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9章 魔法少女と天空の城

272話 魔法少女は合流する

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「ん…………ここ……どこ、だっけ。」
一瞬2度寝したくなったけど、地面の上だと気づいた時に、そういえば……と状況を思い出して、目をこすりながら立ち上がる。

 えっと……何あったんだっけ?
 あ、そうそう。全裸の私のコピーと戦ったんだった。
 っていうかなんであれ全裸だったわけ?馬鹿じゃないの?コピーしろよっていうツッコミはしたら負け?

 口に出すのは億劫なので、脳内でボロクソに言う。今は亡きあのコピーが聞いたら、機械の身でも普通に泣きそうなくらい辛辣だ。

「百合乃も同じの受けたのかな?まぁ高確率でそうだろうけど…………やっぱり、怪しいよね。」
ようやく覚めてきた頭を回しながら、真っ白なあの部屋でも思ったことを口にする。

 ああいう試練は大抵、自分を乗り越えるためにやるものであって、この場合龍神の手引きとは考えられない。
 そんなことできるなら、私の能力が筒抜けってことになる。それだったらあんな変なスキル追加する必要もないし、直で封じられると思う。

 つまり……龍神以外の神?

「げっ。まさか創滅神?っ……」
まるで正解と言わんばかりに風が吹き、靡く髪を抑える。

「このコート、もうあちこち傷だらけだし、フードもないし……厨二的だし。そろそろ変えようかな。」
靡く髪を抑えた私は、めんどくさげにコートを見つめる。もうボロ雑巾とか言われた方がしっくりくる見た目だ。

 ちなみに、髪を切るって選択肢は存在しないよ?

「はぁ……まぁ道理は通ってるっちゃ通ってるけど。ここまでできるなら自分でやりゃいいのに。」
愚痴もそこそこにして、私はのそのそと亀のように歩き出し、気だるげな雰囲気を纏いつつ百合乃を探す。

 あー、やばい。あの一瞬だけ聞こえてきた創滅神のほんとの声らしきアレ。
 あの声が私の脳内で「役に立っただろう?我が雫よ。龍神など排除してしまえ!」と声高らかに宣言してきてる。

 ちょっと!私の脳に介入してくるのやめてくれない?

 なんか適当な人神といい、やることなすこと突拍子もない創滅神。残りの魔神、霊神はどんな曲者かと若干肩を震わせる。

 龍神?あぁ、あれはもういきなり狡い手使ってるんだからもう性格は悪いで決定ね。

「神は神。みんな頭おかしい。」
そう結論付け、早々に目的を忘れる。今は散歩タイムかな?というレベルでローペース。

 というか、もう日も沈みかけてるじゃん……どれだけ時間食ったの?

「というか気づくの遅っ。」
小さな声でセルフツッコミ。こんな感じのまったりが、私にはちょうどい……

「空ぁぁぁぁぁぁっ!」
「ひぃぶぅっ!」
黒と深緑の何かよく分からない生命体が、私の体に向かって飛び込んできた。効果音はぼふっ、などという優しいものではなく、ドゴッ、ザアッといった感じの濁点付きの効果音だった。

「ゆ、百合、乃ぉ……寝起きのフルタックルは、聞いてな、ぃ……」
「そっ、空ぁぁぁぁぁぁっ!一体、誰がこんな酷いことを……」

「百合乃だよ?何自分は無罪ですみたいな顔してるの?バリバリの有罪だよ?」
背面の土と草むらの感触に表情を歪め、ともかく退いて、とひどく冷静に突きつける。

 うわ……ボロいって気にしてたコートがこんな汚れて……

 少しだけよかった気分が地の果てに落っこちた。

「そ、空?ごめんなさい、ごめんなさい!そんなつもりじゃなかったん……です?」
「そこは言い切ってよ!」

「ちょっと危ない目にあったのでソラニウムを吸収しておこうかと思っただけといいますか……無罪っていうことで、手打ちにしません?楽じゃないです?」
「謎の物質生み出さないで。あとなんでそっちが上からなの?え?」

「ちなみに元素記号はSrです。」
「何気に元素記号生み出さないで?」

「何言ってるんです?Srはストロンチウムですよ。」

「……そうかそうか。分かった、どうやら百合乃は1回痛い目に遭うほうがいいみたいだね。」
「空になら……」
顔を赤らめて私の上で両頬に手を添える。

 いや、だから退いてよ。

 そんな願いは通じず、無理矢理ステータスで突き放した。

「こほん。すみません、ちょっと調子を戻すためにやってたらやりすぎちゃいました。空の魅力のせいなんです。」
「そこ私のせいにされてもね。……というか、百合乃の方は大丈夫だった?」

