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10章 魔法少女と王都訪問

317話 魔法少女は思い出を作る 1

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 こけこっこー。

 実際そんな音どこからも聞こえてこないけど、朝といえばこの効果音だ。私は元気よく大広間に向かう。

 ライの薬のお陰か、それともただの時間経過か走らないけど、とりあえず頭痛も治ってる。今日はとことん遊び尽くす!

「おはよ、ロア。サキも。」
「おはよ~!」
「おはようございます、ソラお姉ちゃん、ちょっとテンション高いね。」
その質問に、「まぁね」とだけ答えて3人揃って席に着く。

「お、今日はパン祭り。」
いくつもの種類のあるパンたちを見て、どれを食べようか視線を忙しなく動かす。

 ちなみに今日が最終日、というか帰る日。
 午前中だけだけど、ロアが行きたいって言ったあそこには行けるよね。

 そう思い、ふとテレネト方向をチラリと見る。

 あれ……いない。まだ寝てるのかな?

「オーナー。」
「わっ!あ、レイン。なに?」
肩をビクッと跳ねさせたことにクスッと笑い、「すいません」と一言謝る。

「別に良いけど、何かあったの?私に直接なんて珍しいじゃん。」
「店長と母さん、多分くっつきました。」
「「え?」」

「ん?」
ロアとサキにも聞こえていた。先は分からないように香ばしいパンを齧っており、可愛らしく首を傾げてる。ロアは、手に取ったそのバターロール的な何かを取り落とす。

「昨日様子が変でした。多分、ナニかがあったことと思いますが、オーナーは?」
「気づかなかった……」
人知れず目標達成されていたことに対して、ぐっと項垂れる。

「ソラさん、おはようございます。」
そんな中、よく通る声が聞こえる。

「あぁ、ネル。おはよ。」
「俺もいるぞ。」
「……フィリオも。」
2人も定位置に座った。パンを美味しそうにはむり始めた。

「言ってなかったが、ネルとソラは待機だ。ネルとソラはここをもう少し貸してやる。ネルの場合は合格発表が終わり次第、寮に行ってくれ。護衛は決まっている、安心しろ。」

「それ、今言う?」
説明に結構手間取ったことは言うまでもない。テレネトのラブラブをお目にかかれないっていうのも、また悲しい。


 時は流れて……といっても時間的に押したため、10分くらいしか経ってないけど、私達は空中にいた。

「ソラさんって、本当になんでも人間ですね……世界征服狙っていたりしませんか?……私も一緒に手伝いますよ?」
「手伝わなくていいしする気もない。めんどいことはパスパス。」
「その割には面倒事ホイホイじゃないです?空って。」
「だまらっしゃい。」
胸に特殊なブローチをつけた百合乃が言った。

 このブローチは、隠蔽機能をつけた(音波発生が原理)ブローチで、隠れたい時はいつでも隠れられるね!
 そんな時ないか。

「ソラさんは魔法使いだったはずなのに、どんどん別方向にシフトチェンジしてますよ。1人で軍隊1つ分を補おうとでもしてるんですかってほどです。」
「ふっ、主人はすごい。言うまでもない。」
「すごいすご~い!」
サキの純粋な言葉が何か煽りに聞こえるのは、私の心が汚いからだろう。

 知っての通り今から行くのはあの祠。遅いけど、合格祈願だ。
 魔法少女の神にでも願っておこう。

「私も、人生で2回も空を飛べるなんて思わなかったです。」
サキを抑えつつ、ロアは呟く。

「これからは家族も増えるだろうし、頑張ってね。レインに甘えていいんだよ?」
「はい、分かりました。」
「なんの話ですか?」

「テレスさんとネトラーさんが再婚するかもって話。ま、早とちりは良くないよね。」
そろそろ見えてきた。何回見ても絶景だ。でも、ここから見える距離と実際の距離はだいぶ違うので、まだもう少しかかる。

「ん、やっぱ綺麗。あそことは、違う。」
「あそこってなんです?」
「ふっ、ユリノは悪い女。人の過去は、詮索ダメ。」

「獣人じゃないですか。」
「その前に奴隷ね。ツララは奴隷時代男のアレを噛みちぎったとんでも奴隷だから。」
奴隷商に聞いた話をそのまま伝える。硬直する。ロアとサキは、知らないみたいで、不思議そうに固まる人達を見た。

