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10章 魔法少女と王都訪問

306話 軍服少女は荷物持ち 2

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 ロイ一向は今、バービストの群れに襲われていた。

 事の経緯は簡単だ。
 それは休憩を切り上げてすぐのことだった。

 一向が山登りを再開した頃には、もう囲まれていた。魔壊病の影響か、魔法少女万能感知が鈍っていた。
 そのため、囲まれていることに気づかず中腹のここまでおびき寄せてしまっていた。

 数は約20匹。魔法少女と軍服少女は中央に寄せられ、ロイ一向が武器を構えた。

 初っ端からクライマックス。

「今出るのは危険だ。出るなよ。」
「はっはい!」
魔法少女は百合乃が出れば一瞬だと思いつつ、先ほどの自分の言葉を思い出して口を噤む。

「20匹ねぇ……倒せるかな?」
「イルルイはおびき寄せて。私がなんとかする。」
「なんとかするって、サリリルは後衛じゃない!」
「私は怪力、でしょ?」
そう言って後衛から脱した。素早い機動で前衛まで漕ぎ着け、跳躍する。

「どうして、こうなってしまった……」
ロイが拳を握る。さっきまでの平和な空気が嘘のようだ。

 山を登って、何にも気づかず、ここに来た。自分達の怠慢だ。身軽なはずなのに。

「しっかりしろ。お前が前衛だ。お前以外、誰が戦う?」
「ガストス……」
その言葉に目が覚めた。ロイは腰にささった形見の剣を抜き、バービストへ向ける。

 その頃にはサリリルの攻防が始まっていた。

「らあぁぁぁっ!」
冷静なサリリルが、気迫を込めて叫ぶ。手には護身用のナイフ。

 理論的には倒せるが、その刃は羽毛に阻まれ弾き返される。

「足りない、足りないっ!」
捻り着地をし、そのまま片足で跳ね上がった。勢いを調節してバービストの前に躍り出るが、四方には別のバービスト。

「死ねっ!」
ナイフを投擲し、羽毛に当たったところで捻り蹴り。ナイフは深く突き刺さる。

「ギュワアァァァァァァァ!」
「「「「ギュゥゥゥゥゥ!!」」」」
咆哮が重なる。ただの人間なら狂いかねないその叫びも、サリリルともなれば怯むだけで済む。

「ぐぅ……たぁ……っ!」
囲んでいたバービストがサリリルの背中を鷲掴みにし、他が嘴で突き、舌で毒液を撒き散らした。

「サリリルぅっ!」
ロイが渾身の力で飛び込む。勢いに任せているように見えるが、しっかり太刀筋を意識した軌道だ。

「……ぃ、だ、め……」
毒液に浸され、皮膚が爛れる。サリリルのその酷い火傷を見て、イルルイは動揺する。それでも動きは止められない。なんとか引き離すくらいしか、できない。

 量は依然変わらない。
 1匹なら余裕でも、20も集まれば手も足も出ない。

 1匹を負傷させた。そしてサリリルは重症を負った。

 酷い賭けだ。

「サリリル!大丈夫か!ほら、解毒剤だ。回復薬も飲め!」
薬を無理矢理に飲み込ませる。途中、期間に入ったのか咳き込むが、問題は無い。ただの解毒剤と回復薬だ。

 硬い羽毛。バービストの羽とは、ここまで硬かったろうか。

 最近引き起こされる魔力の活性化が頭に浮かび、クソッ!と悪態を吐く。

「ロ、イ……今は、指、揮を。」
「くっ…………」
不甲斐なさでいっぱいになる。その気持ちを自分を殴ることで制し、その頃にはガストスが1人でバービストの攻撃を防いでいた。

「早く!数が少ないうちに!」
イルルイが言う。2人が引き受けた数は合計8。多いはずだが、残るは12。放っておけば新人の命が危なく、かと言って相手をできるわけでも無い。

「ちく、しょう!」
ロイは震える足に拳で対応し、走る。12匹のバービスト。ギリギリと歯を鳴らし、威嚇する奴らの元へ全力で駆け出す。

「おらあぁ!」
気合いで足場の木を蹴り飛ばし、跳躍。目の前に現れたバービストの舌を首を折ることで回避し、切断。空中で素早く解毒剤を服用し、そのまま舌の切れ端を強く握る。

