291 / 681
9章 魔法少女と天空の城
272話 魔法少女は合流する
しおりを挟む「ん…………ここ……どこ、だっけ。」
一瞬2度寝したくなったけど、地面の上だと気づいた時に、そういえば……と状況を思い出して、目をこすりながら立ち上がる。
えっと……何あったんだっけ?
あ、そうそう。全裸の私のコピーと戦ったんだった。
っていうかなんであれ全裸だったわけ?馬鹿じゃないの?コピーしろよっていうツッコミはしたら負け?
口に出すのは億劫なので、脳内でボロクソに言う。今は亡きあのコピーが聞いたら、機械の身でも普通に泣きそうなくらい辛辣だ。
「百合乃も同じの受けたのかな?まぁ高確率でそうだろうけど…………やっぱり、怪しいよね。」
ようやく覚めてきた頭を回しながら、真っ白なあの部屋でも思ったことを口にする。
ああいう試練は大抵、自分を乗り越えるためにやるものであって、この場合龍神の手引きとは考えられない。
そんなことできるなら、私の能力が筒抜けってことになる。それだったらあんな変なスキル追加する必要もないし、直で封じられると思う。
つまり……龍神以外の神?
「げっ。まさか創滅神?っ……」
まるで正解と言わんばかりに風が吹き、靡く髪を抑える。
「このコート、もうあちこち傷だらけだし、フードもないし……厨二的だし。そろそろ変えようかな。」
靡く髪を抑えた私は、めんどくさげにコートを見つめる。もうボロ雑巾とか言われた方がしっくりくる見た目だ。
ちなみに、髪を切るって選択肢は存在しないよ?
「はぁ……まぁ道理は通ってるっちゃ通ってるけど。ここまでできるなら自分でやりゃいいのに。」
愚痴もそこそこにして、私はのそのそと亀のように歩き出し、気だるげな雰囲気を纏いつつ百合乃を探す。
あー、やばい。あの一瞬だけ聞こえてきた創滅神のほんとの声らしきアレ。
あの声が私の脳内で「役に立っただろう?我が雫よ。龍神など排除してしまえ!」と声高らかに宣言してきてる。
ちょっと!私の脳に介入してくるのやめてくれない?
なんか適当な人神といい、やることなすこと突拍子もない創滅神。残りの魔神、霊神はどんな曲者かと若干肩を震わせる。
龍神?あぁ、あれはもういきなり狡い手使ってるんだからもう性格は悪いで決定ね。
「神は神。みんな頭おかしい。」
そう結論付け、早々に目的を忘れる。今は散歩タイムかな?というレベルでローペース。
というか、もう日も沈みかけてるじゃん……どれだけ時間食ったの?
「というか気づくの遅っ。」
小さな声でセルフツッコミ。こんな感じのまったりが、私にはちょうどい……
「空ぁぁぁぁぁぁっ!」
「ひぃぶぅっ!」
黒と深緑の何かよく分からない生命体が、私の体に向かって飛び込んできた。効果音はぼふっ、などという優しいものではなく、ドゴッ、ザアッといった感じの濁点付きの効果音だった。
「ゆ、百合、乃ぉ……寝起きのフルタックルは、聞いてな、ぃ……」
「そっ、空ぁぁぁぁぁぁっ!一体、誰がこんな酷いことを……」
「百合乃だよ?何自分は無罪ですみたいな顔してるの?バリバリの有罪だよ?」
背面の土と草むらの感触に表情を歪め、ともかく退いて、とひどく冷静に突きつける。
うわ……ボロいって気にしてたコートがこんな汚れて……
少しだけよかった気分が地の果てに落っこちた。
「そ、空?ごめんなさい、ごめんなさい!そんなつもりじゃなかったん……です?」
「そこは言い切ってよ!」
「ちょっと危ない目にあったのでソラニウムを吸収しておこうかと思っただけといいますか……無罪っていうことで、手打ちにしません?楽じゃないです?」
「謎の物質生み出さないで。あとなんでそっちが上からなの?え?」
「ちなみに元素記号はSrです。」
「何気に元素記号生み出さないで?」
「何言ってるんです?Srはストロンチウムですよ。」
「……そうかそうか。分かった、どうやら百合乃は1回痛い目に遭うほうがいいみたいだね。」
「空になら……」
顔を赤らめて私の上で両頬に手を添える。
いや、だから退いてよ。
そんな願いは通じず、無理矢理ステータスで突き放した。
「こほん。すみません、ちょっと調子を戻すためにやってたらやりすぎちゃいました。空の魅力のせいなんです。」
「そこ私のせいにされてもね。……というか、百合乃の方は大丈夫だった?」
「ん?何がです?」
「いや、こっちは試練的な感じ……っていうか、創滅神からの戦闘訓練みたいなので私の全裸コピーが出てきたんだけど、そっちは?」
「……空の、全裸。」
ごくりと唾を飲む。どこにそんな要素があるんだろう、と、ジロっと百合乃を見る。
よっぽどこっちの方が需要あると思うよ。着痩せするタイプではなさそうだけど、軍服で締め付けられ、上からの羽織りもので隠されている胸元。ピシッとしたスーツから見える足元のライン。よく見ると巨大な双丘。
コレが私の1個下。ありえないってこれ。絶対なんか入ってるって。シリコンでも埋め込まれてるんじゃないの?
