上 下
246 / 681
8章 魔法少女と人魔戦争

231話 魔法少女は戦地に向かう

しおりを挟む

「あー、めんどくさい。なんで戦争になんか行かなきゃいけないの……」
門の外でそう悪態を吐き、あの日の少女達を待つ。

 遡ること……といっても、昨日なんだけど、語尾が、です。と、ます。の少女2人に脅されて、戦争に無理矢理参加させられたわけです。
 まんまと街主の思惑にハマったわけです。やったね。
 なわけあるかっ!

 私は今すごくムカついてる。
 どのくらい?やたら話が長くて、「えー」が多い校長先生の話を聞いてる時ぐらいムカついてる。

 絶妙に分かりにくい例えを出し、度合いを示す。

「そもそもあの2人が行けばいいじゃん。強いよね、あの子達。」
イラつきで足を地面にトントンさせていたら、目の前に影が伸びる。

「すごく滑稽。ます。」
「笑える。です。」
小生意気な声と一緒に現れたのは、赤とオレンジ髪の姉妹のような少女。

 顔だけは可愛いんだよね。顔だけは。

「今日は準備だけのはず。です。」
「移動も兼ねるって言われた。ます。」

「明日からだった。です。」
「今日はわたしたち。ます。」
遠目で眺めるなら微笑ましい様子を、間近で見る私。正直今すぐ逃げ出したい。

 そう。それはウサ○ン・ボルト氏のようなスピードで。

 遠くを見つめ、ある金メダリストの顔を思い浮かべる。

「なにしてる。です。」
「早く行く。ます。」
先に歩き始めた少女達の背中を追い、不満げながらもついていく。

 これ、まさか徒歩とか言わないよね?ただ馬車が遠いだけだよね?

 段々と不安になる。

「ねぇ、これ……馬車とかは?」

「あるわけない。です。」
「目立つし邪魔。いらない。ます。」
ほとんど同時に否定された。

 ここまでくるといっそ清々しいよ。もうそのままでいいよ!一生そんな感じでいればいい。

「不満そう。です。」
「お前は従えばいい。ます。」
そろそろ、ですますも聞き慣れてきた頃、特に魔物の襲来なども無く10分ほど歩く。

 本隊の人達が押さえてるのか、天竜を倒したからなのか……

「わたしたちのおかげ。です。」
「誰もオーラに近づけない。ます。」
私の思考を読んだかのように、自身ありげに語ってくる。

 オーラで近づけなくなるとか、そんなことあるの。私にもできるかな?

「聞きたいんだけど、これいつ着くの。」

「答える義理はない。です。」
「黙ってついて来い。ます。」

「せめてそのくらい教えてくれてもいいでしょ!」
私の叫びが森の中に木霊した。もちろん2人には無視され、長い間歩き続ける羽目になる。

 さすがに原始的すぎだよこれ。せめて何か使おうよ。

 そんな不満は口には出せず、脳内で垂れ流す。

————————————

 同日。
 討伐組合の建物内にて、男が頭を抱えていた。
 団長だ。

 今日は仕事ができるような心境じゃない。組合員達には待機を伝えた。

「何が組合員を守るためだ。自分の力では何もできなかったじゃないか。」
1人、机に突っ伏した。

 ベルグが死んだ。彼は目の前で、痩せ細った状態で倒れていったのを捉えてしまった。

「結局他人の力がなければ、俺はここに座ることすらできなかったというのに———」
クソッ!と机を殴る。けれど残るのは、手の痛みと虚しさだけ。

 物に当たっても、何も解決しない。

 誰かに恩を返せるほどの力も、権力もない。
 まして、自分を庇って死にに行った少女にどう償えばいいかなんて分からない。
 せめて生きて帰ってくれたら……

「……他力本願なクソ野郎だ。」

 自分が甘えに甘えた結果、こんな事態にまで発展していた。
 あの時、街主を誤魔化せていたなら。街主の機嫌を損ねていなかったら。何度も終わったことが頭をぐるぐると巡る。

