350 / 681
11章 魔法少女と精霊の森
326話 魔法少女は悪魔になる
しおりを挟む目の前に、巨大な牛もどきがいた。
「前の奴は喋ったよ?なら喋れるんでしょ、ほら吐いた吐いた。」
「お前の方がよっぽど悪魔だよ。」
その辺でぶっ倒れてるギリシスが、多分ジト目で私を見る。酷い感想だ。ちなみに、いたというのは過去形だ。つまり、そういうことだ。
まったく、強情な悪魔だよ。ここまでやってまだ吐かないとか、お偉いさんがそんなに怖いのかな。
目の前にいた、今は目の下にいる悪魔相手に呆れる私。そして地面は穿たれまくって大地が抉れてる。
あれから今まで何があったって?そんなの簡単。
ラノスでどんぱち、物理でどかーん!そんな感じで、死なない程度に半殺しにしてこうなった。ヤッタネ。
「………………ヤ、ヤメ、ロ……」
「ん?」
「…………ヤメテクダサイ。」
「おいテメェ!本当に悪魔かよ!」
外野がうるさい。けど、今からすることに支障はないので無視しておくのが上策だ。
「でさぁ、あんたって悪魔?」
「ナニヲ…………ワレラハ———」
肝心のところが聞こえない。訝しげに視線を向け、悪魔の青い瞳がギョロリと動く。
「うわキモっ。」
純粋な感想だった。悪魔さんの顔が、少し悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。
しょ、しょうがないよ、しょうがない。
だってきもいんだもん!
私が一斉に『開き直った』と指摘してくるも、みんな私なので思ったことは一緒だ。同類だ!
「ワレラガ、主ヲ………敵ニ回セ、バ……」
「敵に回せばなんなの。さっさと言わないと殺すよ?」
「ハイ。」
「悪魔の矜持よどこ行った。」
ギリシスのツッコミオンパレードだ。この状況を見て、頭が壊れない人の方がおかしいので、ギリシスは変人ということだ。
自分を殺そうとしてきてた奴が、少女に媚びへつらって……はなくとも、ちょくちょく敬語を使う姿を見て、何も思わないわけがないしね。
「計画ハ、整ッタ。悪魔ダッタ、ナ。……ソンナ、モノ、シラヌ。」
「へー、そう。それで情報は最後?」
「………フッ、モチロ……」
「嘘ついてたら、分かってるよね?」
「……話ス、話スカラ、ヤメテクダサイ。」
今、共感してしまった。ほんとに悪魔の矜持はどこいったんだよ、そう思ってしまった。
こんなデカブツが、ねぇ……アニメでよく見る強敵感、ゼロ。
もっと強くあれ、悪魔さん。あ、悪魔じゃないのか。
「ワレラガ主ノ目的ハ、世界ヲ支配スルコト。先駆ケニコノ国ヲ支配スル。ワレワレハ、実地調査ニキタ選抜部隊ダ。稼働ヲ始メタノハツイコノ間ダ。」
「ほうほう。それで?」
「ソ、ソレ以外ハシラナイ!ホ、本当ダ!」
青い目がぱちぱちと点滅する。怖がってる感じがするのは分かるので、とりあえず信じることにした。
どうせこの悪魔……ではないんだっけ。じゃあ普通にミノタウロス、帰っても殺される気がするなぁ……
ここでサクッと殺ってあげようかな。
スッと取り出す巨悪の権化。黒塗りの姿が実に厨二心をくすぐる、愛しのトロイさんだ。
「ハ、話タゾ?ナンダ、ソノ武器ハ?」
「どっちみち殺されるでしょ?なら、楽に死ねたほうが楽だと思って。」
「ヤメテクレ!ヤメテクダサイ!」
さっきまで痛みに顔を歪めていたミノタウロス。必死の形相で止めてくる。しかし、ラノスで撃った左右の足の腱は動いてくれなかったみたいだ。
よーし、いっちょやったりますかー!
重力弾セットオン!いけー!せっかくだからオプション付きで、魔法マシマシだよ!