「魔物如きが、僕の仲間に手を出すな!」
地面に投げ捨て、墜落死。そのまま剣を頭上に投げ、見事にバービストの頭を貫通。死亡。

「ガァッ!」
着地など考える暇もない。背中を打ちつけ、血を吐く。

 剣はそのまま地面に落下し、バービストは10匹、ロイの周りを舌を伸ばして狙っている。

 一方で軍服少女は、仮定未来眼で次の動きを予知しつつ、ボケっと隣の少女の指示を待つ。

 魔法少女も、見捨てるなんていう愚策を犯すことはないはずだ。何か、考えがあるんだろう。
 今ロイ達は死ぬ気で敵に立ち向かっている。

 軍服少女も、KYではないのだ。

「……私、言うほど百合乃のこと嫌いじゃないからね。」
「どうしたんです?突然。」

「……恥ずかしいんだけど。……一応私、百合乃のためならある程度するから。できることあったら言って。」

「キャー!空が、空がデレた!」
否。KYであった。

 戦場には似つかわしくない声が響き、だがそれはロイには届かない。
 ロイが倒れたところで陣形は崩壊し、ガストスもイルルイも満身創痍。

 舌の砲弾を掠らせつつ、息を荒げている。

「じゃあ空、1つお願いです。」
「なに?」
「ロイさんたち、助けてあげられません?」
軍服少女が、コンビニ行かない?ぐらいの感覚で聞く。

「了解。」
そう言ってステッキを握った。

 財布体調はオッケー。お金魔力もオッケー。いざ、コンビニへアイスを買いに!

 偶然にも、ここは魔力に満ちていた。
 バービストが、鉄をも弾き返す羽毛を手に入れるほどの。

「魔壊病?それがどうしたって話。要は、魔力さえあればいい!」
脈をドッキング。魔法少女は、今究極形態へと進化した!

 魔力の供給と使用の平行使用。魔力口がガバガバになりかねない手法だが、存外慣れというものは存在するようだ。

「ちょっと硬いみたいだし、少し本気で。……流星光槍。」
10の光が槍を模す。高速回転するそれは、乱れ打ちにされ舌を消し飛ばし、散開させた。

 だが、魔法少女からは逃げられない。

「思考分離と重力操作の並行多重使用で、音波の簡易結界張ったから。」
そう言った時には、バービストが戻ってきていた。

 流星光槍はもちろんブラフ。ここからが魔法の真髄。魔法とは、見た目が全てじゃない。

 パァァンッ!パァァンッ!パァァンッ!

「うん。やっぱりラノスはしっくりくる。」
3体の死骸が地に落ちる。黒塗りの銃を空に向け、ニヤッと笑う魔法少女。

「嘘……」
「………」
残った2人は唖然と、その光景を見る。

「認識阻害。」
ローブに魔力を込めると姿が薄くなる。そしてほとんど見えなくなり、その状態で空中歩行を始める。バービーストにも困惑が見られる。

「死神さん、バージョンβ!」
ツララの特訓に付き合わされ続け、改良が進んだ死神さん。死神の鎌を振るい、次々と血飛沫をあげる。

 パァァンッ!ザシュッ!パァァンッ!ザシュッ!

 途切れることなくきっかり15回。その場には、死体以外のバービストが消えた。

 魔法少女が銃の二刀流をしないのは、技術面の不安もあるが、左腕が無いから。空間伸縮による射撃は、右腕に一任された。

「ふひぁ~、久しぶりに戦ったぁ!魔力使うの結構きついね。早く治るといいけど……」
「空空。あれ、どうします?」

「……あれかぁ。」
軍服少女が指を差す。その先には倒れ伏したサリリルとロイ。毒を喰らい、傷だらけで、今にも倒れそうな残り2人。

「ちょっとみんな、動かないで。」
そう言われても全員、動く気力も体力もない。魔法少女は自分の仕事に集中する。

 ヒール。それでは効率も回復量も魔力頼りで低い。が、こういう時こそ補正操作。ヒールの能力の補正を生み出し、統合することで進化を図るというもの。

 ヒールの補正、自動回復と広範囲回復が生まれる。これ以上は生まれそうになかった。こればかりは確率だ。

 新しく創る魔法は万復。
 能力は範囲ヒール、その後一定時間自動回復機能。魔力をガン使いすればヒール結界も作れる。

「ふぅ……万復。」
唱えると、辺りがほのかに水色の魔力で埋め尽くされる。

 倒れた者達の傷は癒え、血が止まる。解毒機能は流石にないが、歩ける程度には回復したようで、うなされている。

「……あれ、体が軽くなったような……」
そう思いつつ、疲れた自分の体を褒め称えて帰る魔法少女。これ以上は延長金が必要だ。

「はい終了。ちょっと休んだら行くよ?ただでさえ日も暮れてるんだし、夜の山道とか嫌だよ。」
軽々とそんなことを言う。軍服少女以外はポカンと口を開けていた。

 その後は無事に依頼は終了した。依頼は引き継ぎという形で達成され、魔法少女はなんとも言えない表情で金銭を受け取っていた。半分くらい分けようかとも考え、こっそり分配していたりする。

 こうして、軍服少女の初依頼は終わった。

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 なんな本編とは関係ないくせに話数食ってます。普通に閑話にしとけばよかったですかね。
 
 魔力大開放です。ちなみに魔壊病の完治の方法は全く思いつきません。
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