 仲間が死に、あの少女も戦争に行かされた。

 全てが自分の罪であるような感覚に陥り、彼はその銃末に耐えかねていた。

「次に、進まなければ……」
そう呟くが、思考は一向に切り替わらない。

 魔物で人が死ぬのとは訳が違う。自分のせいで、死ななくていい人間を、死ぬはずのない人間を殺してしまったのだ。

 それも人の悪意によって。

 早く反省し、次に進まなければならないと、頭では分かっていても罪悪感は消えてくれない。

 目の前には、勝利祝いで組合員達が飲み明かした際の酒の残りが大量にあった。

 幸いにも、とはいうべきではないのは分かるが、喉が渇いていた。

「…………」
喉が鳴った。

 ただ喉が渇いていたから飲むだけだと。自分に言い聞かせる。

「1口、なら。」
酒瓶に手を伸ばす。

 これを飲めば、忘れられるかもしれない。淡い期待を抱く。

「…………1本。この1本だけだ。」
震える手で瓶を握り、今にも呷りそうになる。

 自分でも分かっている。これを飲めば、もう飲み続けるしかなくなる。

 今の彼には、酒が麻薬以上の何かに見えていた。

 数瞬後。彼の喉が大きく上下に動き、胃に液体が流れ込む。

 もう、抑えきれない。

 今まで1本の糸屑で繋がっていた何かが、プツッと千切れたように感情が爆発した。

————————————

 現代。
 ある丘の上の家。薄い水色が綺麗な、短髪の少女は不安になる。

 何故ならば、主人が2日も帰ってこないからだ。

 ギルドに行くといって、2日。ギルドに聞きに行ってもきてないと答えられ、目撃情報すら上がらない。

 あの少女が、何も言わずに自分を置いていくとは考えられない。

「主……」
窓のそばに椅子を置き、外の景色を眺める。

「大丈夫ですよ、ツララさん。ソラさんはきっとお帰りになります。」
可憐な声で宥めるのは、花の世話を任されている19歳の女性、クミル。

 空が消え、代わりに彼女が世話を始めた。幸い、許可は元から降りていた。
 食材は元から多く貯蓄されており、肥料用などのお金を使って足りない分を補った。

 あの日、地震のような揺れが起こった。それから空がいなくなった。

「主、大丈夫……?」
「えぇ。」
2人は希望的観測に縋り、その時を待ち続けた。

———————————————————————

 変なタイミングで章変えしましたね。まぁ戦争を始めようとする場面なので、この辺で区切ったほうがいいかなと。
 前回の魔法とはの話を延々としたので、それを一区切りのためのクッションだと思ってくだされば幸いです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こんなとき何て言う?

遠野エン
エッセイ・ノンフィクション
ユーモアは人間関係の潤滑油。会話を盛り上げるための「面白い答え方」を紹介。友人との会話や職場でのやり取りを一層楽しくするヒントをお届けします。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

異世界でイケメンを引き上げた!〜突然現れた扉の先には異世界(船)が! 船には私一人だけ、そして海のど真ん中! 果たして生き延びられるのか!

楠ノ木雫
恋愛
 突然異世界の船を手に入れてしまった平凡な会社員奈央。私に残されているのは自分の家とこの規格外な船のみ。  ガス水道電気完備、大きな大浴場に色々と便利な魔道具、甲板にあったよく分からない畑、そして何より優秀過ぎる船のスキル!  これなら何とかなるんじゃないか、と思っていた矢先に吊り上げてしまった……私の好みドンピシャなイケメン!!  何とも恐ろしい異世界ライフ(船)が今始まる!

【猫画像あり】島猫たちのエピソード

BIRD
エッセイ・ノンフィクション
【保護猫リンネの物語】連載中! 2024.4.15~ シャーパン猫の子育てと御世話の日々を、画像を添えて綴っています。 2024年4月15日午前4時。 1匹の老猫が、その命を終えました。 5匹の仔猫が、新たに生を受けました。 同じ時刻に死を迎えた老猫と、生を受けた仔猫。 島猫たちのエピソード、保護猫リンネと子供たちのお話をどうぞ。 石垣島は野良猫がとても多い島。 2021年2月22日に設立した保護団体【Cat nursery Larimar(通称ラリマー)】は、自宅では出来ない保護活動を、施設にスペースを借りて頑張るボランティアの集まりです。 「保護して下さい」と言うだけなら、誰にでも出来ます。 でもそれは丸投げで、猫のために何かした内には入りません。 もっと踏み込んで、その猫の医療費やゴハン代などを負担出来る人、譲渡会を手伝える人からの依頼のみ受け付けています。 本作は、ラリマーの保護活動や、石垣島の猫ボランティアについて書いた作品です。 スコア収益は、保護猫たちのゴハンやオヤツの購入に使っています。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

泥酔魔王の過失転生~酔った勢いで転生魔法を使ったなんて絶対にバレたくない!~

近度 有無
ファンタジー
魔界を統べる魔王とその配下たちは新たな幹部の誕生に宴を開いていた。 それはただの祝いの場で、よくあるような光景。 しかし誰も知らない──魔王にとって唯一の弱点が酒であるということを。 酔いつぶれた魔王は柱を敵と見間違え、攻撃。効くはずもなく、嘔吐を敵の精神攻撃と勘違い。 そのまま逃げるように転生魔法を行使してしまう。 そして、次に目覚めた時には、 「あれ? なんか幼児の身体になってない?」 あの最強と謳われた魔王が酔って間違って転生? それも人間に? そんなことがバレたら恥ずかしくて死ぬどころじゃない……! 魔王は身元がバレないようにごく普通の人間として生きていくことを誓う。 しかし、勇者ですら敵わない魔王が普通の、それも人間の生活を真似できるわけもなく…… これは自分が元魔王だと、誰にもバレずに生きていきたい魔王が無自覚に無双してしまうような物語。

処理中です...