ほら、こんな感じで。

「わたしはもう疲れたわ……一旦霊結界の中に行くから、そこまで護衛よろしくね。」
「はいはい、ならベールは道案内よろしくね。」
「むぅ……わたしは、フランベールよ。」
「契約者の言うことはぜったーい。」

「世界で最悪の契約者だな。」

———————————————————————

 僕と契約して、魔法少女になろうよ。は、もう魔法少女だったのでできませんでした。
 ならわたしと契約して、精霊術師になろうよ。に代用しときました。

 次回は精霊の住処に行き……………ます。はい、多分。
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