「わ、ワイルドです、ね?」
「ネル、無理に反応しなくていいよ。」
「あたし、丸くなった。でも、主に手を出せば、死ぬまで食いちぎる。」

「逆に尖ってますよね!」
百合乃が勢いに任せたツッコミを披露する。ツララは相変わらずキザったい顔をしてる。

 私が過去に帰ってから、ツララがやばいくらい変貌してるんだけど、これはなんだろう。世界の神秘……いや……

「魔法少女七不思議……」
「2個目が現れましたね。」
実際にはもっとあるけど、それを知らない百合乃が少し笑って揶揄うように言う。

「ってか話逸れすぎだって。ほら、景色でしょ景色。ツララワールドに飲み込まれすぎ。」
「完全に忘れてました。」
「もうネルは見てるけどね、ロアと。」
「仲良さそうですね……わたしたちもやりましょう!ヤリましょう!」

「なんで2回言ったの?え、2回目の何!?」
脳内の別の私達が『何イチャついてんだよ私。はっ倒すぞ』『こっちの苦労も知れ』『ぶち転がすぞわれ』ってヤンキーみたいにガンを飛ばしてきた。どこからか、圧も感じた。

 ま、まぁ?一応やってるのは私ですし?文句言われる筋合いなんてありませんし?
 ヘイ私!仲良くしようぜ!

 『『『無理』』』

 秒で嫌われた私だった。私に嫌われる私とは、なんぞ。

 そうしている間に、『超クールでイケメンでかっこいい』(?)でお馴染みの優秀分離思考の私が、目的地である祠に辿り着かせていた。

 ある程度高度も下がってたため、ブローチにつけた重力制御装置(魔力を入れると発動する)を発動してもらった。

 百合乃からは、「この前くださいよ、これ」とジト目と共に言葉をいただいた。

「王都に、こんな場所があったんですね……」
「私の聞き込みの結果だよ。こんなとこ、普通は来れないしね。祭りじゃなきゃこないよ、誰も。」
一応は管理され、花々も咲き誇っている。誰が手入れしているかは謎だけど、楽しめるなら楽しもう。

「どれがどの祠か、分かりませんね。何を祀っているのでしょう?」
「確か、大地の恵全てに宿る神々の祠……らしいんだけど、詳しくは分かんない。」
「まぁそんな者でしょう。」
今更気づいたけど、ネルはフリフリの白いワンピースを着ていた。冒険者としてよくない。視野が狭まってる気がする。

 はぁ……ここ最近の体調とか自分らしくない行動のせいかな?
 まぁ、回復はしてるけど。

 そんな中、みんなは好きなように移動して感嘆の声をあげていた。お祈りするところは、結局みんな同じになった。

「ネル様は何をお願いしますか?」
「ここは無難に、皆さんの健康ですかね。ロアも、健康でいてくださいね。私とまた遊べなくなります。」
「ネル様……」
「わたしもわたしもー!」

「わたしは空との濃密な……」
「あたしは、主が主でいられるように願う。」
各々、好きな風に願いを呟き、目を閉じていく。考えが最後までまとまらなかったのは、私だった。

「ソラさんは、何を?」
「まだ決まってないんだよね。」
「そうですか…………なら、僭越ながら私から少し一言を送らせてください。ソラさんは、ソラさんのために何かをすればいいと思います。私は、どんなソラさんでも一緒にいますから。」
ふふっ、と可愛く笑って、ターン。でも、そんなことは気にならなかった。なぜなら、

「え、それって……」
転入試験の時、私がかけた言葉だった。

「私は私のために頑張りました。ソラさんも、ソラさんのためにお祈りしてくれればいいですよ。」
私より完成度の高い言葉に聞こえた。言う人なのかどうかは分からないけど、ネルは将来いい領主になると感じた。

 ……自分の命の安全でも祈ろうかな。

 自分の手で、自分が守りたい人を救う。それは面倒じゃない。
 どこの誰かさんとか知ったこっちゃない。目の前にいれば助けはするけど、1番大事なのは私の知り合い。

 私は勇者でも、英雄でもない。結局何が言いたいか分からないけど、とにかくだ。

「…………………………」
黙祷を捧げた。祈るのは世界平和でも将来の夢とかでもなく、私の命。それが1番ネル達を守る方法だと自負しているから。

 ついでに左腕も欲しいかな、マジで。

———————————————————————

 最後の一文で全てが台無しになりましたね。これこそが空です。空は空のために祈るんですから、命と腕を祈ったってバチは当たりません。知りませんけど。

 ちなみに、私は初詣とか行かないタイプの人間です。家でまったりする派の人間です。
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