「バーニンググラビティーレールガン(仮)!!!((仮)まで含めて名前)」
バアァァァァンッ!と、耳を劈く轟音と共に、血飛沫が上がる。見た目と一緒で、ご丁寧に血は青だ。しっかり空間伸縮でど真ん中を狙ったので、見栄えもバッチリ。
魔法少女銃撃事件発生中ってね。
『何が『ってね』だ』『血祭りだぁー!』『ふっ、私の深淵の一端すら受け止められないt』『わー、すごーい』
総攻撃を受けた。大体、分離思考の私の性格が分かってきた気がする。
ちょっとツッコミ気質な怖い私、補助的役目の私、厨二的私、バカな私。
なんだこのオンパレード。
「なに思案顔してんだよ、さっさと助けろよ。ってか、命乞いする奴に無視して弾ぶち込むって、悪魔じゃねぇかよ。」
「まー、私なりの配慮?」
「殺しが配慮って、テメェ悪魔というより死神だなおい。」
悪態を吐きまくるギリシス。こりゃまぁうざいのはいつも通りだったので、いつも通りの対処、「無視」を発動。
アズベルとナリアってどこ飛んでったっけ?万復っときたいんだけど……
「あ、いたいた。」
木に引っかかるアズベル、レイピアで踏ん張るナリア。やっぱり、ナリアは忍耐力が凄まじかった。
「はいはーい、万復るから動かないでねー。」
ピカーッ、と光が満ちる。魔力が粒子となって飛んでいくような感覚で、それが溶け込んで再生を促進させてる。
なんとなく、促成栽培に似てるね。温度光量とかで成長速度変える的な。中学の時やった気がする。
「……助かりました…………はい。ありがとうございました。」
「……僕も、礼を言わせて………もらいます。」
真っ暗な目で私を見てた。2人の心の中では、こう呟かれているだろう。「悪魔って、存在したんだなぁ」って。
ちなみに、このお通夜みたいな空気は私がなんとか頑張って元に戻した。どんな風にかは企業秘密だけど、とりあえず元の空気には戻ったからよし。
どこかの死に戻りのお母さんも言ってたよね!大事なのは最初でも途中でもないって!最後だって!
ということで、私は完璧な仕事をした。
「つまり先程の喋る魔物は、一連の事件とは関係なく、悪魔との関連性はない、ということでしょう。」
ナリアはすっかり平静を取り戻し、凛然に話をまとめた。
「僕はなんだっていいよ。でも、あいつを斬り損ねたのだけが心残りだ。」
「ボッコボコにされてたじゃねぇかよ。」
「同感ね。」
「キミら2人だって負けていたじゃないか。」
「咆哮さえなければどうにでもなった。麻痺の声なんて、想像できねぇだろ?」
なんて言い合いながらも、ちゃんと笑い合えてる。
こういうのが高ランクパーティーには必要なのかな。
言い合いするってことは、意見を遠慮せず出し合えてるってことだし、喧嘩になるのは逆に白熱してるとも捉えられる。
ズレこそが強さだって話、どっかで聞いたけど……こういうことかな。
尊重しあっても何もいいことないしね。
その考えの下、私も意見を呈した。
「多分、関係はあると思う。」
「どうしてでしょうか?ソラの意見も、一応聞き入れましょう。」
「……ま、いいや。視点を変えてみて。まず、悪魔というのが元から存在するか、そこから疑ってみる。」
「それを言っちゃあこの依頼自体意味がなくなるぞ?」
眉を曲げて、話を折るのはギリシス。とりあえず話を聞いて、と声をかけて先に進める。
「私もここ1週間近く、森を彷徨いまくった。でも、悪魔なんて全く見ない。なのに、死者はいる。別の死因を考えたほうがいいと思う。そっちの方が明らかに現実的だよ。」
「確かに、噂と相まって悪魔というレッテルを貼り続けていましたね……非現実の噂を、いつの間にか事実と捉えていたと。」
「そう。王の言うとおり、火のないところに煙なんて立たないから、何かそれに通じたことがあると思うんだけど……今みたいなのは多分、出会った人が話でもして尾ひれでも付いたんじゃない?」
両手を肩のあたりまで上に挙げ、首を振って苦笑する。それと一緒に、ナリアが「結果はどうあれ、私たちは真相が明るみになるまで森を彷徨うことになりますね」と、同じく苦笑しながら言っていた。
結局、私達は社畜しなきゃダメなのかぁ。
早いところ何か証拠的なものを……
どうにもならない現実に、頭を抱えることにしかならなかった。それもこれも、ミノタウロスのせいだ。
私は許さんぞー!
