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6章 魔法少女と奴隷商の国
196話 魔法少女は《女王》の元へ
しおりを挟む目測30人ほどの暗殺者が、女王の間らしき場所に蔓延っていた。
もちろん、全員私の方を見て、殺気ダダ漏れにしてるよ。
「混合弾、連弾っ!」
こういう系の魔法は連発できるので、目をギュッと閉じてステッキを構える。
魔導法、魔導法があれば操れる。いや、この量は無理。このうち2個ぐらいなら……
よし、1人ぐらい倒せればいい。
ここなら本気が出せる。周りを気にする必要ないしね。
「気配察知、あと動け!」
混合弾の全てを、魔力で無理矢理左右に引き離す。そのうち1つずつは、自由だ。
「変な攻撃だ。バラけて。」
「分かったよっ!」
暗殺者達が短い会話を交え、大きく後ろに飛び去った。ポニテがバサッと揺れる。
ま、レイタースタートを用意してるから意味無いけどね。
「暗殺者なんだから分かるよね?背後には気をつけて。」
この程度の煽りじゃこんなところにいる人達はどうにもできず、キリッとした様子で横目で後ろを確認する。
耳元に何か……あれ、ワイヤレスイヤホンじゃない?
なんであんなものが?
私も欲しい……じゃなかった。
やっぱりますます怪しくなってきた。
「………避けて!」
1番最初に襲ってきた人(ボブの人と呼ぼう)が、目を大きく開いて前に戻ってくる。
えっ?どうして私のレイタースタートがバレたの?
私が困惑し、口が半開きになった瞬間、隙を見計らったかのように半幼女が刀を3連単で投擲する。
「……ぶなっ!」
フードの端が斬れ、核石混じってるはずなのに……とビビりながら半幼女を見ると……
バチィッという、青色の光が目の端に映る。
「…………ッ、ぁぁ……ぁっ…」
パタリ。あっけなく倒れた。魔力遮断のせいで威力は下がってる。でも、それでも、簡単に人が倒れる。やばい威力に、ゾッとする。
あれ、今のでだいぶ……
そんなことに気を取られているせいで、混合弾はもう消えていた。
「14番っ!」
おそらく半幼女の名前なのか、ポニテお姉さんがそう叫ぶ。
「よそ見しないで!あなたもああなりたいの!?」
「分かってるっ!」
連携が崩れ始める。私が万全だと、こうも変わるものなのか。
「エアリスリップ!」
私が叫ぶと同時に竜巻が巻き起こり、それを憎そうに見つめるボブの人。
「私の眼じゃ追いつかない!」
大声で自分の愚鈍さを叱咤する。
いや……私からすればトールを避けた時点でやばいって思ったんだけど……?
そんな私の思いをよそに、私を見定めるように焦って目が向けられる。
さっきのトールで半分削れ、更にエアリスリップに巻き込まれて今や立っているのは10人程度。
私も危なかったけど、地龍の魔法で地面に足を固定した。
使わないんじゃなかったのって?
使えるものは使おう。あの時の言葉は、時と場合による、という言葉をつけたしておいて。
「強さが違くないっ?」
ポニテを揺らし、焦燥を纏いながら後退する。軽い口調とは裏腹に、動きは機敏だ。
「前回は奇襲だった。それに、獣人がいた。今回は互いに全力が出せる場合だった。それだけ、アレが強い……」
「おーい、聞こえてるよ。そういうのは聞こえないところでやって?あとアレってなによ。私は生まれてから今に至るまで、永遠に空だけど。」
「圧倒的な相手には、奇襲じゃないと勝てないってわけね……」
私の話はちっとも聞いてくれない。
泣くよ?
そこの、ポニテの。わざとでしょ。
そこの、ボブの。悲観しないでよ。私、殺すつもりはないよ。嘘だけど。
狩られる前に狩る。ヤられる前にヤる。人生はそうでしょ。
この世界に限ってたけど。
「せめて、時間稼ぎを。《女王》の元には、行かせないように。」
「そのつもりだよっ!」
その瞬間、全員の息があったかのように左右に散らばり、立体的に動き出す。
急に活発……
なんか投網みたいな感じがする。
なら、一部を切り離せば簡単に抜けられるよね。
「アースアイスっ!」
私も斜めに走り出し、弱そうな人を狙ってアクアソーサーを3つほど射出する。
ダブル制御って難っ、アクアソーサーは慣れてる魔法だから……なんとかなると思いたい。
そうしているうちに、大きく地面が揺れる。
「地面だ!」
「りょーかいっ!」
ちょ、この人達なんで魔法の位置分かるの?
ポニテとボブ、ヤバくね?
先にこの人達、倒したほうがいいよね。でも先にこっち。まず逃げたい。
「うっ……連発はきつい。」
表情を歪めながら、アクアソーサーと一緒に走る。
魔力的には大丈夫だけど、一気に使うと脱力感が……
「部下は見捨てて。アレは無理。」
そんな声が聞こえた気がするけど、無視しながら走る。なぜか私の周りは揺れないので、走りやすくてありがたい。
あっれ、アクアソーサー使う前からもうみんな倒れてる。氷に串刺しだよ。こう、グサッと。
「そろそろ通してもらえると助かるんだけど。」
手持ち無沙汰になったアクアソーサーは、私の左右に配置して、残った2人に声をかける。
まぁ倒さなくても、今の位置的に先には進める。ただ、空気を読んで留まってるだけなんだよね。
「絶対に通させない。」
紫に光る液体が付着したナイフが、3連単2連撃でやってくる。
気配察知で避ける。身体激化で一旦能力を上昇させて、神速でトールを叩きつける。
この2つが今持ってる最速の魔法。
アクアソーサーを射出し、目の前で水に戻す。
そして、体を捻り、跳躍。空中歩行で1歩踏み出し全てを回避。
すぐに神速を使うと、風を切り裂く音を残してその場から消える。
「位置はっ!」
「待って、……水で見えない!」
明らかに狼狽している。
そう何度も同じ手に引っかかるかってもんですよ。
ボブの人は、魔力の流れが見えるんだと思う。
魔力の発生源をいつも避けてる。
レイタースタートの火力は下がってるように感じるのは、さっきも言った通りここは魔力が遮断されてるから。
その中で、魔法でも使ったら魔力がそこに集まって、分かる人には簡単に分かる。
私は万能感知使いながらとか無理だからやらないけど。
でも、神速で見えないほど速いスピードになれば、魔力は出る前にかき消される。
しかも、水も合わさって全く見えない。
完全勝利、ってね。
「っ!前っ。」
ポニテの子がいち早くそれに気づき、ナイフを構えた。
「遅いよ。もっと策を練るんだったね。」
ケロッとそう言っておく。
環境に支配されない私は、災害級のはずだ。
また青い光が瞬き、その場に立っている者は私1人になった。
———————————————————————
街中では弱いけど、そうでなければとてつもない強さを誇るソラさんです。
ツララを人質に取られた場合は、手も足も出ません。
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