上 下
265 / 681
8章 魔法少女と人魔戦争

248.5話 魔法少女と百合乃

しおりを挟む

「にしても、日本の森のソレとは少し違いますね。こう、太くて逞しい感じがします。」
「それ、無意識?」
いきなりお茶の間で流せないようなセリフをぶっ込んでくる百合乃に、小さくツッコむ。

「……あ、空。今いかがわしいこと考えた?あっ、ちなみにわたしは勝手に口から出てくるのでセーフです。」
「それはそれでどうなの?」
一呼吸ごとにボケを連発する目の前の軍服少女を前に、これからが思いやられる。

 もっと休み休み言って欲しい。いや、休み休みではあるけどさ。
 もっと私にもボケパートを分けて欲しい。

 そっちかい、と脳内の私がペシッと叩くも、それは脳内で私だ。結構、いやかなり虚しい。

「それ、これからの生活で絶対なんか問題起こるって。痴女じゃんだって。」
「これから!?わたしとこれからを過ごすつもりがっ?」

「黙って。」
極めて冷静な視線をぶつけ、百合乃は少し硬直して頷いた。

「……で、拠点とやらはどちらに?」
キョロキョロと森を駆け回って首を回していて、実に楽しそうだ。

 突然よく分からない異世界(不審者付き)に飛ばされたってのに、焦りも戸惑いも無しに吹っ切れるって結構強いのね……

 出会いの空言の事は、脳が残してはいけないセリフとして消していたので、覚えてないための言葉だ。

「右も左も分からない場所に放り出されて、何か思わないの?」
石の上で遠くを眺めようとしているのを静止し、眉を曲げて聞く。

「ん、空がいるからです。わたし1人だったら危なかったかも……」
へへぇ~、と恥ずかし気にこちらを向いて後頭部を掻く。

 黒髪ボブ。……美少女。

 目の前の見た目は完璧レベルの少女に地味に嫉妬心を芽生えさせ、じっと見つめる。

「キュンッ。」

「私、恋してる?……じゃないんだよ。勝手に人に効果音つけないで?」

「だって、わたしを見つめてきてるんです。そういう事じゃないです?」
「どういうこと?」
もう頭のネジが10個くらい緩んでる百合乃のことは無視し、目的地へと足を向けた。

「なんかボロボロですねぇ~。」

「戦後だしね。」
「なんですとぉっ!?」

「説明しなかったっけ?」
「そんな重要そうな事教えてなんてもらってませんですよ。」

「そうですかい。」
「ですです。」
教えてコールを数度され、仕方なく語ることにする。

 私の情報は無理には話さないよ。空力(魔法)を使ってなんとかした、っていうふんわりな感じで言った。

「空って案外凄いんですねぇ。」
「まぁ、チートあるし。」

「チート無双って中学生好きですよね。」
「まぁ、俺TUEEE系はテンプレだしね。転生してチートもらって学園でハーレム。何度見たことか。」

「みんな好きなんですよ。需要と供給ってやつです。」
話がずれてきて、そろそろ戻しましょうよ、と言われたので無理矢理戻す。

 そっちが広げたんだけどね。そっちが。

「かっこいいですねー、見てみたかったです。空の勇姿。」
「楽しいもんじゃないでしょ。そんなの。」
「一緒にいたくならないです?守ってくれる、かっこいい年上の先輩。それで、たまに甘えてくるです。」
百合乃も私と同類なのか、オタク脳を全開にストーリを展開していく。終わりが見えないので、声をかけて止めようとして踵を返し……

「ぁ……?今何か見えた気が…………」
突如、ボキボギィ、という嫌な音が百合乃の頭上から聞こえる。

 …………木が折れたっ!?

 ご都合展開が舞い降りてくる。

「神速!」
派手な魔法は使えないので、慌てて盾になるようにして百合乃の前に移動する。

「空っ!」
そんな叫びは緊張で耳から抜け、急いで腕を伸ばす。

 魔法少女アームなら……!

