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7章 魔法少女と過去の街
229話 魔法少女は誘われる
しおりを挟む「失礼します、街主様。」
とてつもなく礼儀正しく、しかもノックまでして部屋に入る。もちろん、相手の返事を待ってから。
急に団長のキャラが変わった。というか、これが普通なんだよね。私の感覚がおかしいんだよね。
自分の行動を振り返り、いつかフィリオに謝ろうと思った。
「どうしたの、急に。熱でも出た?」
「こうでもしないと機嫌を損ねる。」
それでもいつもの癖というのは抜けなくて、小声でそんな会話を交わし、奥で座る男性に目を向ける。
少し怖い顔。瞳孔が開いてて、恐怖を感じる。あと、威圧感と既視感もある。
「君が報告で聞いたソラか。こんな少女が、ねぇ。まぁ、この頃の方が食いどきか。」
なにやら聞き捨てならないセリフを吐いてくる。
「まぁいい。本題だが、お前は戦争に参加しろ。もちろん拒否権など存在しない。もし拒否するならば、どんな手を使ってでも連れ出そう。犯してでも、武力でも、なんでもだ。」
嫌な顔で二チャリと笑い、嫌悪が増幅する。
前言撤回。こんなの会った記憶ない。前世も今世も、未来も過去も、こんなゲスいやつ知らない。
いきなりとかのレベル超えてる。
悪逆・淫虐・嗜虐で3虐だ。これからのこの人の呼び名は、3虐でいこう。
「内容を説明しろ。」
やたらとエロい格好をした(3虐の場合、させたのかもしれない)女秘書のような人の体を撫でるように触りながら、そう命令する。
「……かしこまりました。」
少し嫌そうな顔をしつつ、それを隠して頷く。
うわぁ、最悪な環境だよ。ここ。福利厚生とか無さそう。
「本日は戦争の件での呼び出しということは、もうお聞きになられましたね。『命令』という形で、ソラ様には戦争に出てもらうことになります。少しでも兵力が必要な今、ソラ様は重要な駒になりうるとお考えになっております。」
一歩前へ出て、長々とそんなような説明を何回もされる。一方3虐はというと、女秘書の尻を見ていた。
お偉いさんは高みの見物ですか、そうですか。
長いから割愛するね。こっちは立ってるので疲れてるんだよ。
戦争は国から少し離れた、別の国境の山辺りが戦地らしい。
そこで、魔物と攻防を繰り広げてるらしい。
今は少し劣勢。それで、私を出すらしい。もうその前提で話を考えてるらしい。
実に仕事が早いこってねぇ。その時間があるなら、もっと別のとこ見直したら?
おっと、話がずれた。
まぁそんな感じで、参加しろ参加しろと口うるさいわけですよ。
「お断りさせていただきます。私は戦争とか、そういうの嫌なんで。」
「っ、そういうわけには……」
「黙れ。」
胃に沈み込むような低い声が室内に響く。
「名も知らぬ相手の言葉など聞きたくはないだろう。名を名乗ろう。俺はパズール・ブリスレイだ。」
「………はぁ!?……あ、いやなんでも。」
街主のその告白に、大声をあげる。すぐに両手で塞いだけど、時すでに遅し。
でも、パズール?
っていうことは、まさかこの人が?
でも全然銅像と違くない?多少の脚色、美化はされてるだろうけど、あれがどうすればフィリオが尊敬する人間になるの?
そもそも、街が崩壊しそうだけど。
「なんだ、不満か?」
「い、いや……あはは……」
「俺はほんの少しだけ機嫌がいい。許してやろう。」
3虐がそう、嫌な微笑みと共に言い放つ。
そろそろ帰っていいですか?人権を侵害するのは良くないと思いますよ?
「もう1度だけ言おう。命令だ、戦争に参加しろ。」
高圧的な態度で言い放たれた言葉を軽く躱し、「無理です。嫌です。遠慮します」と3連否定をする。
私はここの街の人じゃないので、命令を聞く義理なんてないですし?
郷に入っては郷に従えとかいうことわざがあるけど、今の私の存在はあやふやだから、郷に入ってるわけじゃない。
だから命令を無視する権利がある!(?)
「そうか、そうか。……ならば、覚悟することだ。ふっ、無事に嫁入り出来るといいな。」
何か含みのある言い方で吐き捨てると、女秘書に命令して私達を外に出させた。
別に私、嫁入りとか考えてないし。というか、この体は代替品みたいな感じだから子供ができるわけでもないし。
子孫も残せなければ、男も好きじゃない。つまりは、結婚する理由がないということ。のんびり異世界ライフを送れればそれでいいんだよ。
「お前、やったな。」
帰り道、団長が震えた様子で呟く。
「なに?なにもやってないじゃん。」
「それが問題なんだ。」
呆れた様子で私を見た後、大きめなため息を吐いた。
「態度も悪い。命令も断る。印象は最悪だ。戦争に連れてかれるのは決定として、なにされるか分からないぞ?過去に、断った女騎士が夜道で強姦にあい、そのまま戦地に送られたこともあった。」
せっかくの討伐組合一発逆転のチャンスが……と悔しそうに拳を握っていた。
私は、嫌なことは嫌と言える人間だ。正直者が泣きを見るとはこのことだね。私は悪くない。
というか、異世界の悪役は、本当に犯すのが大好きだね。そのまま刑務所にぶち込まれればいいのに。
「別に死ぬつもりも、陵辱されるつもりもないよ。というか、それができる人間とか、ぶっちゃけ見てみたい。興味あるよ、それはそれで。」
「……つまり、なにが言いたい?」
怪しげな表情で私を見上げるその顔は、少しやつれて見えた。
ステータス平均5000越えの私が、そこいらのチンピラに負けるはずがない。
毒でも喰らおうもんなら即刻耐性がステッキに付くし、ヒールでどうとでもなる。
高を括る感じになるけど、私が負けるなんて思えない。
「つまり?……まぁ、安心してってことだよ。討伐組合が生活のために死人を出してることだって、それで毎日神経をすり減らしてることだって、私は知ってる。戦争には行きたくないけど、もし連れて行かれても死なないし、なんなら終わらせてきてあげよっか?」
なにに不安を抱いてるか分からないので、思い当たる限り言葉を並べる。
「3虐のパズールの掌で踊らされるようなことにはならない。全部真っ向から叩き潰して、性根を叩き直してやらないと。私の気分は晴れないよ。」
だから、と。組合と組合員をよく思っている団長に、ステッキを差し向ける。
偽善かもしれない。必要ないのかもしれない。それでも、こういう人には生きていてほしい。
本当の私で、助けよう。
「安心して、組合は大丈夫。この魔法少女が誓うよ。この世のどこかの、神様に。」
今も見てるであろう創滅神の姿を思い浮かべ、薄く笑って見せる。すると団長は、その言葉を待っていたかのように男泣きを始めた。
「……これは、負けてられないな。」
団長は最後に、そう呟く。
私の行動は世界を変える。
ここが世界の、そして私のターニングポイント。
———————————————————————
なんだか急にシリアス感出てきましたね。次回はそんな雰囲気をぶち壊すお話になります。こんな感じな話ということは、この章はもうやることがないということです。
団長とソラさんの熱愛という事実は、どこにもありません。(?)
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