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11章 魔法少女と精霊の森

326話 魔法少女は悪魔になる

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 目の前に、巨大な牛もどきがいた。

「前の奴は喋ったよ?なら喋れるんでしょ、ほら吐いた吐いた。」
「お前の方がよっぽど悪魔だよ。」
その辺でぶっ倒れてるギリシスが、多分ジト目で私を見る。酷い感想だ。ちなみに、いたというのは過去形だ。つまり、そういうことだ。

 まったく、強情な悪魔だよ。ここまでやってまだ吐かないとか、お偉いさんがそんなに怖いのかな。

 目の前にいた、今は目の下にいる悪魔相手に呆れる私。そして地面は穿たれまくって大地が抉れてる。

 あれから今まで何があったって?そんなの簡単。

 ラノスでどんぱち、物理でどかーん!そんな感じで、死なない程度に半殺しにしてこうなった。ヤッタネ。

「………………ヤ、ヤメ、ロ……」
「ん?」
「…………ヤメテクダサイ。」

「おいテメェ!本当に悪魔かよ!」
外野がうるさい。けど、今からすることに支障はないので無視しておくのが上策だ。

「でさぁ、あんたって悪魔?」
「ナニヲ…………ワレラハ———」
肝心のところが聞こえない。訝しげに視線を向け、悪魔の青い瞳がギョロリと動く。

「うわキモっ。」
純粋な感想だった。悪魔さんの顔が、少し悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。

 しょ、しょうがないよ、しょうがない。
 だってきもいんだもん!

 私が一斉に『開き直った』と指摘してくるも、みんな私なので思ったことは一緒だ。同類だ!

「ワレラガ、主ヲ………敵ニ回セ、バ……」
「敵に回せばなんなの。さっさと言わないと殺すよ?」
「ハイ。」
「悪魔の矜持よどこ行った。」
ギリシスのツッコミオンパレードだ。この状況を見て、頭が壊れない人の方がおかしいので、ギリシスは変人ということだ。

 自分を殺そうとしてきてた奴が、少女に媚びへつらって……はなくとも、ちょくちょく敬語を使う姿を見て、何も思わないわけがないしね。

「計画ハ、整ッタ。悪魔ダッタ、ナ。……ソンナ、モノ、シラヌ。」
「へー、そう。それで情報は最後?」
「………フッ、モチロ……」

「嘘ついてたら、分かってるよね?」
「……話ス、話スカラ、ヤメテクダサイ。」
今、共感してしまった。ほんとに悪魔の矜持はどこいったんだよ、そう思ってしまった。

 こんなデカブツが、ねぇ……アニメでよく見る強敵感、ゼロ。
 もっと強くあれ、悪魔さん。あ、悪魔じゃないのか。

「ワレラガ主ノ目的ハ、世界ヲ支配スルコト。先駆ケニコノ国ヲ支配スル。ワレワレハ、実地調査ニキタ選抜部隊ダ。稼働ヲ始メタノハツイコノ間ダ。」
「ほうほう。それで?」
「ソ、ソレ以外ハシラナイ!ホ、本当ダ!」
青い目がぱちぱちと点滅する。怖がってる感じがするのは分かるので、とりあえず信じることにした。

 どうせこの悪魔……ではないんだっけ。じゃあ普通にミノタウロス、帰っても殺される気がするなぁ……
 ここでサクッと殺ってあげようかな。

 スッと取り出す巨悪の権化。黒塗りの姿が実に厨二心をくすぐる、愛しのトロイさんだ。

「ハ、話タゾ?ナンダ、ソノ武器ハ?」
「どっちみち殺されるでしょ?なら、楽に死ねたほうが楽だと思って。」
「ヤメテクレ!ヤメテクダサイ!」
さっきまで痛みに顔を歪めていたミノタウロス。必死の形相で止めてくる。しかし、ラノスで撃った左右の足の腱は動いてくれなかったみたいだ。

 よーし、いっちょやったりますかー!

 重力弾セットオン!いけー!せっかくだからオプション付きで、魔法マシマシだよ!

