上 下
175 / 681
6章 魔法少女と奴隷商の国

167話 魔法少女は奴隷を見かける

しおりを挟む

 人もだいぶ増えてきて、そろそろロア達を帰そうと思ってアパートの方向に歩き出す。

「ねぇねぇ、お姉ちゃん!こっちのこみちを通れば、近道なんだよ!」
「サキ!勝手に行っちゃダメだよ!ソラお姉ちゃんに迷惑かけちゃうよ!」
ロアは声を張り、サキを叱る。でも、サキは止まらなかった。はぁ、とため息を吐くロア。

 大変だね、お姉ちゃんっていうのも。姉妹も兄弟もいなかったから、姉の大変さをよく知らないんだよね。
 なんて声をかけるのが得策か……

「別に、迷惑とは思ってないからね。後でちゃんと叱ってあげればいいんだし、好きにさせてあげよ?サキも悪気があるわけじゃないんだし。」
「ソラお姉ちゃん……やっぱり、ソラお姉ちゃんは甘々です。………でも、そんなソラお姉ちゃんが大好きです……」

「ん?」
「何でもありません。」
「えー、気になるー」と子供っぽく言ってみると、ロアはおかしそうに笑う。

 何で言ったんだろ。もしかして、悪口とか……?

「サキが心配なので、早く行きませんか?」
「うん、そうだね。」
同意しつつ、サキの走っていった小路を進む。

 サキの位置は魔力感知で把握してる。弱体化が無い私が、その程度のこともできないわけがない。

 他の反応もポツポツあるけど、サキに何かするそぶりもないので、無視をしておく。

「サキー!そんな早く行ったって、私達着いて来れないよー。」
軽く小走りで、少し遠くのサキに声をかけるも、反応がない。

「お姉ちゃん。あれ……」
サキの元に辿り着くと、何故か目の前を指差していた。何かと思い、その方向に目を向けると、そこには2人の人影……いや、1人の人間と、獣人らしき子供がいた。

 何あれ、首輪?しかもボロボロの服に、煤のついた顔。しかもあざだらけ。
 まさか、これ……

「サキ、ロア、声を出さないで。」
2人の口を塞ぎ、小路の脇に入る。横目で観察し、過ぎ去るまで待つ。

「おい、さっさと歩け!」
「……………」

「俺はいつだってお前を、あの掃き溜めに送り返すことだってできるんだぞ!」
「…………ッ!」
そんな短い会話が行われ、獣人のほうは怯えた様子で歩き出した。そのまま小路から2人は出ていき、ホッと胸を撫で下ろした。

 はぁ、危なかった。あのままだったらやばいことになりそうだったし、隠れて正解だったね。

「お姉ちゃん?」
「もう大丈夫だよ。」
手を離し、小路に戻る。

 あれって、もしかしなくても奴隷。あんな悲惨なことになってるんだね、奴隷って。

 さっきの獣人を思い出し、考えてみる。

 私が知ってる奴隷は、アニメとかで見る獣人やら亜人を売ったりするやつで、現実では黒人が白人に捕らえられて、船で運ばれて売られるやつ。

 どの奴隷を見ても、残酷な運命しか残ってない。主人公の奴隷の場合、人生(獣生?)逆転できるかもしれないけど、そんなの少数にも満たない。

「ソラお姉ちゃん、今のは……」
「気にしなくていいよ。ただ、この近く……というより、この小路はあんまり使わない方がいいかな。」
さすがに子供に奴隷を教えるのは教育によろしくないと思い、誤魔化してみる。

「やっぱり、奴隷……だったんですか?」
「えっ!?」
耳元でそう言われる。せっかく誤魔化したのに、既に知っていたことに驚いて声が出た。

「そうなんですね。………サキ!もうこの道は通っちゃダメだよ!」

「えぇ~近道なのにー!」
「危ないから!危険な目に遭うかもしれないのに、近道なんてする必要ないよ!」
何度か口論が続いたけど、少し経ってサキが「はぁーい」と言って、この話は終わった。

