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6章 魔法少女と奴隷商の国
176話 魔法少女はエンヴェルに着く
しおりを挟む「おいおーい、商人さん。いい情報落としなよ。ほらほら、エンヴェルについて、なにかお・し・え・て?」
ステッキでぐりぐりしておく。
「話すって言っているだろうっ!」
そう叫ぶので、仕方なく遊びをやめた。
地味に楽しかったのになぁ。これ。まぁやってもやらなくてもどっちでもいいんだけど。
「何の情報を吐けばいいのだ……」
「なんでも。」
そう言うと、ため息混じりに口を開いた。
情報はどんな物よりも重要ということを聞いたから、無償で情報を手に入れることができるなら、したほうがいい。
「知っての通り、エンヴェルは商人の街とも言われているだろう。奴隷売買、暗殺、暗器毒薬、武力……様々ある。私も商業をしに訪れようと思っていてだな……」
「長い。」
ていやっ、とステッキで頭を叩いた。
これが、圧倒的力の差による理不尽。
なにやってるんだろうね。
「話の途中だろう!」
「もっと要約して。怪しい部分だけでいいから。」
「矛盾してい……」
「黙りなさい。」
ということで、また話を進めてもらうことに。
「北商は年中通して危険だと聞く。私のような商人も立ち寄ることはまずない。西商は私たち商人が、基本立ち寄る場所だ。そして、東商と南商が1番きな臭い。注意するといいぞ。」
私の要望通り、要約して話してくれた。
ふむふむ、東商と南商が怪しいのね。
きな臭いとは、現実で聞くことはないランキング上位の言葉が聞けるなんて、さすが異世界びっくりだ。
「油断は禁物だ。私のような商人からすれば、全てがきな臭いぞ。金の周りが良くなければ、訪れることのない国だろうな。」
これで全て話したぞ、と言って踏ん反り返る。何を偉そうにしているんだろう。
確かに、奴隷商が有名な国に、安全なところなんてあるわけないよね。
この商人、性格は横暴そうだけど……悪い人では……ない?かな?
「もうそろそろエンヴェルに着くわ。それと、商人さん。情報、感謝しておくわ。ウェント、わかってるわね?」
「分かってる。働けって言うんだろ?」
「分かってるならいいわ。」
その辺に立てかけられた武器や装備、荷物をまとめてすぐに出られる状況にする。一方私には、片付けるものなんてないので、ぼーっと窓の外を見つめる。
うわぁーでっか。凄い城壁。何かを守ってるみたい。悪い噂をシャットアウトしてるとか。
なんだっけ?国の中にある独立国だっけ。そんな話を前された気がする。
そのままのペースで馬車は進み、10分ほど経ったところでエンヴェルの門を通った。
少し厳しめの検問をも通り、その時、訝しげに私を見ていたのを私は見ていた。
そのあたりは舐めないでほしい。
私だって人の視線にくらいは気づくよ。
街を見渡す。
「おぉ、活気づいてるね。あれ、全部商人なのかな?」
独り言を呟く。バレていようと、呟きは止めない。
パッと見た感じ、エンヴェルは中国みたいな雰囲気がある。
赤とかそう言う明るいカラーを基調とした店が多く、鼻を突くスパイシーな香りもする。
カレーをより本格にできるかも……?
その後、馬車の停留所みたいなところまで馬を走らせ、2台の馬車を停めて、商人を返してあげる。
「私にはもう必要は無いからね。返すよ。」
「人を物扱いするでないっ!」
「無視無視。」
こんな感じで別れた。御者さん、頑張って。
「長旅ご苦労様。はい、運転料よ。」
レイティーさんは、御者さんに依頼料的なものを支払っていた。
御者さんって大変だね。こんなところに、私たちが帰るまでいなきゃいけないんだし。
ま、そこは頑張ってもらって。
「この国は危険なんだろ?そいつも一緒の宿屋にすればいいだろ。」
「賛成ね。反対派いるかしら。」
ウェントの意見に乗っかったレイティーさんが、他2人にも目を向ける。
「ぼくは構いませんよ。」
「構わぬ。思う存分くつろいでくれていい。」
「決まりね。確か領主様なら紹介された宿屋は……」
「向こうですよ。」
「そうね、ありがとう。」
着いて早々、観光すらなしで宿屋に直行となった。
今は昼過ぎ。もうそろそろ日も沈む。2泊3日の旅は長かった。
今日は宿屋でダラダラ過ごそうかなー。
ちなみに、修学旅行でよくある「男子の部屋に遊びに行く」とかは断じてしない。
理由?なんとなく。
「ここだと思いますよ。」
案内されたのは、小綺麗な3階建ての広めの宿屋だった。
さっきから通ってきた宿屋はボロいのが多かったけど、さすがフィリオ。いいとこ選ぶね。
そんなこんなで、私たち6人は宿屋の入り口に入る。
こうもすぐに宿屋に入ると、エンヴェルに来ました感が薄れる気がする。そんなのあっても意味はないけど。
「いらっしゃい。6名かね?」
「ええ、そうよ。とりあえず2泊分をお願いしたいのだけど、大丈夫かしら?部屋は3人部屋2つでお願いするわ。」
「あいよ。銀貨8枚だ。」
そう言って手を出してくるおばちゃん。
……なんか高くない?エリーの宿屋は1泊小銀貨7、8枚ぐらいだったよ。
「はい。食事は別料金かしら?」
「そうだねぇ。」
「分かったわ。」
ビジネススマイルを浮かべるおばちゃんと、軽く微笑むレイティーさんは、短く会話を交わした後に鍵を受け取り、2階へ上がる。
ちなみに、「なんか高くない?」とレイティーさんに聞いてみると、「仕方ないのよ。エンヴェルは物価が高いもの。」そう返された。
階段を登ってると、不思議そうにウェントが口を開く。
「部屋、分ける必要あったか?6人部屋は1泊銀貨3枚だっただろ?」
「はぁ?馬鹿じゃないの?」
こめかみに青い筋が見えた気がする。
「男女混合部屋なんて、相当信頼の深いパーティーしかしないわよ。アンタ、いつもそうなわけ?」
「いつもは単独だ。」
「そうだった。コイツはとことん馬鹿なんだった。」
頭を抱え、青白い顔でため息を吐く。ウェントのバカさ加減に、呆れてるんだろう。
「今日は明日に向けて作戦会議を行うわ。こっちから行くから、待ってればいいわ。それでいいわね、ソラ。」
「あ、うん。いいんじゃない?」
全てをレイティーさんに丸投げする。
「じゃあ、また後で。」
「はい、ウェントはぼくたちが何とかしておきます。」
「迷惑をかけた。謝ろう。」
ウェントはまだ不思議そうな表情をしており、その状態でそれぞれ部屋に入る。
今分かった。連携も常識もないこの男は、バカなのだと。
———————————————————————
とうとうエンヴェルにつきました。
紆余曲折ありましたが、無事につけて何よりです。
私の中でウェントは、一緒に泊まりたくないランキングトップ10入りしました。
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