「バーニンググラビティーレールガン(仮)!!!((仮)まで含めて名前)」
バアァァァァンッ!と、耳を劈く轟音と共に、血飛沫が上がる。見た目と一緒で、ご丁寧に血は青だ。しっかり空間伸縮でど真ん中を狙ったので、見栄えもバッチリ。

 魔法少女銃撃事件発生中ってね。

『何が『ってね』だ』『血祭りだぁー!』『ふっ、私の深淵の一端すら受け止められないt』『わー、すごーい』

 総攻撃を受けた。大体、分離思考の私の性格が分かってきた気がする。

 ちょっとツッコミ気質な怖い私、補助的役目の私、厨二的私、バカな私。
 なんだこのオンパレード。

「なに思案顔してんだよ、さっさと助けろよ。ってか、命乞いする奴に無視して弾ぶち込むって、悪魔じゃねぇかよ。」
「まー、私なりの配慮?」
「殺しが配慮って、テメェ悪魔というより死神だなおい。」
悪態を吐きまくるギリシス。こりゃまぁうざいのはいつも通りだったので、いつも通りの対処、「無視」を発動。

 アズベルとナリアってどこ飛んでったっけ?万復っときたいんだけど……

「あ、いたいた。」
木に引っかかるアズベル、レイピアで踏ん張るナリア。やっぱり、ナリアは忍耐力が凄まじかった。

「はいはーい、万復るから動かないでねー。」
ピカーッ、と光が満ちる。魔力が粒子となって飛んでいくような感覚で、それが溶け込んで再生を促進させてる。

 なんとなく、促成栽培に似てるね。温度光量とかで成長速度変える的な。中学の時やった気がする。

「……助かりました…………はい。ありがとうございました。」
「……僕も、礼を言わせて………もらいます。」
真っ暗な目で私を見てた。2人の心の中では、こう呟かれているだろう。「悪魔って、存在したんだなぁ」って。

 ちなみに、このお通夜みたいな空気は私がなんとか頑張って元に戻した。どんな風にかは企業秘密だけど、とりあえず元の空気には戻ったからよし。

 どこかの死に戻りのお母さんも言ってたよね!大事なのは最初でも途中でもないって!最後だって!

 ということで、私は完璧な仕事をした。

「つまり先程の喋る魔物は、一連の事件とは関係なく、悪魔との関連性はない、ということでしょう。」
ナリアはすっかり平静を取り戻し、凛然に話をまとめた。

「僕はなんだっていいよ。でも、あいつを斬り損ねたのだけが心残りだ。」
「ボッコボコにされてたじゃねぇかよ。」
「同感ね。」
「キミら2人だって負けていたじゃないか。」
「咆哮さえなければどうにでもなった。麻痺の声なんて、想像できねぇだろ?」
なんて言い合いながらも、ちゃんと笑い合えてる。

 こういうのが高ランクパーティーには必要なのかな。
 言い合いするってことは、意見を遠慮せず出し合えてるってことだし、喧嘩になるのは逆に白熱してるとも捉えられる。
 ズレこそが強さだって話、どっかで聞いたけど……こういうことかな。

 尊重しあっても何もいいことないしね。

 その考えの下、私も意見を呈した。

「多分、関係はあると思う。」
「どうしてでしょうか?ソラの意見も、一応聞き入れましょう。」

「……ま、いいや。視点を変えてみて。まず、悪魔というのが元から存在するか、そこから疑ってみる。」
「それを言っちゃあこの依頼自体意味がなくなるぞ?」
眉を曲げて、話を折るのはギリシス。とりあえず話を聞いて、と声をかけて先に進める。

「私もここ1週間近く、森を彷徨いまくった。でも、悪魔なんて全く見ない。なのに、死者はいる。別の死因を考えたほうがいいと思う。そっちの方が明らかに現実的だよ。」
「確かに、噂と相まって悪魔というレッテルを貼り続けていましたね……非現実の噂を、いつの間にか事実と捉えていたと。」

「そう。王の言うとおり、火のないところに煙なんて立たないから、何かそれに通じたことがあると思うんだけど……今みたいなのは多分、出会った人が話でもして尾ひれでも付いたんじゃない?」
両手を肩のあたりまで上に挙げ、首を振って苦笑する。それと一緒に、ナリアが「結果はどうあれ、私たちは真相が明るみになるまで森を彷徨うことになりますね」と、同じく苦笑しながら言っていた。

 結局、私達は社畜しなきゃダメなのかぁ。
 早いところ何か証拠的なものを……

 どうにもならない現実に、頭を抱えることにしかならなかった。それもこれも、ミノタウロスのせいだ。
 私は許さんぞー!

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 そろそろ状況を変化させたいと思いまーす。というか、章の名前で大体の予想というか答えですねあれ。
 答え書いてあるので、分かると思いますがそろそろ精霊さん出します。頑張ります。
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