 小路を出て、普通の道を通ってアパートに帰した。
 2人にバイバイ、と手を振ると、可愛く振り返してくれた。可愛い。

 気をつけてください、と言われたので、変質者に会わないように帰ろうと思った。

 ん?それは不可能?何言ってんの。え?私自身が変質者だから、既に会ってるようなもの?
 ……黙りなさい。

「それにしても、奴隷……ねぇ。この世界にもやっぱいるんだね、奴隷って。」
ふとあの獣人のことがフラッシュバックし、また呟く。

 あの奴隷も、これから大変そうだね。あんな主人に捕まっちゃって。
 私なら即刻自害だよ、自害。

「人間も残酷だねー。あ、夕ご飯の食材買っておこう。加工品だけは出ないからね。」

 肉なんて出した頃には、ウルフがそのままやってくるからね。何か加工が施されていたら、生成できないんだよ。

 近くのパン屋や肉屋により、美味しそうなパンを一通り買い、収納。新鮮そうな肉を買って、収納する。

「いくら買ったって、無駄になることがないからいいよね。この収納機能。」
独り言のように言い、ステッキを空に上げる。

 やっぱり、魔法少女チートはすごい。見た目は置いといて、神様を除いて最強だよ。

 魔法少女の強さを再確認しながら、冒険者ギルドの裏手を目指して歩く。
 巨大な家が覗き、「すごいもの作っちゃったなぁ」と思いつつ丘を登る。

「この装備、疲れにくくていい。コートさえ羽織ってれば見えないから、永遠にこの服でいいよ。」
1度決意したはずなのに、心が揺らぎまくっている私であった。

———————————————————————

 今回短めです。そろそろ本題にも入る頃。今はまだ前段階なので許してください。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こんなとき何て言う?

遠野エン
エッセイ・ノンフィクション
ユーモアは人間関係の潤滑油。会話を盛り上げるための「面白い答え方」を紹介。友人との会話や職場でのやり取りを一層楽しくするヒントをお届けします。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

異世界でイケメンを引き上げた!〜突然現れた扉の先には異世界(船)が! 船には私一人だけ、そして海のど真ん中! 果たして生き延びられるのか!

楠ノ木雫
恋愛
 突然異世界の船を手に入れてしまった平凡な会社員奈央。私に残されているのは自分の家とこの規格外な船のみ。  ガス水道電気完備、大きな大浴場に色々と便利な魔道具、甲板にあったよく分からない畑、そして何より優秀過ぎる船のスキル!  これなら何とかなるんじゃないか、と思っていた矢先に吊り上げてしまった……私の好みドンピシャなイケメン!!  何とも恐ろしい異世界ライフ(船)が今始まる!

【猫画像あり】島猫たちのエピソード

BIRD
エッセイ・ノンフィクション
【保護猫リンネの物語】連載中! 2024.4.15~ シャーパン猫の子育てと御世話の日々を、画像を添えて綴っています。 2024年4月15日午前4時。 1匹の老猫が、その命を終えました。 5匹の仔猫が、新たに生を受けました。 同じ時刻に死を迎えた老猫と、生を受けた仔猫。 島猫たちのエピソード、保護猫リンネと子供たちのお話をどうぞ。 石垣島は野良猫がとても多い島。 2021年2月22日に設立した保護団体【Cat nursery Larimar(通称ラリマー)】は、自宅では出来ない保護活動を、施設にスペースを借りて頑張るボランティアの集まりです。 「保護して下さい」と言うだけなら、誰にでも出来ます。 でもそれは丸投げで、猫のために何かした内には入りません。 もっと踏み込んで、その猫の医療費やゴハン代などを負担出来る人、譲渡会を手伝える人からの依頼のみ受け付けています。 本作は、ラリマーの保護活動や、石垣島の猫ボランティアについて書いた作品です。 スコア収益は、保護猫たちのゴハンやオヤツの購入に使っています。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

泥酔魔王の過失転生~酔った勢いで転生魔法を使ったなんて絶対にバレたくない!~

近度 有無
ファンタジー
魔界を統べる魔王とその配下たちは新たな幹部の誕生に宴を開いていた。 それはただの祝いの場で、よくあるような光景。 しかし誰も知らない──魔王にとって唯一の弱点が酒であるということを。 酔いつぶれた魔王は柱を敵と見間違え、攻撃。効くはずもなく、嘔吐を敵の精神攻撃と勘違い。 そのまま逃げるように転生魔法を行使してしまう。 そして、次に目覚めた時には、 「あれ? なんか幼児の身体になってない?」 あの最強と謳われた魔王が酔って間違って転生? それも人間に? そんなことがバレたら恥ずかしくて死ぬどころじゃない……! 魔王は身元がバレないようにごく普通の人間として生きていくことを誓う。 しかし、勇者ですら敵わない魔王が普通の、それも人間の生活を真似できるわけもなく…… これは自分が元魔王だと、誰にもバレずに生きていきたい魔王が無自覚に無双してしまうような物語。

処理中です...