 自身の腕の耐久力を信じ、木は私の腕へと肉薄して後には引けなくなる。

「あ……あぁ……うん。」
激しい音が鳴って落下した割には、私の手にすっぽり(ではないけど)乗せられ、オブジェ感が漂う。

 これ、どうしよう。
 まぁ適当にその辺置いとこう。虫とかが巣にするでしょ。

 そんな考えのもと、ポイッと木を放り投げた。

「……キュンっ。」
その声は、ドスッという木の落下音でかき消されており、私の耳には入らなかった。

 ———その日、確かに百合乃の人生は大きく変わった。主に、精神面で———

————————————

 青柳あおやぎ 百合乃ゆりの、高校2年16歳。誕生日、11月29日。身長161cm、体重52kg。そしてDよりのCカップ。

 明るく朗らかな性格だが、他人とあまり積極的に関わることはない。少ない友人相手には、とても交友的で、コミュ障でもないので、割とその場その場で友達は作れる。

 成績は上から数えた方が早い順位で、スポーツもそれなり。だが、どれも天才と言えるほどの才はない。

 趣味は料理。———そして、百合だ。

 そう、彼女は百合好きだった。

 自身の恋愛感情を抱く相手も女性であり、日々そういった百合関係の書籍やアニメをその瞳に映し、違う意味で歪んだ性知識を持っていた。

 正しい性知識とは、学校の保健体育で習うような体の変化や受精、妊娠等の子作りに関することなど。大切なこととして学ぶ。

 だが彼女は違った。

 受精?妊娠?そんなものはどうでもいい。仕組みやプロセスなんぞクソくらえ。好きなようにやっちまえ。そんな考えの持ち主だ。
 そもそも、女性同士で妊娠なぞあり得るはずもない。

 彼女が魔法少女と出会った際に放った言葉は、実を言うと本心はそうなってみたいかも……という謎の思いによるものだ。

 そのようなことを言った理由は、単に空が少し自身の好みに近かったためだ。

 彼女の好みは白髪や銀髪、水色系のクールな髪色で、やや幼さの残る整った顔立ちの高身長(貧乳であるとなお良いが、あればあるで良い。)の少女と決まっている。

 身長は足りないが、概ね間違ってはいない。

 ちなみに彼女はMだ。どちらかといえば、だが。

 そしてあの時。魔法少女に守られた瞬間、彼女はときめいてしまった。
 そう、ときめいちゃったのだ。

 あのかっこいい背中を見て、キュンキュンしていたのだ。あのイケメン(女)に犯されてみたいと思ったのだ!

 そして彼女、青柳百合乃は大きく変わった。色々な意味で。

———————————————————————

 今回の話は本編に関係はあるけど結構逸れる話でしたので、このように変な区切りをしました。
 お、思いつきなんかではないですよ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。 ネット小説や歴史の英雄話好きの高校生の洲河 慱(すが だん) いつものように幼馴染達と学校帰りに公園で雑談していると突然魔法陣が現れて光に包まれて… 幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は素晴らしいジョブとスキルを手に入れたのに僕のは何だこれ? 王宮からはハズレと言われて追い出されそうになるが、幼馴染達は庇ってくれた。 だけど、夢にみた迄の異世界… 慱は幼馴染達とは別に行動する事にした。 自分のスキルを駆使して冒険する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。 現在書籍化されている… 「魔境育ちの全能冒険者は好き勝手に生きる!〜追い出した癖クセに戻って来いだと?そんなの知るか‼︎〜」 の100年前の物語です。 リュカが憧れる英雄ダン・スーガーの物語。 そして、コミカライズ内で登場する「僕スキなのか…」がこの作品です。 その作品の【改訂版】です。 全く同じな部分もあれば、新たなストーリーも追加されています。 今回のHOTランキングでは最高5位かな? 応援有り難う御座います。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

いるだけ迷惑な最強勇者 〜ハズレスキル『味方弱化』が邪魔だと追い出されたので、この異世界で好き勝手させてもらいます!〜

束音ツムギ
ファンタジー
【完結保証!】  ——気づけば、クラスごと異世界に召喚されていた。  そんなクラスの中でも目立たない、ごく普通の男子『梅屋正紀』も勇者として召喚されたのだが、《味方弱化》という、周囲の味方の能力値を下げてしまうデメリットしかないハズレスキルを引いてしまう。  いるだけで迷惑になってしまう正真正銘のハズレスキルを手にした俺は——その場で捨てられてしまう。 「そんなに邪魔なら俺から出ていってやる」と、一人で異世界を旅する事になった俺は、旅の途中で《味方弱化》スキルに隠された効果が、Sランクスキルをも凌駕できるほどの最強の効果であった事を知る。  いるだけで迷惑な最強の勇者『梅屋正紀』が、異世界で無双するッ! 【小説家になろう】【カクヨム】でも連載中です!

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです

こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。 異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...