上 下
207 / 681
6章 魔法少女と奴隷商の国

196話 魔法少女は《女王》の元へ

しおりを挟む

 目測30人ほどの暗殺者が、女王の間らしき場所に蔓延っていた。

 もちろん、全員私の方を見て、殺気ダダ漏れにしてるよ。

「混合弾、連弾っ!」
こういう系の魔法は連発できるので、目をギュッと閉じてステッキを構える。

 魔導法、魔導法があれば操れる。いや、この量は無理。このうち2個ぐらいなら……
 よし、1人ぐらい倒せればいい。

 ここなら本気が出せる。周りを気にする必要ないしね。

「気配察知、あと動け!」
混合弾の全てを、魔力で無理矢理左右に引き離す。そのうち1つずつは、自由だ。

「変な攻撃だ。バラけて。」

「分かったよっ!」
暗殺者達が短い会話を交え、大きく後ろに飛び去った。ポニテがバサッと揺れる。

 ま、レイタースタートを用意してるから意味無いけどね。

「暗殺者なんだから分かるよね?。」
この程度の煽りじゃこんなところにいる人達はどうにもできず、キリッとした様子で横目で後ろを確認する。

 耳元に何か……あれ、ワイヤレスイヤホンじゃない?
 なんであんなものが?
 私も欲しい……じゃなかった。

 やっぱりますます怪しくなってきた。

「………避けて!」
1番最初に襲ってきた人(ボブの人と呼ぼう)が、目を大きく開いて前に戻ってくる。

 えっ?どうして私のレイタースタートがバレたの?

 私が困惑し、口が半開きになった瞬間、隙を見計らったかのように半幼女が刀を3連単で投擲する。

「……ぶなっ!」
フードの端が斬れ、核石混じってるはずなのに……とビビりながら半幼女を見ると……

 バチィッという、青色の光が目の端に映る。

「…………ッ、ぁぁ……ぁっ…」
パタリ。あっけなく倒れた。魔力遮断のせいで威力は下がってる。でも、それでも、簡単に人が倒れる。やばい威力に、ゾッとする。

 あれ、今のでだいぶ……

 そんなことに気を取られているせいで、混合弾はもう消えていた。

「14番っ!」
おそらく半幼女の名前なのか、ポニテお姉さんがそう叫ぶ。

「よそ見しないで!あなたもああなりたいの!?」
「分かってるっ!」
連携が崩れ始める。私が万全だと、こうも変わるものなのか。

「エアリスリップ!」
私が叫ぶと同時に竜巻が巻き起こり、それを憎そうに見つめるボブの人。

「私の眼じゃ追いつかない!」
大声で自分の愚鈍さを叱咤する。

 いや……私からすればトールを避けた時点でやばいって思ったんだけど……?

 そんな私の思いをよそに、私を見定めるように焦って目が向けられる。

 さっきのトールで半分削れ、更にエアリスリップに巻き込まれて今や立っているのは10人程度。

 私も危なかったけど、地龍の魔法で地面に足を固定した。
 使わないんじゃなかったのって?
 使えるものは使おう。あの時の言葉は、時と場合による、という言葉をつけたしておいて。

「強さが違くないっ?」
ポニテを揺らし、焦燥を纏いながら後退する。軽い口調とは裏腹に、動きは機敏だ。

「前回は奇襲だった。それに、獣人がいた。今回は互いに全力が出せる場合だった。それだけ、アレが強い……」

「おーい、聞こえてるよ。そういうのは聞こえないところでやって?あとアレってなによ。私は生まれてから今に至るまで、永遠に空だけど。」

「圧倒的な相手には、奇襲じゃないと勝てないってわけね……」
私の話はちっとも聞いてくれない。

 泣くよ?
 そこの、ポニテの。わざとでしょ。

 そこの、ボブの。悲観しないでよ。私、殺すつもりはないよ。嘘だけど。

 狩られる前に狩る。ヤられる前にヤる。人生はそうでしょ。
 この世界に限ってたけど。

「せめて、時間稼ぎを。《女王》の元には、行かせないように。」
「そのつもりだよっ!」
その瞬間、全員の息があったかのように左右に散らばり、立体的に動き出す。

 急に活発……
 なんか投網みたいな感じがする。

 なら、一部を切り離せば簡単に抜けられるよね。

「アースアイスっ!」
私も斜めに走り出し、弱そうな人を狙ってアクアソーサーを3つほど射出する。

 ダブル制御って難っ、アクアソーサーは慣れてる魔法だから……なんとかなると思いたい。

 そうしているうちに、大きく地面が揺れる。

「地面だ!」
「りょーかいっ!」

 ちょ、この人達なんで魔法の位置分かるの?
 ポニテとボブ、ヤバくね?

 先にこの人達、倒したほうがいいよね。でも先にこっち。まず逃げたい。

「うっ……連発はきつい。」
表情を歪めながら、アクアソーサーと一緒に走る。

 魔力的には大丈夫だけど、一気に使うと脱力感が……

「部下は見捨てて。アレは無理。」
そんな声が聞こえた気がするけど、無視しながら走る。なぜか私の周りは揺れないので、走りやすくてありがたい。

 あっれ、アクアソーサー使う前からもうみんな倒れてる。氷に串刺しだよ。こう、グサッと。

「そろそろ通してもらえると助かるんだけど。」
手持ち無沙汰になったアクアソーサーは、私の左右に配置して、残った2人に声をかける。

 まぁ倒さなくても、今の位置的に先には進める。ただ、空気を読んで留まってるだけなんだよね。

「絶対に通させない。」
紫に光る液体が付着したナイフが、3連単2連撃でやってくる。

 気配察知で避ける。身体激化で一旦能力を上昇させて、神速でトールを叩きつける。

 この2つが今持ってる最速の魔法。

 アクアソーサーを射出し、目の前で水に戻す。

 そして、体を捻り、跳躍。空中歩行で1歩踏み出し全てを回避。
 すぐに神速を使うと、風を切り裂く音を残してその場から消える。

「位置はっ!」
「待って、……水で見えない!」
明らかに狼狽している。

 そう何度も同じ手に引っかかるかってもんですよ。
 ボブの人は、魔力の流れが見えるんだと思う。

 魔力の発生源をいつも避けてる。
 レイタースタートの火力は下がってるように感じるのは、さっきも言った通りここは魔力が遮断されてるから。

 その中で、魔法でも使ったら魔力がそこに集まって、分かる人には簡単に分かる。
 私は万能感知使いながらとか無理だからやらないけど。

 でも、神速で見えないほど速いスピードになれば、魔力は出る前にかき消される。
 しかも、水も合わさって全く見えない。

 完全勝利、ってね。

「っ!前っ。」
ポニテの子がいち早くそれに気づき、ナイフを構えた。

「遅いよ。もっと策を練るんだったね。」
ケロッとそう言っておく。

 環境に支配されない私は、災害級のはずだ。

 また青い光が瞬き、その場に立っている者は私1人になった。

———————————————————————

 街中では弱いけど、そうでなければとてつもない強さを誇るソラさんです。
 ツララを人質に取られた場合は、手も足も出ません。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

処理中です...