と、そんな妬みめいた想像をする私だけど、本物の胸というものの感触を知らないので、利き乳をすることも不可能だと自分で傷つく。
「……はっ。えーっと、コピーです?あ、出ました出ました。よく分からなかったけど、コピーに失敗したのか、変な攻撃ばっかしてきましたね。危なかったです。」
「やっぱりそっちもいたのかぁ。」
「空の方はどうでした?」
「どうも何も、やばかった、としか言いようがないね。地が強いから、コピーもその分強化されてね。あれ、強化コピーとかいうチート使ってきて、ここ最近使った魔法全コピされて……流石に危機を感じた。」
「まさか、銃も?」
「無論、超強化。」
「おうふ。」
あの危険がさらに危険に……と、ブルっと肩を震わせる百合乃。危険が危ないとも呟いていた。頭の病院に連れて行きたいけど、この世界にそんな所はない。
悲しいかな。百合乃の頭の病気は、もう一生治らない。
私が戻してあげろって?嫌だよ。めんどくさい。この世界はこの世界で気に入ってるし、向こうの世界に戻って帰れなかったらどうするの?
百合乃を送るんだから、責任とって私も行かなきゃいけないんだし、不確定なのは嫌だ。
「まぁ互いの情報交換も終わったところで、ご飯にしよう。」
「やったぁ!」
天空に拳を突き出し、今日はわたしの番!と、元気な声でやる気を表明する。
「肉切って野菜切って鍋で煮るだけなんだけど。」
「その辺にいい草生えてません?香り付けとか色々のためになんか入れときたいんですけど。」
「ん?どうして?」
「魔力で作るせいか、ちょっと言葉では表しにくい何かがあるんです。それを抑えたいなーって。」
「あー、ちょっと待って。百合乃、森に入る前にスキル見せてもらったじゃん。そのスキルってなんだっけ?」
ふと気になることがあり、聞いてみる。魔力喰らいに新しい効果を付与すればいいとも思ったけど、この前の一斉強化で馬鹿にならない量のSPを使ったから、できれば使いたくない。
エコだよエコ。エゴじゃないよ。めんどくさいからでもないよ。
「えっとですね。衝波に天震、それと吸魔……」
「それ。」
「?吸魔がどうしたんです?」
「魔力をある程度吸って、量を減らせるんじゃないかって。」
「あ、ナイスアイデアです。」
その間に私が取り出した調理道具一式と材料を、サーベルを構えながら見つめる百合乃。材料は回復し切ってない魔力で作ってる。高速回復がなかったら無理だったね。
「いい香りの薬草の方は、空に頼んでもいいです?」
「ん、おっけ。やっとく。」
まな板もどきの上で、器用にサーベルでカットされていく野菜たち。皮なんて栄養分の高い皮の近くを取らず、薄皮だけを器用に剥いでた。シンプルに怖い。
……私も私で仕事しよーっと。
料理での格の差も見せつけられ、ちょっと私の女の子の部分にヒビが入る。
薬草の良し悪しなんて私じゃ分かりっこないし、その辺は鑑定眼頼りだね。
あー、雑草雑草雑草雑草雑草雑草。
「んー、雑草オンリー。」
何もないことが分かったので、とりあえず数本の雑草をローズマリー風の薬草に変化させ、百合乃に持っていく。
ちなみに百合乃には「なんです、これ」と目を細めれて聞かれたけど、「まぁいろいろ」と答えておいた。
鍋の味はとてつもなく美味しかった。
なんか、料亭に飾り付けて出せばバレないんじゃないかってくらい美味しかった。
———————————————————————
日常回で3000字いけましたね。やった。
次回はどうなるか分かりませんが、いつも通りはっちゃけておきます。
0
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
こんなとき何て言う?