———————————————————————
そろそろ状況を変化させたいと思いまーす。というか、章の名前で大体の予想というか答えですねあれ。
答え書いてあるので、分かると思いますがそろそろ精霊さん出します。頑張ります。
0
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
こんなとき何て言う?
遠野エン
エッセイ・ノンフィクション
ユーモアは人間関係の潤滑油。会話を盛り上げるための「面白い答え方」を紹介。友人との会話や職場でのやり取りを一層楽しくするヒントをお届けします。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
王妃となったアンゼリカ
わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。
そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。
彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。
「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」
※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。
これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!
異世界でイケメンを引き上げた!〜突然現れた扉の先には異世界(船)が! 船には私一人だけ、そして海のど真ん中! 果たして生き延びられるのか!
楠ノ木雫
恋愛
突然異世界の船を手に入れてしまった平凡な会社員奈央。私に残されているのは自分の家とこの規格外な船のみ。
ガス水道電気完備、大きな大浴場に色々と便利な魔道具、甲板にあったよく分からない畑、そして何より優秀過ぎる船のスキル!
これなら何とかなるんじゃないか、と思っていた矢先に吊り上げてしまった……私の好みドンピシャなイケメン!!
何とも恐ろしい異世界ライフ(船)が今始まる!
【猫画像あり】島猫たちのエピソード
BIRD
エッセイ・ノンフィクション
【保護猫リンネの物語】連載中! 2024.4.15~
シャーパン猫の子育てと御世話の日々を、画像を添えて綴っています。
2024年4月15日午前4時。
1匹の老猫が、その命を終えました。
5匹の仔猫が、新たに生を受けました。
同じ時刻に死を迎えた老猫と、生を受けた仔猫。
島猫たちのエピソード、保護猫リンネと子供たちのお話をどうぞ。
石垣島は野良猫がとても多い島。
2021年2月22日に設立した保護団体【Cat nursery Larimar(通称ラリマー)】は、自宅では出来ない保護活動を、施設にスペースを借りて頑張るボランティアの集まりです。
「保護して下さい」と言うだけなら、誰にでも出来ます。
でもそれは丸投げで、猫のために何かした内には入りません。
もっと踏み込んで、その猫の医療費やゴハン代などを負担出来る人、譲渡会を手伝える人からの依頼のみ受け付けています。
本作は、ラリマーの保護活動や、石垣島の猫ボランティアについて書いた作品です。
スコア収益は、保護猫たちのゴハンやオヤツの購入に使っています。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
泥酔魔王の過失転生~酔った勢いで転生魔法を使ったなんて絶対にバレたくない!~
近度 有無
ファンタジー
魔界を統べる魔王とその配下たちは新たな幹部の誕生に宴を開いていた。
それはただの祝いの場で、よくあるような光景。
しかし誰も知らない──魔王にとって唯一の弱点が酒であるということを。
酔いつぶれた魔王は柱を敵と見間違え、攻撃。効くはずもなく、嘔吐を敵の精神攻撃と勘違い。
そのまま逃げるように転生魔法を行使してしまう。
そして、次に目覚めた時には、
「あれ? なんか幼児の身体になってない?」
あの最強と謳われた魔王が酔って間違って転生? それも人間に?
そんなことがバレたら恥ずかしくて死ぬどころじゃない……!
魔王は身元がバレないようにごく普通の人間として生きていくことを誓う。
しかし、勇者ですら敵わない魔王が普通の、それも人間の生活を真似できるわけもなく……
これは自分が元魔王だと、誰にもバレずに生きていきたい魔王が無自覚に無双してしまうような物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる