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11章 魔法少女と精霊の森

331話 魔法少女はジョブチェンジ(仮)

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「ふぅー、原獣討伐完了っと。」
「っとじゃないわ!」
一旦隠れていたベールが、ここぞとばかりに出てくると勢いのあるツッコミを繰り出した。

「何よ今の!あんた、魔法使いじゃなかったわけ?あんなの、いくら原素があったってできることじゃないわ!」
「原素、ねぇ……使えたらよかったんだけど。」
ハハハ、と乾いた笑みをこぼす。ベールは瞠目したり

「あんた、一体何者よ……魔力も原素もなしにあんな化け物倒しちゃうなんて。まっ、まぁ!?わたしのスーパーへカートVⅡ3ならこんなの朝飯前だけどっ!」
何故か虚勢のようなものを張り、張り合ってきた。

 まったく、異世界の女の子は可愛くていけない。これがギリシスとかなら殴り飛ばすけど、ベールが言うと可愛くしか聞こえない。
 これが、異世界可愛いフィルター。

「それ、オレとの決闘で使ったやつか?」
そこで横槍が入る。

 あっと、情景反射で殴りそうにナッタナー。

「あれは魔力で筋入れしてたから簡単だけど、ここだとそうはいかなくてね……半ば強引に、無理矢理やった感じかな。」
「申し訳ありません。これ、解除してくれませんか?体が上がらないので……」
「このくらいどうにかしないと。まだまだだね、ナリアも。」

「それを横たわりながら言わないでくれますか?」
膝立ちで軽く体を丸めるナリアと、飄々とご高説を垂れるアズベル。半うつ伏せ状態で、手から肘までのあたりでガードしていた。

 制御はうまくできない……かぁ。こればっかりは、分離思考ではどうにもならない。慣れるしかないね。
 こんなんじゃ、マガジンのセットすらままならないよ。

 はぁっ、と1度ため息を吐き、未だかけられる重力を元に戻す。

「とりあえず私、ジョブチェンジを所望する。」
「そんな権限わたしにないわ。」
「知ってる。」
「……なんなのよ。」
微妙な空気が流れた。ジトっとしたベールの目が痛いだけなのは幸いだ。他3人は、いつも通り仲間内で楽しそうに言い合ってる。

「まぁ、魔法少女なんだから変わるとしたら物理少女かな。物理法則捻じ曲げた技だけど。」
「変わるとしたらって、180度変わってるじゃないの。何がどうしたらそうなったのよ。」
「魔法+チート=化学反応。いぇあ。」
「意味分からないわ。」
まるで、お手はできないけど可愛い飼い犬に向けるような、若干諦めたような目を向けてくる。甚だ心外だ。

 私だって説明できないからネタに強行したというのに、心も読めないんじゃあやってけないよ!

『そんなことできるのどっかの変態くらいでしょ』
『右に同じく』
『上に同じ~』
『左に同じだ』

 うっさいやい。

「思ったんだけど、悪魔事変って精霊の森に迷い込んだ人が死んだ後なんじゃないの?」
「あー、確かにそうかもな。」
「そちらも要報告ですね。」
知らぬ間に事件が解決したことに、内心安堵半分モヤモヤ半分だ。

「しっかし……魔力がないってめっちゃ変な感覚だよね……慣れない。慣れそうもない。体から必要なものが抜け落ちた感覚って………どこか、左腕の喪失感に似てるかも。」
今は亡き左腕をさする。幻肢痛はあんまりない。心が弱ってる時にジクジク痛むことはあれど、普段は支障なんてない。

「しんみりしてるところ悪いけど、1つ提案をさせてちょうだい!」
「しんみりって……まぁいいけど。」
ビシッと立てられた人差し指。それを折りたたみ、高らかに宣言する。

「この森の救世主にならない?」

—————————

 国城にて。国務室と呼ばれる、この場内で3番目に警備の固い、国王のお勤め場である。

 ちなみにだが、2番目は総食糧庫、1番目は諜防室と呼ばれる国内や外国についての機密情報に塗れている部屋だ。
 魔道具にて身元証明をした後、特殊な暗号を入力することでようやく入ることのできる部屋であり、信頼のおける人物を中心に警備に当たる場所でもある。

 後者は言わずもがな。しかし、前者である総食糧庫の警備が固いのは何故だろうか。

 それは、もし国が何者かに襲われたり、災害が起こって場合、最も守りの固い城に避難させ食糧を供給したり、食糧難の際、国民に配給するために重要だからだ。
 魔物の蔓延るこの世界では、その日を繋ぐのでさえ難透難徹である。
 人間に必要不可欠な食料や飲料水はなんとしてでも守らなくてはならない。

 閑話休題。

 そんな国務室には、国王であるディアルノ・アングランドが書類に目を通していた。
 簡単に言えば領主とやることは変わらないが、重要度や仕事量が段違いだ。

 今向き合っているのは、現在引き起こされている悪魔事変(一般には連続突然変死事件と呼ばれている)についての書類。いつも通り死体状況と親族の許可が得られた者の解剖結果、そして死者数だ。

 今週は確認された限りでも13名と増加しており、合計では28名と中々の事件と言っても差し支えないだろう。
 分かっていることは2つ。死者には身体的損傷が見られないということ。目撃情報から、死後に移動した形跡があるということ。

 このずっと先には、パズールがある。なんとしてでも、止めたいところだ。

「ソラたちは帰ってこない、か。まさか、あの4人が悪魔の手にかけられたとは思いたくないが……その可能性も考えて置かなければな。」
窓を見る。いつものソラならば、億劫気に馬車から降りてくるはずなのだが、まだ帰ってはこない。

 実を言うと、ここと向こうでは時間の流れが大いに違う。
 帰ってくるのは、2週間後の夜というのだけは言っておこう。

 パズールではフィリオが、王都では国王が、共に頭を抱えていた。

—————————

 もう一方。宿では、今日もネルと百合乃の2人がいた。

「全然帰ってきませんねぇ、空。」
「そうですね、百合乃さん。」
夕食を食べながら、そんなことを呟いていたのであった。

 この後、ソラ達は壮絶(?)な戦いと試練が待ち受けているのだが、まぁこの2人には関係ないことだろう。

———————————————————————

 すっごい短いですね。おまけでも下に書きましょうか。だとしたら何書きましょう?
 うーむ、空と百合乃の特訓風景にでもしましょうかね。短くなるよう努めました。



 おまけ
『特訓風景』

「これ、私の訓練でもあるからスキルも技能もバンバンに使ってね。」
「分かってますよ。」
サーベルをくるくる回して感触を確かめる百合乃は、少しだけ離れてそれを構えた。

「じゃあ私は、ラノス使うからそこんとこよろしく~。」
「へっ!?それ、チートじゃないです?!」
「よーいスタート!」
先手必勝。ラノスの引き金を引き、空間伸縮の軌道に乗って飛んでいく。

「そのくらいなら、なんとかなりますよっ!」
「じゃあ追加で全弾。」
続けてパァァンッ!と、7連続で聞こえてくる。百合乃が身を屈めて地を駆け、その隙に、私は重力操作で空中リロードをしておく。

「はぁぁぁぁっ!」
「おっと、剣技くる?」
「木葉舞っ!」
回転しながらサーベルを銃弾に這わせる。カンカンカンッ!と甲高い音が何度も響き、うち2弾は服や皮膚を裂いた。

「っののまぁ!瞬、刃っ!」
回転の勢いを使って、一瞬にしてサーベルを接近させる。そういうスキルだろうと予想がつくので、アイスシールドで防御する。

「ぬわっ、それ割ってくる?」
「舐めないでくださいっ!ちなみに今のはブラフでしたっ!」
「知ってるよ!攻撃ん時のスキルは吸魔だったよ思いっきり!やるようになったね!嬉しいけど相手する側からしたらめんどくさいよ!」
「流天星華っ!」

「身体激化っ。」
静かに呟き、ステッキで防ぐ。一瞬鍔迫り合いになるも、トールを発動して距離を置き、2発のラノスの弾丸を浴びせる。それを掻い潜り、「隙ありっ」とサーベルを振り下ろす百合乃。

「断絶ぅ!」
「隙あっても隙ありって叫んだらダメだって言ったよ!?あと殺す気っ?」
「どっちもどっちです!」

 私達の訓練はこんな感じに進む。言い合い4割だ。

「あっ、ちょ、やめぇぇっですぅ!」
そんな声が、昼空に響いた。
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