「ん?何がです?」
「いや、こっちは試練的な感じ……っていうか、創滅神からの戦闘訓練みたいなので私の全裸コピーが出てきたんだけど、そっちは?」

「……空の、全裸。」
ごくりと唾を飲む。どこにそんな要素があるんだろう、と、ジロっと百合乃を見る。

 よっぽどこっちの方が需要あると思うよ。着痩せするタイプではなさそうだけど、軍服で締め付けられ、上からの羽織りもので隠されている胸元。ピシッとしたスーツから見える足元のライン。よく見ると巨大な双丘。

 コレが私の1個下。ありえないってこれ。絶対なんか入ってるって。シリコンでも埋め込まれてるんじゃないの?

 と、そんな妬みめいた想像をする私だけど、本物の胸というものの感触を知らないので、利き乳をすることも不可能だと自分で傷つく。

「……はっ。えーっと、コピーです?あ、出ました出ました。よく分からなかったけど、コピーに失敗したのか、変な攻撃ばっかしてきましたね。危なかったです。」
「やっぱりそっちもいたのかぁ。」

「空の方はどうでした?」

「どうも何も、やばかった、としか言いようがないね。地が強いから、コピーもその分強化されてね。あれ、強化コピーとかいうチート使ってきて、ここ最近使った魔法全コピされて……流石に危機を感じた。」
「まさか、銃も?」

「無論、超強化。」
「おうふ。」
あの危険がさらに危険に……と、ブルっと肩を震わせる百合乃。危険が危ないとも呟いていた。頭の病院に連れて行きたいけど、この世界にそんな所はない。

 悲しいかな。百合乃の頭の病気は、もう一生治らない。
 私が戻してあげろって?嫌だよ。めんどくさい。この世界はこの世界で気に入ってるし、向こうの世界に戻って帰れなかったらどうするの?

 百合乃を送るんだから、責任とって私も行かなきゃいけないんだし、不確定なのは嫌だ。

「まぁ互いの情報交換も終わったところで、ご飯にしよう。」
「やったぁ!」
天空に拳を突き出し、今日はわたしの番!と、元気な声でやる気を表明する。

「肉切って野菜切って鍋で煮るだけなんだけど。」
「その辺にいい草生えてません?香り付けとか色々のためになんか入れときたいんですけど。」

「ん?どうして?」
「魔力で作るせいか、ちょっと言葉では表しにくい何かがあるんです。それを抑えたいなーって。」

「あー、ちょっと待って。百合乃、森に入る前にスキル見せてもらったじゃん。そのスキルってなんだっけ?」
ふと気になることがあり、聞いてみる。魔力喰らいに新しい効果を付与すればいいとも思ったけど、この前の一斉強化で馬鹿にならない量のSPを使ったから、できれば使いたくない。

 エコだよエコ。エゴじゃないよ。めんどくさいからでもないよ。

「えっとですね。衝波に天震、それと吸魔……」
「それ。」
「?吸魔がどうしたんです?」

「魔力をある程度吸って、量を減らせるんじゃないかって。」
「あ、ナイスアイデアです。」
その間に私が取り出した調理道具一式と材料を、サーベルを構えながら見つめる百合乃。材料は回復し切ってない魔力で作ってる。高速回復がなかったら無理だったね。

「いい香りの薬草の方は、空に頼んでもいいです?」
「ん、おっけ。やっとく。」
まな板もどきの上で、器用にサーベルでカットされていく野菜たち。皮なんて栄養分の高い皮の近くを取らず、薄皮だけを器用に剥いでた。シンプルに怖い。

 ……私も私で仕事しよーっと。

 料理での格の差も見せつけられ、ちょっと私の女の子の部分にヒビが入る。

 薬草の良し悪しなんて私じゃ分かりっこないし、その辺は鑑定眼頼りだね。

 あー、雑草雑草雑草雑草雑草雑草。

「んー、雑草オンリー。」
何もないことが分かったので、とりあえず数本の雑草をローズマリー風の薬草に変化させ、百合乃に持っていく。

 ちなみに百合乃には「なんです、これ」と目を細めれて聞かれたけど、「まぁいろいろ」と答えておいた。

 鍋の味はとてつもなく美味しかった。
 なんか、料亭に飾り付けて出せばバレないんじゃないかってくらい美味しかった。

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 日常回で3000字いけましたね。やった。

 次回はどうなるか分かりませんが、いつも通りはっちゃけておきます。

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