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10章 魔法少女と王都訪問
305話 軍服少女は荷物持ち 1
しおりを挟む冒険者。それは冒険者ギルドにで冒険者登録をし、ギルドや市民から出される依頼をこなし金銭を受け取ることができる職業。
子供の夢ランキング上位に食い込み、親が勧めたくない職業ランキング上位にもいる職業だ。
入る者も多く、また出る者も多い。
冒険者ギルドは言わば仲介役だ。市民や街、時には他地域から出される依頼を、仲介料と依頼料をもらってギルドに貼り出す。仲介料をギルドへ、残りを冒険者に。
ちなみにだが、ギルドは街の機関。税で給料が払われる。
実力の無いものは追い出される。金の循環や活気は、ギルドの状態によっても左右するためだ。
ここパズールの門前。それは、そんな冒険者のひよっこ、初舞台の地。
「よろしくぅ~!わたしたちの仲間が怪我しちゃってね、だからって休めないから。少しでも戦力増強のために、身軽な方がいいでしょ?」
依頼主の女性。20代後半らしき見た目だが、相当若作りしている。
「こちらこそよろしくです。」
「よろしく、私はこの子の監督だから気にしないで。」
返したのは2人の少女。ロープを着た少女と、軍服を着た少女。
言わずもがな、だ。
「2人とも、よろしく。僕はこのチームのリーダーをさせてもらってるロイだ。」
そのままの流れで残りも紹介された。
初めの女性がイルルイ、隣の少し若めの女性がサリリル。後ろには、ここから先にはエンディング後にしか通してくれそうもないガストスという男が。
怪我をしたというのはダンクといういかにも盾役であろう男だという。
「それでは、出発する。分かってる通り、近隣に発生し始めた毒液を持つ鳥、バービストの討伐だ。」
「分かってるよー。いつも通りちょちょいと探してくるよっ!」
「そろそろイタい。イルルイ、やめた方がいい。」
「はぁ!サリリルは若いからいいでしょうね!わたしは、もうすぐ三十路……」
「見苦しい。新人の前だ。」
これぞ死線を潜り抜けたパーティー。Bランクという話だが、もっと上を目指せるのではと魔法少女は思案する。
軍服少女は、受け渡された荷物を肩や胸、背中を使って持つ。ステータスは言うほど高くはないので、多少は重そうだ。
が、その程度で手伝うほどあまちゃんではないのが魔法少女。
見ているだけで、何もしない。
「…………君は、監視役だっけ?何もしてない気が……」
「新人教育でいきなり口出したか、ダメでしょ。」
「……うん。そうだね。」
ロイは諦めたように前を向き直し、森を散策し始めた。
討伐目標は5羽。多ければ多いほどなお良い。街のためになる。
「最初だから無理は禁物だからね?百合乃ちゃんだっけ?疲れたら言うんだよ?」
「大丈夫です。わたし、こう見えても力はあるので。」
「うん。女の子でも、そこの怪力お化けみたいなのもいるしね?」
「誰が怪力お化け?そっちこそ、そんなでかいものぶら下げて。娼婦でもやればいい。」
「はぁ!小さいよりマシでしょ!」
「仲がいいのか悪いのか。」
魔法少女は肩をすくめる。
魔壊病発症中の彼女は、己の勘のみで索敵をするが諦める。ただの魔法少女が、魔法もスキルもなしにそんなことはできない。
できるのは、現れた魔物を、ステータスとステッキの強度によりボコボコにするのみ。
「聞きたい。2人、どんな関係?私、この街はあまり知らない。ダンク怪我して、近くのここに来て、何も知らない。」
「恋b……」
「あ?」
「同郷の知り合いです!空は友達です!She is my friend !」
中学英語が飛び出る。軍服少女は、焦るとたまに英語が出るのだ!それもすごく、ネイティブに。
「う、うん。分かった。」
なんとなく気まずそうなのは分かった軍服少女。サリリルも、深くは聞かない。
「バービストってどんな魔物?私、そんな魔物は覚えないけど。」
「鳥だ。通常は人より大きくなることはない。が、たまにいる。気をつけろ。長い舌には、強力な毒液が付いている。」