遠野エン
エッセイ・ノンフィクション
ユーモアは人間関係の潤滑油。会話を盛り上げるための「面白い答え方」を紹介。友人との会話や職場でのやり取りを一層楽しくするヒントをお届けします。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
王妃となったアンゼリカ
わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。
そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。
彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。
「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」
※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。
これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!
異世界でイケメンを引き上げた!〜突然現れた扉の先には異世界(船)が! 船には私一人だけ、そして海のど真ん中! 果たして生き延びられるのか!
楠ノ木雫
恋愛
突然異世界の船を手に入れてしまった平凡な会社員奈央。私に残されているのは自分の家とこの規格外な船のみ。
ガス水道電気完備、大きな大浴場に色々と便利な魔道具、甲板にあったよく分からない畑、そして何より優秀過ぎる船のスキル!
これなら何とかなるんじゃないか、と思っていた矢先に吊り上げてしまった……私の好みドンピシャなイケメン!!
何とも恐ろしい異世界ライフ(船)が今始まる!
【猫画像あり】島猫たちのエピソード
BIRD
エッセイ・ノンフィクション
【保護猫リンネの物語】連載中! 2024.4.15~
シャーパン猫の子育てと御世話の日々を、画像を添えて綴っています。
2024年4月15日午前4時。
1匹の老猫が、その命を終えました。
5匹の仔猫が、新たに生を受けました。
同じ時刻に死を迎えた老猫と、生を受けた仔猫。
島猫たちのエピソード、保護猫リンネと子供たちのお話をどうぞ。
石垣島は野良猫がとても多い島。
2021年2月22日に設立した保護団体【Cat nursery Larimar(通称ラリマー)】は、自宅では出来ない保護活動を、施設にスペースを借りて頑張るボランティアの集まりです。
「保護して下さい」と言うだけなら、誰にでも出来ます。
でもそれは丸投げで、猫のために何かした内には入りません。
もっと踏み込んで、その猫の医療費やゴハン代などを負担出来る人、譲渡会を手伝える人からの依頼のみ受け付けています。
本作は、ラリマーの保護活動や、石垣島の猫ボランティアについて書いた作品です。
スコア収益は、保護猫たちのゴハンやオヤツの購入に使っています。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
泥酔魔王の過失転生~酔った勢いで転生魔法を使ったなんて絶対にバレたくない!~
近度 有無
ファンタジー
魔界を統べる魔王とその配下たちは新たな幹部の誕生に宴を開いていた。
それはただの祝いの場で、よくあるような光景。
しかし誰も知らない──魔王にとって唯一の弱点が酒であるということを。
酔いつぶれた魔王は柱を敵と見間違え、攻撃。効くはずもなく、嘔吐を敵の精神攻撃と勘違い。
そのまま逃げるように転生魔法を行使してしまう。
そして、次に目覚めた時には、
「あれ? なんか幼児の身体になってない?」
あの最強と謳われた魔王が酔って間違って転生? それも人間に?
そんなことがバレたら恥ずかしくて死ぬどころじゃない……!
魔王は身元がバレないようにごく普通の人間として生きていくことを誓う。
しかし、勇者ですら敵わない魔王が普通の、それも人間の生活を真似できるわけもなく……
これは自分が元魔王だと、誰にもバレずに生きていきたい魔王が無自覚に無双してしまうような物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる