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9章 魔法少女と天空の城

277話 因縁 (空視点)

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 目が覚めた。さっきと同じような感覚だけど、記憶はしっかり残ってる。

 目は、開く。

「ここは?」
薄暗い部屋。ここ最近ずっと真っ白な世界を見てきたからか、このくらいでも少し暗く感じる。

 服は……うん、そんな気はしてたけど、やっぱりね。

 体を隠すコートを見て、なんとなく悟る。
 それと、体のスースー具合で。

「空。」
男の声らしき、そんな声が突然聞こえてきた。驚くも、それを声には出さずに警戒する。

「こっちだ。」
後ろから聞こえてくる声に吸い寄せられ、後ろを振り返る。

「空、久しぶりだ。」
虚な目をした、40代のように見える男がいた。そして私はその男に———

「黙れ。」
自慢のラノスをわざわざ汚い口ににつっこんでやるような真似はせず、その顎に、思いっきり銃口を当てる。

 嫌な記憶、それも結構鮮明に思い出したばっかなのに、いきなりご本人様登場?
 世界一最悪なサプライズをありがとう。

 あからさまに気分が悪くなる。負のオーラが全開で、辺りの空気は文字通り重くなっていた。
 あまりの怒りに重力操作が暴発し、空気に重力が付与された。

「酷い言いようじゃないか。まるでが悪m」
「動いたら、撃つ。」
最低限の言葉しか交わさない。ただすべきことをやってる。百合乃相手じゃないんだから、本気で。

 こいつは魔物より魔物だ。

 私の記憶を再現してる?なわけない。私の脳内のアレはこんな穏やかだった記憶はない。
 良かった頃はもうちょっと抜けてるし、最悪な時は全てを憎むような表情をしてた。

「お父さんは、本物のお父さんだy」
パァァンッ!パァァンッ!パァァンッ!3連続で撃つ。人間相手にそんなに撃つ必要もなければ、ラノスを使うまでもない。そこには、思念が込められていた。

「危ないじゃないか。お父さんを殺す気かい?」
「もちろん。それ以外の選択肢はない。蚊を見たら潰せというように、アンタを見たら殺せ。万葉集にも載ってるよ。」
顎が貫かれて脳まで達し、どこからどう見ても死に体にしか見えない男はそれでも飄々としている。

「龍神関係?無理矢理幻影を投影してる?どちらにせよ、厄介極まりない……」
ラノスの男に銃口は向けたまま、後ろに倒れかかってその体を蹴り飛ばしてやる。パァァンッ!追加で1発。

「話し合う気はない。黙れ、死ね。それだけ。」
「待ってくれないか?」
パァァンッ!もはや5発目にまで達した。それでも抑えきれず、残り3発全てを撃ち切る。マガジンが空になってもトリガーをかしゃかしゃと引き、舌打ちをしてマガジンを入れ替える。

 なんで倒れない?なんで生きてる?どういう原理?

 いくつもの疑問が頭を埋め、冷静さを欠く。

「お父さんが裏切ったのには、理由がある。」
「黙れ。」
蹴り飛ばし、何もない空間で無様にも跳ねる。

「私はもう割り切った。義両親はいい人で、両親共々行方不明と自殺。万々歳。だから忘れて、脳を洗浄して、暮らしてきた。なのに!黙れよ!私がどんなに辛い思いをしたと思ってる!原因は2人にあるはずじゃん!どうして、なんでこうなる前に話をしておかなかった!馬鹿じゃないの!」
自分でも何が言いたいか分からない。でも、この理不尽を前に何か叫ばずにはいられなかった。

 逃げ場がないのは、どれだけ辛いことか。学校に行っても、家にいても、外に行っても孤独以上に辛いことが起こる。
 それならいっそ、孤独がよかった。

 大人の痴情のもつれや汚い中身、親の本性、悪意と殺意と憎悪。それでもアイツを思って、私のせいにされて。私より先に楽になって。

 心の傷は、深まるばかり。
 抉ったものはナイフじゃない。それこそ、パイルバンカー的な貫通するものだ。

「空の心の傷は、到底お父さんには理解し難いものなんだろう。」
「知ったような口を……」
歯を噛み締め、自然とラノスにかけられる力も倍増した。

「お父さん、知っていたんだ。代替わりした社長の息子が、実は駄々を兼ねただけの無能だったことを。良案を潰し、目先だけの悪手に手を染め続ける。そんなことをしていたら、倒産もする。」
「……………」
滔々と語る。その無気力な瞳と共に放たれるその言葉は、なぜか重みがあった。

「だから、お金に困らないように次の仕事を裏でか探していた。それが、浮気相手の親が経営する仕事。そこに斡旋してもらうため、浮気をしていた。必要なことだった。」
「それで?」

「その間、再就職に間に合わずに倒産し、それと同時に浮気がバレた。今後は養育費という形で育てようと思ったが、未春が自殺して、顔が出しづらく……」
何か悔しがるように拳を握る。

「ふぅ~ん。それで?」
「それで、とは?」

「そんなクソみたいな理由で?まぁそこはどうでもいいとして、私のクソ父はお母さんの香水の匂いとか、髪型すらまともに覚えられないような鈍感なのに、よくもまぁそんなことをしようと思ったものだね?」
「何を言いたい?」

「あんたが偽物の可能性について話してるだけ。」
パァァンッ!伸縮された先からはドクドクも血が溢れ出る。これで何箇所目だろうか。

 死なない、か。

「痛いの、それ?」
「あぁ、無論。」

「へぇ。ならあと100回ぐらいやろうかな。」
「我が娘ながら、鬼畜に育ったな。」
「育てられた覚えはないけどね。特に、今の私には全く影響はない。」
流れている血は匂いからして本物。龍神が死なないようにして連れてきてるか、やっぱり勝手に作ってるだけか。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。結局はやるかやらないかの2択。

「やる以外の選択肢がないね。」
流石にこんなやつにラノスの銃弾を使うのはもったいないので、刀を取り出す。我ながら自信作だ。

「そんなファンタジーなものまで。もうお父さんの知る娘じゃないんだn……」
「いい加減、黙って。」
大っ嫌いなお父さんの顔で、そして声。嫌いな神が操ってるかもしれない木偶。こんなもの、斬って捨てられて当然だ。

「魔法なんて必要ない。ただ斬る。」
切れ味のいい核石に、血が付着する。薄皮を切り裂き、肉を削いで骨を断つ。また肉を削いで反対側の皮を通って貫通する。勢いをつけているため、鮮血が飛び散る。

 お父さん?お母さん?そんなクソ共今更出てきて何になる?
 クソな父に縋って私を蔑み痛めつけてきた母も、それをさせた父も全部嫌いだ。

 10年以上育ててくれた?じゃあ残りの人生はどうしろと。
 人生100年時代。寿命を伸ばす方法は多く確立してきている。10分の1しか育てられず、あとの人生を闇の底に沈めたやつに、10年分の感謝なんてない。代わりに、一生分の怨嗟をくれてやろう。

「分かって、くれなくても、いい。これから、ゆっくり、分かって、いって、ほしい。」
「……………」

「帰ろう、空。」
「行き来できるならいいけど、できないなら無理。」
最後の一撃とばかりに喉仏を突き刺し、言葉をシャットアウトする。

「あと、あんたと一緒なんて死んでも嫌。」
べー、と、舌を見せて横っ腹を蹴っ飛ばした。

 そもそも魔物達の死屍累々な光景を生み出す私が、日本に順応し直すのにいったいどれだけかかるんだろうね。

「そう、か。反抗期の娘に相手されない父親とは、こんな気分なんだろうな。」
そう言いながら、消えていく。光の粒子が、このくらい部屋を満たしていくのを見て、ちょっと嫌悪感を抱く。

「そんな感傷とかいらないから。さっさと消えて。とりあえず光の粒子ごと完全に。原子崩しメル○ダウナーでも撃てば一撃だって、ほら。」
そう言っているうちに、苦笑いしたお父さんのような何かよく分からない物体が消えていく。

 ほんと、マジでストレス溜まった。後で覚えとけよ、龍神。

「キュ、ッキューッ?」
「……え、いたの?」

———————————————————————

 空、ブチギレ。私、ブチギレ。

 前者は嫌いな両親が現れて語りかけてきたため。
 後者は、行きたくもない山に行かなければいけないため。

 これが投稿されている日は出発している頃ですが、次の回は長くするつもりなので、よろしくお願いします。
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