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6章 魔法少女と奴隷商の国

168話 魔法少女は人助けをする

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 今日も今日とて、暇潰しとして雑貨屋に来ていた。

 仕事しろって?私は地龍討伐っていう、れっきとした大仕事を成し遂げたばっかじゃん。
 え?もう1週間以上休んでるって?黙ってなさい。口に熱々おでん詰めるよ?

 そんな適当な考えを浮かべながら、良さそうな小物をチラチラ見ていく。

「おかあさん、変な人いるよー。」
「しっ!見ちゃいけません!」
「はーい。」

 泣いて、いいですか?

 突然の親子のセリフに、片手で目を覆った。

 やめて、精神攻撃やめて?なんで私の目の前で言うの、それ。マナーとモラル、ゴミ箱にでも捨ててきたの?
 心にくるよ、そういうの。初めて言われたよ、そんなド直球なの。

 頬に涙が垂れる。

「お客様……?」
「いや、なんでも……はい。」
コートで涙を拭き、不審者の私はそそくさとこの店から退散することにした。

 そうですよーだ、私は不審者ですとも。中も外も不審者ですよー!

 色々吹っ切れながら、雑貨屋を飛び出した。

 もういい!もう家でふて寝する!はいはいそうですか、こんな格好で歩き回るなってことですよね。
 仕方ないじゃん、これ以外着る物ないんだもん。

 じゃあなに?魔法少女服で歩けって?それはそれで別の意味で不審者だから嫌だ。

 そろそろ悲しい遊びはやめて、普通に家に帰ろうと思った。

 ……掃除、しないといけないしね。

 そんなことを考えてる時だった。

「……わっ!」
斜め後ろを歩いていた女性が、紙袋に入った食材達をぶちまける姿が目に映った。

 え、このままじゃ私にぶつか……

「るぅーーっ!!」
女性の両手がグーパンチのようになって、両背中に衝撃を感じ、そのまま地面に倒れた。痛みは無い。

「すみませんっ、すみませんっ!大丈夫ですか?怪我とかしてませんか?」
私の体を強く揺すって、大声で叫ぶ。

 やめて、やめて。余計目立つし、揺らされても困るんだけど。こういう場合は、許さない方がいいんだよ。
 ってか、取り敢えず立たせて。

 そう思うも、ぐわんぐわんと揺らされ、口が開いけない。

 ………………………………………あ゛ぁ

「いい加減にしてっ!」
ステータスでゴリ押し、女性の揺すりを無理矢理静止させた。

 はぁ、はぁ、気持ち悪い。ちょっと酔ったかも。

 額に手を置き、大きく息をする。

「なに?なんなの?そんな揺らしてどうなると思ったの?私は意識不明の重体でもなければ、病院に運ばれるような傷も無いよ。確認してからやって。」
捲し立てるようにして言葉を吐き出し、息を整えた。

「すっ、すみません!すみません!わたし、よくドジしちゃうんですよ、すみません!」
何度もペコペコ頭を下げ、その瞳には涙が見えてるよう気もする。

 ……なんか、側から見たら私がいじめてるみたいだよね。
 ほら、なんか向こうからヒソヒソ聞こえるよ。

「何してるんだ?」「あの娘、いじめられてんじゃないか?」「止めなくていいの?」「警備員呼んだほうがいいんじゃ」「あの変な服の子、前も見たわ」

 何してる?ぶつかられてる。いじめてない、逆にいじめられてるようなものなんだけど。うん、是非止めて。呼ばなくていい。そりゃ見るでしょ。ぶらぶら歩いてるんだし。

 1つひとつ、心の中で答えていく。

「もういいから。今度から気をつけて。」
早くこの場から退散したい一心で、そう言って立ち去ろうとする。

「本当にご迷惑を……って、あぁぁ!!」
「今度は何っ!」

「買った食材が、ほとんど消えてしまってます。」
紙袋を見ると、そこにはパン程度しか無く、後は綺麗になくなっていた。

 これはまさか、転がっていったってやつ?

「ど、どうしましょう……」
また泣きそうになり、私は必死で止めようとする。ここで泣かれたら、たまったもんじゃない。

「私が手伝う、手伝うから一緒に探そ?」
「い、いいんですか?こんな私のために。」
「いいから、早く探すよ。」

「了解しました!」
「いちいちポーズ要らない」と一蹴し、さっさと消えた食材を探すことにした。

 こんな形で人助けするなんて、思いもしなかったよ。
 まぁ、手伝える範囲では手伝ってあげたほうがいいよね。世の中、手伝いたくても手伝えないことも多いんだから。

 適当な理屈をつけ、やる気を出す。

「見つかりませんね……」
「うん。そりゃあ紙袋の周りを見ても落ちてるわけないよね。」

「あ、そうでした。すみませんっ!」
「謝らないでいいから、早く見つけよう。」
段々怒りゲージが上がってきたので、私も本気を出すことにする。

 感知系スキル、全ぶっぱしよう。

 万能感知、水竜之加護、人神魔力、地龍之加護。これを使って、この人の魔力が微かについてる食材を探し当てる。

 まず、万能感知で辺りの造りを把握、水竜の加護で魔力の流れを読み、人神魔力で魔力の選別、地龍之加護で発見まで至らせる。

「よし、ヒット。」
ステータス任せの跳躍で屋根に飛び、近道を通って食材回収をする。

 エアリスリップを分解して、水で洗ってあげたりもしてる。
 感謝してよ、ほんと。

 魔法少女パワーで、すぐに食材は見つかった。ちなみに、女性は何ひとつとして手伝いはしなかった。

「すみません、手伝ってもらっちゃって。」
「う、うん。気をつけてね。」
怒りを堪え、人助けを無事に終えた。

 なんだろう。ここまでスッキリしない、モヤモヤする人助け、初めてかもしれない。

 家に帰り、ご飯を食べ、掃除をしている時でさえそう思ってしまう。

 これからは、助けがいのある人を助けていこう。そう思った1日だった。

———————————————————————

 今日の魔法少女はご乱心です。子供からは奇妙な目で見られ、親からは不審者扱いを受ける。
 見知らぬ人にぶつかられたと思ったら、自分が悪者みたいな雰囲気が出ていた。

 ここまで不幸な魔法少女は、久しぶり?かもしれないですね。
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