「ガストスの言う通り、危険だから注意をするように。それ以外は単純だから、気にしなくても大丈夫。」
ロイがそう言い足す。いくら魔法が使えないとはいえ、重力操作で十分事足りるだろうと楽観する。
森を探索を始めていくらか経つ。軍服少女は、始めての依頼ということで緊張もあってか、少し疲労が見え始めた。
それだけでなく、彼らもうっすらと汗が滲んでいるのが見える。長時間通して森での活動は危険を伴う。
どこから魔物が襲ってくるかは分からないのだ。
実際何度かすれ違ったが、ことごとく倒されていった。軍服少女はサーベルを片手に、「ぁぅ」と情けない声をあげた。
「あ~、疲れたぁ!」
「流石に登りすぎた。脚に疲労が見える。休んだ方が得策。」
「新人が根を上げてないんだ。根性で登れ。」
「まぁまぁ。長時間の歩行に、山の方まで来たんだ。少し休憩にしよう。」
ロイがそう言うと、リーダー命令だからなのか頷くガストス。サリリルは、イルルイがいつの間にか運んできた木の枝の束に手を伸ばす。
とてつもないコンビネーションだ。
「赤く燃える灯よ、この手に集いて束となり、辺りに光を灯したまえ。ファイア。」
ゆっくりと咀嚼するように魔法を詠唱する。魔法少女が最初に使った魔法でもあった。
この世界の魔法は最弱だ。と言うのは少し齟齬があるが、今はいい。
このように少し便利な手品のように使えるのみで、戦闘には全くの不向き。
詠唱時間の長さ、規模の小ささ、そして明確なイメージの難しさから魔法は最弱と呼ばれる。
「聞き忘れてた。ソラ?だっけ。職業は?」
「ん?魔法使い。最弱とか言われてるけど……いや、面倒だしいいや。別にどう思われようが関係ないし。」
魔法少女がキッパリ言うと、彼らは突っかかる気がなくなる。
そこまで振り切られていては、何も言えまい。
「……来る。」
「………………」
魔法少女は、気づかれないよう小さく呟く。誰かの視線が向いた気がするが、気のせいだと割り切りステッキを握った。
魔力が無いため魔力を使うスキルは発動できないが、脈なら少しは操れる。
乱れがあった。それを感じるだけの簡単な仕事だ。
魔法少女は立ち上がり、「どうした?」というロイの疑問を無視して踵を返す。
そのままステッキを野球のバットのようにスイングし……
「ナイスショット!ホームラン!」
何かがカッ飛んでいった。姿は見えた。その後は、スイングと飛ぶ勢いが早すぎて視認はできなかった。なにか、魔物が吹き飛ばされた。
「本当に、魔法使い?」
サリリルが疑う。否、全員が疑う。口に出さないだけで。
魔法少女改め、殴殺魔。ここに極まれり。
「ふぅ。魔物、片付けといたよ。バービストとかいうやつがどんなのか知らないけど、まぁ肩慣らしくらいにはなったかな。」
腕を回す殴殺魔。今の彼女は魔法少女ではない、通りすがりの殴殺魔だ。
力こそパワー。威力こそ正義。さぁ、ここに素晴らしき殴殺を!
「ん?あぁ、別に依頼を取ったりしないよ。それはルール違反でしょ。ギルドカード(百合乃のやつ)にも書いてあったし、受けた依頼を強奪するのは~って。」
完全なうろ覚えだ。
全然教えてくれなかったファーテルさんに変わり、ギルカでお勉強をしてきた。ほとんど覚えてはないが。
「ま、まぁ実力はあって損はない。安全になるしね。そろそろ行こうか。時間も時間だ。」
「りょーかーい。」
ロイ一向は逃げるようにして休憩を切り上げ、依頼を再開した。
———————————————————————
殴殺、なぜかこのワードに惹かれました。これからできる新作品、少し設定が似るかもしれませんがこれを原作として大幅改変されたと思えば……
それ、ただの別作品ですね。
まぁ、ソラさんの重力操作+ステッキ殴りを中心に描いていきます。内容はソラじゃないですけど。
主人公の名前は、思いつかないので柊アオイにしようかと。
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